Coolier - 新生・東方創想話

夢で逢えたら

2013/07/28 05:08:46
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~おまけ ゆかりんアフター~

「うふ、うふふふ、うふふふふふふふふ」

 幻想郷の何処かに隠された八雲家の屋敷。
 そこに鼻歌でも歌いだしそうなほど、上機嫌に怪しい笑い声を響かす紫がいた。

「ら、藍様、今日の紫様はなんか嬉しそうですね……というかなんか怖い……」
「あー、ようやく前々から気にしていた懸念が解消されたわけだからなぁ」

 橙との会話もそこそこに、藍は紫に向いて行儀よく正座して言葉をかける。

「何にしろ紫様、天子と友好を結べたようですね。おめでとうございます」
「えぇそうね。実に喜ばしいことだわ」

 冷静に対応する紫だが、その口元はだらしなく緩みきっていて嬉しさをまったく隠せていない。
 そんな珍しい表情を見せる紫に、橙が若干警戒しながら藍に並んで座り込んだ。

「今まで天子と喧嘩するたびに落ち込んでたから心配してましたけど、なんとかなって良かったです」
「その度に私への命令に無茶ぶりが増えたりしてしわ寄せがきてたしなぁ……本当に良かったですよ」
「あ、あら? 私、藍にそんなことしてたかしら?」
「してました」
「してましたね」

 二人の式から断言され、そんなことをしていたのかと紫自身少し驚く。

「しかし、あれだけ喧嘩していたのによく友好を結ぼうと思いましたね。紫様は天人を嫌っているようでしたのに」
「確かに大半の天人は傲慢で気に入らないけれど、スキマで覗き見た天子はとても面白い性格をしていたもの。大人の知恵を持った子供みたい、と言えば彼女は怒るでしょうけど、とても愛嬌があって私好みよ」
「なのに今まで意地を張って喧嘩してしまっていたと」
「それは言わないで」

 過去を思い出し、少しばかり気分が暗くなる。
 とは言えそれは天子とも話し、両方悪かったということで決着の付いた話だと、すぐに気を取り直した。

「それにしても、紫様ってどうやって天子と仲良くなったんですか? あんなに喧嘩してたのに、一晩でもう仲良くなんてすごいです」
「簡潔に説明すると、夢を利用して洗脳しようとしたのをあばかれたけど何だかんだで仲良くなれたわ」
「せ、洗脳って……」

 和やかな話を期待していた橙が、その言葉に頬を引きつらせる。

「なんでそれでまた喧嘩にならなかったんですか」
「それについては、天子が私の意思をくみ取って理解してくれたからね。お陰で和解できたわ。その前にはあの子の母親役として色々やったりして楽しかったわぁ」
「へー、紫様が母親を」

 本当に楽しかったなぁと紫は思い返す。
 変なことを言っておちょくって、抱きしめて、おちょくって、一緒に戦って、またおちょくって。
 おまけに額にキスしてみたりなんかしちゃってみたりして。

「………………」

 あれ、友人にそれはどうなんだろう。
 その時の紫は母と娘と言う状況に酔っていたし、どうせ起きる前には夢の内容は忘れさせるつもりだったしで、割と恥ずかしい感じのことを暴走気味にやっていた。
 そのことに関してはけっこう楽しかったが、思い出すと天子が引いていたりしないか今更不安に思ってきた。

「……ねぇ、二人とも?」
「はい、なんでしょうか」
「なんですか?」

 とりあえず、手近な者に問いただした。

「で、デコチューくらいなら友達同士でも普通よね?」
「えっ、いきなりそんなのやられてもドン引きですけど」
「私なら逃げちゃうかも……」

 即答だった。

「……きゃあああああああああああああああ!!!」
「うわっ! どうしたんですかいきなり!?」
「紫様落ち着いて!!」

 突如として悲鳴を上げ、頭を抱えた紫はもだえるように転がり始めた。
 式達がそれを止めようとしても聞く耳を持たず、紫の奇行が終わるまでたっぷり十分はかかった。

「あぁぁぁぁ……そんな、私は取り返しのつかないことを」
「えっ、紫様もしかしてあの天子相手にそれやったんですか?」
「マジで? 度胸あるってレベルじゃないですよ。というかどうしてそんなことしようと思ったんですか」

 驚くというよりも呆れたような視線を藍から送られ、余計に紫の焦燥が深まる。

「いやもうそれはノリというか、ぶっちゃけ夢の中だったからなんでもやっちゃえみたいな感じで!」
「なんで今まで意地張ってたのに、そういうとこだけ張っちゃけてるんですか」
「そういうところだからよぉ!!」

 まずい、これはまずいことになった。
 あの時はその場のノリで押し通せたことかもしれない、だが天子が後から思い返してそのことを意識して紫と距離を取るようになったら。

「どどどどうしましょう二人とも!?」
「とりあえず母親役になりきった結果がそうだったってだけで、現実じゃそういうことはしないということをハッキリさせれば良いんじゃないでしょうか」
「そうね、もうしないって言えばいいのね。行ってくるわ!」
「えっ、今からですかって紫様!」

 藍の助言を聞くや否や、紫は即座にスキマを開いてその中にダイブしていった。




 ◇ ◆ ◇



 朝に紫の家で朝食を取ったのち紫のスキマで帰宅した天子は、いつもの服に着替えると改めて外出していた。

「今日も良い天気ねー。雲の上じゃ当たり前だけど」

 大きな悩み事がなくなったからか、いつもと同じ青く澄んだ空もどこか新鮮に感じ取れる。
 新鮮な空気を胸に取り込んで、瞳に力を入れた天子は意気揚々と足を踏み出した。

「よーう、天子。今日は出てくるのが遅いじゃないか」
「こんにちわ総領娘様」
「うん、こんにちわ」

 下界に行く前に通る道で、相変わらず暇を持て余してそうな二人と顔を合わせる。

「なんだか機嫌がよさそうですね。いいことでもありました?」
「ん~? 何かあったのは確かだけど秘密よ。秘密」
「おいおい何だよ、面白いことなら私にも一枚噛ませろよ」
「残念ながら、今回のことに萃香が出る幕はないわよ……ん?」

 上機嫌に話す天子だったが、あることに気が付いて首をかしげる。
 並んで座った衣玖と萃香の手にある、お揃いの杯。

「その手に持ってる持ってるそれって……」
「これですか。萃香さんの案内で地底のお店で購入したものなんですよ」
「……正夢?」
「なんのことだ?」
「あぁいや、こっちの話」

 こんなこともあるのだなと驚く天子だが、すぐに気を取り直す。

「それより天子。どうだ、一杯やっていかないか?」
「なんで昼間っからこんなとこで管巻いてなきゃならないのよ。あんたらこそ下降りないの?」
「せっかく買ったものですし、早く使ってみたんですよ。昨日は博麗神社で用意されたもので飲んだので、使う機会がなかったですし」
「ふぅん。じゃあ私一人で下界まで行ってくるわね」

 どこに行こうかと地上を見下ろしながら考える。
 最初は楽しむことだけを考えていた天子だが、また今度に紫と出かける約束をしていたことを思い出した。
 その時のために、今日のところは下見をしていてもいいかもしれない。

「そうね、とりあえず地底の旧都でも……」
「てんしいいいいいいいいいいいいい!!!」
「ほああ!?」

 紫が空間と空気を破って姿を現したのはそんな時だった。
 突然の奇声に天子とビクリと身体を震えさせ、ついでに萃香も盛大に酒を吹いてむせた。

「げほっ、ごほっ!」
「萃香さん大丈夫ですか?」
「いきなりなんなの紫!? 私変なことしたっけ!?」
「天子!!」

 苦しそうな萃香の背を撫でる衣玖の前で、紫が天子に詰め寄る。

「あのね、天子で夢が母親役の私をやっていた時のことなんだけれど!!」
「わけわからないから落ち着きなさいよあんた」
「とにかく話したいから来て!」
「今から? ってちょっ!?」

 慌ただしく登場した紫は、天子をスキマに引き込むと嵐のように去って行った。
 その様子を見ていた衣玖と萃香は、茫然とした表情で顔を見合わせた。

「あの二人、様子がいつもと違いませんでしたか?」
「さぁ……あっ、もしかしたら天子が上機嫌の理由はアレかもな」
「紫さんがですか?」
「まっ、その話もいいがとりあえず飲みねぃ」
「おっとと。あまり注がないでくださいよ。すぐ酔っちゃゆっくり話もできませんからね」



 ◇ ◆ ◇



「わわっ、引っ張らないでって紫!」

 状況が理解できないまま天子が連れて来られたのは、今朝も足を踏み入れた紫の家。
 気が付いたら靴が脱げた状態で畳の上に立っていてそのことについても驚いたが、すぐに「まぁ紫だし」で片づけた。

「もういきなりなによ、衣玖と萃香もいたのに連れてきて」
「ごめんなさいね。気を悪くしたかしら」

 もしや「紫と一緒にいるところ見られるとか恥ずかしいんだけど」などと思われてるのではないかと、一抹の不安が紫の脳裏をよぎる。

「べっつにー。ただどうせ外で紫と顔合わせるならさ、宴会場のど真ん中でいきなり話し合い始めたりすれば、周りも驚いて面白そうかなって思っただけよ」

 小さな悪巧みを楽しみにしている子供のように、天子はその時の様子を思い描いて小さく笑った。
 すごく、ほほえましいです。
 紫はそんな天子を見て、思わず頭をなでなでして猫可愛がりしたくなる衝動に駆られる。

「……なにその手は?」
「ハッ」

 紫が気が付いた時には、無意識に出た手が天子の目の前でぶらぶらと行き場をなくして揺れていた。

「な、なんでもないのよほほほ。それより呼び出したことについては、夢のことについてなんだけど……」
「あぁ、あの……まさか、能力の副作用かなにかあるとか?」
「いえ、そういう深刻な類のものじゃないんだけれど」

 心配する天子にそのような異常が起こることはないと告げ、本題に入った。

「夢の中では、あなたに過剰なスキンシップを多く取っていたでしょう? 頭を撫でたり、抱きしめたり、その、額にキスをしたり」
「うっ、思い出させないでよ。恥ずかしいんだからさ」

 夢での出来事を思い出し、ばつが悪そうに目をそらしたた天子が、顔を隠すように帽子を深くかぶりなおした。

「あの時は調子に乗ってやりたい放題だったけれど、今はそうそうあんなことしないわ。一応、余計な心配をする前に一つ言っておこうと思ってね」
「はいはい、わかってるわよそのくらいのこと」

 わずらわしそうに言葉を返す天子を見て、紫は当初の不安は杞憂だったかなと少し安堵する。

「最初は夢に介入してきたことなんて気付かれないまま、バックれるつもりだったんでしょ?」
「場合によっては夢の記憶を消すことも視野に入れていたわ」
「うわ、徹底的ね。とにかくそんな状況ならそりゃはっちゃけて当然でしょ。誰もあんなこと素面でやらかすとか思わないわよ」
「そう、ならよかったわ」

 とにかく天子が変に意識をしないならそれでいいことだ。

「まぁ、またあんな風にからかってくるようなら、こっちからも容赦なく反撃してやるから、それでもいいならやってきなさいよ」
「ん、からか……?」
「と言っても流石のあんたも、あんなの二度もやれっていうのは勘弁願いたいだろうけど」

 黙って聞いていた紫だが、この言いようにどこかカチンときた。
 この天子は、一部勘違いをしている。
 本来なら捨て置くところなのだろうが、どうしてもそれが許容できず、考えるよりも早く紫の手が伸びた。

「天子、少しじっとしていなさい」
「はぁ、今度はなに――」

 油断していた天子の身体を、有無を言わさず腕で包み込み抱き寄せる。

「ゆ、ゆかっ!?」

 天子が動揺して硬直している間に、素早く帽子を脱がせて髪をかき分けると、そっとその額に唇を落とす。
 夢の中での出来事を再現した紫は、絶句している天子を解放して一度取った帽子を被せなおした。

「こんなこと、冗談程度でできるはずがないでしょう。それなのにただからかうためだけにしたと思われるなんて、とても心外だわ。えぇ、我慢ならない」
「う、うぁ……」
「想像よりもずっとかわいかったあなたに、こうしたいと思ったのは事実なのだからね」

 そしてもう一度して非常に満足したと笑う紫に、天子はただ声にならない声を出すしかなかった。

「そろそろお昼の時間ね。天子はどうする? なんなら食べて行ってもいいけれど」
「……か、帰る」
「そう、ならスキマで送るわ。どこがいい?」
「……家で」
「わかったわ。無理に連れてきてしまって悪かったわね」

 あまり喋ろうとせずうつむく天子を、紫はスキマで家まで転送する。ついでに脱がした靴も一緒に送っておいた。
 用件を終え、紫は達成感とともにグッと手を握りしめる。

「……これでよし!」





「誤魔化しに行ってきたのに、思いっきり意識させてしまってどうするんですか」
「ハッ!?」

 すっかり本分を忘れていた紫は、後になってそのことについて気付くのだった。










「…………あれ、頼めばもっかいやってくれるのかな」

 ベッドに倒れ込んだ天子は、昨日とは違う悩みで一人悶々としていたとさ。
親子じゃ恋人になれないから駄目でしょが。
電動ドリル
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コメント



0.1220簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
ゆかてんを見ていたと思ったらいくすいを見ていた
な、何を言っているのかわからねーと思うが(ry

ママ友会ではきっとペットはノーカウントなんですね…さとり様ェ…
7.100名前が無い程度の能力削除
なんかいい
9.100名前が無い程度の能力削除
b
10.90奇声を発する程度の能力削除
良いですな
13.90名前が無い程度の能力削除
相変わらずよかった
はじめドリルさんの別の作品の世界と入れ替わったのかと思ってました
17.100絶望を司る程度の能力削除
いいな
28.803削除
いつものことがなら実力はあるのに色々と残念な紫がいいなー。
天子は相変わらずかわいい。
30.100名前が無い程度の能力削除
天子かわいいよ
33.100名前が無い程度の能力削除
あまーい!
34.100名前が無い程度の能力削除
脳が溶けそうだ!