前書き  どうも、作者名は書いてませんが短編一で解る人には解る者です。  今回はちょっとした短いネタを詰め込んでみました。  話の流れはそれなりに自分の傾向を出せたのではないかと思います。  それにしても、文×霊夢は切ない感じになりませんね。霊×早(早苗×霊夢も勿論可!)もなのですが……この二つはほのぼのします。  所で、自分の書くのは霊夢関係が多いですね。何故って、私霊夢好きなので。あと、動かしやすいのです。  とはいえ、“こあ霊夢”が“壊れいく”と聞こえる辺り、色々駄目そうです。  純愛が書きたいなあ……。甘いのも書いて見たいです。  そんな今日この頃、この作品が少しでも呼んでくれたあなたの心を潤す事を願いつつ。  あ、苦手なカップリングの場合は飛ばしてください。ちなみに私はどんなカップリングも堪能できる雑食派です。  見てくれた方の反応や感想はありがたいものですね。やる気が出ます。 ◆■◆ 《お品書き》〜ノット○○シリーズ〜  一:悪魔の誘惑外伝〜小悪魔の戯言編〜 小悪魔×霊夢  二:一番傍にいる人は 藍←紫×幽々子→妖夢  三:永遠に思う 紫×霊夢  四:冷えきった冬にそれでも春は来る レティ×リリー       ◆■◆ ※小悪魔は悪魔らしいです。小悪魔×霊夢。ノット清純。ダメな方は飛ばしてください  愛に見返りはいらないと言いますが、一体どこまで無欲に愛せるのでしょうか? 愛を求めない永遠の愛、それは恐ろしいのかもしれ ませんね――  これは悪魔の誘惑に登場する小悪魔の補足です。皆さんの心に描かれる小悪魔を否定するものでは決してありません。パチェ×こあ等 他のカップリングもいいよね   悪魔の誘惑外伝 〜小悪魔の戯言編〜 「ねえ? 小悪魔は私にどうなって欲しいの?」  昼の博麗神社、料理の仕度をしながら博麗霊夢は問い掛ける。  ずっと疑問に思っていたその言葉。この目の前でせわしなく動き、普段ここで家事をしなれている霊夢よりも的確に動く赤髪の悪魔に 向かって。  誠心誠意、というと悪魔の誠心誠意なんて信じられない、と思われるかもしれないが、小悪魔は実に献身的に博麗神社の業務をこなし ていた。  しかし、この神社の主に問いかけられるとその動きを止め、ゆっくりと霊夢へと視線を向ける。  赤い燃え盛るような髪に血を連想させる赤い髪、蝙蝠の羽を二対パタパタと羽ばたかせる。髪から僅かに覗くとがった耳。小悪魔を知 る人全てがよく知る小悪魔の姿。 「……質問の意図を理解できかねます。どう、というのは?」 「私を、どうしたいの?」 「それでしたら、簡単です。愛しているのです」 「……愛したい、じゃなくて?」 「はい、愛しているのです」  淡々とした言葉。これは実に正確な言葉だった。愛されたいという要素を含まない、そう答えているのだから。  だとすると、それでは小悪魔の望みはなんだろう。  霊夢は少しの好奇心で言葉を続ける。 「でも、愛されたなら幸福なんでしょう?」 「ええ、ですがそれは所詮付属物です」 「……付属物、ね。わからないわ」 「でしょうね。その、愛されたら幸福というのは付加価値なんです。とてもとても大切な」 「大切だったら、それで良いんじゃないの?」 「私にとっては、あなたを愛している時点で既に満足なのです」 「?」 「霊夢さん、おっしゃいましたね? 独り善がりの愛だって。それは正解なのです、それは真実なのです」  小悪魔の顔が愉悦にゆがむ。口の端はにいっと持ち上げられ、やや俯いた瞳に赤い赤い髪がかかる。  霊夢はその小悪魔の笑みに冷たい瞳を返す。いつもの事だ。  そういう時は得てして熱っぽい小悪魔の演説を聞き流すしかない。霊夢はそう理解していた。 「悪魔というのは人間に似た形をしていて、赤い瞳をし、尖った歯に尖った耳を持つそうですよ」 「まんま、あんたのことね」 「さらに言うならば鋭い爪を持ち山羊のような角を生やし、蝙蝠のような羽や尻尾を持つのです」 「一部、あってるわね」 「実際、それは悪魔の概念の特徴というものである程度許容するのが悪魔といわれる外見なんですね」 「典型的なものね」 「ええ。ですが、それも仕方がないのですよ。東方に悪魔の概念は存在していないのですから。だから、一種のもの、つまりは西方のあ る宗教が強い影響力をもつんですね」 「で、それがどうしたのよ?」 「悪魔は誘惑によって人を堕落させるものです」 「……つまりは、堕落させたいのね?」 「本能では」 「やっぱり」  呆れた、というように背中をそらし、口を丸く開く。けれど、小悪魔はまるで心外とでも言うかのように憮然とした表情を浮かべてい た。 「違うんですよ。悪魔としての本質ですから。それは別のところにあるべきものです」 「なにが違うのよ?」 「人間が食事をするようなものです。それは刻み込まれた習性」 「となると、誘惑するんじゃない」 「私は小“悪魔”なのです。仕方のないことですね」 「……不純」 「純粋ですよ。悪魔は悪魔らしく、人を誘惑しその魂を束縛しようとする。それって愛なんですよ」 「違うわよ、愛って言うのは……もっと、おおらかなものでしょ?」 「それは人それぞれですね。私でなくても、愛しながらも束縛をしようとしたり、逆に放任主義を貫いたり、愛しているから殺す例はた くさんありますよ」  これは詭弁。 「それは、まあ……」 「思い込んでしまったり、隠れて監視したり。悪魔よりもよっぽど悪魔らしいじゃないですか」  ころころ、小悪魔の咽が鈴のように鳴り響く。小悪魔は実におかしそうに口元を押さえ、笑っていた。今度は霊夢が憮然とする番だっ た。 「あなた達が誘惑してるんでしょう?」 「かも、しれません。でも、違うかもしれません。真実なんて、当人の心にしか存在しないんですよ」 「あなたの心にはあなたの真実があると? それはそうと、そろそろ火を止めたほうが良いんじゃない?」 「これはこれは……」  ぐつぐつと煮立つ鍋。霊夢に指摘されて慌てたように火を止める。  そのままお玉で中の味噌汁を掬い、口に含む。温かく、出汁の聞いた美味しい味噌汁だった。 「私はですね、霊夢さん? 小悪魔なんです。悪魔の何かもわかっていないでしょう? だから、逆にいえば悪魔全ての概念を含んでい るんです。ただ、それは詰め込みすぎたためか個性がないですけれど」  御椀を二つ取り出し、味噌汁を注いでいく。 「だから? 悪魔だから、私をどうしたいって言うのよ?」 「つまり、愛したいんです。私なりの、私の全てで持って。悪魔は誘惑するとともにこの世に類を見ない快楽を与えるんですよ。その報 酬に魂をいただくんです」  一つは自分の前に、もう一つは霊夢の前に置く。 「ね? 矛盾はないでしょう?」  それは契約の意味。小悪魔が愛することを許可してもらう。そうすれば小悪魔は全力でもって人間へと堕落させるための誘惑をする。 そして、その報酬に心の一角をいただき、そこに住み着く。  小悪魔にとっては自然な流れ。それが人間の霊夢には理解できない。愛することに愛が返ってくると考えているから。 「堕落をさせるほどの快楽と愛をあなたに差し出す、それが愛し方。でも、堕落はして欲しくない。だって、それは契約違反ですから」  小悪魔はまるで夢見る少女のように胸の前で腕を組み、語る。 「変わらずに私の贈り物を処理できるあなたが欲しいんです。だから、そのバランスを競うんです。このドキドキ感、並みの人間では味 わえません」 「私は、堕落しないわ。博麗として」 「ええ、そうでしょうとも。だから、愛しているということは霊夢さんが変わっていないということ」 「だから、愛していられるだけで満足なのね?」 「その通りです」 「でも、もっと欲しくなるわ」 「はい。そして十分にいただいています。私がもっと愛することを、それに霊夢さんが向きあい、受け止め、見つめてくれることを」 「満足できないくせに」 「永遠に満足なんて出来ません。だから永遠に愛しつづけ、求めつづけるのです」 「答えなくなったらどんなことになるかしら」 「きっと、終わりですね」  さあ、どうぞと小悪魔は味噌汁を勧める。  お櫃を持ってきて、お茶碗にお米をよそいながら。  ずずっ……と音をたて、咽を鳴らす。  自然と霊夢の顔がゆがんだ。 「――ああ、いい忘れてましたが……私小悪魔ですから。悪戯も大好物なんですよ?」  にやっと笑う小悪魔の手にはしっかりとお酢が握られていた。 ◆■◆ ※藍←紫×幽々子→妖夢です。ノット純愛。ダメな人は飛ばしてください  愛する事と傍にいる事。お互いに勝手に生きながらそれでも、少し手を伸ばせば手を繋げる距離感。それは愛と呼べるのか――  ゆかれいむ等他のカップリングも良いよね   一番傍にいる人は 「ねえ、紫?」 「なあに? 幽々子?」  白玉楼の客間、博麗神社などとは比べることすらおごがましい広さの客間の中央に二人は肩を寄せ合い座っていた。  二人の視線はそれぞれ違う方向を向き、視線は決して交わらない。 「そろそろ、眠るの?」 「そうねえ……もう少し先だけど」  静かな白玉楼。ただでさえ妖夢と二人でこの広大な館を賄っているのだ。少し探せばこのように静寂が支配しているところなどいくら でも存在する。  客間の襖はきちんと閉められ、外気も進入してこない。 「退屈ね」 「長く亡霊をやっているからでしょ」 「そうかもしれないわね」 「退屈と激務の境界を弄ってあげましょうか?」  つい、と紫が触れ合っていない肩につながる腕を動かす。  それだけで隙間が開き、暗い紫に浮かぶ無数の瞳が現れ二人を見つめてくる。 「ふふっ……無粋よぉ? 風情じゃないわ。それに、急ぐと色々見えなくなるわ」 「ええ、そうね。じゃあ、消してしまいましょうか」  ふっと指が揺れ隙間が消える。 「……消えた風情を補充しましょうか」  そっと扇を地面に水平にし、その上に息を吹きかける。  蝶の描かれたその扇から息に流されるように薄紫の蝶々が部屋の中を満たしていく。  別にこの扇に意味があるわけではない。つまりは風情なのだ。 「随分と危険な風情ね? 触れると天国まで導かれてしまうわ」 「あら? 紫、あなた天国に行けるつもりなの?」 「そうね。でも、地獄が見てみたいわ。妖怪が行けるのなら、ね」 「いけると思うわ。誘ってあげましょうか?」 「遠慮しておきますわ」  二人して、笑いあう。お互いの顔は見ない。髪と髪が少し絡み合うだけだ。 「それにしても、万が一妖夢に見つかったら面倒ね」 「怒られるの?」 「ええ。『幽々子さま! 不用意に力をお使いにならないでください』って」 「妖夢らしいわ」 「でしょう? しかも頬を膨らませて、一生懸命で可愛いのよ」 「あら! それを言ったら家の藍だって可愛いわ」 「そうなの?」 「いつもいつも誠心誠意尽くしてくれますわ」 「式神じゃない」 「そうね。だから、可愛いのよ」 「愛しているの?」 「愛しているわ。幽々子こそ」 「ええ、妖夢を愛しているわ」  二人の思い人。己の従者への思い。それを告げながら、そっと二人の指が触れ合う。  小指が触れ、絡み合う。二人は同時に手を動かし、指を絡めあう。離さないように、すぐ解けるように。  視線は合わさない。お互いの顔を見つめない。肩が触れ、指が絡み合うそんな距離。  二人は同じように手を動かし、手の平を重ねあう。温もりが交わり繋がりが生まれる。  何時の間にか蝶々は消え、部屋には二人だけ。静寂のみが支配する空間に戻る。  どれだけこうしていたのだろう。きっと、たいした時間ではない、と思う。  外から声が聞こえてくるのだ。 「……子様〜? どちらに……でですか?」  その声に、指が解かれ、二人は離れる。  名残惜しいように指先をくっつけ、しかし、自然と離れていく。  幽々子は微笑み、声のしたほうの襖へと歩いていく。 「ごめんなさいね? 妖夢が呼んでいるわ」 「ええ、わかっているわ。私も、そろそろ藍に会いたいわ」 「じゃあ、行くわね」 「ええ、行ってきますわ」  幽々子が襖を開け、紫が隙間へと身を滑らせる。  もう部屋には誰もいない。ほんの少しの逢瀬。  ――ずっと、傍にいるわ。  聞こえるはずのない声が、部屋の中に響く――。 ◆■◆ ※紫×霊夢。正確に言うと紫→←霊夢。死亡ネタ有り。ノット成立。駄目な人は飛ばしてください。  思いは大きくても、成就するとは限りません。けれど、それでも思い続けるのは罪ですか――?  ゆゆ×ゆかなど、他のカップリングもいいよね         永遠に想う          「霊夢、愛しているわ」  何度も何度も耳にした台詞。それこそ出会ってからこの現在に至るまで、八雲紫はこの言葉を伝え続けていた。  神社の縁側、冬の冷たい空気の中、微かに地上を暖めてくれている太陽の光をさえぎるように紫は霊夢の目の前に浮かんでいた。  はあ、とため息一つ。霊夢は三白眼を目の前の遮蔽物へと向け睨む。   「あのねえ、紫? 折角の僅かに大地を照らすお天道様の恵みがあんたのせいで届かないんだけど?」 「些事よ。この身を焦がす永遠の焔の前にはそのような事、路傍の石以下なの」 「私にとってはそれが一番なのよ」 「必要なら私が照らしてあげるわ」  傘が影を作る。霊夢はお茶が温くなるじゃない、と立ち上がり場所を変える。すぐ傍。開いたその場所、霊夢の温もり残るそこに紫は 嬉々として腰掛けた。  そっとお茶が差し出される。湯飲みは二つ。僅かに湯気の立つそれを差し出すのは霊夢。   「ありがたいわね。なんというか……霊夢の優しさにゆかりん泣いちゃいそう」 「思う存分泣きなさい。そして干からびてしまえ」 「干からびたらきっと乙女の瞳から零れ落ちる雫が蘇らせてくれますわ」 「乙女って、誰の事よ」 「勿論、霊夢の事なの」 「冗談」  傘をたたみ、隙間の中へ。両手で温かいお茶を確かめるように握り締め、口へと近づける。  温もりが鼻腔をくすぐり、湿気が唇を潤していく。  霊夢はお茶に拘りのある方ではある。もっとも、どこどこの何茶などと言うブランドを追い求める物などではない。  では、なにか?  答えは一つ。暖かさだ。  温もりの無い、冷めたお茶ほど悲惨な物は無いと思う。いや、決してキーンと冷えた麦茶などを否定する物ではない。  しかし、急須に注いだお湯で巻き上がり広がるお茶の味は暖かいほうが良いに決まっている。  だから霊夢はお茶が冷めないように細心の注意を払う。   「冷めないうちにさっさと飲んじゃいなさいよ」 「わかってるわよ。頂くわ」  急かされるままにお茶が喉へと流れ込んでくる。温かい温もりが喉に広がっていく。けれど、足りない。   「足りないわ」 「おかわり?」 「いいえ、この程度の熱では私の思いを超えられないの」  真面目な顔で、これでは超えられない、とはっきりと言い切る。  そんな紫には慣れているのか霊夢は苦笑するのみで。   「なら、いらないわね」 「いいえ、勿論頂くわ」 「霊夢? 霊夢?」  のんびりとした空間、身動きをしない霊夢に心配になった紫が声をかける。   「なによ?」 「ああ、心配したわ。眠っているのなら襲おうと思ったのだけど」 「あのね……妖怪を前にして巫女が眠れるわけ無いでしょう?」 「構わないわ。貴女なら眠っていても妖怪退治をできるの」 「……ねえ? どうして私にそこまで構うの?」 「どうして? 愛しているからよ」 「妖怪の癖に」 「天敵を愛してはならないなんて常識は無いわ。外では敵同士の密かな愛が人気なの」 「……また勝手に外に行ったのね!?」 「あら? 怒った?」 「そこに座りなさい! お仕置きしてあげるわ!」 「ふふ、そんな怒った霊夢も、素敵ね」  ふわり、ふわり。  空に浮かぶ。  傘を差し、優雅に隙間の空間に腰をかけ。視界いっぱいに広がる博麗神社。博麗の巫女。  人間に永遠なんて物は無く、妖怪にとっては一瞬で代替わりをするだろう。  博麗、幻想郷の結界を維持する者。   「ねえ? 霊夢は私の事をどう思っているの?」 「私? 別に……好きだってだけよ」 「なら……両思いね」 「でも、きっと交わらないわ」 「……そうね」  八雲紫は幻想郷の賢者である。そして、幻想郷有数の大妖怪である。  博麗霊夢は博麗の巫女である。幻想郷唯一の博麗である。    あれから幾月年。  博麗の巫女は代替わりをした。  もう霊夢はいない。未練も無い、とさっさと閻魔様に裁かれに行ってしまった。  彼岸の渡し守である小町は確かに未練はなさそうだったね、と証言する。      神社を眺めおろせる空。八雲紫はただ一人、佇んでいた。  周囲には魑魅魍魎の臭い。  今代の巫女はまったく霊夢に似ていない。  力も弱い。その分修練は人一倍行っているが、しかし。  霊夢はきっと特別だったのだ。あの危機感の無い笑顔、戦いの中で成長する天才。  それはもう存在しない。手の平から零れ落ちてしまった。    魑魅魍魎の類は無謀にも神社を襲撃しようとしている。博麗の巫女の存在が、強さが薄れたからかもしれない。  幻想郷のパワーバランスが妖怪に大きく傾いたのだ。だから、知性の乏しい妖怪が面白半分に巫女を襲撃しようとする。  それは、まかりなら無い。幻想郷のために。  紫は地面に降り立った。     「なんだぁぁぁぁぁ? おまえばぁぁぁぁぁ」  目の前の圧倒的な存在すら理解できない低級。しかし、今の巫女は今のままではこの有象無象の雑魚に食い殺される。  それは許せぬ所業。   「八雲紫。博麗の巫女を守る……隙間妖怪よ」 「でめぇぇぇぇぇぇ!?」 「……貴方達、臭いの。消毒するわ。……弾幕結界」  圧倒的な火力。瞬く間に魑魅魍魎は吹き飛び、辺りから魔の気配が消える。      もう八雲紫には今の博麗の巫女になんの思い入れも無い。必要な事、幻想郷の結界の維持のみを頑張ってくれればいい。    それでも、八雲紫は博麗の巫女が大好きだった。霊夢の残した、紫とではない子孫。博麗を続けるための、子供。    杯に酒を注ぎ、月を映す。    微笑み、そこにいない誰かに何かをつぶやいて、一気に飲み干した。   「安心しなさい、霊夢……あなたの残した一族は生き残るわ。……だってあなたの唯一の欠片だもの」  もう博麗神社の周囲には妖怪は一匹もいなかった。ただ、あるのは開いた隙間のみで。     「ねえ? 紫、これ貰ってくれない?」 「これはなに? 湯飲み?」 「私がずっと愛用していた物よ……これくらいしか、ずっと傍にあったもので紫に渡せる物が無いのよ」 「そんなもの……」 「お願い」 「……わかったわ」  マヨヒガの紫の部屋。そこには使い古された湯飲みと、小さな写真が大切そうに飾ってあった。       ◆■◆ ※レティ×リリー 前にレスしたちょこっとネタを掘り下げて見ました。故にレティ→リリー。ノット両思い。駄目な人はスルー推奨  見ているだけで十分な思い、傍にいられなくても、声が届かなくても見つめていられる幸せ――  レティチルも良いよね         冷えきった冬にそれでも春は来る           例えば、世界が変わらず永遠に続けば良いのに、等と言う事は思春期の少年少女が懸想することだろう。  然し、現実として世界は移り変わる物で、永遠に続く物なんてほとんど存在しえないのだ。  蓬莱の薬など禁忌の秘薬を使用しない限り、世界は回り続ける。終わる時まで、ずっと。    冬の妖怪であるレティ・ホワイトロックは冬に存在する。正確に言うと冬でなくては全力を出せないし、冬が心地良いから冬を生活圏 としているだけなのだが。とはいえ、その理由は大して重要ではない。つまりはレティは冬以外の季節には外に居ない、この一点のみが 重要なのだ。  冬は冷たくて気持ちがいい。レティはそう考えていた。春の温もりは知らない、冬の冷たさが心地良いから。夏の大地を暑く照らし出 す熱気も知らない、冬の骨まで凍えるような寒気が好きだから。秋の稔り、色づく山々や物悲しい空気も知らない、冬の白に染まった山 々に皆が眠りにつく静寂の空気が愛しいから。      そんなレティが春に出会ったのは冬が平年よりも長く長く続いた時の事。思いもがけない幸運にはしゃぎまわり、寒気の厚い氷に包ま れるような眠りを皆に届けて回っていた時の事だ。  レティにしてみればそれは幸運以外の何者でもなく、実に祝福された時間だった。  自分の力がずっと使い続けられるのだから、外で活動できるのだから。    けれど、そんな思いもすぐに打ち砕かれる。春を集めている人間三人。彼女達が現れたからだ。    一人は紅白。実に目出度い格好で春を集め風上へと進んでいった。特に防寒具はしていない。寒くは無いのだろうか?  一人は黒白。寒い寒いと言いながら春を集め紅白を追いかけるように飛んでいった。今度はさすがに寒いみたいだ。当然。  一人はメイド。黒幕を探していたので冬の妖怪がお相手してあげた。冷静な攻撃で春を集め、めんどくさそうに二人を追いかけた。    きっと、私の季節、眠りの季節である冬は終わりを告げるのだろう。あの三人は春を訪れさせるために動いている。  別にどうでもいいのだけれど、なんとなく折角のロングラン公演中の冬なのだ。そう簡単に終わらせられるのは、勿体無い。  勿論、レティにだって判っている。季節はきちんと巡り、回っていかなければいけない事くらい。  とはいえ、それとこれは別問題。  お気に入りの物が終わるとなればその末路まで見届けてみたいじゃない。  そんな軽い気持ちで追いかけていったのだ。    途中何度も見失ったが、ようやく雲の上で見つけることが出来た。きっと変なところに迷い込んだりしたのだろう。人間の癖によく帰 って来れた物だ。  そう思い眺めていると、不意に視界が開け暗雲とした雲が消える。温かさの流れる空気。  三人の目の前には一人の妖精が佇んでいた。    途端に、胸に暖かいものが訪れる。    妖怪に比べて力のない妖精、特に彼女は背も小さく、小柄。子供と言って差し支えは無い。いや、むしろ大人と言うほうが無理がある。  背中には薄い羽が何枚も重ねられて存在し可愛らしく羽ばたいている。  周囲には桜の花びらが舞い踊り淡く輝き、光を放っていた。  その光は人間が集めていた物で、つまりは春の欠片なのだ。    とたんにレティは理解をした。  彼女が春を告げるものなのだと。  そうでなければ周囲に春をまとって現れるはずもないし、人間に誘われるように現れるはずも無い。  妖精とは自然なのだ。つまり、彼女は春という自然を司っているのだと。    唐突な閃き、然しそれは圧倒的な説得力を持って心を締め付ける。    彼女は笑う。人間と弾幕で争いながら。それは闘争が楽しいと言う笑みなんかでは勿論無い。    そもそも、妖精が妖怪をなぎ倒して進む人間に勝てようはずも無いのだ。    それでも、笑う。人間の持つ春を見つめ、自分の周囲に集まる春を躍らせて。    詰まる所そうなれば結論は唯一つしかないのだ。   「冬が終わる……春が来るから、笑うのね?」  それはとてもとても自然な季節の移り変わり。何人たりとも犯すべきではない自然の輪廻。    人間に撃墜されて地面に落ちていく彼女はそれでも満面の笑顔を浮かべ春を告げるのだ。  両手を広げ、眠り続ける大地に目覚めの温もりを与えるために。    ふっ、っと笑みがこぼれる。彼女は春がとても大好きなんだと感じられるから。    だって、考えても見て欲しい。それはレティ・ホワイトロックが冬を愛するのときっと同じなのだ。    そこには季節の種類の差異しか存在しない、非常に近しい物。    そんな親近感。暖かい思い。      思えば、レティが彼女に出会っていないのには理由がある。冬の終わりになれば冬の力も弱まり活動をほぼ止めているからだ。  春の訪れまでは存在しない、だから出会えなかった。  けれど、そんな交わるはずも無い関係が交わったのだ。  誰かは知らないが、人間が懲らしめに行った存在に感謝しよう。  冬が遅れ、春が訪れるのが遅れたために彼女に出会えたのだから。    レティは冬にしか活動しない。    彼女は春にしか活動しない。    だから、傍には居られないし抱きしめあうなんて以ての外だ。    けれど、レティが無理して冬の終わりギリギリまで起きていれば見ることは出来る。    レティの大好きな彼女が春の訪れをつげに来るのを。    楽しそうに笑い、春が来るのを全身で喜ぶ。    それを見つめながら眠りにつくのだ。       ◆■◆