実はこのやり取りを見ている者達がいた。 先程まで言い争いをしていた彼女らの頭上、その木の枝に隠れるように 三つの人影が・・いや、人影と呼ぶには小さすぎるかもしれない。 それらの身長は並の人間の半分も無く、その背中には透き通るような翅。 人間でもなく、妖怪でもない・・「妖精」。 魔法の森に住む三妖精である。 「ねぇ、見た?」 と、サニー。本名はサニーミルク。 「えぇ、何所かで見たことあるわね。えーと、確か・・」 と、ルナ。本名はルナチャイルド。 「神社の巫女とこの森に住む魔法使いね、あとの二人は知らないけど」 と、スター。本名はスターサファイア。 「と言う事は、ひょっとすると今、神社には誰もいないのかしら?」 ルナが言う。それを聞いたサニーは 「これは・・なんか良く分らないけどチャンスかもしれないわ!」 サニーは背中の翅をパタパタと羽ばたかせ、二人に告げる。 「ルナ、スター、急いで神社に乗り込むわよっ!」 「いや、行くのは良いけど、行って何をするのよ?」 ルナは冷静に突っ込む。 サニーは呆れたといった感じで肩をすくめる。 「ルナは本当に向上心が無いわね。やることなんかいっぱいあるじゃない? 例えば、巫女の飲んでるお茶の葉っぱを全部苦茶(不味くて有名)に 替えてみるのなんて面白そうじゃない?」 「・・・・」 結局、面白そうという理由で行くことになった。 これにはリーダー権限というのも多分に含まれているが。 とにかく、三妖精はこれから行うであろう悪戯に胸を躍らせながら、 博麗神社へ飛び立っていった。 だが、三妖精は知らない。 神社には巫女と同等、もしくはそれ以上の恐ろしい存在が留守番をしている事を。 さて、改めてキノコ狩りの様子を見てみよう。 魔理沙と鈴仙は知識があるらしく、キノコを採る手に迷いが無い。 余裕があるのか、栗や柿といった秋の味覚にも手を出している。 魔法の森の瘴気の影響で色が普通では無かったり、形がやたら大きかったりするが それでも結構美味だったりする。 一方、霊夢はというと・・目に付くキノコというキノコを採っていた。 食べれる物、食べれないものなどお構い無しの様子である。 どうやら神社での永琳の何気なく放った一言が効いているようだ。 目が¥マークになっていて、ちょっと近づき難い。 そんなこんなで、二時間もかからぬ内に大きめの籠は八分強くらいまで溜まった。 「さて、籠もそろそろ限界だし、ちょっと早いが引き返すか?」 魔理沙は額の汗をぬぐいながら、近くにいる二人に聞こえるように声を出す。 近くにいた鈴仙は、よいしょっと軽く腰を上げ、 「そうね、これ以上採ったら持ち帰るのも大変かもしれないわね」 と同意する。少し離れた位置にいた霊夢も 「そうね、それじゃ鈴仙、お願いね。」 しれっとそんな事を言う。 ちなみに視線はまだ地面を向いている。 どうやら帰る直前までキノコを採りたいらしい。 「ちょっ、なんで私が?」 鈴仙は霊夢の声がした方向を仰ぎ見た。 「今日の鈴仙は力仕事って聞いたわよ?魔理沙から」 相変わらず地面を向いたまま霊夢の声が返ってくる。 「あはは・・まぁ、そー言うことだ。頼んだぜ、鈴仙?」 頬を掻きながらちょっと気まずそうに魔理沙は鈴仙の肩を軽く叩く。 「・・はぁ、分かったわよ。」 意外と物分かりの良い鈴仙、なんか永遠亭での地位が窺える。 一方、博麗神社。 永琳は境内に座り優雅にお茶を飲んでいる。 お茶っぱと水と湯呑は自前のものを用意しているらしい。 その境内から少し離れた茂みに隠れるようにして、三妖精の姿がある。 「ちょっと、どーゆー事よ?誰も居ないんじゃなかったの!?」 サニーがルナに問い詰めるが、ルナは手を横に振り 「そんなの知らないわよ、居ないかも・・とは言った気がするけど」 と、そんな事を言う。 「で、実際どーするのよサニー?何か良い手は無いかしら?」 スターは考え込むような顔をしてサニーの方を見る。 「相手の素性が知れない以上、下手に動くのは得策じゃなさそうね」 ルナは慎重論を唱え始めた。 だが、サニーは 「何言ってんのよ、あんなのこっちの能力を使えばノープロブレムよ。 こっそり後ろに回って、バットで一発かませば楽勝よ。」 穏やかではないことを言う。 「作戦はこう、私は光を屈折させて姿を隠す、スターは目標の動向を注意深くサーチ、 ルナは・・はい」 と、バットをルナに渡すサニー。 「ちょっと、なんでそんな危険な事を私一人にやらせるのよ?」 ルナは文句を垂れるが、 「いや、だってほら、今の天候だとルナの能力使えないでしょ? もしかして何もしないで黙って後ろから見ているつもり?」 サニーは正論で返す。 確かに今日は快晴。ルナの「消音」は使えない。 ルナは、暫くの間逡巡したが、やがて諦めたのか 「わかったわよ、やるわよ、やればいいんでしょ。その代わり・・」 と、ルナはバットを受け取り 「何かあったら、全力でフォローしてよね」 さて、作戦開始。 ルナはバットを片手に茂みから出る。 サニーは茂みに隠れたまま、光を屈折させルナの姿を眩ませる。 スターもレーダー能力で目標を補足し始めた。 なるべく音を立てずに、境内にいる目標に近づくルナ。 目標までおよそ15m。 ここで、スターが口を開く。 「おかしいわね、私の眼に何も写らないんだけど・・」 はて?と首を傾げる。 その言葉が聞こえたのか、ルナは凄い勢いで後ろを振り返り 何やらゼスチャーを送ってくる。 スターの横にいるサニーは「GO!GO!」と境内に向かって指をさす。 「・・・・」 ここで迷っていても仕方が無い。 ルナは再度振り返り、境内に歩みを進める。 「ん?」 ここで永琳は何かに気づいたのか、ふっと目線を湯呑からルナへ向ける。 「・・・・」 ルナ硬直。 まさに、だるまさんがころんだ状態。 「・・・・」 続いて永琳は茂みの方を見る。 サニーとスターも硬直。 顔を茂みから出しているとはいえ、サニーの能力は全員に使用している。 見えるはずが無いのだ。 「・・・・」 永琳は地面に落ちていた小石を拾い上げ、茂みに向かって軽く投げた。 小石は緩い放物線を描き・・ 「いたっ!」 サニーの頭にコツンとヒットした。 途端、サニーの能力が解かれルナの姿が顕わになった。 永琳との距離は10mも無い。 ルナの顔は蒼白し、 「さ、サニー、スター、たすけ・・」 と言うのがやっとである。 ルナは助けを求めるように再び後ろを振り向くが、二人の姿は遙か彼方・・ 「に、逃げられた・・」 ルナは愕然とする。 「ねぇ。」 永琳は目の前にいる妖精に問いかける。 「・・き、きゃあぁあぁぁぁぁああぁぁあ〜〜〜〜!!」 耳を劈くような悲鳴が博麗神社にこだまする。 それは絶叫と言っても過言ではない。 ルナは持てる力の全てを出し、バタバタと翅を羽ばたかせ急上昇すると、 一目散に神社から飛び去って行った。 「・・何だったのかしら?」 永琳は首を傾げながら、ルナの去っていく後姿を仰ぎ見た。 程無くして、霊夢たちが神社に帰ってきた。 「あら、早かったわね?」 永琳が出迎える。 「ただいま。留守中に何も無かったかしら?」 霊夢が永琳に訊ねる。 何かあったような気もするが、とても瑣末な事だったので 永琳は手を横に振って答える。 「んじゃ先生、いきなりで悪いがコレを頼むぜ」 と言って、魔理沙は鈴仙の持ってきた大きめの籠を指さす。 永琳は若干疲れているように見える鈴仙に「お疲れ様」と一言だけ労い、 キノコの判別を始めた。 流石にその手のエキスパートと言うだけあって、作業はモノの数分で終了。 予想通りと言うべきか、霊夢が採ったキノコの大半は永琳が買い取る事になった。 霊夢は「これで良いお茶請けが買えるわ」とか何とか言っている。 時刻は夕方。 「さて、姫の食事の支度もあるし、そろそろ私はお暇させてもらうわ」 永琳は立ち上がり、帰り支度を始める。鈴仙もそれに倣い帰る準備を始めたが、 「あぁ、うどんげはここで食べてきてもいいわよ?」 と永琳は言う。 「ですが・・師匠」 永遠亭にてゐを留守番させているのが気になるのか、鈴仙は言いよどむ。 ただでさえ帰ったら何を言われるか分からない。 それを察した永琳は帰り際に 「あぁ、てゐには私がうまく誤魔化しておくから大丈夫よ」 と一言鈴仙に告げ、永遠亭へ飛び去って行った。 その言葉を聞いた鈴仙はどこかホッとしたような顔をしていた。 「んじゃ飯の準備をしようぜ。霊夢、台所借りるぜ。鈴仙は手伝ってくれ」 魔理沙が言う。 魔理沙と鈴仙が台所で食事の準備をしていた時、霊夢は居間でくつろいでいた。 すると「トントン・・」と玄関を叩く音がする。 「なにかしら、お客さんかしら?」 と、霊夢は玄関まで行き、戸を開け・・顔を引きつらせる。 「げっ、アリス」 「なによ、その『げっ』て」 アリスは腕を組み、ジト目でこちらを睨んでいる。 「いや、何でもないわ。それより何か用かしら?」 適当に誤魔化し、霊夢はアリスに用件を訊ねる。 「これ・・家の近くに生えてたのよ。せっかくだからあげるわ」 そう言ってアリスは霊夢にキノコを数本渡す。 「何?・・ってコレ松茸じゃない?貰っても良いの?」 アリスは頬を赤く染めて、 「べ、別に・・アンタの為に取ってきたわけじゃないんだからねっ!」 と叫ぶ。しかしよく見てみるとアリスの手は泥まみれだ。 「じゃあ、用はそれだけだから」 アリスは踵を返し立ち去ろうとする。 「あら、帰るの?折角だからウチでご飯食べていけば? 今、魔理沙がご飯を作っているんだけど・・」 その言葉を聞いたアリスは、ようやく仏頂面を解き、 「そう、それじゃ・・お邪魔するわね」 と言った。 「あれ、アリスじゃないか?」 魔理沙が台所から出てきた。 「魔理沙、アリスが松茸を持ってきてくれたわ」 霊夢はどこか嬉しそうに、魔理沙に松茸を渡す。 「マジか?今日の晩飯は豪勢になりそうだぜ」 それから約一時間・・ 魔理沙と鈴仙は料理に精を出し、霊夢とアリスは酒やつまみの準備、 箸や皿などの細かい事はアリスの上海人形がこなし、ようやく食事の準備が整った。 キノコと栗のご飯、ナメコの味噌汁、松茸の網焼き、デザートの柿。 秋の味覚が満載である。 「「「「いただきます」」」」 完全に日が西に落ち、夜の気配が漂い始めた幻想郷に四人の声が響き渡る。 今日の博麗神社も騒がしくなりそうだ。 (完) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ようやく書き終わりました。 なんか自己満足な気もしますが・・ せっかく書いたので、所々修正を加えてまとめたものを プチ東方創想話ミニにうpしようかと思います。 拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。 感想等ございましたら、下記ブログのメールフォームよりお願いします。 http://rutikakkonise.blog122.fc2.com/