茜色の空が段々と青くそして黒くなっていく。 夜、百鬼夜行の時。 夜の帳がすっかりと落ち、辺りに闇が蠢き、そして月光が闇を包み込む。 赤々とした館が月の光に照らされた。 悪魔の館、紅魔館。 夜もなお・・・・・・いや寧ろ夜だからこそ、その館は活気に溢れる。 そして、時は年の暮れ。 その活気と騒がしさはいつも以上だ。 新年を迎えるパーティは大いに盛り上がり、悪魔の館の住民は皆、この上なく楽しんでいた。 「お嬢様、そろそろお時間です」 古ぼけた懐中時計を見つめ、静かに声をかけるのは紅魔館の鬼メイド長、十六夜咲夜。 その主、レミリア・スカーレットは静かに頷き、紅色の豪勢な椅子から立ち上がった。 そして、そのままゆっくりと宙に浮いていく。やがて、会場の全てが見渡せる位置まで昇り、そこで幼くも美しい声を響かせた。 「全員、そろそろいいかしら?もう今年ともお別れよ。  永遠亭の宇宙人どもと小競り合いがあったり、白黒鼠に相変わらず侵入されたりと、色々な事があったけど、楽しくも変わり栄えのしない一年だったわ」 その会場に身を置く全ての者がレミリアの声を聞いていた。 朗々と話を続ける彼女の後ろにはいつの間にか咲夜の姿があり、じっと時計を見つめている。 「その一年ももう終わりよ、でも終わりゆく日を懐かしむ暇はないわ。あなた達には私に仕えなければならないのだからね。  ただ、死にゆく年と新たに生まれる年に挨拶ぐらいはしましょうか。さあ、カウントダウンいくわよ!」 可愛らしい右手を精一杯上に掲げたレミリアは、さっきよりも更に大きく声を張り上げた。 「5!」 カウントが始まると、会場もそれに合わせて、手を掲げる。 「4!」 咲夜が時計を見つめながら時を告げ、レミリアがそれを皆に伝える。 「3!」 レミリアの指が曲げられ、会場の指もそれと同じく曲がる。 「2!」 レミリアが声を上げ、会場も一緒に声を上げる。 「1!!」 「「「A HAPPY NEW YEAR!!」」」 部屋中でクラッカーと花火のような魔法が乱れ飛んだ。 それと一緒にたくさんの弾が空中に打ち出される、弾幕の大行進。 紅魔館の全ての者による無数の弾幕の祝福。 祝砲のごとく、どん、どん、どん、と景気良く打ち上げられていった。 悪魔の館が新たな年を迎えることができたのだ。 *  *  *  *  * 無事年越しのパーティが終わり、メイド達の喧騒と悲鳴が飛び交う後片付けもどうにか一段落した所で、咲夜はレミリアに呼び出された。 咲夜が部屋に入ると、レミリアは椅子に腰掛け空に浮かぶ月を眺めていた。 「お嬢様、なんでしょうか?」 「ああ、咲夜来たのね。ねえ、あなたお年玉って知ってる?」 「お年玉・・・ですか?知っておりますが・・・・・・」 「最近・・・・・・メイド達の働きが良くなったわね。前よりも良く働いているわ」 「ありがとうございます。飴と鞭作戦が効果を発揮したようですわ・・・・・・ですが、それとお年玉に何の関係が?」 ちなみに飴と鞭作戦とは、正式名称「頑張った子にはご褒美を、駄目な子にはお仕置きだべ〜作戦」であり、その名の通り働きに応じて恩賞と罰が与えられるものである。 恩賞は給料アップと紅魔館食堂での得々ランチのタダ券。罰はパチュリーの造った奇妙な生物たちの世話をすることになる。 その生物達一例としては、何故かいやらしい形をした頭部を持つ蟲やら、何故かいやらしい気分にさせる匂いを発散する花。何故かいやらしく蠢く触手をもった謎の怪生物等など・・・・・・この生物達に捕まったとあるメイドは、まともに話せるようになるまで数カ月かかったとか・・・・・・ 更に、図書館の司書が夜な夜なその生物達を持ち出してことがあるとか無いとか・・・・・・。 「お年玉をメイド達に配ろうと思ってね。労いの意味も込めて」 「労いですか」 「ええ、明日紅魔館の全員を集めて、私直々に渡そうと思ったのよ」 「承知いたしました。準備はこちらで行います」 「ええ、お願いね」 「・・・・・・して、金額の方は?」 「あなたに任せるわ」 「畏まりました。ですが、お年玉代はどこから?」 「そのくらい紅魔館の予算から捻りだせるでしょ?」 「出せはしますが、少々厳しいものがあります。クリスマス、新年のパーティと大きな出費がございましたから」 「そう・・・・・・じゃあいいわ、私のお小遣いを使いなさい」 「よろしいのですか?」 「僕に器量の大きさを見せるのも貴族の仕事よ。大した金額をじゃないだろうし」 「了解いたしました。では・・・・・・」 そういいながら咲夜はぱちぱちと算盤を弾いた。 いつの間にか咲夜の手にあったものだ。時を止めて持ってきたのだろう。 そして、ぱちぱちと珠が弾かれる音が消え、咲夜はレミリアに算盤を見せた。 「お嬢様のお小遣いから、このくらいを使わせていただきます。自らの身を犠牲にして僕にお年玉をお与えになるその姿・・・・・・私、感激いたしましたわ」 「ちょ!・・・・・・こんなに使うの!?」 「ええ、お年玉ですから少しくらい奮発しないと。何か問題でも?」 「い、いくら何でもちょっと多過ぎない?」 「お年玉ですから。このくらいどーんとやった方がお嬢様のお心の大きさも皆に知られるというもの・・・・・・カリスマ増量ですよカリスマ増量」 「カリスマ増し増し?」 「カリスマ増し増しです」 にっこりと瀟洒な笑みを浮かべた咲夜が言う。 「わ、分ったわ。増し増しならしかたないわね!そ、それだけ使ってもいいわよ。それじゃあ、あとの準備は任せたわ」 「畏まりました。では、失礼します」 そう言って、咲夜は姿を消した。 時を止めて部屋を出たのだろう。 咲夜が居なくなった部屋で、レミリアは月を眺め、そして一人呟いた。 「パチェ、お金貸してくれるかな・・・・・・」 *  *  *  *  * その後、咲夜は自らの部屋に戻り、時を止めてから愛用の机に向かっていた。 机の上にはポチ袋の山、そして、沢山の名前が書かれた用紙が一枚―――紅魔館のメイド達の名簿だ。 何度も何度も名簿を確認しながらポチ袋にすらすらと名前を書いていく。 そうして名前を書いたら、名簿に簡単な印をつけていく。 そして、ポチ袋にお金を入れる。 この作業の繰り返しだ。 さらさら、さらさらと羽ペンと紙がこすれる音が部屋に行き渡っていく。 時間を止めて作業をしても、音は生まれるもの。 「ミリス・・・・・・ナギナ・・・・・・ジマング・・・・・・ユリネっと」 紙とペンが擦れる音の他にも、咲夜の呟き声が聞こえてくる。 声に出さないと文章が書けないたちなのだ。 「ピコ・・・・・・マリ・・・・・・ニミ・・・・・・」 名前を書いて、それにお金を入れていく。 簡単なことだけど、紅魔館全員分を用意するとなると、流石に骨も折れる作業だろう。 他のメイド達にやらせてもよかったが、それではその子達の驚いたり喜んだりした顔が見れなくなってしまう。 あくまでドッキリの形で皆に配りたいのだ。彼女の主も同じようなことを考えているだろう。 そのために咲夜は一人で作業を行っている。 「ナユタ・・・・・・フシ・・・・・・レンっと!ふう、ようやく終わったわね」 軽く伸びをして、ようやく出来上がったお年玉袋の山を眺める。 これを受け取ったメイド達の顔を想像して、咲夜は小さく、ゆっくりと微笑んだ。 それは、妹にプレゼントを上げる姉の様な笑み。とてもとても優しく、とてもとても誇らしげな笑みだ。 「さて、最後の確認をしなくっちゃね」 満足感に浸る自分を鼓舞するように言って、咲夜は名簿とポチ袋の名前を照らし合わせ、チェックを付けていく。 名簿とポチ袋の名前を交互に見て間違ってないかを確認して、満足げに頷きながらお年玉保管用の箱に入れていく。 どんどんとポチ袋の山は無くなっていき、箱に袋が積もっていく。 名簿の方もどんどんとチェックの数が増えていく。 そうして、机に残った最後の一枚を確認し、それを箱におく。そうして今度は思いっきり伸びをして、ゆっくりと椅子に全体重を任せた。 「あ〜・・・・・・終わったぁ。流石にしんどいわね」 普段の彼女からは想像もできないような気だるそうな声。 ぼーっと、箱に入ったお年玉を眺め、そのまま目線を机の上に持っていく。 ふと、ポチ袋が一枚だけ残っているのが目についた。 名前がまったく書かれていない、しかしお金だけはきちんと入っている。 見落とし?あれだけきちんと確認したのに・・・・・・ 若干焦りながらも、冷静に、そして急いで名簿を確認していく。 あった・・・・・・見落としがあった。 チェックの印が多すぎて思わず見落としていたようだ。 きちんとチェックが付いていない名前欄・・・・・・そこには十六夜 咲夜と書かれていた。 自分を忘れていたのだ。 しかし、自分で自分のお年玉の名前を書く・・・・・・なんだかそれはとても 「馬鹿みたいね」 アホらしい、どうせこのまま貰っても問題は無いのだ。 わざわざ名前を書く必要もない。 お嬢様にお渡しして、また自分に渡されるというのは、なんとも無駄なことだ。 それだったら最初から自分で持っていたほうがいい。 そう思っているのだ。だから別に名前なんて書かなくても問題ない。 そう思っている筈なのに、無駄だと思っている筈なのに、何ぜだろうか? なんだかそのことがとても寂しく思えた。 だけど、お年玉をもらって喜んだりするほど子供じみてはいないし、貰うような年でもないと思う。第一、自分は貰っても純粋に喜べるような人間じゃない。 そこまできちんと理解しているのだ。しかし、それでも、それでも何故かこのまま貰うというのは虚しい気持ちになる。 どうしようか・・・・・・自分の心の動きに戸惑いつつ、咲夜はじっと無名の袋を見つめた。 じぃっと、ずぅっと袋との睨めっこを続ける。 その内、そろそろと羽ペンに手が伸びた。 そうしてゆっくりと、ためらいがちに、そして戸惑いがちに、ポチ袋にペンを置いて書き出す。 咲夜 と書かれたそれは、何だか歪で、少しふらふらした字だった。 それでも、ポチ袋に浮かんだその二文字を見て、ほっと胸をなでおろす。 別に大した事では無いのになんだかひどく安心できた気がする。 それと同時に、なんだかとても気恥ずかしい気持ちも同時に湧いてきた。 自分が貰うものに自分でわざわざ名前を書いてしまったこと。 もうお年玉なんて貰う年でもないはずなのに、自分の名前を書いたポチ袋が大事な大事な宝物のように思えてしまったこと。 我ながらなんと子供っぽいんだろう。 そんな気恥ずかしさが湧いてきて、咲夜は一人、時の止まった部屋の中で真っ赤になった。 *  *  *  *  * 次の日、レミリアは紅魔館の全員をホールに集めた。巨大な紅魔館のなかでも随一の広さを誇るホールだ。そして、その良く通る声でメイド達に声をかけた。 レミリアの後ろには咲夜がお年玉袋の入った箱を携えて控えている。 「皆、明けましておめでとう。今年も私のためにきびきびと働いてもらうことを期待するわ。  さて、唐突だけどあなた達にお年玉をあげるわね。これは去年の働きに対しての労いと今年の働きへの期待を込めたものよ。だから、さぼっていたりした場合は私の期待を裏切る形になることを肝に銘じておきなさい。裏切り者がどうなるかは・・・・・・言わなくてもいいわね? さあ、名前を呼ぶから取りに来きなさい。私直々に渡すのだから感謝なさい。そして、必死になって働きなさい。私のために、紅魔館のために!」 威圧感のこもった声でそう話したレミリアは、咲夜からポチ袋を受け取り、そしてそこに書かれている名前を高らかに読み上げる。 突然、お年玉を配ると言われ、俄かにざわめくメイド達。しかし、そのざわつきの中でもレミリアの声はホールの隅々まで伝わっていった。 そうして、名を呼ばれたメイドは恐る恐るといった感じで前に出てきて、緊張しながらもそれを受け取り、再び列の中に戻ってく。 そうやって一人一人の名前をどんどんと呼び、そしてお年玉を渡していく。 名前を呼んでは渡し、名前を呼んでは渡し・・・・・・何十回何百回と同じことを繰り返していく。 その量の多さに若干の眩暈を感じながらも、レミリアは一人一人に、お年玉を配っていった。 「はい、あなたで最後よレン。今年も頑張りなさい・・・・・・よし、これで全員ね。皆、きちんと貰ったわね?そのお年玉を貰ったからにはプライドを持ちなさい、紅魔館で―――私の元で働いていると言う事にね。それでは解散!!」 *  *  *  *  * 「まったく・・・あそこまで数がいると辛いわね」 「お疲れ様です。ですが皆、喜んでいましたよ」 ウンザリと言った顔をしながらレミリアはぼやいた。 解散の後、レミリアは自室に帰って紅茶を楽しんでいるところだ。 紅く大きな椅子に座りながらカップを傾け、紅茶を飲みほす。 そうして空になったカップに、咲夜はゆっくりと紅茶を注いでいった。 「ああ、そうだ咲夜。ちょっと」 「はい、何でしょうか?」 主の前で傅きながら、咲夜は答えた。 すると、レミリアは足を組みながら憮然として言う。 「あなたにだけお年玉を渡してないわ。どうせ自分で持っているんでしょう?出しなさい」 「いえ、わざわざお嬢様にお渡しする必要も無いかと・・・・・・」 「いいから出しなさい。あなただけに渡してないっていうのも気に食わないわ」 「ですが・・・・・・」 困り果てたように言葉に詰まる咲夜。 そんな様子を見て、彼女の主は少しだけ苛立ちを滲ませながら言葉を投げかけた。 「主人の言う事が聞けないのかしら?私がいいと言ってるのだからいいのよ!」 これ以上渋っても仕方ないと観念したのか、咲夜は懐からポチ袋を取り出し、主人に手渡す。 「まったく、最初からそうなさいよ・・・・・・」 そう言いながらポチ袋を受け取ったレミリアは、咲夜の名前を大きく読み上げる。 そして、咲夜がレミリアの前に立ち、それを粛々と受け取った。 「あなたも私の大切にしている人間の内の一人なのよ。だからこれくらいの労いくらいさせなさい」 「・・・・・・ありがとうございます」 温かくゆったりとした優しさが咲夜の胸の中一杯に広がり、そして波紋を広げていくように身体の隅々までそれが広がっていく。 こんなにも素直に嬉しい気持ちになれると思わなかった彼女は、ただただその気持ちの動きに戸惑い、顔を真っ赤に染めることしかできなかった。 普段から瀟洒だ完璧だと言われている咲夜だが、実は感情の表現や自分を表現するといったことが苦手だ。 なので、心の底から嬉しい時にはどんな喜び方をしたらいいのか、そういったことが分からないのである。 どこまでも瀟洒で完璧な従者は、どこまでも不器用で戸惑いがちな女の子でもあった。 顔を真っ赤にして俯いている咲夜を見つめながら、レミリアは再び紅茶に口を付ける。 そしておもむろにその小さな口を開いた。 「そういえば、そのお年玉の使い道は決めてあるの?」 そう言われ、しばらく考え込むように腕を組んだ咲夜は、ふと思い出したかのように顔を上げた。 「そういえば最近、香霖堂で面白いナイフを見つけたんですよ。これが中々高価で半ば諦めていたんですけど、お年玉があればどうにか買えそうです。ですからそのナイフを買う為に使わせていただきます」 そう話して、にっこりと微笑む顔は、年相応に可愛らしい少女の物であった。 まるで、憧れていた洋服を買いにいくかの様に、眺めるだけだったアクセサリーをようやく手に入れる事が出来るかの様に、そんな嬉しそうな顔をしている。 「・・・・・・ねぇ、咲夜。もう少し可愛らしい物は買わないの?」 「いえいえ、十分可愛らしいんですよ、そのナイフ。小さく軽いから持ち運びに便利だし、そのくせ切れ味や強度が今使っているものより格段に良いんです!だけどデザインはどこまでもシンプルでして、エンブレムが小さく彫られているだけなんですけど。だけどそのエンブレムがまた素晴らしいとしか言えないような出来で――――」 「咲夜?」 「そこまで凝ったエンブレムなのに全く使うのに邪魔にならず、しかも何かしらの魔術的要素があるらしくて、退魔の力も銀のナイフより強いらしいんです。で、ナイフの素材自体も珍しい魔術的な鉱物らしくて――――」 「もしも〜し、咲夜〜?おーい」 「なんでもオリハルコンって言うらしいんですけど、ホントに真っ白で綺麗な鉱物らしいんですが、そのナイフの刀身も新雪の様に真っ白でどこまでも深く光るんです。その反射した際の光がまた――――」 「・・・・・・咲夜!!」 「どんなに磨き上げたナイフでもあの輝きは・・・・・・って、何ですかお嬢様?」 「良く分かったから。そのナイフがどんなものかは良く分かったから・・・・・・」 「はあ、そうですか・・・・・・」 「だけどね、もう少しアクセサリーとか、服とかはそういった物は買わないの?」 「アクセサリーは持ってても仕事の邪魔なだけですね。じゃらじゃらと持つのは趣味ではないですし。洋服は今持っているもので十分です・・・・・・第一、私服になること自体が殆んど無いですからね。だから別に要らないかなと」 「じ、じゃあ化粧品は?!最近、外から色々来ているらしいわよ?」 「今持っているので十分です。そこまで高価な物も必要ありません」 あっけらかんと言い放つ自らの従者に、レミリアは大きく溜息を吐いた。 確かに咲夜はそのままで十分美しい。 その白く透き通るような肌はどこか人形を思わせるほど美しく、その青い双眸はガラス細工とも、宝石とも思えるほどの輝きを放つ。 その銀髭は、まるで銀そのものから作り出したかのように美しく輝き、そしてさらさらと流れていく。 凛とした鋭い顔立ちは、時に険しく、時に刺々しく、そして時に柔らかく、様々な美しい表情を見せてくれる。絹糸の様な繊細さと、ナイフの様な鋭さが同居したそんな非人間的な美しさがあるのだ。 実際、どの様な服を着てもこれ以上ないくらいに着こなすので、小奇麗な服で着飾る必要もない。 「確かにそうかもしれないけどさ・・・・・・ねえ、ナイフじゃなくて他に欲しいものは無いわけ?」 「そうですねぇ・・・・・・今のところ欲しいアクセサリーや服は無いですし。これと言って特になしです」 「ああ、そう・・・・・・」 「あ、でも」 「でも?」 「最近肩がこるんで、マッサージの道具とかなら欲しいですね」 「・・・・・・ごめんね。そこまで働かしてごめんね」 「な、お嬢様?!何でいきなり泣き出すのですか!?」 突然シクシクと泣きだした主人に、咲夜はひどく慌てふためいた。 どうしてレミリアが泣きだしたのか分からず、ただおろおろと困り果てるメイド長の姿がそこにはあったとか。 これが切っ掛けで、レミリアの我儘が少しだけ少なくなったという話があるとか無いとか・・・・・・ そしてその年から、可愛らしい子供の吸血鬼と美しい銀髪の少女が、一緒に里で服やアクセサリーを買う姿を見かけるようになったとかならなかったとか・・・・・・ そんな話が、霊夢達の間で実しやかに囁かれるのは、もう少し暖かくなった頃の話である。