カラフルピュアガール2003年9月号内コーナー「PNM MARKET RESEARCH」での1ページインタビューより  いまや同人シューティングゲームの代名詞といえる『東方紅魔郷』。 このゲームを開発したのが、今回取材したサークル・上海アリス幻樂団だ。 弾幕シューティング自体の面白さに加え、キャラクターやサウンドが一体となった独特の世界観が魅力の『東方紅魔郷』、 その開発秘話から同人ゲーム制作にかける想いまでを制作者・ZUN氏にうかがった。 ●急ピッチで開発した『東方紅魔郷』  サークルの結成は大学時代、同人ゲームがまだMS-DOSで開発されていた頃である。 趣味の音楽が高じてゲームミュージックを作りたいと考えたのがきっかけだったという。 「どうせなら自分で作ろうとプログラムを勉強して、当時開発したのもシューティング。  いつのまにか同人ゲームを作っている感じでした」  大学卒業後、ゲーム会社に就職してからは、しばらく同人ゲーム制作から離れていた。 それが再び甦ったのは2001年の冬コミのこと。 「いろんなゲームが並んでいるのを見ていたら、久しぶりに作りたくなって……。  その日のうちに開発環境(Visual C++)を買い、早速作り始めました。  Windowsのプログラムは初めてでしたけど、DirectXのおかげでかなり楽でしたね。  関連書籍も豊富ですし、ちゃんと勉強すれば誰にでも作れると実感しました」  それからシステム開発に1ヶ月、ゲーム本体の開発に6ヶ月。 夏コミ発表を目指して、半年間で開発するスケジュールを守ったという。 「仕様ではもっとボリュームがあったんですけど、残り3ヶ月の時点で無理な仕様を片端から切りました。  ゲームには完成がないんです。時間さえあれば際限なく良いものが作れてしまう。  だからこそ、どこかで止めなければいけないんです」  ベストの妥協点を探るのがゲーム制作の肝、という姿勢を貫き、完成した『東方紅魔郷』。夏コミ当日、 「全然売れると思っていなかった」という同作はきれいに完売した。 「HPで告知はしてましたが、同人から離れて久しいので完売して驚きました。  商業の場合、制作するゲームはメーカーのため、ひいてはユーザーのため。  でも同人は、いってしまえば開発者のために作るもの。  『東方紅魔郷』は僕の好きなものだけを詰めた作品ですが、  それが受け入れられたのは嬉しかったですね」 【画像:東方紅魔郷ジャケット】 ▲弾幕×少女! 現代に甦る新感覚弾幕シューティング『東方紅魔郷』 ●「個性的」な弾幕  実際、ZUN氏は『東方紅魔郷』に多くの「こだわり」を込めている。 「『紅魔郷』にはこれまでのシューティングにないシステムが入っているんです。  それが弾幕攻撃に名前があること。他の人が作る前に、自分が作ってしまえ、と考えて」  格闘ゲームの技、RPGだと魔法に名前があるように『東方紅魔郷』では弾幕攻撃に名前がある。 「弾幕シューティングは戦車がミサイルを打つのとは違う、特殊なジャンル。  よくわからない戦闘機が、好き勝手に弾を出して(笑)、非常に無個性なんですね。  この弾幕を抽象化し、ひとつの『もの』として見せ、個性ある攻撃にすること。  実は、これが一番やりたかったんです」  得点のバランス、難易度、操作性といった弾幕のロジックを大事にしつつ、 幻想的な世界観とキャラクター性によって、『東方紅魔郷』は弾幕の快楽を今に甦らせている。 【画像:紅魔郷EXプレイ画面「過去を刻む時計」】 ▲美麗な弾幕が雨霰のようだ……高まるテンションを加速するBGMは必聴 ●独りで制作する理由  しかし、こうした創作姿勢を支えているのは徹底した個人作業だ。 プログラム、CG、音楽……これらの作業をZUN氏は独りで行っている。 「苦労する点は時間がないこと。  夜遅く会社から戻り、作業して、明け方眠ってすぐ出社する……という生活は正直疲れます。  でも集団で制作すると、どこか尖れない。複数人が『良い』というものは、平均値になってしまう。  一番思い通りに表現できるのは、やはり自分ですから」  上海アリス幻樂団が夏コミで発表予定の新作が『東方妖々夢』。前作の世界観を踏襲した自信作だという。 「続編ではなく、ミステリでいえばシリーズものの一編という感じ。  ちょっと不思議な事件があって、1日くらいで解決して終わり。  トラブル自体も日常の歯車のひとつ、そういうものが好きなんです。  前作よりボリュームは増えてますし、雰囲気もより良くなってると思いますよ」 【画像:東方妖々夢ジャケット】 ▲期待の新作『東方妖々夢』。公式サイトで体験版が公開されているぞ ●好きなものを作り続けよう  同人とオリジナリティーの関係について訊ねたとき、次のような答えが返ってきたことが印象深い。 「今までなかったものを探そうとすると、却ってうまくいかない。  自分が影響を受けた良いものを合わせることからオリジナルはできる。  同人の一番良い点は、それがオリジナルであれ、二次創作であれ、好きなものを作れるところだと思います」  そして重要な点は「このジャンルはこうであらねばならない、と思い込まないこと」だという。 独りで作るという姿勢も、裏返せば作品の拠り所がジャンルにではなく、制作者個人にあることにほかならない。 「何かの枠を持っていない、ジャンルを持っていない、そういう人が同人ゲームを作ると面白いですよね。  僕も作りたいものを作っていく姿勢を維持したまま、ずっと同じものが作りたい。  最終的にいろんな話が積み上がっている世界を、ちょこちょこっと積み上げていく感じで」  こうした創作は、確かに、同人ゲームでのみ可能になるのだろう。 完結のないライフワーク。人生のような弾幕シューティングに、ベストの妥協点はないのかもしれない。 ●制作者に訊く、東方マニアックス! ――「東方プロジェクト」とは何ですか? ZUN 大学時代に作ったシューティングが五つあって『紅魔郷』はその第6弾。     要はシリーズ物なんですけど、「2」だと前作を引きずって題名もいじれないから、     「東方」だけ固定のシリーズにしました。 ――弾幕の魅力とは何だと思いますか? ZUN シューティングの良さは、同じ行為を反復すること。     特に弾幕は、同じことを反復していれば先が見えてくる。     そういう受け身なところが好きですね。     自分から進もうと思わなくても進んでしまうような。 ――好きなシューティングゲームは何ですか? ZUN 昔のタイトーのゲームですね。     「こんな曲流すか?」みたいな場違いな曲が流れたり、物凄い効果音が入ったり、     一癖も二癖もある「どこか間違ってるぞ」という感じがたまらなく好きでした。 ――独りで制作する上で不都合な点は? ZUN 絵はもっとうまい人がいるんじゃないかな……という気がすること(笑)。     けれど人に頼むとしても、イメージ絵を描くと、結局は同じ作業をやる訳です。     思い通りに表現するには、仕方ないことですね。 【画像:アリスのラフスケッチ及び覚え書き、アリスの横にうっすらと小物らしき何かのラフスケッチ(判別できず)  覚え書きの内容:3面のボスで大変、アリス・マーガトロイド(仮)、ZUN 02.11、ちょっと何考えているか不明】 ▲新作ボスキャラのラフスケッチ。ロリータ・ファッションがたまりません。 ●Favorite Creators&Titles 小説 森 博嗣、京極夏彦、藤木 稟、荒俣 宏 マンガ 山田章博、藤原カムイ、八房龍之助 音楽 姫神、服部克久、ZUNTATA シューティングゲーム 『ダライアス外伝』、『メタルブラック』