(下の感想は、SS実力向上スレにおけるsalome氏本人の批評依頼を受けて書いたものです。  その割りに批評になってるかどうかは微妙ですが、そっちのスレを未読の方は、そういう前提があるということでお願いします) それでは、批評させていただきます。 まず個人的に難点だったのが、ところどころ、もったいぶった言い回しが展開につりあってない気がしたこと。 特に中盤の戦闘シーン。あまり大げさに書く必要の無い部分をちょっと強調しすぎなように見える。 そしてそのせいでテンポが悪くなり、速度や臨場感が削られてる気がする。 もう少し、印象付けるべき部分とそうでない部分とを選んだほうがいいと思う。 ひょっとしたら、一段落ごとに一行の改行を挟んでるのも、テンポの阻害を助長してるかも知れない。 体言止めや倒置法、読点での改行も多かったからなぁ……これらが悪いとは言わないが、多用するにはよほどの筆力が要求される。 とはいえ、読むのをためらうほどの難点だったわけでもなし、 それに、この文章だったからこそのこの作品である、とも思える。 麟が出るところやパチュリーと永琳による考察シーン、レミリアによる説明のシーンや紫との対峙のシーンなど、 描写と展開がちゃんとかみ合ってたと思うし。 だからまあ、描写自体をまるっきり変えろとは言えないが、 もうちょっと研鑽すれば、もっと完成度の高い味のある文章になるかなぁ、と、これは俺の期待と願望も含めての感想。 咲夜や麟の名前を使った言葉遊びについては、ただただ感心するばかり。 この手の発想はなかなか俺には無いなぁ。素直に羨ましいと思う。 (注意) (ここより下の文章は、私の私見や妄想を多分に含んでいる恐れがあります) (特に文章が下に進むにつれてひどくなってる気がします。そのあたりを心がけて読んでください) さて、お尋ねの能力に違和感を感じたかどうかだが、 個人的には違和感無しに感心した。だけど、これがかなり難解であることもまた確かだと思う。 以下、俺個人の読解を整理しながら説明。 まず咲夜の能力をアキレスと亀の理論に例えてるのが面白かった。 時間座標における1秒先と原点とを無限倍に分割し引き伸ばすことで、結果的に時間を止めることが可能というわけか。 つまり厳密には時間を止めてるのではなく、時間軸上を進む速度を限りなくゼロに近づけているという。 そしてレミリアは、自分の運命(過去現在未来)を観測することで、咲夜の操る時間を知覚できるようになり、 そうして「知覚したとおりの(咲夜が操った)時間と自分の時間を一致させる」 イコール「咲夜が操った時間軸上の時間の流れる速度を観測し、自分の時間の流れ(運命)をその観測したとおりの速度に乗せる(操る)」 ことによって、咲夜の時間操作内でも動けるようになる、 ただし「咲夜が時間を操らない限り、止められた時間や遅くなった時間は観測できない、観測できない運命は操れないので、自分で時間を操ることはできない」 だから時間操作の能力者がいないと止まった時間の中で動くことはできない、と。 だが、全ての時間を平等に観測できるレミリアにとっては、世界は全て確定事項の決まりごと、 かくしてレミリアは未来(希望)を失った、はずだった。 しかしそこにイレギュラーが発生、紫が麟を運命から外してしまい……と繋がるわけだ。 うーん。こうやって頭の中を整理してみてやっと気付いた。これは説明のしかたが色んな意味で巧妙なんだ。 先に咲夜の能力を引き合いに出すことで、レミリアの能力を「時間観測者」として定義してる。 これをやらずに説明してしまうと、レミリアの能力は「全部お見通しなのよ」で終わっちゃう。 つまり、「全部お見通しという結果を出せるのは、時間を観測できるからだ」というのをちゃんと説明することで、 その後の「全て観測しつくして飽きてしまった」ということの説明を、より説得力あるものにしている。 ……ただ、それがわかりにくいのも確かだ。元々の考察部分からして難解だから、これはもう、ある程度はしょうがないんだが……うーん。 それを踏まえた上で、ロジックや説明に強引な点があったかどうかだが…… 考察も踏まえてのことなので、俺個人の見解も入ったりして、かなり勘ぐって見てる部分もあるから、そのつもりで読んでほしい。 まずはすごく細かい点から入ろう。 >咲夜が死んでしまって、時間を操る能力の使い手が絶滅する未来まで…… >本来質量のない点を繋げて、自分の生まれた所から延びる半直線にするように視るの。 節子、それ半直線とちゃう。線分や。 「レミリアが生まれたところ」から「時間を操る能力の使い手が絶滅する未来」まで、という長さがちゃんと決まってるじゃないか。 ――いや、わかるよ? 線分って単語を使っても、読んでるほうはあんまりピンと来なかっただろうし、 だけど直線って言っちゃうと、数学の定義上は「ずうっと過去方向にも未来方向にも永遠に続いてる」みたいになっちゃうから、半直線って単語を使った。 ……でもそれなら、別に直線って言っちゃっても良かったと思う。読者からすれば、別にむやみに噛み付くポイントでもないし。 (それ言ったらなんで俺はこんなにこだわってんだって話になるんだけど、なんか『半直線』だと逆にしっくり来なかったので) まあ、そのすぐ前で咲夜の能力がらみで数学っぽいこと言ってるから、直線って単語を避けたかったのもわかるんだけどな。 で、次。 >「――ねえ、一部の人間が、数式に立ち向かおうとする理由は何だと思う」からの一連のくだり これはたぶん、森博嗣云々にも繋がると思うんだが(というのも、俺はそっちは未読だからこその感想なんだが) その後のレミリアの説明が詩的すぎて、ちゃんと順序だてた説明になってない。 これでは確かに「数式を解く=防衛の力」というのを、この描写から納得することは難しいはず。 まあ詩的なところも順序だててないのも含めて、レミリアらしいと言えば、この上無くらしいんだけどさ。 (ちなみに俺個人は「学問の根源の一つである数式に挑むこと」=「根源的な未知を解明すること」=「生存範囲を広げること、つまり防衛本能」 と解釈してるが、作中には「本能」って単語が含まれてないから、俺の価値観によるものも含まれてるはず) >見かけ上のレミリア えーと、強引というか何と言うか。 これはもう説明のしようがないというか、説明を作中に入れると蛇足になっちゃいそうだからどうしようも無い気もするんだけど。 実際のところ、「運命に飽いていないレミリア」なんてのは、存在しないんだよな。 どの瞬間においても、レミリアは「全ての時間を平等に観測してしまっているから、いつでも運命に飽いている」。 ついでにレミリアの能力は別に異世界を覗いたりする類のものじゃないので「並行世界のレミリア」という説明も全く違う。 だから「運命に飽いていなくて、新鮮な気持ちで最初に台本をなぞらずに行動を起こしているレミリア」なんてものは存在しない。 だけど「レミリアがとるはずだった行動」が「運命という名の台本」には乗ってて、 そこでは確かに「レミリアがレミリアとして、運命を見た上で自分の意志で行動してる」わけで、 だから「そのレミリアは見かけ上のレミリアと言うしかない」…… タマゴが先かニワトリが先か、というとまた微妙に違うかも知れんが、この手の順序がどうなっているのか、というのは結構難解で、 それを作中のように一言で片付けてしまうと「ちゃんと全員に伝わってるのかなぁ」と妙な心配をしてしまう。 ……別に伝わらなくても本筋の話は通じる部分なので、無理に直す必要も無いんだけど、まあ強行突破といえなくもない、ということで一つ。 >麟の存在の有無は重要では無かったのか? 一番の疑問。 レミリアが飽いていたのは、「麟がいるはずの運命」だったと思うんだけど、 麟がその運命から外されてしまってからも、レミリアは「麟がいなくなった運命」その物に対して、興味を示している様子が無い。 (レミリアが興味を示したのは、麟を運命から外した八雲紫に対してだから) で、この理由というのが、「麟がいなくなった運命」もまた、 運命として確定した後に「平等に観測」してしまったが故に興味をなくしてしまったからだ、と俺には考えられるんだけど、 このへんの説明が全く無い。 だから、書いた人が意図しているのが上の説明で合ってるのか、 それとも「レミリアは麟自身とは元々から縁が薄かったから、本人には興味が無かったんだよ」という意図なのか、 はたまた「麟がいなくなった後の運命も台本として決定してしまってたから、『麟がいなくなった運命』に対してのレスポンスができなかったんだよ」という意図なのか、 このあたりが全くわからない(ひょっとしたらこの三つ以外にも何かあるかも知れない)。 ――いや、もちろん、全部の読者が「この三つのうち一体どれなんだろう?」という風に考えるというわけじゃなくて。 「ああ、『平等に観測』ということか」という読者もいれば、「麟自身には興味なかったんだなぁ」という読者もいるだろう、というわけで。 (まあ、そんなところを無理に意識したりしない、という読者が大半だろうとは思うんだけど) で、上の理由について、もう一つ考察があって、 それは最後のシーン、麟と咲夜が友達になってるシーンに絡めて考えて、 「レミリアのもう一つの動機は、咲夜の友達を取り戻すことだったんじゃないか?」という。 だから、「麟がいない運命」そのものよりも、「レミリアが見ている運命そのもの」を壊して、咲夜のために麟を取り戻すことを優先した……という。 (うーん、やっぱりこのへんになると、考察とか感想とか飛び越して妄想になってる気もしてくる……たぶん的外れでしょうから先に謝ります、ごめんなさい) えーと、作品に対して言いたいことは以上です。 ええ、そりゃあもう本当に言いたいこと全部書かせていただきました。もはや誰のための批評なんだかわかりゃしねぇ。 こんなんで恐縮ですが、参考になりましたら幸いです。