「ターニングテーブル!」 「アグニシャイン!」 さわやかなスペカ宣言が、澄みきった青空にこだまする。 幻想郷の澄空を舞う乙女たちが、今日も天使のような無垢な 笑顔で、誘導弾とへにょりレーザーを連発する。 汚れを知らない乙女の恥じらいの部分を包むのは、みんなおそろいのドロワーズ。スカートのプリーツは 乱さないように、飛んでいてもスカートの中は見えないように、ゆっくり歩くのがここでのたしなみ。 もちろん、弾幕ごっこで負けたあとは宴会の片付け役。  私立東方女学園。 創立の経緯がハクタクによって消去された学校は、もとは博麗の巫女の養成のためにつくられたという、 伝統ある弾幕系お嬢さま学校である。 幻想郷の中心。マヨイガを模して作られた緑の多いこの地区で、スキマ妖怪に見守られ、 幼稚舎から大学までの一環教育がうけられる乙女の園。 時代が移り変わり、御阿礼の子が八回も改まった今日でさえ、 十八年通い続ければ温室育ちの純粋培養弾幕妖怪またはそれに準ずる人間が箱入りで出荷される、 という仕組みが未だに残っている貴重な学園である。  「春ですよ――っ!」  「・・・・・・貴方の頭がね」 笑顔でくるくる回る春告妖精を横目に、私は紅葉を見て恋の終わりを悟る乙女のようなため息をついた。 私は風見 幽香。入学時の適性試験によれば、花を操る程度の能力らしい、のだけれど。 あああ、何で私がこんなところに来ているんだろ。知り合いに見られたらコトだわ。 「あれ?幽香じゃないか。久しいな」 っ!今一番会いたくないヤツに見つかるなんて。人の世は無情なりや無常なりや。振り返る首が鉛のように重い、開く口も。 「・・・・・・ええ、久しいわね。魔理沙。まだ魔法使いをやってるの?」 「ああ。私は魔法使い『でいる』ぜ。私は魔法使いをして、やめるんじゃない。最後まで霧雨 魔理沙は魔法使いだ」 思わず笑みがこぼれる。こいつらしい、諧謔ある受け答えだ。 ノリのよいところと合わせて昔から好感が持てるのだけれど。この人当たりのよさゆえに私は今こいつと話をしなきゃいけないのかと思うと。 「しかしお互いに弾幕ごっこをしてから何年だっけ?私はいつもお前に泣かされていたなあ」 7年よ。ああ話題がそろそろ触れられたくないところに、 「お暇しなければ」 と勢いよく振り切ったのが良くなかったのだろうか。それとも悪がつくとはいえ旧友をつれなく扱ったことへの神様の罰なのだろうか。 私の――黄色い――ネクタイは風にふわりと舞った。しまった、神様にはむかしこっぴどくしたんだった。そりゃあ目も付けられるわよね。 魔理沙はしばらく目をしぱしぱさせた後、意地悪な目つきで私を斜めに見上げる。 「お前、そのネクタイの色!――ははあ、ここでは私が先輩というわけか(はあと」 私は紅く染まった頬を気取られぬように顔を伏せ、そのままこの話もねじ伏せようと思った。 でもここで答えないともっと負けた気もするから、 「・・・・・・そうよ。私は新入生というわけよ」 葛藤の末に出てきた声は、風に吹き消えればよかったのに、運悪くも向こうに聞こえるぐらいな声で。 ――結局その声のか細さと大きさが私の新たな環境への不安と、旧友へのすがる気持ちの象徴だったんだろう。 ※※※ ふん!ふん!スペルカードなんてお互いに遣わなければ、あんなヤツイチコロなのよ。 そうなのだ。魔理沙たちとはスペカなんて知らない頃からの付き合いだったのだが、対戦方法選択の年頃になったとき私はサボテン学院に転校。 そこではスペカなんてものは存在しなくて、周囲に存在するエネルギーになるべく体を近づけて吸収してそれを打ち返しあっていた。 私はそこでもなかなか強かったんだ。なのに。またこっちに帰ってこなければ行けなくなって、仕方なく慣れないスペルカードを学ぶために東方学園に入学したんだ。 イライラした頭で玄関に急ぐと、通せんぼしてる金髪の少女がいる。あ、私の好みかも。 「待ちなさい!ここを通すわけには行かないわ。私は新入生のエリーっていうの。あんた強そうだから通してやんないわ」 前言撤回。うるさい。 バキッ、ドゴッ。エリーは死んだ、スイーツ(笑 彼女は死神だから死ななかった。だから彼女は今でも私のそばにいる。なぜなら彼女もまた、私にとって特別な存在だからです。