男が目を覚ますと、光は見えず、体は縛られ、声を出すこともできなかった。  どうやらいま自分は縛られ、目隠しをされ、猿轡も噛まされて寝転がされている。  必死で記憶を辿ってみても、それは勧められた酒を一杯飲んだところで途切れていた。  クソッ、ぼったくりだったんじゃないか!  男は心の中で毒づき、近くにあった壁を蹴りつけた。 「うるさいわね」  女の声が響いた。  飲み屋に誘った女よりも年上で、それでいて艶やかな声だった。  せめて姿が見えれば、男にとっての慰めになったかもしれないのに、残念ながら男が彼女の姿をみることはなかった。 「あなたには取引材料になってもらうわ。簡単に言えば、見せしめって奴ね。  優曇華の襲撃に関わったチンピラは、あなたでもう、最後なの」    女――永琳は注射器を構え、男の腕をまるで万力のような力で握った。  そして浮き上がった静脈に、スッと、針を刺す。   「眠れ良い子よ。きっと目覚めたときには、そこは閻魔様の前でしょう」  注射を引き抜くと男は苦しげにゼハ、ゼハと苦しげに呼吸をするようになった。  満足に息は吸えず、意識も、永遠に濁ったまま。   永琳は感情の篭っていない瞳で、芋虫のような男を引きずり、リヤカーに乗せた。  リヤカーの中には、同じような格好の男が何人も積まれており、揃って苦しそうな呼吸をしていた。 「さ、ちゃっちゃと終わらせましょうか」  力弱きものは淘汰されるが運命。  屍を載せた火車が、里一番の屋敷に向かって動き出した。