Coolier - 新生・東方創想話

【それじゃあ、また百年後】

2015/05/10 16:43:45
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【宴会にて】

この前の宴会?ああ、いたよ、いたよ。あの子だろう?いくつもの人形を操る妖怪なら、この前の席にも来ていたよ。結構久しぶりな気がするね。確かその晩はちょいと他より遅れてきたんだ。その場にいる奴らの半数がかなり出来上がってきた時分で、喧噪に紛れるようにね、すっと静かに戸を開けて入ってきたんだ。

 何で気づいたって?なに、開いたときに風がね。それで、そっちに眼をやったらあの子がいたんだよ。暫く音沙汰なしだったからね。ああいうのって自然にどこが誰それの定位置、みたいなものが決まっているじゃないか。あの子は所在なさ気な顔で立ってた。声の一つでもかけた方がいいのかなって考えていると、あの子はきょろきょろと部屋中を見渡した。誰かを探しているみたいに。

 で、あの妖怪を見つけたわけさ。そうしたらさ、人形遣いのヤツ。その瞬間すっと落ち着きを取り戻して、当然のような顔をして風見幽香の隣にストンと腰を下ろしたんだよ。そのくせ、お互い挨拶も無かったね。目を合わせただけ。幽香の方も何も言わない。ただ、座った途端、アリスがあっという間にその場の空気に馴染んだのがわかった。で、終わりまでずっとそのままだ。いや、ちょっと驚いたよ。アリスの変わり様も、幽香もそれを許したってのもね、不思議に見えた。アタシの記憶だとあれは妖怪嫌いだろう。特に力のある、例えばアタシみたいな大妖怪はさ。そうは言っても腐ってもあのお嬢さんだって妖怪だもの。人間と飲もうにもあの魔法使いはもう逝っちまったし、今の巫女とは親しくないって言うし、偶には普段と違う奴と飲みたくなることもあるだろう。だけどねぇ、幽香の方は話が違うよ。あんな半端なのを近くに置いてさ。不思議だったね。弱い奴は存在ごと忘れるような奴じゃないか。後に入ってきたんだから二人の肩はぶつかりそうなほど近かったのに気にした様子も無い。迷惑そうってわけでもない。
 あまつさえ、今日はもうこれでお開きって時になって、それまでずっとお互い無視を決め込んでいたのに、幽香のヤツ、突然ふいとアリスの方を見て、

「楽しめた?」

 だってさ。いやもう、まったくね。驚いて酔いが覚めたよ。気を遣ってやったんだよあの幽香が。なんだこいつ、見た目には出てないけど実は酔ってるのかって思った。酒ってのは良くできていて。真面目な奴は不真面目に、弱気な奴を大胆に、お調子者をおろおろ泣かせ、口数の多い奴を眠らせる。だからいかな大妖怪でも、その酒の魔力には敵わなかったのかとアタシは思ったんだけど。
 でも、アリスの方も唐突に話しかけられたって言うのに意外そうでもなんでもなくて、むしろそんなことは当然なんだと言わんばかりな態度で、ほとんど飲んでないから白いまんまな肌を顔に貼り付けて、

「まぁまぁね」

 すました声で言うんだ、これが。なにがまぁまぁだと思ったよ。ずっと退屈そうだったじゃないかってね。幽香もそう思ったのか、そんな風には見えなかったわねってからかってた。そしたらようやっとアリスは白い頬を少し赤くして、「それなら、貴女が楽しませくれたらよかったのよ」って言うんだよ、あの風見幽香に。馬鹿を言うね、まったく。

「私が貴女を?貴女が私を楽しませるのが精々ってところよ」

 幽香は笑ってた。それで、この二人は普段も話してるらしいとアタシにもわかった。なにしろアリスは宴会中でこの時が一番楽しそうだった。霊夢が生きてた頃みたいな目をしてたもの。それも、霊夢がアリスの見た目ぐらいの時ぐらいのね。そんな前のことをよく覚えてるって?いや、実を言うと、あの巫女との記憶は騒いだ後飲んだっていうことと、飲んで騒いだってことしか覚えてないんだよね。それが何だかひどく楽しかったなってことぐらい。充分だけどね。


 それにしても、まったくねぇ。どうしてあの子は、ロクでもないのに限って懐くんだか。


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