―――最初はただの嫉妬だった。 同じ巫女なのに、同じ神に仕える身なのに。 博麗である、ただそれだけの事であの人は幻想郷にとって特別な存在だった。 それがとても羨ましく、妬ましかった。 神々への信仰を失いつつある現代から、この幻想郷に来た私にとってあの人はとても眩しい存在だった。 そして何時からか純粋にあの人に惹かれるようになった。 理由は今でも分からない。 ただ、私にはあの人の自由が心から羨ましかった。 空を飛ぶように、地に足が着いてないように、何者にも束縛されないその姿が――― 博麗神社。 幻想郷の東の果てにある神社である。 先日、謎の直下型地震により倒壊したのだが、紆余曲折を経て今は元の姿を取り戻している。 その神社の境内で霊夢は日課の掃除に励んでいた。 「神社が元に直ったのはいいけど…また変なのが来るようになったわね…」 箒を片手に霊夢はため息をついた。 確かに神社は元に戻った。 しかし、それと同時に事あるごとにその元凶たる天人の娘が神社に顔を出すようになった。 これで博麗神社は紅い吸血鬼、怪しいスキマ妖怪、神出鬼没の鬼に加えて我がままな天人の娘が居座る状態となった。 もちろん彼女ら以外にも白黒の魔法使いやら、天狗のブン屋やらも顔を出しているのだが、最早一緒である。 当然の如く、誰一人としてお賽銭は入れない。 その事が余計霊夢をうんざりさせていた。 「といっても、珍しく今日は誰もいないわね。まぁ来ないに越した事はないんだけど」 と、誰もいない境内を見渡して軽く伸びをする。 「さて、と…そろそろお茶の時間なんだけど…」 正直な所、先日良いお茶が手に入ったので誰かと一緒にお茶を楽しみたい気分だった。 しかし誰かがいてほしい時に限って誰もいないものである。 仕方ないから一人で飲もうかと思案していると後ろから声がかかった。 「こんにちわ、霊夢さん」 振り向くと蒼と白の巫女装束を着た緑の髪の少女が微笑んでいた。 「あら、早苗じゃない」 霊夢は最近良く神社に来るのがもう1人居る事を思い出した。 その人物――東風谷早苗はぺこりと頭を下げて、 「そのお茶、私がご一緒してもいいですか?」 先ほどの独り言を聞いていたのか、早苗はそんな事を聞いて来た。 そして持っていった風呂敷包みを差し出してきた。 「私、丁度お饅頭作ってきたんです。お茶請けにどうですか?」 そこまで準備されているとなると霊夢に断る理由はなかった。 元々誰かと一緒にお茶を飲みたいと思っていたのだから、なおさらである。 「いいわよ。歓迎するわ」 満面の笑みを浮かべて霊夢が答える。 「あ、ありがとうございます!」 顔を紅くして早苗が嬉しそうに言う。 「そんな改まらなくていいわよ。お茶淹れて来るからちょっと待ってて」 そういって霊夢は箒を縁側に置くと神社の奥へと消えた。 早苗は霊夢を見送ると縁側に腰を下ろし、饅頭の入った風呂敷包みを傍らに置く。 その顔はこれからの時間に思いを馳せているのか、非常に楽しげであった。