「Sleeping Cutie 〜小さなお姫さま〜」  紅魔館のとある一室。  そこは館の使用人の部屋であるのだが、一般的なメイド用のそれと比べてかなり広い。調度 品の類も良質な物が三人分も揃えてあり、その内の一人分はやや小さめだが真新しい。唯一、 ベッドのみ一基しかないのだが、それもキングサイズのダブルベッドで大人3人が並んで寝て も、よほど寝相が悪くない限りは転げ落ちるような心配のない大きさである。  そのベッドで部屋の住人――美鈴と咲夜は、薄手のタオルケットを腹ぐらいまでかけ、各々 翠と蒼の寝間着を着込み、向かい合うようにして横たわっている。二人の間はちょうど人が一 人分開いていて、そこには―― 「…こうして、山の悪い巫女は博麗の巫女に退治されたのでした。その後、博麗の巫女は山の 神様と話し合って…」 「美鈴、もういいわ」  咲夜は唇の前にそっと人差し指を立て、その指で咲夜と美鈴の間を指し示す。つられてそち らを見た美鈴はジェスチャーの意味を理解し、顔に柔らかな微笑を浮かべた。  桃色の寝間着を纏い、短く整えられた髪が見せる緩やかなクセは片方の母親のように、少し 薄まった紅の色はもう片方の母親から引き継いだように。深く結ばれた愛の結晶とも言うべき 小さな女の子――美咲は、美鈴と咲夜より頭一つ分くらい下がった位置で静かに寝息を立てて いた。 「今日はちょっと、寝付くまで時間がかかりましたねぇ」 「美鈴が盛り上がるような話を聞かせるからよ」  物語を聞かせていた時よりもトーンを落として囁きあう。 「やっぱり、咲夜さんが子守唄を歌ってあげた方がいいんじゃないですか?」 「そ…それは…うぅん…」 「咲夜さんの歌声、とってもきれいですしね。初めて聞いた時は本当に驚きました」 「やめてよ、もう…恥ずかしいじゃない…」  咲夜は少し紅潮しながら視線を逸らすが、美鈴は期待をありったけ込めてまっすぐに咲夜を 見つめる。すぐそばで美咲が寝ているので大きく体を動かすわけにもいかず、どうしても美鈴 を視界の外にやれない咲夜は、それでも3分間努力をした後でようやく諦めた。 「…美鈴も一緒に歌ってくれるなら、考えてもいいわ」 「いいですよ。あとで教えてくださいね」  美鈴は、まるで何を言うかがわかっていたかのようにさらりと返答した。  一連のやり取りを完全に読まれていたと悟った咲夜が非難の声を上げようとした、その直前 だった。 「ん…ん〜…」  不意に美咲が声を発し、小さく寝返りを打つ。はっと身を強ばらせた二人の、咲夜側に転がっ た美咲の頭は、そのまま咲夜の胸に軽くうずまった。くんくん、と匂いをかぐように鼻で呼吸 し、頭を軽くゆすった後、 「…まま…」  ぽつりと寝言を呟いた。それからしばらく、美咲が再び愛らしい寝息を立てるまでは咲夜も 美鈴も無言のままだった。 「…胸だけで、わかるんですね…」  美鈴が、からかったりするでもなく素直な感想を述べると、咲夜も無言でうなずく。 「おっぱいの味まで覚えてたりして…」 「それはそれで嬉しいじゃない」  美咲の髪を優しくなで、梳きあげながら目を細める。 「あなたもそう思うでしょ、美鈴?」 「…そうですね」  美鈴は自分の胸に手をあて、軽く揉んでみる。  それは美咲を産んだ咲夜が、初めて美咲に授乳した日のこと。美鈴はたまたまその場に立ち 会っていただけだったのだが、美咲が咲夜の乳を吸い上げ、喉を鳴らしているのを見ていると、 自分まで胸が張ってくるような不思議な感覚を覚えた。それが美鈴の内で確信に変わった瞬間、 美鈴の胸の先端からも母乳が零れ始めたのだった。すぐに事態を理解した咲夜から美咲を渡さ れ、胸を美咲に差し出した時に受けた、柔らかい唇と舌と、幼くも力強い吸い付き。 「あの時から…本当に大きくなりましたね」  目を瞑れば去来する思い出に、美鈴は今の美咲を重ねてしんみりと呟いた。 「えぇ。もう少ししたら白沢の寺子屋に通ってる子供たちと同じぐらいになるのかしらね。美 鈴の…妖怪の血のせいなのか、成長も意外に早いし」  既に髪から手を離した咲夜が相槌を打つ。その中のある単語に美鈴の眉がぴくりと跳ねた。 「寺子屋、かぁ…そうですね…」 「何? 通わせる気でいるの?」 「いえ、そういうわけでは…」  要領を得ない返事に咲夜は少し顔をしかめた。 「教養はあるにこした事はないけれど、アイツの教えることはいまいちパッとしないのよね」 「知ってるんですか」 「私もソレを考えたことがあるのよ。その時、買い出しついでに見学したんだけど…ね」  ふぅ、と静かにため息を吐く。しかし、美鈴はそれを特に気にとめた風でもなく話を続ける。 「寺子屋と聞いて、教えるなら早い時期から、それこそ今ぐらいからがいいかなぁ、って何と なく思ったんです」 「何を教えるのよ?」 「お仕事ですよ。ウチの」  美鈴の言葉に最初は目が点となった咲夜だが、それほど間をおかずに賛同した。 「あぁ…そうね、お嬢様の下にいる以上は必要なことね」  美咲の寝顔に二人の視線が集まる。 「でもちょっと…かなり大変だけど、きちんと仕事をこなせるようになれるかしら」 「少しづつ、簡単なことから教えてあげればいいんですよ。大丈夫、きっと上手くやるように なりますよ。なんたって、私と咲夜さんの娘なんですから」 「だといいわね。そして、いつかは…」 「門番副長に」「メイド副長に」  同時に声を発し、思わず二人は目を合わせる。そして数秒ほどして二人は同時に噴き出した。  しかしこの時、噴き出すのに反応したかのごとく、タイミングよく美咲が再び寝返りを打ち 「起こしてしまったか」と美鈴と咲夜は完全に固まった。だが美咲は咲夜から美鈴へと埋まる 胸を変えたのち、 「…おかあさん…」  と、言葉を漏らしただけでそれ以上動くことはなかった。  その様子を見て二人は胸をなでおろす。 「…寝ない?」 「そうですね」  美咲がくっついてて動けない美鈴の代わりに、咲夜が美鈴の方ににじり寄り、顔を寄せる。 「おやすみ、美鈴」 「おやすみなさい、咲夜さん」  互いの唇を軽く、だが吐息が混ざり合う程度に長く重ね合わせ、ゆっくり離したのを最後に 美鈴と咲夜は目を閉じる。  窓から差し込む紅い月の光が、身を寄せ合う3人を見守り続けていた。 「おねーさま、私にも子守唄を歌って!」 「よしよし、それじゃぁ今度『魔王』を歌ってあげるわ」 「レミィったら本当に悪魔ね、眠らせる気はないらしい」 「子守どころか看取りですね〜」 ーーーーーーーーーあとがきーーーーーーーーー  原案:ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=1623839  スペシャルサンクス:美鈴スレ住人  ネタ元とさせていただいた方及び住人の皆様へ、ありがとうございます。  ネタ元の方の記述では「美夜(めーや)」ということですが、自分的には「美咲」の方が 馴染みがありますので勝手ながら「美咲」で統一させていただいています。  美鈴&咲夜さんの愛し合う姿が美しいことは言うまでもありませんが、二人の愛の結晶と して「娘」がいたら…と考えたら鼻血を噴きそうになりました。エチぃ意味も否定しません が、それ以上になんと言いますか、純愛の究極形としてこれほどのものはないだろう、と。 いやもちろん、子供の作り方を知らぬわけではないですが、それに一番大切なのは愛ですし、 そもそも妖怪×人間なんだから多少、過程が違うところで子供ができても不思議ではない、 なんてことでどうでしょうか。ダメですね。  とはいえ、どれだけ私個人が愛の結晶だの究極の美だの叫んでみても、やはりオリキャラ である事は事実ですので、快く思わない方も多いでしょう。ここまで読んでくださっている 方なら概ね心配ないとは思いますが、配慮として冒頭に注意文を掲載しました。  ちなみに美鈴は「お母さん」、咲夜さんは「ママ」と呼ばれてるとかいないとか呼ばせて いるんだとか。肝っ玉お母さんに教育ママでしょうか。修飾語はいらないですね。美鈴お母 さんに咲夜ママ、これで十分です。  さて、美咲ちゃんを耳にしてから前述のような思惑がドンスタップザミュジトゥナイッな 日々だったのですが、なかなか創作にまでこぎつけられるようないいネタが浮かびません。 そうして悶々としているときに突如、スレで紹介された元ネタの絵。あまりの美しさに閃き ました。いつも通りの他人頼み。んでもって生来の遅筆っぷりも手伝い今頃になって投下。 アホゥの極みですね。  しかしながら、本当に元ネタの絵は素晴らしいですね。愛が駄々漏れ過ぎです。愛の神を この絵に見ました。大げさなようですが真実はいつも一つです。  ついにフランが加わりました。でも今回だけになる可能性も否定できません。というか、 フランに覗きは似合わない気がします。悪いコトは悪いヤツに任せておきましょう。良いコ はお部屋でおねむです。  いずれ美咲ちゃんは中学生ぐらいまで成長する頃には、美鈴と並んで門番したり、咲夜さん (何故か若いまま)と一緒に雑務に追われる日常を過ごすようになるのでしょう。何ですか この未来予想図。夢も希望も無限大。インフィニット。両親のバカップルぶりがインフィニッ ト過ぎて呆れたり冷めたりしてしまう美咲ちゃんもいいですが。  今回は男前美鈴×女の子咲夜さんレベルが低めなので、次回はそんなのが浮かんだらいい なぁ、などと思いつつ、某選択肢3番も少しづつ進めていく感じで。本当に3番はゆっくり 書いていくことになると思います。頭に浮かんだのを整理している途中ですので。その途中、 今回みたいに閃くことがあったらそちらを書いたりすることもあるでしょうが、その辺りは なにとぞご容赦ください。  幻想郷は美しいですね。それはもう、他の言葉が当てはまらないくらい。 ーーーーーーーーーボツネターーーーーーーーー 「ふむ、フランの専属メイドにしてやるのもいいかもしれないわね」 「司書がもう一人ほしいわ。小悪魔だけでは足りないもの」 「夜のお勉強なら喜んで引き受けますよ! こぁくん、ハイ!」