※文×霊夢←魔理沙の続きのようなそうでないような  会話文いつもより大目  いつもより文章少な目  結論、ラブラブっていいよね  冬の幻想郷。沈み込むような色合いの雲に覆われた空。  射名丸文は今日もカメラを片手に幻想郷を飛行していた。 「はあ、全く……神奈子さんには自重して欲しいですね。朝まで宴会とか……受ける大天狗様もなんですが」  普段よりも重たい気分で、瞳にかかる前髪をつまむ。  何分急だった。  おかげでまともに用意も出来ずに宴会に出席する羽目になった。  報道系は暇だろう、飲むぞ。それが大天狗から下された命令。  無論、文に断れようはずもない。 (はあ……別に飲むことくらい良いんですが……お陰で寝不足ですよ……)  ふぁ……と唇が開き、あくびをもらす。  いけないいけない、こんな無様な真似は今日はダメだ。  少なくとも退屈そうに見える、そんな行為はしてはならない。 (お酒臭くないですかね? ああ、もう少し時間が有れば綺麗に着飾れたんですが)  腕を持ち上げ、鼻を鳴らす。匂いはしない。 (大丈夫、ですね……)  ほっと胸をなでおろし、正面を向く。  今日は雨が降るかもしれない。 (まあ……そうなったら家で過ごせばいいのですが)     霊夢×文SS「雨の日のちょっとした出来事〜浮気疑惑編〜」   「うーん……」  幻想郷の素敵な巫女さんこと博麗霊夢は巫女服の袖を持ちくるりと姿身の前で自分の姿を眺めていた。  普段と変わらない衣装、様子。しかしそれが落ち着かないとでも言うかのように腕を組んで首をかしげる。 「別に、いいんだけど……」  それでも、と思う。  せめておかしな所は無くしておきたかった。 「こんにちは、霊夢さん」  そんな霊夢に後ろから声がかかる。  よく聞いた声。なれた気配。ただ、少しの違和感。 「……いらっしゃい、文」  ほんの少しの疑問を心に押し込めて、霊夢は最高の笑顔で恋人を迎えるのだった。 ◆■◆  少し急いだのか、息を切らしている文。そんな文に座るように勧め、甲斐甲斐しくお茶を用意する。  特に決めたわけでもないが、お茶を出すのはいつも霊夢だった。  もともと霊夢はお茶が好きで、それに文が付き合う形だった。  だから、というわけではないけれど。霊夢が用意したお茶を飲み「美味しいです」そう囁き照れる霊夢を見つめるのがいつもの光景だった。  今日もその光景が繰り広げられるはずだった。 「ああ、相変わらず美味しいですね。霊夢さんの入れてくれたお茶は」  とびっきりの笑顔で心から言う文。しかし、それに対する返事はすぐに帰ってはこなかった。 「……? どうかしました?」 「……ねえ? さっきから気になってることがあるの」 「なにか? なんでもお答えしますが」 「文の匂いがおかしい気がするのよね」  え、とその言葉で文は固まる。  そもそも、匂いは消してきている。  お酒の匂いだって、それ以外の匂いだって。  何より天狗の私が気づかないのに人間の霊夢さんが気づくなんて、と。 「あら? やっぱり図星だった?」 「……え? やっぱりって……」 「確証はなかったんだけど、私じゃない匂いがするなって」 「え、あ……うっ」 「ちょっと動かないで」  冷や汗だらだら。必死で目の前の恋人に言い訳をしようとする文の言葉をさえぎる。  その言葉には魔力が込められているかのように、文の身体は動きを止める。  よく考えさえすれば、ただの宴会なのだ。焦って戸惑う必要なんてどこにも存在しない。  けれど、こういうとき正常な判断が出来るほうが珍しい。  文は判断が出来ないほうだった。 「ええと、ここ、ね」  霊夢の手が伸びる。文の服、胸ポケット。  何も入っていないはずのそこに手がのび、触れる。  霊夢の熱が伝わり、自然と赤く肌が染まる。  ポケットの中にもぐりこんだ霊夢の指は、何かの書かれた紙を見つけ出していた。 「え?」  先ほどからまともな言葉を話せていない文は、しかし今回こそは言葉そのものを失ってしまった。  何もないはずなのに。言葉にならない思いが全身を駆け巡る。  何で、どうして? グルグルと頭が回り、思考がまとまらない。 「なになに? 『今日は楽しかったよ。また私の家でに遊びましょうね 諏訪子』」 「は、はいいいいいい!?」  霊夢はその紙を見つめ、わざとらしく声を大きく出して読み上げた。  冷たい霊夢の視線が突き刺さる。まさしく肌に刺される思いだ。自然と体が動き、正座をして。  脂汗が流れ、顔色が悪くなる。  外から見れば完璧に浮気をした夫を問い詰める妻の構図だった。 ◆■◆ 「さて……答えてもらいましょうか?」  目の前に立ち、冷たく見下ろす霊夢。項垂れ、顔を見ることも出来ない文。 「こ、答えるも何も……む、無実、無実です! 濡れ衣です!」  状況は最悪。とはいえ、このまま頷くことだけは出来なかった。最後の抵抗にと必死で声を上げ、無実を、潔白を叫ぶ。 「まったく……取材をしている文でいて欲しいからって許すんじゃなかったわ。外に第二の妻を作ってくるなんて……ううっ」  そっと眼を押さえ、顔をそむける。  文は心が張り裂けそうになりながらも、声を荒げ。 「ち、違います、違います! 私が愛しているのは、霊夢さんだけですよっ!」  崩れ落ち、眼を伏せる霊夢。 「本当?」 「もちろんです!」 「じゃあ、何で諏訪子の匂いをつけてるの?」 「そ、それは、妖怪の山の宴会です! 山の神社も参加してましたから!」 「だったら、何で諏訪子だけなの?」 「ええと、あの人、酔うと絡んでくるんですよ! 抱きついたりするので、それで!」 「抱きつかれたの?」 「ええと、そう……ですが、でも! それだけで、それ以上やましい事は何も」 「……」 「あ、あの、霊夢さん?」  必死の弁明。しかし、霊夢はそれを受けて口を閉ざす。  肩が小刻みに震え、顔がより俯いて見えなくなり。 「あ、あの……」 「ぷっ……あははははははははは!」 「……はい?」  笑い出す霊夢。  全くついていけずに呆然と霊夢を見つめる文。 「あはは……わかってるって。ちょっとからかって見ただけよ」 「はいいい!!??」 「流石に文に浮気するつもりがないって事くらいわかってるわよ。それとも、疑ってるって思った?」  平然と説明する霊夢に怒ったような、恥ずかしいようなまぜこぜの感情を抱きながら文は見つめ。 「い、いえ……そういうわけでは」 「嬉しかったわよ。随分思われてるなあって思ったしね」  本当に嬉しそうに微笑む。全く邪気のない笑顔。  そんな笑顔を見ては何も言うことも出来ず、少し憮然としながら。 「は、はあ……」 「ああ、答えがまだだったわね。愛しているわ、文。幻想郷のどこで叫んでもいいくらいに」  しれっとした告白。全く気負いもなく、恥ずかしさもなく。  思いを告げる声。愛しさにあふれ、ただまっすぐに見つめてくる視線。  ああ、これが愛しいと思ったのだ。そう文は再確認をしていた。  からかわれたのには納得いかないまでも。 「でも、一つだけ許せないことがあるわね」 「え? なんでしょう?」 「諏訪子が抱きついて、匂いをつけたってことよ」 「そ、それは……すいません」 「文、来て」  手を開き、誘いの言葉を継げる霊夢。  文は逆らうことも出来ずにふらふらと傍へと近寄り。  背中に回される霊夢の腕。痛いほどにきつく抱きしめられ、全身が密着し。 「あ、あの!?」 「ダメよ。しっかり抱きしめて私の匂いを染み込ませるんだから」 「で、でも、こうしているとですね。なんといいますか、のっぴきならないことに!」 「? ああ……いいわよ? しっかり全身に匂いをつけるんだから」 「そ、それは嬉しいんですが!」 「刻み込んであげる。私の思いを、匂いが消えないくらいに強く強く」 「ふあっ! や、霊夢さん……」 「愛しているわ……文」 「私も、愛しています……霊夢さん」  外はざあざあと降り注ぐ雨。  けれど神社の客間ではそんなことはお構いなしに愛が交わされる。  そんな雨の日の過ごし方。 《おまけ》  この事件の後、守矢神社は半壊した。  紅白の鬼の襲撃は止められるものではなかった。  想像以上に頭にきていたようである。 《おまけ2》  この日、取材を出来なかった文は文々。新聞を発行できず、仲間天狗との新聞記事の勝負は負けたそうだ。  しかし、そんな文の顔はとても嬉しそうに緩んでいたという。  ―――――――――――――――終われ―――――――――――――――