Coolier - 新生・東方創想話

■Alcoholic Palsy■

2014/02/07 23:47:24
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【橋】





「はぁ、はっ…、パルスィ!!」


辿り着いた旧地獄の出入り口近くの橋

呆れる程通い詰めた、今日だって少し前に鬱陶しがられた橋


きっとここに来るだろうと見た、彼女の居場所


「パッ 、…」


走りながら何度も叫んだ名前を、今度は呑み込む

呼ぶ必要は無い 呼んでいたのは探していたからだ


直感めいたものもあるが、実際に肌にピリピリ伝わるものがあった

普段から橋の奥から伝わってくる濁った空気が、普段より淀みを強めて橋から這い寄り、足からよじ登って来る様だ

そんな瘴気じみた気配に当てられてか、普段はまばらな人通りが鼠一匹いない


「……」


下駄の歯を地面から引っこ抜く様に足を上げ、ガランゴロンと歩を進めた




パルスィ


いつもの様に彼女を酒に誘って、断られ
いつもの様に家に連れ込んで、嫌がられ
いつもの様に酒を酌み交わして、呆れられ
いつもの様に私が沢山喋って、

殴られた


(やっちゃったなぁ…ったく)


「嫌そうな顔して楽しんでる部分もあるだろう」と甘く考え、何よりそうして嫌そうな顔をしてるパルスィも可愛いと思ってしまい、ついやり過ぎてしまった


(…駄目だなぁ)


他の連中となら、呑んで騒いで殴り合ってればそれで楽しめるし、自分もそれに慣れきってしまっていた

パルスィと呑むとなると…いやそれ以前にパルスィと交流する段階からか あれこれ考えたが、やっぱり自分は呑みに誘うのが一番取っ掛かりやすく、その上彼女が言葉少ない事もあり私が一方的に話し続け、その上余計な事まで言ってしまったのだろう


決して今回が初めてでは無い
今までにも引っ叩かれたり酒を浴びせ掛けられそこで御開き、なんてて事は何度かあり、そうでなくても彼女が最後まで我慢し続けたと言う事は多かったのだろう


(…調子に乗り過ぎた)


これは自惚れでは無く観察し続けた結論(の筈)なんだが、彼女も彼女なりに会話を続けようと努力しようとしてる様子は見えた

何かを話そうと口を開きかけた事も少なくない 私の話に浮き上がる口角を食い縛って堪える事もあった


パルスィは慣れていないだけなんだ、楽しさや喜びに

あの魅力的な友人がそれらを知らないまま、嫉妬妖怪としての本懐のみに生きていく事が勇儀には忍びなかった



……違う

そうではあるけど、違う


(全部、私の我儘だ)


パルスィと一緒にいたいのも 彼女と同じ事をしたいのも あの娘に笑って欲しいのも アイツと仲良くなりたいのも

全部、私が望んだ事だ


(力の勇儀ともあろう者が、腑抜けたもんだねぇ…)


しかし、それについて別段後悔等の悪い感情は抱かない

むしろ望む所だ
欲しいものは何でも力ずくで手に入れて来たが、こうも思い通りにならないのは久し振りだ
奪い甲斐がある


(こんな自分勝手じゃ、そりゃパルスィも怒るわなぁ…)


でもごめんなぁパルスィ

私、どうにもお前さんを欲しがってるみたいなんだ


その為にも 気持ちよくアイツと仲良くなる為にも
まずは彼女に追い付き、謝り、許して貰わなければ


(…いた!!)


やはり橋の真ん中に、探し求めた彼女がいた


「パル…」





叫んだ、口にするのも心地よい名前は




手摺に叩きつけられ、底の部分を粉砕された酒瓶の断末魔に切り裂かれた




「来ないで」


凶器と化した瓶を手に、小柄な女性は駆け寄って来た者にふらりと対面した


「ッ“  …」
「来ないでって言ってんでしょ!!?」


たっぷり十歩は要る距離
それを詰める事すら、少女は手にした得物を突き付け許さなかった



「今更…何しに来たのよ…?」


「…すまん“  ”、私は…」


「そんなッ未練がましく…未練がましいふりなんかして、私の服なんか握って…!!」


「私は…!!」


「喋らないで!!」


「“  ”!!」


「呼ぶな!!聞きたくない!!」


そうしてあなたに、あなたの口から、あなたの声で呼ばれたら

たったそれだけで、全て許してしまいそうになる 許してあげたくなってしまう
何もかも捧げ、寄り掛かってしまいたくなる


そうした魅力に溺れ続けた果てが、これだ


「そんな…そんな顔で私を見て…私、を…呼んで…」


べったりと赤く濡れた切っ先が震える


酒瓶はどんな仕組みなのか 底が砕けて尚酒を作り続け、延々赤い液体を落とし続けていた


「どう、せ あの女にも 他の、人達にも…そうしてきたんでしょう?」


「、アイツとはそんなんじゃ…」


「嘘を言わないで!!」


「付き合いの古い友人ってだけだ!! お前さんが思ってる様な事じゃ…」


「アンタは!!」


気に入らない

何もかも、あの人の困惑した顔も声色も、嘘ばっかりに決まってる言い訳も

未だに捨てきれない、自分の中で燻る甘っちょろい期待も


「アンタ、が、そうやって他の人達との話をする時、は…いっつも、楽しそうで…」


頭が痛い、目が回る、吐き気がする

自身にまとわりつく何もかもが鬱陶しい


「私の…私の事なんて、一度も話してくれないのに……」


「…何を話せばいいか、分からなくってな」


心底申し訳無さそうな顔から目をそむけ、足元を睨む


「楽しませてやれる話って言ったら、皆と馬鹿やってた事位しか思いつかなくて…」


元々頭がいい訳でも無いのに、懸命に話していた


「お前さんの事をあんまり話さなかったのは…その、上手く言えそうになくてな 言おうとしてやっぱり話を逸らして、その繰り返しだ」


「へ、ぇ? 上手く、話せなくて、ね」


明らかに呼吸に差し障りのありそうなしゃっくりが混じる


「その割りに、女の衆とは御熱心に話せてるそうじゃない?」


「ッ誤解、されても仕方無い…謝るしかない あれは…お前さんみたいな奴には、どうすれば喜んでもらえるのか教…」


「はぁっはっハツハッはっハァ…!!」


本当に 本当にこの人と来たら不器用な人だ

言い訳の一つも出来ないか

ちゃんちゃらおかしくて、涎が出る程笑ってしまう


「そんな…そんな、馬っ鹿みたいな口実、逆によく思いついたねぇ? くひひ…」


食い縛った歯の隙間からも、呆れしか漏れて来ない


「それともあれかぁ…私その程度の戯れ言で騙せる女にしか見えなかったんかなぁ…」


「ッ違」


「そうだろうねぇ? こんな芋娘、少しくらい蔑ろにしても甘い言葉と腕枕の一つもくれてやれば、それで尻尾を振ってくれっからねぇ?んん?」


「お前ッ、そんな…!!」


「そうでしょうが!!」


瓶を一振りする

赤いぬめりがあの人の全身に降り注ぐ


「いっっつも、怪我、怪我してくる度にも!!下手な嘘ばっかりついて!!」


「そっ…、」


「…危ない事ッ、ばかりして…」


誰にでも真剣であるが故に、あの人はどんな無茶でもした

最も怨めしい点である



「あんたが…しなくていいお節介で、危ない目に、何度もあ…って… あんな怪我までして…私、私が、どれだけ…どれッだけ…ぇぇぇ…」


何の為に取り返しのつかない大怪我をしたのかは思い出せない

ただ、それはとてもつまらない、見捨ててもいいであろう些末な事であった筈だ


少なくとも、私の為じゃなかったのは確かだ



「私はッ…わたッ私は…私には、アンタしかいないのに…いなかったッから、全部…全部あげっ、あげたのに…」


「…“  ”」


「もう、駄目なの 耐えられないのよ…」


落とした視線の先では、握り締めた小さな手が赤にまみれ、夜風に凍えて震えていた


「この気持ちが普通じゃないって言うなら…私は普通じゃないのよ…人じゃないのよ…」


私の願いが届かないなら

願う私が人でないなら


「もう、私は …!?」



いつの間にか

下駄先と足の指が視界に入り込んでいた


弾かれた様に顔を上げれば、何度となく見とれた強い眼差しが向けられていた


「!!ぐぅ…ッ!!」


また また、惹き寄せられてしまう

そうなったら、またあの苦しみの繰り返しだ

いい加減抜け出したかったのだ いずれは冷えて凍える、その場限りのぬるま湯から


だから、私は



握り締めた鋭い刃を、自分の喉に突き立てた







「……私が、悪かったんだろうなぁ」


あの人が、申し訳無さそうにしている

真剣に、心の底から悔やみ、謝る時の顔


「私があちこちふらふらするのも、酒を呑み過ぎるのも、見境無く人と関わりたくなるのも、首を突っ込みたがるのも」


あの人の匂いと熱さが、口元に広がるする


「そうしてお前さんを…不安にさせてばかりなのも」


血の臭いと熱さだ


手にした得物が喉を切り裂く寸前…とはいかなかった 複数の切っ先は喉の皮を血が滲む程度には切り裂き、しかしあの人がそれ以上の侵入を許さなかった

刃も喰らえとばかりに、掌が切れるのも構わずに握り締める


「ッッ!?ゃ…離し…!」


その大きな手を振りほどこうと両手で引っ張るが、酒と血が吹き出すだけでびくともしない


「でもごめんな“  ”… 色々考えたけど、やっぱりそれが私なんだ 私の生き方なんだ」


やがて酒に乗ったあの人の血は私の手にまで滴り、その滑りで私の手は瓶からすっぽ抜けてしまった


当の血を流す手はと言えば、まさに瓶を噛み殺す様に握り潰し、キラキラ光る破片と飛沫を放り捨てた

私の顔に、身体に あなたの顔に、身体に 橋に手すりに川に、盛大に赤が降り注ぐ


「変えたくないんだ」


目にも染み込んでいように、視線と決意は微塵も淀み無かった


「どうし…ッどうしてそんな事言うの? 私の頼みでも?駄目なの?」


握る物が無くなった両手が尚更に震える


「駄目だ」


「ど」


「私は」


まだ破片が残っているであろうに、尚も握り締め続ける拳を見つめる




「多分お前さんが好きになってくれた私は、そう言う奴だからさ」





そうだ


何にも縛られない自由な足取り

私が作るのを手伝った酒を美味しそうに呑む口

誰にでも信頼される人柄

私の為なら平気で無茶をしてしまう激しい優しさ


全部 私が好きになった、あなた

私が好きになる前からそうだった、あなた


あの人は何も変わってなんかいなかったのだ


「とは言え、過ぎた部分もあるからなぁ… そこは出来るだけ直していきたいよ、私も」


私がずっと恋い焦がれたものは、その時は私のものじゃなかった
ただた魅力的にしか見えず、見惚れる事に夢中だった

それが私のものになったと思うと視点が変わり、それらが自分以外にも振り撒かれていると知り、妬んだ


最初から、私のものになんてなってなかったのに


いつだって、あの人のもとで輝いていたのに




「だから、なぁ? “  ”」




無傷…いや 古傷まみれの逞しい左腕で私を抱き寄せる

包容力が形を成した様な広い胸に叩き込まれた




あの人も

最後はいつも抱き締めてくれた





「私の大事な人を、殺さないでおくれよ」





(……ちくしょう…)






この人は…

こいつは…勇儀は、そう言う奴だった





















(羨ましい)





ぶち撒けられた酒と破片が、花と散っていく

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