三ボス定例会議 設定はできうる限り原作に忠実 ある昼下がり、寺子屋の奥の奥。 今日は寺子屋は休みだというのに、4つの生命反応がレーダーに引っかかっていた。 (バレないように侵入するには…どうすればいい?) 廊下を忍び歩きする彼女の名は河城にとり。水を操る程度の能力を持っている。 別にどこぞの魔法使いのように物を盗りに来たわけではない。 ただ単に、「三ボス定例会議」に遅刻しただけの話だ。 上司も出席している。叱責は免れえない。 だが、にとりには秘策があった。 「この…光学「オプティカルカモフラージュ」を使えばっ!」 起きたらもう間に合わない時間だったのにすぐに来なかった理由がこれだよ! そう、彼女は幻想郷随一の科学力を持つ河童なのだ。 光学迷彩くらいお手の物。お値段異常、それ以上。 だが、彼女は気づいていなかった。 「勝った! 定例会議完!」 「ほーお それで誰がこの星熊勇儀の出番をくれるんだ?」 「ひゅい!?」 生命反応のある部屋の前で叫べばいくら透明でも感づかれる。 肝心なところで抜けている。 そもそも彼女は透明になってからどうするつもりだったのだろうか。 拳骨を食らわせた河童を引きずって戸を開ける彼女。 三ボスとしては新参、ただしその力は指折り。 星熊勇儀は鬼である。河童や天狗より上で、にとりから見れば上司に当たる。 怪力乱神を持つ程度の能力。この能力、説明ができない。 「遅れた河童がきーたーぞー」 「あまりそう怒ってやるな勇儀。やむにやまれぬ事情があったんだろう」 「どうせ起きたら間に合わない時間で、バレないように光学迷彩の調整でもしてたんだろうさね…  慧音、アリスと美鈴は?」 「ああ、奥でお茶を入れているよ」 座敷に正座する堅苦しそうな女性。 彼女は歴史家であり、この寺子屋の講師。名を上白沢慧音と言う。 普段は人間だが、満月の夜には白沢となる。 人間のときは歴史を食う能力、満月の夜には歴史を創る能力を持つ。 人間の味方をする妖怪で、ある意味幻想郷のルールに反している。 「そろそろ出てくる…おや、美鈴。どうした?」 「いえ、すこし廊下に溢してしまいました。雑巾貸してもらえます?」 「それならお茶を入れた部屋のバケツの中に入ってるよ」 「感謝します」 チャイナドレスを身にまとった中華風の女性。 彼女は紅美鈴。名前を呼んでもらえない程度…ではなく、 気を使う程度の能力を持つ。…この能力の「気」は、気孔等の「気」。だろう。 だが、彼女自身人付き合いが上手く、よく気を使って門番の仕事の合間に誰かの話を聞いたりしている。 門番とは言ったものの、昼寝をしていたりしてそんなにマジメには見えない。 ただしそこは門番、並大抵の妖怪では歯が立たない程度には強いのだ。 「アリスさん、雑巾そこのバケツの…ああ、もう見つけちゃってたんですね」 「上海達が見つけてくれたわ。目の数が違うから早いのよ」 「便利ですね。私にも教えてくださいよ」 「あなたには特に必要ないでしょ? それより、お茶を運んでくれる?」 数体の人形を懐にしまいつつお茶を美鈴に押し付ける彼女。 名前はアリス・マーガトロイド。マーガロイドではない。悩みはない。 魔法を扱う程度の能力を持ち、主に人形を操る。弾幕はブレインが信条。 本気を出して戦うことがない。全力で戦って負けると、本当に後が無い為である。 普段は魔法の森に住んでいて、迷い込んだ人間を止めたりしている。 完全自立型の人形を作りたいと思っている。そして人形には全て爆薬が仕込んである。 お茶が運ばれて数分、にとりが目を覚ました。 慧音が軽く状態を確認し、アリスが人形を使ってにとりにもお茶を入れる。 勇儀が気絶中のにとりについて軽く茶化し、美鈴がふふふと笑った。 「さて、それじゃあ定例会議を始めようか。風代表、にとり。黒板を」 「あい、承知」 にとりが移動式のミニ黒板とチョークを慧音に渡す。 カッカッと子気味のいい音を立てて黒板に白いラインが引かれていく。 チョークがおかれ、黒板には会議のテーマが記されていた。 『幻想郷の食材について』 丁寧にルビまで振られているのは教育者の性か。 慧音が後ろを向いて話し始めた。 「まず竹林だが、タケノコだな。旨いぞ。いや、ほんとに。それと夜雀の八目鰻」 目を閉じて自慢げに語る慧音。その後ろでにとりが『食材』のルビを消して『きゅうり』にした。 「魔法の森はキノコね。…まぁ、食えたものじゃないものばっかりだけど」 よくよく考えたら食べられそうなものあるかしら、と首をひねるアリス。 「紅魔館周辺では魚でしょうか。妖怪の山から流れてくるのが釣れますよ。凍ってなければ」」 あと巫女は食べてもいい人類です、と美鈴。 「妖怪の山は…きゅうり!っていいたいところだけど、やっぱり山菜かな」 でもやっぱりきゅうりが一番、とにとり。ちなみにこの時点できゅうりのルビは「なかったこと」にされている。 「地底かい? 酒だね。冗談じゃないよ? なにせ何百年と寝てる酒ばっかりだからね」 時々失敬するんだ。でもまぁ数に限りがあるから萃香がうらやましい、と勇儀。 「ふーむ。これだけだとどうにもならないな」 「ウミ、って言うのがないんだよね。だから魚が少ない」 「そうね。山には野生の熊とかいのししとかいないの?」 「お肉ばっかりだとどうにも太ってしまって…」 「あれ、あんた毎日コッペパンだって言ってなかったかい?」 黒板に各地の食材が書き込まれていく。 にとりがどこにきゅうりと書き込もうか虎視眈々と狙う。 勇儀が脅かしたスキにアリスがチョークを奪った。 美鈴が笑い、慧音が咳払い。 「うん、こんなところかな。ご協力ありがとう」 「で、これ何に使うんですか?」 「里の人間にまとめを配ろうと思ってな。食事処で同じものしか出てこなくて飽き飽きして」 「妖怪の山に立ち入らせるときは私から天狗に伝えるよ。人間は盟友だから」 「地底には…まぁ、命知らずしか来ないだろうから、私が酒でも持たせて追い返す」 「魔法の森に来るときは迷いかねないから拠点がいるわね。人を泊めるのは慣れてるわ」 「湖は…ほおっておいても大丈夫でしょう。妖精のイタズラはどこにいてもですし」 「結論が出たな。じゃ、各人そんな感じで頼む」 それなりに気楽に、と勇儀が付け加えて会議は終わった。 彼女達三ボス同盟は平和である。もっとも親しみやすいのが彼女達なのだ。 もし幻想郷に迷い込むようなことがあったなら、彼女達を頼ってみるのもいいかもしれない。 ほら、そこにスキマが開いてますよ?