※注意  幻想郷は出てきません。  幻想郷のキャラが外に出るのがお嫌いな人はスルーしたほうがいいです。  作者にファッションセンスはありません。似合わないと怒らないでください、すいません。  早苗に独自解釈が強いです。  早苗×霊夢です。  以上が大丈夫な方は先にお進みください。そしてこの発想を生んでくれた方に最大限の感謝を     「もう、おかずは作りませんッ!」  力強い、余りに力強い結論。  東風谷早苗は天に地に、生きとし生ける全てに語りかけるように叫びだした。  力強く踏み出した脚は石段を確実に捉え、赤く染まるほどに強く握り締められたこぶしは天高く突き上げられている。まさに決意の瞬間、というべき姿。  古今東西古の神話に現れ出でる英雄であるかのように決意にあふれる姿はかのアーサー王にだって負けはしないだろう。 「作らなくっていいんですねッ!」  再びの咆哮。  偉大なる指導者のように己の幸運に酔っている早苗を、博麗霊夢は路傍の石を見るかの様な無感動さで見つめていた。 「虚しい誓いよね」  酷く冷めた、無機物に話し掛けるような声色。  一人幸運と感動の拍手に包まれ全身で悦びを爆発させる早苗と比べるとさらに冷たく響く。 「霊夢っ! 何でそんなに暗いんですかッ!?」  やたらとハイテンションな早苗はくるりと振り向き、軽やかな動きで霊夢の目の前へと滑り込む。  実に奇怪だった。 「そりゃ、そうでしょう。笑い話にもならないわ」 「ダメですね。そういうときでも、笑いましょう!」 「無理よ……だって、ここ……」  肺に溜まった空気の全てを吐き出すようなため息一つ。 「外の世界じゃない」   早苗×霊夢SS「大結界の悪戯?」  立ち並ぶコンクリートで出来た、人の住む木々。  灰色に染まった世界、大地は舗装されあまたの人間がせわしなく歩いている。  鉄の塊が人を乗せ、疾走し消えてゆく。  あたりにはにぎやかな音が響き渡り、外壁にはイルミネーション。  幻想郷に存在しえないそれらはまさしくここが外の世界であることを如実に物語っていた。   「はあ、なんでこうなるのよ」 「良いじゃないですか。たまには里帰りしたいですし」 「私は拉致されたのよ」 「一緒が嫌、ですか?」 「誰もそんなこと言ってないでしょ」  悲しそうに瞳を伏せた早苗の頭をゆっくりと撫でる。  周囲は幻想郷とは違う重たい空気、くすんだ色使いの世界。   「まあ、私も油断していたわ。結界の修復で躓くなんて」    こうなったのも一時間前、博麗大結界が弱まっているのを感じ修理に出かけたことから始まる。  この時たまたま外の世界のことを話そうと朝も早くから博麗神社にお邪魔していた早苗も付いてくることになった。  そうしてたどり着いた場所。  確かに弱まっているのは感じたが、簡単な処置で持ち直すだろうと思われ早速処置に入った。  ところが、その処置をしている途中にあろうことか博麗霊夢は躓いてしまったのだ。  小石に躓き顔から地面に倒れこむ霊夢。  これは一大事と慌てて涙を浮かべながら霊夢に駆け寄る早苗。  傍にしゃがみこみ抱き上げ傷を確認した時には全てが終わっていた。  霊夢の処置は術者がこけてしまっても続行される完璧な物だったのだ。  お陰で二人は見知らぬ外の世界に放り出されてしまった、ということである。            場所は戻る。 「とはいえ、どうしたものかしら?」  困ったように周囲を窺う。霊夢にとってまったくの未知の世界だった。   「とりあえず、空は飛ばないほうが良いです。目立ちますから。それと、此方では物々交換とか出来ませんから、お金ですね」 「ええ? 歩くの? めんどくさいわね」 「幸い、幻想郷に移る時に記念にと貯金を下ろしていました。それをお見せしようと持ってきてますのである程度は持ちます」  早苗はそういうと袖から黒い財布を取り出した。横に長い長方形、やや厚みのあるそれを誇らしげに掲げ。  霊夢はあまりの幸運に思わず拍手喝采。   「あとは服ですか。巫女服を外で着て歩く人はあまりいませんから」 「そうなの? 普通に普段着なんだけれど」 「だ・め・で・す! 極力切り詰めていかないといけません。すぐに戻れるとは限らないんですから」  威圧感たっぷりの言葉。家計において財布の紐を握ってるほうが強い。  まさに今その典型的な状況だった。  思わず霊夢は肩をすくめ、小さくなる。   「とりあえず、移動しましょう。霊夢、いいですよね?」 「はい……」  霊夢にはうなづくしか出来なかった。     ◆■◆  予算と相談している早苗の一歩後ろを霊夢はとぼとぼとついて歩いていた。  早苗は迷いの無い歩調でどんどんと人ごみを進んでいく。  霊夢にはついていくのがやっとだった。   (まったく……なんで皆こっちをみて驚くのかしら?) (大体、写真撮ってもいいですか? って発音おかしい金髪の魔理沙見たいな奴等が近寄ってくるし) (よくわからない服着てるし、私は珍獣じゃないってのっ!)  霊夢のフラストレーションは堪りまくっていた。  何より、すこし心がざわつくのは幻想郷では頼ってきてくれた早苗が今は頼もしく引っ張っていってくれていることだ。  なんだか、自分の手を離れていってしまったようでイライラする。自分勝手な思い、けれどこの状況でそれを押さえ込むことは不可能に近かった。 (全く、早苗は早苗で、全く動じてないし……もう)  続く思考のループ、それを止めたのは前を行く早苗の声だった。 「このお店でいいと思います」 「え? 何のことよ」  全く訳のわからない霊夢はよくわからないと首をかしげ。  そんな動作に早苗は赤くなりながら、しかししっかりとしなくてはと背筋を伸ばし。 「服、です。流石にこのままと言う訳にはいかないでしょう? 目立ちますし」 「それは、そうね」 「ですから、ここで服を調えましょう」  そこは大きなデパートだった。  高層ビルなんていうものを見たことのない霊夢は「ふぁ〜おっきいわね〜」と言葉を漏らし、子供のように見上げた。 「ここに、あるの?」 「ええ。そんなに高いのは買えませんけれど、全財産を持ってきた自分に感謝ですね」 「全財産って、勿体無いわ」 「どうせ幻想郷では使えませんから、いいですよ」  そういうものかしら、と思いながらも折角の好意を受け取らないわけにもいかず、促されるままに中へと入る。 「どんな服がいいですかね〜。霊夢、上品な服とかどうですか?」 「上品って、ドレスとか?」 「そういうわけでもないですが……でも、どちらかというと活発なほうがいいですかね」 「そういうものなのかしら?」 「ええ。霊夢って、身長もそこそこですし、その……凛々しいじゃないですか? 顔つきも優しいというよりは、自信にあふれてますし」 「……外から見れば、そう見えるのね……」 「ええ、ですからこういうの、似合うと思うんです」  手にとるのははやりのミニ丈のライダースジャケット。  霊夢は巫女服や襦袢以外に縁がないためか、本当に似合うのか疑心暗鬼で見つめている。  というよりも、想像できない。あんな服を着ている自分自身を。 「それに、白メインのTシャツとか。ああっ、いい感じですよ〜!」    手を伸ばし、衣服を広げ霊夢の身体にあてがって。 「そ、そう?」 「そうですよ。凛々しいですし、いいと思うんですよね、こういうの」 「……なら、たまにはいいかな」 「ええ、是非是非着てみてください」 「そういう早苗はどうするのよ?」 「え、ええと、そうですね……」 「こういうのは、どう?」  そういって霊夢が手にとったのはルーズトップス。他にもミニワンピを手にとっている。  流行のよくわからない霊夢は勘で適当に、イメージで選び。 「なんとなく、早苗は柔らかい感じもあるし、こういうゆったりとした感じのほうがいいんじゃない?」 「そうですか? なんとなく、可愛らしすぎるかなって」 「だったら、似合うって事でしょ?」 「え? どういうことですか?」 「早苗は可愛いって言うことよ」 「そ、そんなっ! 可愛いだなんて」  こういうとき、幻想郷の人間でも話が弾むのは変わらないらしい。  いくつもの服を眺めながらあれやこれやと巫女服の二人は騒いで。 ◆■◆  それから二時間後。  デパートの更衣室の中で着替えて、外で待ち合わせということになった二人。   それからしばらくして、まずは霊夢が現れる。  霊夢の衣装は白のタンクトップ、上に黒のレザージャケット。  下はスキニーパンツに黒のブーツ。  開いた襟元にはワンポイントのシルバーのネックレス。  髪は普段よりも高い位置でくくり、うなじを強調するように。勿論、いつもの赤のリボンでだ。  大き目のショルダーバックを持ち、その中には巫女服。  入り口の柱にもたれかかるように早苗を待つ。  その少し後に、早苗。  早苗の衣装は黒のキャミソール、ゆったりとしたニットのワンピース。  脚はブラウンのブーツを履いて。  霊夢と同じように開いた襟元にはゴールドのネックレス。  髪形は変えずにいつものまま。少しふんわりとした感覚を強くして。  同じように巫女服を入れておくバックを持っている。 「ああ、霊夢、待たせちゃいましたか?」 「早苗? いいえ、ちょっと前に来たところよ」 「そうですか。それにしても、似合ってますね」 「ありがとう、早苗も可愛いわ」  笑いあう。  なんだかおかしかった。  今日の朝までは幻想郷。  しかし今では全く縁のない世界で服を買い揃え。  霊夢も最初の悩みも忘れたかのように微笑む。  ちょっとした旅行気分になっていた。  とはいえ、何よりも気を楽にさせるのは好奇の視線がなくなったからだ。 「それで、これからどうする? うまく幻想郷との境界を見つけられるといいんだけど」 「そうですね。動きやすくはなったと思いますが……折角ですし、遊びませんか?」 「……そんなに長く幻想郷はほおってはおけないわ」 「じゃあ、少し遊べるって言うことですね。じゃあ、いきましょう!」  早苗の手がのび、霊夢の腕を絡めとる。  恋人のように抱きつき、そのまま霊夢を引っ張っていくように。 「ちょ、ちょっと、そんなに引っ張らないでっ」 「ほらほら、時間は有限なんですから」 ◆■◆ 「そういえば、お腹空きませんか?」 「そうね。朝も食べてなかったわ」 「じゃあ、お昼にしましょう」 「それなら、お店とかになるの?」 「そうですね。でも、ちょっといいところがあるんです」 「?」 「ここですっ!」  自動に開く扉、デパートでも見たそれになれないながら中に入り。  中は狭く、しかし所狭しと並べられた売り物が並んでいる。 「ここは?」 「ここはコンビニです!」 「こんびにぃ?」  そういうと戸惑う霊夢を引っ張り、リードするように中へと向かう。  向かうはお弁当コーナー。  お昼時だから商品は随分と減っているが、それでもまだいくつかは残っていて。  ラップに包まれた食べ物、霊夢にとっては実に奇妙なもので、持ち上げてどうなっているのかいろんな角度から眺めていく。  一応、早苗に釘を刺されているので破いたりはしない。 「これ、食べれるの?」 「お金を払えば。お弁当を作って売ってるんですよ。味は……お店よりは、下かも知れませんが安いです」 「安いとはいいものよね。……焼肉弁当、のり弁当、はんばぁぐ弁当? よくわからない名前ね」  幾つものお弁当を手に困ったように頭を振る。 「とりあえず、早苗が適当に選んでくれる?」 「わかりました。じゃあ、霊夢は飲み物を」 「飲み物、ここね?」  ぱっと見て液体っぽいものの入った筒の並ぶ棚。  そのドアを開けて中に手を伸ばし。勿論目当ては緑茶。  しかしその手は触れた筒の余りの冷たさにあえなく撤退し。 「つめたっ! さ、早苗? これ、冷たいんだけど……」 「ああ、それ、冷やしてあるんですよ」 「そうなの? ……ははぁ、これね、れーぞーこっていうのは」 「まあ、はい」 「でも、もう怯まないわ。これと、これね」 「ではお会計に行きましょう」  早苗は霊夢が飲み物を二人分取ったのを見ると霊夢の手を握り、レジへと向かう。  勿論霊夢はわけもわからず引っ張られるまま、一言も発しない。 「お弁当、温めますか?」  店員が会計をしながらそう聞いてくる。  霊夢は再びわからないというように首をかしげ、早苗を子供のように見つめ。 「お願いします」 「かしこまりました」  チンッ♪  そうして二人はコンビニを後にし、さてどこで食べるかと少し悩んだ後で、早苗の一言により公園へとやってきた。  快晴の空の下、人々の行き交うのを眺めながらベンチに座って。 「ところで、さっきのなんだったの?」 「さっきの、ですか?」 「そうよ。あの、温めますかって言うの。てっきりロイヤルフレアとかそういうのが来るのかと思ったら、黒い箱に入れただけじゃない」 「ああ……では、お弁当をどうぞ」 「なによ。気になるじゃ……って、熱っ!?」 「ええ、あれが電子レンジでして、食べ物を温めるというですね……」 「へええ……つまりは、簡易焚き火という感じね。理解したわ」 「いえ、そうではないんですが……」  そんな会話をしながら食べたお弁当は大変美味しかった。 ◆■◆ 「あれは、なに? 小さい箱の中で人間が動いてるけれど」 「テレビですね。あれは映像を遠くの人に届けるものです」 「てれびねえ……ん? あっちはなんだか変な板をぺこぺこしてるけれど」 「ああ、あれはP○Pです。つまりはテレビゲームでして」 「てれび遊戯? 花札とか?」 「違いますよ。もっと面白いんです」 「ふうん、少し興味あるわね」 「じゃあ、やって見ます? 店頭のお試しでプレイできますけれど」 「勿論」  二人は大型ゲーム店の店頭ゲームをプレイ。  流石に平日、人が少ないのかあいていたそれ。  数人のキャラクターの中から一人を選び、格闘でけりをつけるもの。いわゆる格闘ゲーム。 「これ、対戦できますね」 「面白そうね。対戦、ということは二人で遊べるんでしょう? 早苗、やりましょうか」  笑顔で進めてくる霊夢に断るなんてできようはずもなく、早苗はコントローラーを手にとった。 「やりかたは……」 「……ふーん、大体、理解したわ。じゃあ、私はこの巫女でいくわ」 「では、私はこの剣士で」  やりかたはすぐに飲み込んだとはいえ、霊夢は素人。  意味もなく垂直ジャンプや小パンチを繰り返すばかり。  そんな霊夢にアドバイスをしながら、しかし確実にリーチの長い刀を命中させていく早苗。  勿論体力ゲージは霊夢がどんどんと減少し、倒れ伏す霊夢のキャラクター。  二戦目も同様。ようやく憶えた必殺技を無意味に連打するだけ。勿論早苗が勝利。 「あああっ!? 私の巫女が、地に……」 「ふっふふふっ……すいません、実は私これの前作やったことがあるんですよね〜♪」 「なっ!? ふ、不正ね!? 神に仕える巫女としてあるまじき所業!」 「いやですね。経験の差ですよ」 「もう一回勝負っ!」  ムキなって頬を膨らませ、必死に再戦を挑んでくる霊夢。  そんな子供のような霊夢がおかしくて、愛しくて。早苗は笑顔を浮かべ、頷くのだ。 「勿論、望むところですよ!」  ……少女格ゲー中。 「よしっ! 私の勝ちねっ!」  通算十戦目。ついに早苗の敗北という結果が訪れる。  その現実に呆然と画面を見詰める早苗。  驚いたのは霊夢は一戦一戦きちんとパターンを憶えてきているのだ。  キャンセルから敵を浮かせ、コンボを決める。  勘で思いつく攻撃ゆえに読みにくく、しかもきっちりとまるで初心者であることを匂わせない卓越した腕で体力を削るのだ。  なんと理不尽な。 「な、何でっ!? ついさっきやり方憶えたはずなのにっ!?」 「ふふん、このゲームは大体憶えた。といったところね。パターン作りは得意なのよ」 「そ、そんな理由でっ!? もう一戦っ!」 「返り討ちにしてあげるわ、早苗っ!」  再び少女ゲーム中。 ◆■◆ 「はあ、遊び倒しましたねぇ……」  なんとも迷惑千万なことに遊び倒して外に出るともう夕日も沈みかかっている時刻。  この時間となれば流石に寝る場所は確保しなくてはいけない、と早苗は霊夢に向き直り。 「寝るところ、どうしましょうか?」 「……そうね。……んっ?」  巫女の直感が働いたのか、霊夢は木陰を見つめ。 「どうかしましたか?」 「いいえ、でも寝床には心配しなくていいわ」 「え? どういうことです?」 「そろそろ、迷惑な妖怪の時間なのよ。せめて、それらしいところに移動しましょうか」  そういって、霊夢は早苗の手をとり駆け出す。  薄暗い道へ、草木の生い茂る小さな森へ。  夕日は完全に沈みきり、あたりには静寂の夜が訪れる。 「さて……早苗、下がってなさい」 「はい……」  そんな霊夢の行動は早苗に予感させる。この小さな旅行の終わりを。  寂しさに胸を押さえ、それでも文句はいうまいと霊夢を眺める。  霊夢は足を肩幅ほどに開き、目をつぶる。  小さく呼吸。全身に力を張り巡らせ。 「そこねっ!」  電光一戦、美しい形で振りぬかれた拳が虚空を打ち貫く。  目標は今まさに開こうとしている隙間。そこから現れ出でる迷惑千万な妖怪の顎――! 「こんばんわ〜お邪魔するわっへぶっ!!??」  顔をだし、笑顔を浮かべる隙間妖怪は逃げる暇をも与えられず、全身全霊の拳を受け背後へと吹き飛んだ。 「……はっ!?」  早苗にはわからない。おそらく幻想郷の妖怪、折角であえた相手をよもや問答無用で吹き飛ばすとは。  間の抜けた顔で大きく口を開き、小さく声をあげることしか反応できず。 「遅い、遅いわっ!」 「い、痛いわよ!?」  隙間妖怪八雲紫は何事もなかったように立ち上がり、抗議の声をあげた。  否、無事ではない。打ち抜かれた顔が赤くなっている。流石に痛そうだった。 「それは罰よ。救助の遅れた」 「あのねえ、霊夢? 私としては助けなくても良かったの」 「わざわざ夜に、薄暗い森の演出を考えたくせに」 「それは、別問題よ。強きものにはそれ相応の舞台が必要なの」 「御託はいいわ。さっさと連れ帰りなさい」 「まあ、なんて態度がでかいんでしょう? 乙女の顔を殴りつけたくせに」 「乙女? 私はそんなことはしてないわ」 「白を切るつもりね。まあ、いいわ。許しましょう。寛大な精神で」 「そう、なら遅れたこと許したげる。寛容な精神で」  流石にそれはないだろう、という救助者と遭難者の会話だった。  剣呑な態度の霊夢に落ち着いてください、といおうとして手を伸ばし、けれどおびえるように何度も手を引っ込めて。 「新しい巫女まで巻き込んで。帰ったら特別に稽古をつけてあげるわ」 「結構よ。それより、神社に帰りたいんだけど?」 「そうね。幻想のものが外を歩くのは感心しないわ」  そういって紫が指を鳴らせば紫色のなんとも気持ちの悪い隙間が口を開く。 「ここが帰り道よ」 「ありがとう。感謝するわ、紫。一ミクロンくらい」 「少ないわね」  そういって霊夢が手を隙間へと伸ばし、こちらを振り返る。 「早苗? 帰らないの?」 「はいっ!? え、その」 「帰りましょう。私達の場所に」 「そう、そうですね」 「もと住んでた所に住みたいのかしら? 構わないわ。必要なのは霊夢だけですから」 「そ、そうですか……」 「紫!?」 「私にとっては、これ以上ない真実ですわ」  そういって隙間に消える紫。顔には微笑み。全てわかっているぞ、とも言うべき薄ら寒い笑顔。 「全く……」 「あの……」 「早苗?」  霊夢の手が差し出される。 「帰りましょう? 私達の住むべき場所に、二人で一緒に」  微笑。 「……っ! ……はいっ!」  その霊夢の言葉に、嬉しそうに笑い、手を取る。再び自分の意志で、幻想郷へと帰るために。  そうして、森からは人の気配が消えた。幻想郷からの迷い人は再び幻想へと帰っていったのだ。                                         ―終わり―