いつものようにダラダラしている3ボス軍団。  そのgdgdな空気を打破したのは、勇儀の一言だった。 「来週の週末、みんな都合空いてるか?旅館の宿泊券が手に入ったから、温泉にでも行こうと思うんだが」  突然の提案に驚く他の面々。 「どうしたんですか?熱でもあるんじゃないですか?」 「ああ、飲みすぎでとうとう頭がアルコールでやられたのね……」 「何をした?悪いことは言わんから自首するんだ。警察までついて行ってやるから……」 「カチンと来ることも多かったけど、勇儀姐さんのこと、基本的には好きでしたよ……」  彼女たちの言葉にならない質問に、勇儀もさすがにぶち切れる 「おいおいなんだよ、お前らの態度は!私がそんなことをするように見えるのか!?」  コクリとうなずく面々。そのあまりに包み隠さない態度に、勇儀の感情は一周して、怒りも雲散霧消してしまった。 「……わかった、順を追って説明する。『サタデーナイトガーデン』ってあるだろ。 黄昏酒場の屋上のビアガーデンだ。あそこのダンサー兼マスターの天治さんに分けて貰ったんだよ。 なんでも、常連の中でも最強の酒豪と言われるメガネの人に 『取材で使ったのが余ったから、いつもお世話になってるマスターにさしあげますよンフフ』 と言うことで、10枚くらい貰ったそうだ」  勇儀の言葉を聞いても他の面々はなお訝しげだったが、取り合えず納得はしたようであった。 「その常連の方にもの凄く心当たりがあるのは置いておくとして、なんで私達を誘ったの?」 「そりゃ、たまには集まりらしいことをしようと思ったからだよ。合宿ってヤツがしてみたくてね」  勇儀のの言葉の端々からは、すでに宴会で呑み明かしたいオーラが滲み出ている。 「まあ、動機はどうあれ親睦を深めるのは悪いことではないな。私は賛成だ」 「河童と温泉と言えば黄桜ってくらいだからね。私も賛成だよ」 「じゃあ私も、なんとか都合を付けますね」 「……何よ、ノーと言えない空気じゃない。はいはい、私も行きますよ」  そうは言うものの、アリスの顔はいかにも嬉しそうで、感情を必死に抑えようとしてもまったく抑え切れていない。 「じゃあ決まりだな。それじゃあ詳しい内容についてだが……」  そして当日、各々が駅前に集合する。 「うわ、にとりさん、なんですかその荷物は!」 「向こうでの暇つぶしアイテムだよ。読みかけの漫画5冊に、プラモデルに、据え置きハード3種類」 「あのなあ、お前は温泉に入りたいのか自分の家と同じことをしたいのかどっちだ。 勇儀を見てみろ、あのシンプルな荷物を…って、まさか手ぶらか?」 「え?何かおかしいかい?ああ、My杯は持ってきてるぞ」 「着替えとか寝間着はどうするのよ?」 「そんなの向こうでは浴衣を着ればいいじゃないか。そうすれば下着も必要ないしな」 「必要に決まってるでしょ!これだから体育会系は……」 「お前さんこそ、そんなフリフリの格好で一体どこへ行くつもりなんだ」 「年中体操着に言われたくないわ」 「なにおう、メッセサンオー特典の私の艶姿を見てからもう一回言って見ろ!」 「まあまあ、その辺にしておけ。せっかくの旅行なんだから楽しくいこう。ほら、もうすぐ電車の時間だぞ」  そうして慧音に急かされて、一同電車に乗り込んで温泉へと向かう。  電車の中では当然トランプである。  色々なゲームをしたが、基本的にそれぞれの策のパターンは 美鈴:多くを望まない手堅い作戦で中位キープ。勝たず負けず アリス:人の行動を見て行動方針を決めるので勝ちきれない。2位とブービーが多い 慧音:緻密な作戦で勝利を重ねる。が、突発的事態には弱い。 にとり:勝敗そのものより奇抜な手で上がろうとして場をかき回す。たまに勝つ 勇儀:大抵の場面で一か八かの大勝負を挑む。大負けと大勝ちを行ったり来たり といった具合である。  結局一番勝ったのは慧音で、一番負けたのは同率でにとりと勇儀だったが、 勇儀は勝利数は慧音に次ぐ二番目で、勝利数が一番少ないのはアリスとなっていた。  ちなみに美鈴は敗北数最少で、堅実さを見せつける結果となった。  そうこうしているうちに列車は温泉街に到着し、五人はその光景に思わず声を上げる。 「すごい煙ですねぇ」「いかにも温泉街といった風情でいい雰囲気だ。歴史を感じるな」 「温泉卵食べようよ」「あっちに旨そうな地酒の酒造所があるぞ」 「まったく、風流さが足りないわよ、あなたたち」 「まあいいじゃないか。たまの機会なんだ。羽を伸ばそう」 「慧音の言うとおりだよ。ところで、温泉って事はここも……」 「にとり、それ以上は『そこまでよ』よ。どうしても話したいなら9月17日以降にしなさい」 「へーいへい。世知辛いね、まったく……」  そんな風に色々と寄り道をしながらも、一同旅館へと到着した。 (続く、はず)