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長かった冬も、短いながら盛大だった春も、幻想郷から過ぎさろうとしていた。
春風が桜の樹を揺らす度に、庭掃除の回数と反比例してお花見の回数が減っていく。
今年の桜はいつもより一段と短く、幻想郷のお花身度は明らかに不足していたのだ。
幻想郷に初夏の爽やかな風が吹く。
大循環する大気には、結界も何も関係無いのだろうか。
東方萃夢想 〜 Immaterial and Missing Power.
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博麗神社。幻想郷の境にある。
人間の里から離れていて妖怪も少なくない、だが、桜は見事だし、騒いでも一人を除いて
文句を言わない。お花見のロケーションとして最高だった。
そんな神社のお花見でも、今年は少し物足りない感じがしたのだ。桜の期間中は飽きる程
開催した気がするのだが、いかんせん期間が短すぎた。こういうものは「飽きる事にすら
飽きた」後からが本番なのだ。飽きたまま終了しては、本当のお花見が開始したとは言え
ない。
既に桜は散って新緑の美しい季節となっている。
文句を言う巫女、博麗 霊夢(はくれい れいむ)は嫌な予感がしていた。
「霊夢、3日後にしておいたぜ。」
やはり予想通りである。桜は散ってしまったが、まだ宴会癖が抜けていないらしい。
「ちょっと、勝手に決めないでよ!」
「ああ、もうみんなに連絡しといたぜ。」
「ねぇ、最近みんなのテンションおかしくない?」
「そうか?春度が溜まってるだけだろ。」
まただ。宴会になるたびに何か不安に思う。そんなに大勢で集まる事に意味があるのだろ
うか?こんなに頻繁に行っても必ずみんな集まる事に、誰も疑問に思わないのだろうか?
霊夢は、まるで毎日の様に開く宴会を事と、特に理由も無く集まるみんなに不信の念を
抱いていた。ただ、誰一人として、嫌々集まっている様には見えなかったが……。
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3日後は何も特別な日ではない。だがきっとみんな集まるだろう。この様な宴会は桜が散
ってからも、何度も繰り返されてきたのだ。そしていつも、何事も起きずに終了し、その
後すぐさま次回の宴会の約束が交わされる。
これは一体どういう事なのだろう。
だが霊夢は気付いていた。いや、みんな気付いていたのかもしれない。
この漫然とした宴会のたびに、幻想郷を包み込む妖気が高まっている事に。
最初は、霊夢も多くの人妖が一箇所に集まっている所為だと思っていた。しかし明らかに
様子がおかしかった。宴会の準備期間の方が妖気が強く、直前でピークに達する、そして
宴会中は何故かもっとも薄くなる。この様な妖気の集まり方は自然に起こるものではない。
そこには何らかの意思、つまり目的のある何者かの力が働いているはずだ。
霊夢は不安を感じていた。
この宴会には、裏に絶対何かある。
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何か起きてからでは手遅れである。霊夢は単身調査に出かけることにした。
ただ、霊夢の力を持ってしても、妖気はどこから来ているのか、誰が出しているのか
さっぱり掴めなかった。それに目的が何であるのかも……。
それでも、いつも宴会に来ているメンバに当たっていけば、そのうち分かるはず。いや、
そのうちでは間に合わない。それなりに的を絞っていかないと。
なにしろ、次の宴会まで3日しかないのだ。
今度ばかりは、呑気な彼女にも急がないといけない事ぐらいは判る。
誰が犯人なのか、そもそも何が起きているのかを探りに行こう。
まぁ、取り合えずはお茶を飲んでからでいいや。
彼女がそう思ったとき、神社に吹く風の向きが変わった。
風の吹く向きに目的は無い事を、彼女は知っていた。