※注意  八雲家&霊夢に独自の設定(七年前に赤子の霊夢が八雲家の一員)が含まれています。  一応、八雲家→霊夢?です。  序章も含めて物語の一部を読者の妄想に託しています。  以上の点を我慢できる方は先にお進みください。 『無題』八雲家→霊夢? 小さな寝息を立てて眠る幼子。 彼女は朝目覚めたら、私達のことを覚えているだろうか…いや、覚えていて欲しいという私の願望に過ぎない。 彼女の記憶からはこの七年間の思い出は消されている。これは既に確定された事実。 この事実は私には不可能、変えることは出来ない…。 「藍…神社の修復が終わったわ……橙は?」 「先ほど、藍様の馬鹿ッ!!と叫んでマヨヒガに帰りました……あんなに反抗した橙は初めてです…」 老朽化が進んでいた神社の修復作業を行っていた紫様が、私の隣に歩み寄る。 残された可能性は一つだけ…紫様を説得すること。不可能に近い可能性だが、一%の可能性に賭けて…。 「紫様……っ…!!」 最後の可能性に賭けて紡いだ言葉は……虚しく空虚に消えていった。 流された涙は一滴…二滴…と、彼女が眠る布団を濡らす。 「言わないで……貴方や橙の気持ちは理解出来てるわ…」 普段は不適な笑みを浮かべているその顔は、何かに耐える様に酷く歪んでいる。 「これは定めなの…この子が一人で飛べる様になった……この子は巣立たなければならない…」 「ですが、記憶を無くす必要性は無いはずです!!…せめて私達の記憶だけでも…!!」 私達と過ごしたこの七年間、彼女の中から私達の記憶が消えることに、私の心が悲鳴を上げる。 頭では理解しても、心は拒否し続ける。必死に抗う…。 「藍……貴方も理解しているでしょう…?」 「この子は全てに平等でなければならない…目覚めた時、私達の記憶が残っていたら私達は彼女にとって特別な存在になってしまう…」 「だから…この七年間の思い出は消さなければならないの…この子を育てると決めた時の誓いだから……お願い、藍…理解して……」 紫様が式である私に頭を下げる。それは私の最後の希望が砕かれた瞬間…。 全身から力が抜け…畳の床に膝を付く…目の前に見えるのは、安らかな表情を浮かべる彼女の寝顔。 涙が零れ落ち、スヤスヤ寝続ける彼女の頬を落ちて行く…。 「……明日は一緒に遊ぶって…一緒に満開の桜を見て…紫様や橙と一緒に団子を食べるんだって……一緒に……ずっと一緒に、傍にいるって…約束を……っく…」 涙を幾万流しても、懺悔の言葉を幾億紡いでも許されることの無い絶対の罪…果たされることが無い約束。 流された涙は、紡がれた言葉は彼女に届くことは無く、虚しく消えて行く…。 小さく彼女の名を呟き、懺悔の言葉を紡ぎ、その柔らかな髪を愛おしげに梳かす…そんな時間が何時間続いただろうか。 「夜が明けるわ…行きましょう…」 東の空が淡く色づく。 夜の終わりは彼女との終わり…。 「………はい…」 永遠に続いて欲しい、傍に居て欲しいと願った彼女との終わり。 大切な家族との別れ…。 永遠になるかもしれない別れ…。 認めたくは無い…だが、認めなければならない…それが運命…。 私は力無く立ち上がり、紫様の開けたスキマへと入る…。 「さようなら……霊夢…」 虚しく響いた私の声は、彼女に届いただろうか…。 ◆◆◆ 藍がスキマに入ったのを見送り…私は変わらずにスヤスヤと就寝している彼女の元に行く…。 「貴方は私を恨む?…貴方の大切な親鳥から引き剥がした私を…?」 「私なら幾ら恨まれても構わないわ……でも、藍だけは恨まないでいて欲しい…藍は本当に貴方を大切、本当に貴方を想っていたのだから…」 手を動かし、真っ赤で可愛らしいリボンをスキマから取り出す。 貴方が大事にしてきた大切な……藍の手で作られたリボン。 この子と私達との儚い絆を表す唯一のリボン。 「この程度の泡沫の如き絆しか残すことが出来ない…霊夢…藍…橙…ごめんなさい…」 彼女の傍らにソッとリボンを置いて日の明かりが差し込み始めた神社から姿を消す。 神社に残ったのは静かな寝息を立てる幼子と…彼女に良く似合う真っ赤なリボンだけ。 その後……霊夢と名づけられた少女と、マヨヒガの家族達が再び交わるのは…今からちょうど七年後の話だった。 −終わり− ここまで、読破してくれた読者には感謝する。 文章の練り込みや、誤字脱字チェックが皆無だからって、スペルカードを発動させなるなよ? それと、霊夢がマヨヒガに来た理由や、マヨヒガの家族として過ごした七年間は貴方の脳内補完で宜しくお願いする……申し訳ないorz