Coolier - 新生・東方創想話

チルノの日記

2011/02/21 22:00:24
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 それはある冬の日のこと。

 一瞬、大妖精はそれを理解することが出来なかった。

「あ、大ちゃん! 見てみて、これあたいの日記!」

 嬉しくてたまらないという満面の笑みで差しだされて、まさか受け取らないはずもなく。
 勢いよく手渡されたそれを、大妖精はしげしげと見つめた。
「…………?」
 裏返してみた。
「…………?」
 日の光にすかしてみた。
「どしたの、大ちゃん?
…あ、わかった。大ちゃん日記知らないのね! じゃああたいが教えてあげる!
 あのね、日記って言うのはね」
「そ、そのくらい知ってるよ!」
 何とか心を落ち着かせて、もう一度それを見遣る。
 そこには、拙いながらもはっきり文字とわかるそれで――「さるのにっき」と書かれていた。
「さる…」
 言いかけて、やめる。
 期待に満ちた瞳でこちらの反応を窺うチルノが目の前にいたからだ。
「読んで読んで!」
「うん…」
 言われ、ページを一枚めくる。
 中は絵日記だった。

『きようわ かえゐを さんびきこおさせた そしたさ かえゐのおやだあがでてきた だんあくごつこをした たのしかつた あたいさいきよお』

 文字の下には、目玉のついた不気味な帽子状生物と戦うチルノが描かれていた。
 確か妖怪の山にそんな帽子を被った神様が引っ越してきたという噂を聞いた気もするが、まさか神様がチルノと遊んでいるはずもないので偶然だろう。
 次のページをめくる。

『しろくろが あかしろに おいかけられてた こおりをぶつけてじやあしたら あかしろが つかあえた しろくろのかおが おもしろかつた』

 文字の下には、キノコをもっている生物が鬼のような形相の生物に捕まって泣いている姿が描かれていた。
 何となく状況は想像がついたが、深くは考えないことにする。
 その次も、その次も、平仮名と絵が描かれた紙が何枚も続いていた。
 めくればめくるほど、チルノがそれをどれだけ懸命に作ったのかがわかる。
 だから、大妖精は尋ねた。
「どうして日記を書こうと思ったの?」
 ――大妖精が知る限り、チルノが日記を書いているところなど見た事ない。
 文字を書けることさえ、たった今知ったくらいだ。
 そもそもチルノは自由奔放をそのまま具現化したような少女だ。良く言えば活発、悪く言えば行き当たりばったりなところが愛おしくもあり、また不安でもある。
 そんな彼女に、筆を持って字を書くという作業は似つかわしくない。
 じっと文字を認める作業になど3分で飽きて、どこかに飛び出してしまうだろう。
 それなのに、
「教えてもらったの」
 何を、と問う前に、チルノは続けた。
「日記は、2つのことをするためにあるんだって」
 言って、大妖精の手を無理やり広げさせる。
 氷妖精とは思えない温かさを帯びたチルノの手が、目を白黒させたまま広げている大妖精の手指を一本折り曲げた。
「1つは、嬉しかったり楽しかったりした思い出を残しておくため」
 と、手に持っていた日記が風に飛ばされかけ、慌てて大妖精は掴みなおした。
 その中の文章が目に入り、ふと、それまでの日記の共通点に気づく。
 チルノの日記は、そのどれもが最後にこう締められていた。

『つぎわ だいちやんも いつしよに あそびたい』
『だいちやんも ぜつたい よろこぶ』
『だいちやんも――』

 チルノに握られた大妖精の指が、もう一本折り曲げられる。

「もう1つは、嬉しかったり楽しかったりした思い出を、大好きな人ときょーゆーするため!」
初めましてです、あすと言います。

前回の「早苗月」が初投稿になります。
(パスワードがわからなくなり、分類がない状態の投稿になってしまい申し訳ないですorz)
これからも短い話がメインになると思います。
良ければ暇な時の退屈凌ぎにでも読んでやってください。

◆後日談

翌日、チルノと一緒に日記を書く大妖精の姿がそこにはあった。
なお大妖精に見せたチルノの日記は、幾つもの水滴でふやけていたという。
あす
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コメント



0.1260簡易評価
7.70名前が無い程度の能力削除
可愛いなぁ…。
無邪気さが素敵でした。

「教えてもらったの」
誰に教えてもらったかは、これからの作品で明らかになるのでしょうか?
続編期待でこの点数にさせていただきます。
18.100名前が無い程度の能力削除
チル坊はかわいいなあ
32.10014削除
なんというか、ほっこりしますね