「はぁ…はぁ…はぁ!」 俺は逃げていた、暗い路地裏をどぶを這いずる鼠のように汗でどろどろになりながら駆けていた。 おかしい、何かがおかしい…そう”アレ”がここにいるはずは無いのだ、”アレ”は幻想の生き物…こんな町にいるはずが無いのだ。 息が上がる心拍数が上がる肩が上がる、だが足は上がらない。 そして俺は…三方が壁に囲まれていることに気づく…まさに袋の鼠だ。 「あれ?もう鬼ごっこはおしまい?あっけないねぇ」 後ろから声がする、鉛のような体を反転させて振り向くとそこには――――― ―――――鬼がいた。 「おかしい!嘘だ!こんなの夢だ!おまえは確かに俺に――――」 「――ぺろぺろちゅっちゅされたはず?」 にやりと笑う”ソレ”の表情にぞくりとする。 「あんなのは単なる分身、わたしの疎だよ、あんなのでわたしをペロペロしたつもりだなんてちゃんちゃら可笑しいわ」 チャリ…と”それ”につけられた鎖が音を立てる。 一歩一歩こちらに近づいてくる”ソレ”俺は固唾をなんとか呑む。 「馬鹿な!」 「わたしは嘘はつかないよ、人間と違ってね」 ”ソレ”は既に手に届く範囲に迫っていた、俺は後ずさろうとして―背中を壁に引っ付ける。背後の壁に惨めな汗の染みがついた。 「どう?この距離なら…ちゅっちゅできるかもよ?試してみる?」 「う、うわああああああああ―――――」 逆上した、逆上して逆上して飛びついて今すぐに目の前の”コレ”を組み伏してちゅっちゅしてやろうとした。 餓えた熊のように飛び掛る…が次瞬身体は”コレ”に逆に組み伏せられていた。 いったいいつの間に、そう考えるまもなく俺に重く重くのしかかってくる。 「あんたみたいな人間ごときが鬼をちゅっちゅしようなんて百年は早いのよ、最もその根性は買うけど―――」 じゃりと鎖がなった。 「――――認識が甘かった」 鎖でがんじがらめにされて俺はしゃちほこのように吊り上げられた。 「ぐあぁっ!」 「そうね、とても甘いよ、甘い甘いモンブランよりも一等甘い」 ニヤリとほくそ笑むソレは俺の目を見てそう言った―――――そう刷り込んだ。 「あんたは蜜柑――柔らかく甘く酸い果実、熟れた蜜柑よ」 俺は――俺は――――俺――――――は―――――――――― 目が覚めた、ひどく寝汗をかいている…何か悪い夢でも見たのだろうか? だが…何故だろう、悪い気分ではない、それよりもとても素晴らしい気分だ。 身体が軽い心も軽い―――――まるで何かを欠落してしまったかのように。 「ふん、いい調子だね、それじゃあはじめようか――――幻想の弾幕を」 その声―――――マイプリンセスハニーの言葉にうなづく。 そして俺はパッドを手に取った。 「証明してみせるよ、俺は君への愛を――――」 マイプリンセスハニーが満足げにうなずいたのがわかる。 「俺は――――君に捧げられた蜜柑だから―――――。」 そう証明してみせる証明してみせる、そして手に入れてみせる。 俺のマイプリンセスハニー―――――しかし 「ああ、何で気づかなかったんだろう」 今夜はこんなにも―――――萃香ちゃんが―――――――――― 綺麗―――――だ―――――