僕ら正直村はもともと八人だけだったのだ。 全員で東の山に引っ越すことになって二年が経とうとしていたんだ。正直退屈な毎日だった。 ある日、一人が桃の木の脇に小さな穴を発見した。 そう、それから僕らはこの楽園に迷い込んだのだ。 そして僕はさっそく、人間をやめた。 1.Legend of Hourai 最も好奇心の高い僕は、先を急ぎ森の奥を目指した。 奥で謎のピエロに呼び止められ、なにやら嬉しそうに蓬莱の玉の枝を手渡されたんだ。 受け取ろうとしたら一瞬で首と体が離れたようだ。 僕は動くことも出来なくなって、二度と仲間に会うことが出来なかった。 残りの正直者は七人になった。 2.Two-colored Lotus Butterfly ~ Red and White 朝は、池の上に紅と白の二色の巫女が踊っているのが見えた。 最も早起きな僕は、その無慈悲で過激な舞に長い間魅了されていたんだ。 やがて雨が降り始め、僕は我にかえった時、もう巫女の姿は無かった。 3.Romance Hill of Cherry Petals ~ Japanese Flower 雨は止むことを知らなかった。 巫女はしっとりと全身を濡らしたまま、雨に溶け込む様に消えていく。 巫女に見とれているうちに雨は恐ろしい嵐になり、最も美しいボクはピエロに捕らわれたのだ。 そのままピエロは嵐の中に消え、もう僕らの所へ帰る事は出来なかった。 残りの正直者は六人になった。 4.Shanghai Alice of Meiji 17 夜、六人は異国風のパーティを開催した。最も幼い僕はまだお酒も阿片も飲めなかったのでひどく退屈だったんだ。 僕は一人でこっそりその場から抜け出したんだけど、暗闇で不吉なピエロに捕まってしまったんだ。 僕は、あっさり首を切られた。もう退屈することも二度と出来なかった。 残りの正直者は五人になった。 5.Oriental Bizarre Tale 僕は息が切れるまで走った。 最も臆病な僕は、この楽園が怖くなったのさ。 この位予想していたことだけど、いくら走っても帰り道を見つけることは出来なかったのだ。 もう僕の想い人も消えてしまっている、生きていても仕方が無い、僕は失意の後に太い枝に縄を縛りつけ首を掛けた。 ...僕はなぜか意識がある。縄が脆かったのか?... 最も臆病な僕は生まれ変わった。 もう失うものは何も無い、僕はもう一度だけ人間の真似をしてみることにしよう。 6.Enigmatic Doll 目が覚めたら僕ら五人は暗闇に居たんだ。 一人の言うことには、僕らは謎のピエロにさらわれたらしい。 四人は幼稚な脱出計画を立てている。 最も聡明な僕は、止めとけばいいのにと見ていたがとうとう口に出さなかったのだ。 四人の予定通り計画は実行され、一人の予想に反し成功に終わったんだ。 そして僕は永遠に逃亡出来なかった。 永い暗闇の中で暇を潰していると、すぐに後ろに気配を感じたが、身を任せた。 熱いものが背中を伝った。 7.Circus Reverie 僕らは見事脱出に成功したんだ。 僕らは何て賢いんだろうと感心し、楽園に見つけた住みかに帰ろうとした。 誰もお互いを疑う事なんて考えたことは無かったのさ。 みんな正直者だったんだ。みんな仲良しだったんだ... 8.Forest of Dolls 楽園は、僕らが住むにはちょうど良い建物を用意してくれた。 森の奥にある古びた洋館は、いつでも僕らを受け入れてくれる。 でもいつもなら大量に用意する食事も、いつもの半分で済んだ。 正直者の僕らはいつのまにか半分になっていたのだ。 9.Witch of Love Potion 午後は、いつもお茶の時間と決めていた。 いつもならただ苦いだけの珈琲が、今日は僅かに甘く感じたんだ。 それが惚れ薬−Love Potion−入りだったとは... 最も大人びた僕は、美しきピエロに恋し幸福のままに眠りに落ちた。 残りの正直者は三人になった。 10.Reincarnation 僕は明らかに毒で殺された仲間を見てしまったんだ。 あれは自殺のはずがない。 珈琲は僕が適当に選んで皆の部屋に配ったんだからな。 他の二人には彼の死を伝えなかった。 最も警戒心の強い僕は、自分で用意した食事以外は口に入れなかった。 他の二人が寝静まるまで必死に起きていた。 僕らは別々に部屋に入って鍵をかけた。 そう僕は二人のうちある一人を疑っていたんだ。 どこからか、すぐ近くで木に釘を打つような音が響いていたんだ。一体どっちの仕業だろう? 暗闇の中恐怖に顔が歪む。 音に合わせ僕の手足が痛む。まるで五寸もある釘で打たれたかのようだったんだ。 霊媒師にでも相談しようとも考えたが、ある事に気付いてしまったんだ。 そうだった、僕が木に打ち付けられていて動けないんだった。 どっちが僕を木に打ち付けているのだろうか? そして最後の釘が眉間に当てられた。 そこには予想通りの顔が見えた。 声を出す間も無く、光は完全に途絶えた。 - interlude 君は余りにも腑抜けだったのだ。 正直者が馬鹿を見るということが分からないのか? こんな隠居暮らしで昔のあの鋭い感覚……が麻痺したのか? もう一度街の賑わい、富と快楽が恋しくないのか? 僕は、昔みたいに皆で盗賊団になって、もう一度人生やり直したいだけだったのに。 一仕事終えた僕は、朝食の準備をし夜があけるのを待った。 11.Was She U.N. Owen? 最も早起きな僕の意識は、すでに虫の息だったんだ。 今朝のハムエッグに何か盛られてたんだろうな。 なんて僕は頭が悪いのだろう、二人になるまで全てが分からなかったなんて。 全部あいつの仕業だったんだ、気違いになった時点で殺しておくべきだったんだ。 いずれにしても、もう遅すぎたな... いつかの巫女が見えた気がした。僕の幻覚なのか? それにしても髪の色はあんなブロンドだっただろうか。 僕の命と引き換えに、もうしばらく幻覚を見せて欲しいと言う願いは、前者だけ叶ったようだ。 12.Eternal Shrine Maiden あれから生まれ変わった僕は、昨日は夕食後、強烈な睡魔の襲われたんだ。 頭が割れる様に痛い。 昨夜のことが何にも思い出せない、永い夢を見ていたような気がする。 目の前の現実さえ見なければもっと良かったのに... 何てことだ、一人は珈琲に毒、一人は木に打ち付けられていて、そしてもう一人は首をはねられて……いたなんて 僕は椅子と縄を用意し最後に呟いた。 最後に死んだとしたら、珈琲で死んだ奴しかありえない。 つまり、そういうことなのか? そういうことなのだろう。 僕の夕食にも何か盛られていたようだな。 そんなことはもうどうでもいい、僕は一人だけなんだ。 もうこんな嘘つきだらけの世に未練など、無い。 今度は丈夫な縄を天井に縛り、僕は高い椅子を蹴った。 今度こそ、二度と体が地面に着くことは無かった。 そして正直者は全員消えた。 楽園の巫女は、いつもと変わらない平和な夏を送っていた。 ある夏の日、巫女の日記にはこう書かれていた。 八月○日 今日遭った出来事といえば、森の廃洋館のある方から歩いてくる美しいブロンドの少女に遭ったこと位ね。 その少女をどこかで見たような気がしらけど、私はそんな瑣末な事に頭を使おうとはしないの。 その娘はいたずらに舌を出しながらぺこりと頭を下げて、大笑いしながら楽園の出口の方に向かっていったわ。変な娘ね。 そういえば、あの娘は正直者八人組の唯一の女の子だったわね、そんなことはどうでもいいけど。 あーあ、今日もまた退屈な一日だったわ... この楽園「幻想郷」から人間の数が八人ほど減り、七人の遺体は無事妖怪たちに持っていかれた。 幻想郷は正直者を永遠に失った。ただの数値の変化だ。 そんなことは、大したニュースでも無い。 きっと始めましてZUNです。 長い間創曲活動をしてきましたが、うっかり音楽CDを出すことになりました。 内容はというと、実に時代に逆行しています、レトロラブなのです。 特にいまの小洒落たダンス系ゲームミュージックではなく、一昔前のストレートなゲームミュージックが好きな方に最適です(狭) あと、全体的に少女チックになっていますので、そういう趣味の方にも聴いてもらいたいです。 これからも、東洋風と西洋風に、アンティークなオリジナル曲を作曲していきたいと思っています。 ちなみに、このCDを聴くとなぜか安心できないものがあります。 それは、道を外れるとモノは安定しないからでしょう。 蓬莱人形は「癒さない系」CDなのかもしれません。首吊るし。  2002.8.11 ZUN(正直村の隠し子、最も高所恐怖症な僕)