霊夢はぼけーっと、その「大騒ぎ」と言うにすら生温い喧騒を眺めていた。 何が起こったのか皆目見当がつかないが、 次々に大挙して人妖が押し寄せ、大宴会が始まったのだ。 外の世界から何か小さくも大事な物が幻想入りしそうだ、ということなのだが…? ただ、まあ… 片付けの面倒臭ささえ除けば自分に殆ど損害はないので放置し、 様子を見て回ることにした。 リリーが居るのに、レティもいる。 幽香も秋姉妹も元気だ。 すなわち、今の神社には「季節」がない。 魅魔や神綺、魔界人達やエリー達もいる。 つまり、「時代」さえも存在しない。 果てはらしいよ達やジーグ、電車にオプーナ、見たこともない人間達もいる。 境界があやふやになっているのか、「次元」もどこかおかしい。 だが、誰も違和感などは感じていない。 他ならぬ自分でさえも。 それどころか、どこか心地良いのだ。 「夢…ね。」 唐突に真後ろで発された声に振り向くと、 赤い顔をした紫がスキマから顔を出していた。 「…ああ、成程ね。」 発言の意味は聞き返すまでもなく直ぐに理解した。 そう、これは夢なのだ。 どのような事も決して違和感を感じないままに、 ただあやふやな記憶となって消え行く、一夜の夢。 「折角の夢、泡沫に消える前にあなたも楽しんでおきなさいな。」 「そうね、夢なら神社の掃除なんて要らないしね!」 そう言って霊夢は酒を奪いに杯を持って走っていく。 …暫く見なかった連中をも酒や言葉を交わし、 その内に霊夢はふとこの騒ぎの真相を見た気がした。 (この大騒ぎが幻想入りしてしまったとしたら… 外の世界は、味気なくなるんでしょうね…。) 「ねえ、紫?」 「…もしこれが本当に此方に来るとしたら、 私達はこのままでは居られないでしょう。 だから、ほんの夢。泡沫の夢。 後にはなんにも、残らない…ね。」 翌日には、散乱した酒瓶も、見ない顔も、皆の記憶もどこかへ消えていた。 そしてまた始まる、元通りの幻想郷。 どちらから見ても、元通りの幻想郷。