※注意  この話のネタはある方のレスが元です。その方に感謝を  コメディっぽいところもあります。シリアスな恋がほしい方は注意  以上構わないという方は この先二百那由他の果て↓  皆、こういう経験はないだろうか?  目の前で困っている少女。  その内容は、まあ自分にとってはたいしたことの無いこと。  でも、それは少女を困らせるのに十分で。  その上、なかなかの美少女ともなれば邪な心がたとえなかったとしても良い恰好をしてみたくなる。  きっとそうなるだろう。誰だって、そう。  だから私、博麗霊夢もちょっとばかり頼れるんだぞ、というところを見せ付けてみたくなったのである。  ちょっとした自慢の意味もこめて。  本当、それだけのつもりだったのに……。  霊夢×早苗SS「博麗の巫女は頼れるお姉さん!?」  事の始まりは博麗神社庭の隅。そこに建てられた分社をきちんとしているかどうか、確かめに来るとか言うことで東風谷早苗が博麗神社を訪れたことだった。 「うん、問題はありませんね」  箒を支えに霊夢が見つめる中、早苗は細かいところまできちんと見渡してそう呟いた。 「そうでしょ? 仮にも巫女、そういうところは抜かりないわ」 「ええ、意外でした。前に襲い掛かってきたときは悪鬼羅刹のようで」  そっと手で口元を隠す。思い出して、笑みがこぼれるのを見せないように。 「ひどい言われようね。信仰を集めるためよ。それに、こんな可愛い巫女さんをなんて言い草」 「でも、酷かったじゃないですか? 右も左もわからない私たちを襲撃して、怖かったんですよ?」 「巫女さんチョップ」    ビシッ! 「あいた!」  綺麗に決まった。例えるならくに○くんの小○のマッハチョップ並に。 「ひ、酷いですよぉ〜」 「ええい、乙女に対する罵詈雑言、天地が許してもこの博麗少女霊夢が一切許しはしないわ。天罰覿面!」  ボカッ! 今度はグーだ。 「ひうっ!? ボ、暴力だぁ〜!」 「愛の鞭よ」 「あ、悪魔っ! P○Aに訴えてやるぅ!」 「○TAって何よ……というか、その語尾が小さくなるしゃべり方、やめなさい」  素晴らしい音を残し、華麗に天罰を体現した左腕をいたわりながら、呆れたように忠告する。 「あ、いえ。普段からしているわけではなくて、現代っ子としてらしさを強調してみようかなと」 「いらん」  早苗の苦労は一刀両断された。 「あうっ……容赦なしですね……」 「あんたこそ、あの時は容赦なかったくせに」 「それは……所詮古臭い神社、なんとでもなるだろうって思ったので」 「ほう」  空気が凍った。早苗の体感十度は下がった。  汗が零れ落ちる。寒いのにな、と必死で額に浮かぶ珠玉の汗をぬぐって、霊夢のほうへと視線を向ける。  魔王がいた。 「ひっ!?」 「勇気あるわねっ! 境界《二重弾幕結界》!!!!!」  ―――閃光。視界一杯の弾幕。ちょ、通常弾幕もなしにっ!  ……それが早苗の考えた最後の言葉だった。 ―――――――――――――――――――――――完――――――――――――――――――――――――――― 「ま、まだまだぁ……っ」  前言撤回。生きてた。 「しぶといわね。無題《空飛ぶ……」 「わーーーーっ! ごめんなさいごめんなさい、もう言いません!」  土下座した。霊夢の弾幕の荒れ狂った後の大地に、誠心誠意頭を下げて。必死だった。 「……まあいいわ」 「はう……良かった」  ゆっくりと立ち上がり、巫女服の汚れを落とす。よく見ればその巫女服は所々破けていた。当然ながら。  ……。 「ああああああっ!?」 「!? わ、な、なによっ!? 吃驚するじゃない」 「こ、これ、最後の一着、なんです……」  つい、と袖のところを持ち上げて見せつける。お前のせいでこうなったんだぞ、とは言わない。怖いから。 「は? 繕えばいいんじゃない? 吹き飛んでるわけでも、無い見たいだし」 「無理ですよ……自慢じゃ、ありませんが家庭科2ですから……うううっ」  家庭科? ああ、家事の技能を極める養成所か、と霊夢は納得する。  それにしても。 「替えが無いなら仕立ててもらうとか」 「うう、妖怪の貢物はあってもお金は……」 「じゃあ得意そうな妖怪に頼むとか」 「巫女なのに、妖怪に作ってもらうなんて……」  意外にプライドが高かった。 「ふう、しょうがないわね」  本当にどうしようもなかった。頭を書き、背筋を伸ばす。  霊夢の目の前には涙目の早苗。どうしようどうしよう、とおろおろするばかり。 「神様に頼め……無いわね。どっちも出来そうに無いだろうし」 「ぐすっ……そ、それに、そんなこと言ったら怒られて、お仕置きが……巫女服はキチンと着ろって、あっちでも」  神奈子達は巫女服フェチだった。あまりの境遇に霊夢はそっと天を仰ぎ目元を抑えた。  哀れすぎた。 「しょうがない、来なさい」  勢い良くてを伸ばし、涙を抑えているのか、眼を抑えている手を乱暴に握り締める。 「え? え!?」  急展開についていけない早苗を軽々と引っ張り、裁縫道具の置いてある部屋へ。  箒をキチンと縁側に投げ捨て、踏み抜くように靴を脱ぎ、神社の中へ。  襖は勢いよく、乱暴とは言う無かれ。泣きじゃくる乙女を慰めるためなのだ。 「は、はいっ!?」  そのままえいやっ、と早苗を部屋の中央へ押し出して。  ととと、とやや前のめりになりながらも早苗はそこに立ち止まり。 「さっさと服、脱ぎなさい」  えええええええええ!?  あまりの衝撃に一瞬、早苗の脳は考えることをやめた。 「あ、え、いや、そ、そんな趣味とは……」 「違う」  ごん、と顔に硬いものが投げつけられた。  痛む顔を抑えな柄、床に落ちたものをみてみればお祓い棒だった。霊夢はMLBでも通用すると早苗は確信した。 「ほら、私の巫女服」  ばさりっ、と空に投げ出された巫女服が早苗にかかる。よく見る、紅白の巫女服。  確かに今目の前にいる巫女と同じ衣装だった。 「ど、どういうことです?」 「しょうがないから、繕ってあげるって言ってるの」 「言ってません!」 「察しなさい」  にべも無かった。とはいえ、渡りに船とはこのことであって、頷きいそいそと巫女服を脱ぐ。  こういうとき、構造が同じというのは大変ありがたいもので…… 「……意外ね」 「え?」 「年下かと思ってたけれど、胸の膨らみとか……」  しっかりばっちり霊夢は見ていたのだ、早苗の肌を。 「きっ……」 「木?」 「きゃああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」  そっと霊夢が襖を開ける。顔はどこか照れくさそうな、なんといっていいのか、わからないといった表情で。 「あー、早苗? もういいかしら?」  部屋の中にいた、紅白の巫女服を身にまとった早苗に声をかけた。 「は、はいっ……すいません、追い出しちゃって……」 「いいけど……女同士なんだし、そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃない」 「は、恥ずかしいですよっ! す、好きな人に見せるんだって、き、きめっ」 「うーん、そうね。でも、可愛かったわよ? 初めて対峙した時とは違って」 「か、可愛いいっ!? な、なななななにをおっしゃいます、ウサギさん!?」 「私は永遠亭に住んでないわ。……うん、じゃあ、私たちが付き合えば問題ないんじゃない?」  ようやく落ち着きかけた早苗を待ち受けていたのは爆弾発言だった。  ますます頬が染まる。  霊夢の告げた言葉が鼓動を早め、顔が茹蛸のように染まり。 「え、あ、な……」  時間の流れがゆっくりと移り変わる。早苗のほうへ、一歩、また一歩。  気づけばすぐそこ、少し勢いよく息を吐けば、相手にかかろうかという距離。  白い腕が伸びてくる。  つい、と頬を指先でなで、頤に。  クン、と指で顔を上へと向けさせられる。  視界一杯に広がる霊夢の顔。  どこか艶をました唇、赤。  まだ少女の名残を残しながら、けれど凛々しくこちらを捕らえてくる瞳。  吸い込まれそうな黒の瞳は悠然と細められる。その中には顔を真っ赤にした早苗の顔が。  映し出される自分の顔、唇は小さく開かれ、そっと何かを待ち受けるかのように。  早苗の瞳、溶け合うお互いの熱、真剣な眼差しに潤い、濡れた瞳で愛しそうに。 「……ね?」  確認の言葉。そっと瞳を閉じ、顔がゆっくりと近づいて―――― 「だ、ダメええええええっ!!!!」  ばきいいっ!  その唇は触れ合うことなく、霊夢の身体が宙に浮かび。  早苗は呆然と右腕を突き出した形のまま固まってそれを見つめていた。    見事な右ストレートだった。           東風谷早苗○ー×博麗霊夢              五分三十二秒            決まりて 伝説の右ストレート 「全くもう……」 「あの、す、すいません……」  チクチクチク。  あれから一刻の後、目覚めた霊夢は少し憮然とした表情で早苗の巫女服を繕っていた。  その手際は綺麗ではないものの、やりなれているのだろうな、という熟練と慣れを感じさせるもので。  あまりの手際に早苗は恐縮しっぱなしだった。  自分じゃ、こうはいかないだろうな、と思う。  でも、同じくらいの年、そして人間。なのに、この差はなんだろうと。 「いいわよ。ちょっとからかったのがいけなかったんだしね」 「はあ……」 「今度から気をつけるわ」  それは困った。ドキドキしたとはいえ、早苗にもよくわかってはいないが嫌なものでは決してないのだ。  こんなことであんな嬉しいハプニングが無い、というのも困ってしまう。  とはいえ、自分からなんてとても言い出せそうに無い。自信過剰な反面、不得手なことにはとことん臆病だった。 (いやいや、まるで恋するみたいに……)  深く考えないでおこう。そう決め、早苗は頭を左右にふって、忘れることにした。 「はい、出来た」 「あ、ありがとうございます」  それから少しもしないうちに、霊夢は早苗の巫女服を持って立ち上がる。  慌てて早苗も立ち上がり、それを受け取った。  よく見ればキチンと繕ってあり、それはもちろん専門家がやるよりは不恰好ではあるだろうけれど、使用に十分耐えうるものだった。 「まあ、ごまかしただけだし、いい機会だからあなたの服を買いにいきましょう」 「え? でも、お金もありませんし……それに、オーダーすると割り増しなのでは」  お金の心配をする。妖怪のくれる物も野菜などが多くて、無いといったではないか、と頬を膨らませる。 「気にすることは無いわ。それより、その服、洗濯しておきましょう。よく見ると砂とかもついてるし」 「そうは言っても、ですね……」 「ハイハイ、後にしてくれるかしら?」  霊夢は早苗の言葉を全く聞くきはないみたいだった。  さっと手を伸ばし、せっかく主の下に帰った衣服をまたさらってしまう。  何をするのか、と霊夢の後ろを半歩遅れる形でついていく。  そんな早苗の行動を気にする様子も無く、霊夢は洗濯板と桶で慣れた様子で汚れを落としていく。無駄に力を入れることなく、程よく汚れのみを水の中へ。 (ああ、そうすればいいのか)  その手馴れた様子にまたまた早苗は感心した。自分は洗濯機派だ。電気がないなんてナンセンスだ! とオールバックの赤い人のように言いながら、涙目で洗っていた記憶がある。しかも、神奈子様たちはいつのまにかご自分の衣服だけ綺麗にして。  取り留めの無いことを考えていると、霊夢が立ち上がり庭の日当たりのいい場所に服を干した。  ああ、私の最後の巫女服、綺麗になってかえっておいで……。  センチメンタルな気持ちに浸っていると、手を拭いたらしい霊夢がトン、と背中を押してくる。 「……? なんですか?」 「ボーっとしてないで、いくわよ。お店が閉まったらたまったもんじゃないわ」  ふわり、とまるでそうあることが自然であるかのように浮き上がり、外へと跳んでいく。  もちろん、跳んでいながらもキチンと鳥居をくぐってでるのは忘れない。 「わ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」  そんな霊夢の姿を、早苗は急いだ様子で追っていった。  幻想郷の空を二つの人影が飛んでいく。人里近く、散り逝く葉の舞い落ちる上、そこを霊夢と早苗の二人は進んでいた。 「あのっ……」  位置としては霊夢が先行し、そのやや後ろを早苗が追随するように。  霊夢としては買出しも無いのだ。さっさと終わらせたいと考えていた。  それなのに。 「なに?」 「ここ、どこなんでしょう?」  周囲を見渡しているためか、やや速度が遅い。興味深そうに、魔の気配のする森を見つめて。  その好奇心の赴くままに、目の前の速度をあわせて落としている霊夢に問い掛けるのだ。 「……知らないの?」 「はあ。あまり、山から出てないもので……」 「だから、いろいろ知らないのね? 引っ越してきたんなら挨拶回りくらいしなさいよ」 「面目ありません……」  しゅん、としたように俯きついてくる。  その姿は怒られた子犬のようで、自身を全身にみなぎらせて襲い掛かってきたときとは全く違っていて。 「……人里近くの森よ。気をつけたほうがいいわ。妖怪が色々でるから」 「人里、ですか。へえ……」 「一応、この近くに普通の道もあるんだけど、空を飛べるなら飛んだほうがはやいでしょう?」 「人里近くに森かあ……新鮮ですよねっ」  新鮮だった。外の世界を知る限り、ここまで自然と共生なんてしてはいない。  森の近く、自給自足、妖怪の跋扈。そのどれもが早苗の世界を打ちのめし、しかし新たな感動を呼ぶものだった。 「こんなことなら、もっと早くに色々出歩けばよかったです」 「……降りて見る?」  つい、と霊夢が森をさす。 「え、い、いいんですか?」 「……ふう、別にいいわ。降りるわよ」  前を行く霊夢が身を翻し、森の中へと降りていく。その姿を見つめ、それから慌てたように霊夢に追従して降下する。  その森の空気は澄んでいた。これはもともと幻想郷に来たときから感じていたことだ。  自然が瑞々しく、空気も美味しい。秋にはきちんと山が赤く染まり、川の中を泳ぐ魚を見ることのできる透明な水が流れていく。  外では理想とされる自然がそのまま残っていた。 「わ、わあっ! やっぱりすごい、すごいですねっ!」 「……」  霊夢は歩く。冬に備え、種子を蒔き後は枯れるのみの草を踏み分け、人里へ。  木の葉が風で擦れあい、カサカサと音を奏でる。  ざぁっ……と落ち葉が舞い上がり、遠くでは鳥の声が木霊する。  早苗はそんな自然に自分でもよくわからないうちにはしゃいでいた。 「こんな緑が一杯のところなんて、学校の林間学校とか出ないとこないですし……それに、アウトドアでもこんなに自然が生き生きしてるところなんてっ!」 「……元気ね」 「勿論! なんだか、来てよかったなあって思えます。霊夢もそう思いませんか?」  無邪気な笑顔。めんどくさそうに眺めていた視線、それが早苗の笑顔を捕らえて。 「……私は、いつものことだし」 「あ……そう、そうですよね。なんだか、恥ずかしいです。自分だけ舞い上がっちゃって……」 「……いいんじゃない? はしゃいでる姿、可愛かったもの」  ぽん、と頭に手が置かれる。まるで子ども扱いだ。それなのに、なんだか全身がしびれていくようで。  やめてください、ともいえずに顔が熱くなる。  可愛い、といわれて。それでドキドキしてしまってる。 「……れ、霊夢……!?」  僅かな抵抗。けれど、霊夢はどこか達観したような瞳で早苗を見つめ。 「けど、幻想郷の自然が綺麗って言うことはね。外がそれだけ自然を捨ててきているということなのよ」 「……え?」 「ここは無くなったものが流れ着く幻想郷。夏は涼しかったわ。だからきっと外界は猛暑だったんでしょうね……」  酷く、驚いた。真面目な顔で外の世界を憂いているような、そんな顔。 「れ、霊夢……」  何か、言わないといけない。そう思って、口を開き。 「って、紫が言ってたわ」  霊夢はなんでもないようにその言葉の主を呟き、苦笑したのだ。  思わず前のめりにこけてしまう。    ……って言うか、紫って誰ですかっ!?  肩透かしを食らったようにこけた私を面白そうに見つめる霊夢。存外サドッ気があるらしい。 「紫って誰? って顔ね。答えは迷惑な隙間妖怪よ。気をつけなさい。絡んだらめんどくさいわよ」 「はあ、ご忠告ありがとうございます」  早苗の答える声は完璧な棒読みだった。よいしょ、と立ち上がり衣服についた汚れを払い落とす。 「って、すいません、霊夢。巫女服、汚しちゃいました……」 「いいわよ。洗えばいいもの」 「すみません……」 「いいってば……って」  早苗を宥めていた霊夢が、ふと森の奥に視線を向けた。  はて、何か面白いものでも見つけたのだろうか、と早苗がそちらに視線を向けてみれば、小さな人影一つ。  いや、人影なのだろうか。それは良く見てみれば人の形はしておらず、明るい空間にポツリと浮かぶ黒い塊。 「……なんです? あれ」  ふわりふわりと不安定に揺れながら、近づいてくるその影に霊夢は無造作に足を踏み出していく。 「これ? 妖怪よ」 「そーなのかー」  黒い塊が声をあげる。  とたんに、その影が形を潜め、けれど周囲は薄暗いまま、ぼんやりと姿が浮かび上がる。  金の髪を肩口でそろえ、頭には赤いリボン。幼い子どものような無邪気な笑顔に黒いドレス。  なぜだか解らないが両手を左右に伸ばし、十字架のようなポーズをとって。 「ルーミア。久しぶりね」 「久しぶり? 知り合いなんですか?」 「巫女は食べてもいい人間? 二人もいるなー」  笑顔。これ、誰? と指差す早苗を置いてけぼりに、博麗の巫女と妖怪は向かい合う。  巫女の手には針。気づけば周囲には陰陽玉が二つ、浮かび上がっていた。  いつもの使い慣れた道具。早苗にもいつ取り出したのか解らなかった。  全く変わりは無い。まるで明日のご飯のことを話しているかのように、自然に手が動く。 「ふぇ?」  針が飛ぶ。霊力の篭った、針弾。それを守るように渦を巻き、符が飛翔する。  ルーミアは目を見開き、その殺意から逃れんと身を翻し避ける。  針が大きな音をたて木に刺さり、符が木の葉に触れるたびに霊力を大きくはじけさせる。 「きゃっ!?」  唐突に始まった弾幕ごっこに反応しきれていなかった早苗は身体を丸め、耳をふさぎ離れていこうとし後ろに跳ぶ。 「わ、わ、わッ!!」  ふわふわと逃げ惑うルーミアを追尾するように針が流れ、ドレスの裾を貫いていく。  圧倒的だった。博麗の巫女は相手があまり危険ではないルーミアであっても、全くの手加減はしていない。  反撃に打ち出される中弾。その隙間を地面に立ったまま、すり抜けるように動く。 「このっ!!」  ルーミアが手を伸ばし、スペルカードを発現しようとしたその刹那。  ごんっ!    大きな音を上げてルーミアが崩れ落ちていく。 「き、きゃあっ!? ちょ、な、何を」  気を失って、眼をまわすルーミア。その頭上にくるくると回り浮かぶ陰陽玉。  頭には大きなたんこぶ。あっけない結末ではあるが、後頭部強打で気を失ったらしかった。 「れ、霊夢っ!?」 「退治完了。さあ、いきましょう?」  一度、背伸びをして針をしまう。ルーミアを背後から強襲した陰陽玉はもうすでに無い。  くるり、と背中を向け、歩み始める。  あまりといえばあまりな光景に早苗は声も出せず、とりあえずはと木の下に座らせて。  申し訳ありません、と謝罪する。その思いを伝えるために、隠し持っていたおやつをお供えして。 「早苗ーーーっ? 何してるのよーーー?」 「あ、す、すいません、今行きますっ!」  立ち上がり、もう一度だけ頭を下げて早苗は霊夢を追いかけていく。  そのままあれやこれやと質問をしながら進んでいくと、ようやく人里が見えてきた。  かかった時間は予定よりも長かったらしく、霊夢が「予想よりも時間かかったわね」と呟き、背を伸ばす。  それに早苗が申し訳ありません、と頭を下げれば霊夢は慌てたように気にしてないから、とフォローする。  まるで姉妹のように。 「で、ここが言ってた店よ」 「はあ、なんだか老舗! って感じですね」 「そう? まあ、人里の人たちは皆利用してるわ。ついでに挨拶しておきなさい」  トン、と肩を押して店の中に入るように促して。優しく微笑み、ついていて上げるからと。 「れ、霊夢? そこまで考えて……」 (実は今思いついたんだけど……) 「ふふ、気にしないの。じゃ、いきましょ」 「は、はいっ!」  酷く勘違いしたまま、早苗は霊夢に尊敬の眼差しを向けていた。    心の中で、強く、それに優しく導いてくれる、まるで家族、姉のような存在に霊夢はランクアップしていたのだ。 「すいません、色々……」 「いいわよ、別に」  それからしばらくたった後、大きな荷物を両手で吊り下げながら妖怪の山へと向かう早苗の姿があった。  その少し前には先導するように、変な妖怪がちょっかいをかけてこないように睨みを利かせている霊夢。 「なんといいますか、道具まで整えていただいて……お金……大丈夫ですか?」 「……だ、だいじょおぶよっ!」  嘘だ。妖怪退治の代金を換算したとしても、今月は大赤字確定である。  けれど、おくびにも出すことは無い。博麗の巫女の名にかけて。なんだか瞳に夕日が染みてくるよう。 「すいません……」 「い、いいって言ってるじゃない。これからは、里で何かを売ったりとかでお金を作って」 「はい。他には妖怪退治、ですね」 「そう。なら、もう大丈夫ね」  良かった良かった、と微笑んで少し速度を上げていく。  そんな霊夢を後ろから眺めて。 「あの……また、何かあったら頼ってもいいですか?」  夕日に照らされ、顔が赤く染まる。恥ずかしそうに沿う問い掛ける早苗のほうを振り向こうともせずに。 「暇なときならね」  そんな少しそっけない態度がちょっと悲しくて。 「遊びにくるのなら、いつでも歓迎するわ」  その後に続いた言葉に、顔がほころんで。 「はいっ!」  元気よく返事をかえした。  夜の守矢神社、早苗の自室。  部屋の中央に敷かれた布団の上で、身体を投げだした。  部屋の壁には今日、借りてきてしまった博麗の巫女服がかけられている。  天井を見つめていた早苗は、ゆっくりと顔を横に向け、視界にその巫女服を収め。 「えへへ……」  微笑んだ。  目を閉じれば、今日の事が思い出される。  そっけない霊夢。  でも、優しい霊夢。  こちらをしょうがないなってため息ついて見つめてくる霊夢。  めんどくさそうに、けれどいろいろ教えてくれる霊夢。  まるで、姉のように、先輩のように。優しく、そっけなく教えてくれた博麗霊夢 「この巫女服、返さないと……それに、お礼も言わないと……」  頭に、身体に,歓喜の感情が満たされる。 「また、色々、聞いてもいいかな……」  厳しい霊夢。問答無用で、かわいらしい妖怪を叩きのめした霊夢。 「あれは……やりすぎ、かな。……でも、ちょっと頼もしかったり」 「うん、暇を見つけて、絶対遊びにいこう。今度は、外の世界のこと、お話しよう」 「きっと、そ知らぬ振りで、けれどしっかりと、聞いてくれるんだ」 「霊夢……とっても、優しいから」  部屋の中から声が消える。  静寂に支配された、暗い部屋の中にただただ早苗の寝息が響く。  その笑顔は、よい夢をみているのか仄かに微笑んでいて、幸せそうだった。 「寝た?」 「うん、寝た」 「全く、早苗にも困ったもんね。困っているのに神様に頼らず、博麗霊夢を頼るなんて」 「……しょうがないんじゃない?」 「そう? 少し悔しいわ」 「嘘吐き。早苗に幻想郷のつながりが出来て嬉しいくせに。素直じゃないわ、神奈子は」 「う、うるさいっ……全く、今日は飲むよ」 「はいはい」  そっと、早苗の部屋の襖が閉じられた。  よい夢を、みられますように……。そんな声を残して。