「ねえ、メリー」 「なに?」 「熱いんだけど」 「そう?」  時間が時間だ。毛布と布団を被り、目蓋を閉じる。閉じたい。閉じたいけど。 「そんなにくっつかないでよ」 「いいじゃない、減るわけじゃないし」 「気が磨り減る」 「欝になったら、ずっと看病してあげるわよ」  いや、欝にはならないけどね。 「ねえ、メリー」 「さっきも言ったわね、それ」 「茶化さない。それで、なんで私は抱きしめられてるのかしら」 「それは蓮子が可愛いからよ。あと抱き枕代わり」  深呼吸。ひっひっふー。 「それで、なんで、私は、抱きしめられて、いるのかしら」 「蓮子が可愛くて可愛くて仕方がないからよ。このままお持ち帰りしたいぐらい」 「一週間に十回は玄関を通る人が言う言葉じゃないと思うけど、帰るとか」 「夏は私の家に入り浸るじゃない、蓮子。その代わりよ」  そりゃあ、冷気が恋しいから。  他意はないわよ、きっと。うん。 「ねえ、蓮子」 「……なに?」 「顔、真っ赤」 「うるさい」  だって、すごい近いもの。メリーの顔が。  うわ、唇、濡れてて、ちょっとだけ、ドキンとした。 「このまま布団から出なければ、ずっと蓮子と一緒にいれるのかしら」 「布団から出ても一緒にいるくせに」 「きっと、いつかは離れちゃうわよ。理由はなんにせよ」  死んじゃったりね。  そうメリーは笑う。 「一緒に、いるに決まってるじゃない。秘封倶楽部は二人で一人なんだから」 「秘封倶楽部だから?」 「……メリーが好きだから」 「うん。私も蓮子が好きよ」  本当、うるさい。顔が熱くなるじゃない。 「いつか、結婚して、好きでもない人の子供を産んで、子供のために笑ってなきゃいけなくなる。そんな気もするし、いつか境界から戻れなくなって、一人ぼっちじゃなくても、蓮子とは離れ離れになる。そんな気もすれば、事故で死んじゃったり」  何があるかわからないから。ね。  綺麗に、本当に綺麗に、笑う。 「だから、こう、甘えれる時には甘えたいマエリベリーさんなのです」 「大丈夫。何があっても、絶対に一人にしないから」  身体の力を抜いた。抱きしめ返すのは恥ずかしいけど、でも、この温度がうれしかったから。 「じゃあ、約束」 「ゆびきり?それとも、拇印でも押す?」 「そうね。蓮子、目を瞑ってくれる?」 「……やだ。目を瞑らなくたって出来るじゃない」  そういうものじゃないとわかってるけど、やっぱり嫌だ。恥ずかしいし。  その、メリーのこと、見て……たいし。 「もう。ムード台無しよ?蓮子らしいけど」 「わかってるけど、ね」 「じゃあ、私が目を瞑るから、蓮子からしてくれる?」 「そ、それも恥ずかしいわね」  まだマシではあるけど。 「はい、蓮子。それとも王子様と呼ぼうかしら」  目を瞑って、つん、と唇を突き出してくる。 「ん、じゃ、じゃあ、するわね」 「いっつもしてるのに、本当慣れないわね、蓮子は」 「一回一回が特別だしね。……目、開けないでね?」 「わかってる。早くしてね」  深呼吸。ゆっくり、ゆっくりと吸って吸って吸って吐く。  とん、と当たるだけのキスをする。  わ、恥ずかしい。なんだか。 「蓮子」 「な、なに?」 「……それだけ?」 「こ、これでも勇気を出したんだから」  やっぱり恥ずかしいわよ、キスなんて。どうして、メリーはこんな平然としてられるんだろう。 「ふぅ。まあ、蓮子だしね」 「あ、なんかその言い方はカチンとくるわね」 「カチンときときなさい。あと、お返し」 「え?」  メリーの顔が近づいてくる。  体感はスロー。メリーの瞳が澄んで、とても綺麗。  くちゅり、と、唇同士がなる。水っぽいメリーの唇と、すこしかさかさした私の唇。  二秒ぐらいのことが、一時間か、一日か、とても長く感じて。 「約束。私は、蓮子から離れない。だから、蓮子も私を一人ぼっちにはしないでね」 「あー、うん」  いや、そこはもっと気の利いたことを言うべきでしょうよ私。あー、頭が回らないわ。  えっと、とりあえず偶数でも数えれば落ち着くかしら、に、よん、ろく、はち。 「や、約束。うん。メリー、約束、するから」  あ、あう、あうあ、うあ。徐々に熱が上がってくる。  やっばい。私、本当にメリーが好きだわ。 「だから、今日は、離さないでね。このまま」  だから、きっとこんなことを口走るのも、この熱量のせい。  頭がぼぅっとして、メリーのことしか考えれなくなるのだ。 「うん。おやすみなさい、蓮子。ずっと、ぎゅぅってしてるから」  メリーの熱量と、私の熱量が合わさって、まるで真夏のよう。  熱射病にかかったように、私の意識はゆっくりとゆっくりと落ちていくんだ。 「……メリー、おやすみなさい」 「うん、おやすみ」  あいしてるよ、めりー。 「ええ、私も。愛してる、蓮子」  起きたら、一緒にごはん、食べようね。 ―――――――― 抱き枕と微熱 ◆ilkT4kpmRM