Coolier - 新生・東方創想話

To my friend

2016/10/26 09:37:10
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「ごめん魔理沙。あなたとは付き合えない」
 森の中、うっそうとした森の中にも光の指す所がある。その光が朝露を照らし、そよ風が木々を揺らし、小鳥がさえずる情景は神秘的であり、神々しくさえあった。
魔女は今日、お気に入りのこの地に少女を呼び出し、思いをぶつけ、そして砕けたのである。
「どうして、どうしてだよアリス・・・誕生日を祝った時だって、一緒に服を選んだ時だって、楽しいって言ってたじゃないか。変わり者同士うまくやっていけるかもって言ってくれたじゃないか・・・」
 最期の声はよく聞き取れない。少女はもはや魔女の顔を見てはいなかったが、彼女がどれほど悲しんで、涙を流しているかは理解していた。せめて、泣き顔を見ないようにすることが大切な友人に対するせめてもの礼儀に思えた。不思議と自分の瞳に涙がたまってくる。だが、涙を見せることは許されない。少なくとも今の自分に泣く権利などないのだ。本当に悲しいのは目の前の友人であるはずなのだから。声が震えぬようゆっくりと、ゆっくりと声を押し出す。
「ごめん魔理沙、私、他に一緒にいたい人がいるの。私がいなきゃダメな人がいるの。だから、ごめん。魔理沙は優しいから、きっと、他にいい人がいるわよ。私じゃなくてね」
 少女は自己嫌悪で魔女に背をむけた。 ―魔理沙は優しいからー この言葉の後ろに本当は違う意味を込めている自分がいた。―優しいから 何も聞かずにあきらめてーと。自己弁護はいくらでもできた。彼女を傷つけたくなかったと、その感情は事実ではあった。だが、真実ではない。その感情の裏に、自分が傷つきたくないから、彼女の優しさに甘えているという事実もあることを自覚していた。それゆえに、それゆえに背を向けるしかなかった、抑えきれぬ嗚咽が彼女の耳に届かぬよう、あふれだす涙が最愛の友人の目につかぬよう。 
 それはあまりに不釣り合いな情景であった。少なくとも魔女はそう感じていた。自分の最も愛する人と同じく最も愛する景色があるというのに、心からすべてが抜け落ち、空っぽになった自分を感じている。美しい小鳥のさえずりさえうるさく、差し込む光はあまりにまぶしかった。この不釣り合いを何と呼べばいいのか!この不釣り合いを何と呼ぼうか!!この不釣り合いはいったいなんなのだ!!!魔女の頭に一つの答えが浮かぶ。滑稽。まさしく滑稽。少女の言葉を取り違え、受け入れられるものと思って、それ以外のことを、まさか他に好きな人がいるなんてことを考えずに突っ走った己が、最高に滑稽であった。
「迷惑かけたな。帰るよ。ごめん、なんか」
 好きな相手の名を聞くことは憚られた。聞けば彼女を傷つける。無論それだけではないことは自覚していた。聞いたところでどうなるという無力感と、ここに至ってもなお彼女に嫌われたくないという未練があること。この二つをさらけ出せるほど子供ではないし、消化できるほど大人ではなかった。そして何より知りたくなかったのだ。彼女の裏の意図にある、己の優しさに付けこむ様な汚さを、弱さを。せめて最後は、愛したことに値する彼女でいてほしい。そんな気持ちだった。とんでもないエゴイズムだが。 今夜眠るにはとびっきり強い酒が必要だな。心でつぶやくと魔女は静かに家路へついた。もう朝は終わり、生き物が動き始める時間であった。幸いにして太陽に少し雲がかかり、これから涼しくなりそうである。

 翌日、魔女は石段を登っていた。それは長い道のりであった。自分が振った相手に自分が振られた話をしに行くのだから。 どうかしている。 と思わないでもないが、自分の気持ちを紛らわせ、新しく歩み始めるには大量の涙と話を聞いてくれる優しい友人が必要であった。
 それにしても、この曇天はどうしたことだろう。ついこの間までは雲一つなく晴れ渡っていたというのに今日は朝から太陽がかくれんぼしている。気分まで重くなるような、空の果て、地の果てまで続くかのような雲。いつもなら耳をふさぎたくなるほどのセミの鳴き声も今日は聞こえない。漠然と、そうただ漠然と、夏が終わるんだな。と思う。
 石段を登り切り、神社へ目を向けた魔女は手にしていた箒を落としていた。目の前に広がっていたのはあり得ない光景であった。少なくとも彼女にとっては。
 パタリ と箒が地に落ちるとともに、幻想郷に雨が降り始めた。

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