(0:11〜) 霧の中、鬱蒼と覆い茂る木々に囲まれた場所に、一人の少女の影。 その表情を読み取る事は難しいが、どこか憂いを帯びているように見えた。 一陣の風が吹くと、そこに少女の姿は無い。代わりに見えたものは…? (0:25〜) 瑞垣は朽ち果て、鳥居は植物の蔓に覆われている。 参道の灯籠は、僅かに差し込む木漏れ日で緑色に輝いている。 所々壁板が剥がれ、傾いた屋根。 …ここは、忘れ去られた過去の神社。誰も居ないであろう、静謐の空間… (0:50〜) 昨今、人の信仰からの乖離は加速度的に進んでいる。 この神社も、昔は栄えていたのであろう。だが、今やこの場所を見る者は無い。 何者が祀られていたのか…伝承する人は無く、それを知る術も無い。 (1:04〜) 社殿の中から、僅かに板が軋む音がする。中を覗くと、そこには先程の少女。 ――少女は、神楽を舞っていた。 翻る僅かな瞬間、少女の顔が見えた。憂いの表情は、忘れ去られた神への想いか。 心の痛みを流し去るように、目に光る雫。だがそれは刹那の内に袖の奥に隠される。 その手には、錆び付いた鈴。相当昔のものらしく、音も鳴らない。 それでも少女は舞う。脳裏に、己が祀る神々の影を焼き付けるように。 …そこはまるで、神々のいた時代をそのまま切り取ったような空間。 だが、落差はあまりにも明白だ。 …この少女が居なくなるならば、忽ちこの空間も記憶の中で色褪せて消えてしまうのだろうか…? (暫し間が空く) …舞い終えた少女が、こちらに気付いた。儚げな姿が消えてしまうのではないか。 その不安にかきたてられるように語りかける。 …その後、暫し話を聞く。この神社の現状、少女の置かれた立場。 しかし、それも今日までだという。 何故か、という問いに対して少女は、先程の神楽を舞っている時に聞いた神託の内容を告げた。 …時は流れ、日はもう既に落ちていた。 (1:29〜) 僅かに風が吹く。社殿の更に奥、天空を貫くような木の柱が聳え立つ場所。 少女が桔梗の印…五芒星を描く。神が降り立つ神聖なる場所に、僅かな光。 空を仰ぐと、一面は漆黒。ただ星々の僅かな光のみが、地上に降り注いでいる。 遠くに、水面の波立つ音。何処かに湖があるのだろうが、その音は不安をかきたてる。 少女は柱に向かって歩いてゆく。 (1:54〜) 「風は吹き行く 水は流れてく もう 戻らぬ 静かな日々に 頼らないと」 …それが、神託の内容だった。 その意味を少女は知っているから、声が震えていた。 (2:09〜) 少女は…巫女は、再び神楽を舞った。――それは、少女の一族が代々受け継いできた秘儀。  少女の瞳には涙。昼間のそれは、神々への想いだけではなかったのだ。   "今日が最後" …少女が生きていた、この世界との離別。その郷愁の想いも秘められていた。 手には神々に捧げる神具。――「弥栄」と名付けられた鈴は、繁栄を意味するという。    過去の繁栄より、未来の繁栄を得る為に。 遠い場所へと去った神々の声はもはや聞こえない。  そして、少女も今宵旅立つ。…全ては、夢の様に消えてしまうのか? (2:34〜) 夜が明ける。光が柱と少女を照らす。 蜃気楼の様に霞むその姿。…神々が去って行った"理想郷"への扉が開いたのだ。 祈りを捧げ、少女は舞い終える… 一陣の風。 ――再び目を開いた場所には、何も無かった。  全てが、幻だったかのように。  もう一度吹き付けた風に、あの鈴の音を聞いたような気がした… (END)