【ふほうとうき】
こんな夢を見た。
一面が満開の向日葵が咲いている中で、一カ所だけ開けた低い草むらになっている。そこにはアリスがぴくりともしないで寝転んでいた。眠っているようだった。いつかどこかで見たようにアリスの髪は長かった。けれどいつかと違って、傍には人形の一体も無い。
アリスの細い喉がひどく無防備に上下していた。蝋のようにあんまりにもその白いから、薄気味悪くて眩暈がする。みっともなくて見ていられない、と思う。幽香は閉じた傘の先を空へと真っ直ぐ向けた後、僅かにアリスの上へと傾け指揮棒のように微調節をする。深呼吸のあと、ぽんっと綻ぶように傘を開くと、それまで何処にしまわれたいのか、傘の内からひらひらと大量の花びらが落ちてきた。それがアリスへと降り注ぎ、何枚かが地に着いたと思うと、横たわる少女の顔や腕や足の横、肘の隙間から、次々にゆっくりと蔓植物や枝を持つ草の葉が生い茂った。
緑、翠、碧、綠。
やがて眠るアリスをすっかり覆うほど蔓や茎や枝が伸びきると、今度は活動写真の早回しのように一斉に花を付け始めた。限界まで深まったみどりを覆い尽くすように。上書きするかのように。百という花の香りがし、千という色が舞い、万という花弁が洪水さながら溢れる。徐々にアリスが見えなくなってゆく。鮮やかな色が視界を奪っていく。二人を遮っていく。むせ返るほどの四季の花だった。花に溺れていくアリスを見ている幽香が息苦しさを覚えるほどに。そうだ、と幽香は笑んだ。息を詰まらせればいい。息絶えてしまえばいい。そうしてそのまま、ここを棺にすればいい。辺り一面、誰も献花に訪れなくてもいいように、一年中花を咲き詰めて、全て何もかも忘れ去られるほど彩っておくから。
そうして、ずっと遠いいつの日か、花はすっかりアリスを土に還してくれることだろう。それはなんて素敵なことだろう。
そんな、叶うはずも無い夢を見たの。
草むらの蛇苺、という表現が印象的でした。
きれいな文章で描かれたアリスと幽香、本当にすてきでした
相当間が空いた後日談でしたが、美しい文章は衰えることがなく。
安心感と懐かしさを抱きながら読みました。
再起動を期待しております。
また過去作品読み直してこよう
そう想起させる文章もまた美文で困る
>ケルトの吐き出す湯煙の中、
ケトルでは? 違ったらすみません
相変わらず吸い込まれる様な文章とアリスの魅力に溢れた話で
何度も読み返せる話がふえました。
しかし紫や由香と確かに面倒な相手になつくアリスって……まぁそこが可愛い訳ですが
どこが素晴らしいのかを説明できない自分に腹が立つほどに素晴らしい