結局、やはり彼女は私のことを誰よりもわかってくれていたのだ。 彼女も私を愛してくれたのだ。私の愛を、愛でもって返してくれたのだ。 今なら確信できる、やはり私は正しかった、私の愛の形は正しかった。間違ってはいなかった。 もういちど言うわメリー、今度は自信満々で、私はあなたを愛しているから−  フラフラと、ゆらゆらと、歩き続ける。 ここがどこかは知らない、どうでもいい、すべてどうでもいい。 頭の中を彼女が走り回っている、私の脳を塗りつぶしていく、黒く黒くしていく。 どうしてなの蓮子、ねぇ蓮子。 耳を塞いでもその声は消えなかった、多分、私の脳の中で彼女が叫んでいるからだろう。 愛してたの、愛してるの、愛してたから、愛してるから。 頬をつたうなまぬるさに私は自分が泣いているのだと気づいた。 その軌跡が気化熱でスゥと冷える。ヒシヒシとした冷たさは自分を責めているのだろうか。 胸がじんわりときしんでいる、ギシギシと音を立てている。  彼女とは大学のサークル仲間だった、といっても部員は2人、私と彼女だけだったのだが。 閉じた世界だった。 小さな世界だった。 それでも、だからこそ、満足していたのだ、私は。 無駄を極限まで削った不要物の無い世界だ、完成した世界だ。 私を傷つける存在はいない、あいつらはいない、あいつらはいないの。 私を慰み者にする奴も、私を殴る奴も、私を無視する奴も、私を私を私を私を・・・ 彼女だけでいい、彼女だけでいいのだ。 彼女は世界の核だった。  ムクリと起き上がった。 知らぬ間に寝ていた、彼女の夢を見た。 夢の世界は死後の世界とつながっていると昔どこかで聞いた。今になってあぁなるほどと思った、私はもしかしたら死んでいたのかもしれない。 でも戻ってきてしまった、やはり嫌われたのだろうか、そう思うと不安で仕方が無かった。 視界がはっきりしてくる。真っ赤な花火が目の前に咲いていた。たくさん、たくさんだ。 大嫌いな花だ、大嫌いになった花だ。血の色の花だ。この血は私の流した血だろうか、彼女の流した血だろうか。 これだけたくさんの血だからきっと彼女のものだろう、そう思うと彼岸花は美しく見えた。  歩きながら考える。 私はどうするのだろうか、壊れた世界の住人はどうすればいいのだろうか。 ひとつわかったことは、生存に世界は必要ないということだ。 世界がなくなっても私の心臓は変わりなく動いていて、あぁ脳味噌はだいぶん腐ってしまったかもしれないけど、まだ生きている。 ただ、先が見えない。 どこまでもどこまでも暗くて前が見えない。 別に見れなくてもいいのだけれども。 光も音もなかった。音もなかった。そう、音もなかった。 すこしの余白を残して頭の中の彼女はいつのまにかいなくなっていた。 あぁ、あぁ私は殺した、彼女を殺した。殺してしまったのだ。    いつの間にか私は竹林の中を歩いてた。 そう、多分、竹林と呼んでいい場所だ、と思う。竹なんて本の挿絵でしか見たことがなかったから。 ふと後ろに気配を感じた、振り返ろうとした私は、首が回りきる前に頭を失くした。 頭の中の余白で彼女がニヤリと笑った。隠れているなんて彼女も人が悪いと思った。白は黒になった。  結局、やはり彼女は私のことを誰よりもわかってくれていたのだ。 彼女のいない世界で私は、つまり死にたがっていたのだ。彼女の返事を、肯定の返事を待っていたのだ。 だから彼女が殺してくれた。彼女の夢に私を引き込んでくれたのだ。 彼女も私を愛してくれたのだ。私の愛を、愛でもって返してくれたのだ。 今なら確信できる、やはり私は正しかった、私の愛の形は正しかった。間違ってはいなかった。 もういちど言うわメリー、今度は自信満々で、私はあなたを愛しているから−