いつも東方遊戯王を書いてる人とは別の人です。 書き方も趣向もぜんぜん違ってるので、ご注意ください。 アニメ遊戯王GXをリスペクト(ヘルカイザー的な意味で)しているため、閲覧は自己責任でお願いします。 あと、手札消費が激しいので禁止カードも使っています。壺と宝札無しでコンボデュエルを考えられるアニメスタッフは凄い。 二柱はサイバー流の開祖にして、後のサイバー流の表と裏デッキを持つ(という設定)。 神奈子様が表デッキ、諏訪子様が裏デッキの使い手(という設定)。 後のサイバー流デッキとサイバー流裏デッキは、主にサイバー流表デッキのカードで構成されており、 裏デッキは名義が残されているだけで、多くの主要カードは神奈子の手で抹消されている(という設定)。 そして多くのエラッタをされ、後のサイバー流道場に伝わる(という設定)。 だがオリジナルのデッキは二柱がしっかり所持している(という設定)。 「このまま人間と妖怪の信仰を得ていく、それのどこが悪いのよ!」 「だからあなたは調子に乗りすぎだって言ってるじゃない!」 ある日、二柱が喧嘩をしていた。 特に珍しいことではないのだが、今日の喧嘩は一際激しいように早苗には見えた。 結局二人は、昔のカードゲームで決着をつけると言って、出て行ってしまった。 山の中に広がる荒野、何らかの理由で草木が生えなくなった場所である。 ここには人間も妖怪もそれ以外のものも滅多に近づくことは無い。 「今のあなたは、はっきり言って腑抜けよ、腑抜け!叩きなおしてあげる!」 諏訪子は声を荒げている。 「はっ返り討ちにしてあげるわ」 神奈子も言葉は穏やかだが、負けず劣らず声は荒い。 「デュエル!!」 二人は同時に叫んだ。 「先行は私よ、ドロー!」 諏訪子は手札の六枚のカードを見る。 方針は一瞬で決まった。 「私はモンスターをセットして、ターンエンド」 「随分と消極的ね」 神奈子は余裕の表情を浮かべている。 「私のターン、ドロー!強欲な壺を発動、さらに二枚ドロー!」 7枚の手札を眺める。 やることは決まっている。 「私は手札からサイバー・スネークを特殊召喚!」【サイバー・スネーク ☆5 攻守 2100/1600】 銀色の金属に包まれた大蛇が諏訪子の眼前に現れる。 「サイバー・スネークでモンスターを攻撃!エヴォリューション・バースト!!」 大蛇の口から、青い光が収束する。 それは神奈子の宣言と共に一筋の光線となって、諏訪子のモンスターを破壊する。 「ターンエンド」 「私のターン」 無言でカードを手札に加える。 「墓地の黄泉ガエルの効果を発動!自分の場に魔法・罠が無いとき、このカードは墓地から特殊召喚できる!」 【黄泉ガエル ☆1 攻守 100/100】 天使のようなワッカと羽を持った蛙は小さく鳴く。 「さらに黄泉ガエルを生贄に捧げ!サイバー・フロッグを攻撃表示で召喚!!」 【サイバー・フロッグ ☆7 攻守 2600/1800】 銀色の機械に包まれた大きな蛙は巨体を大きく鳴らす。 「サイバーフロッグ……」 「承知の通り、、サイバー・フロッグは相手の場にモンスターがいて、  自分の場に一体しかモンスターがいないとき、生贄一体で特殊召喚できる!」 「そうだったわね」 「さらにサイバー・エスパーを召喚!」 【サイバー・エスパー ☆4 攻守 1200/1800】 銀色の金属でできた人型のモンスターが現れる。 まるで歪な機械人形のように神奈子は思った。 「サイバー・フロッグの攻撃!エヴォリューション・ブラスト!!」 機械蛙の口から放たれた赤い光の弾が機械の蛇を巻き込み破裂する。 「ぐ……」 【神奈子LP4000→3500】 「まだよ、サイバー・エスパーでダイレクトアタック!サイバネティック・ショック!!」 金属の人形の周囲の空間が歪む。 「ぐぅ……」 歪みが衝撃となり神奈子に襲い掛かる。 【神奈子LP3500→2300】 「カードを伏せてターンエンド」 神奈子は、少しふらつきながらデッキに手を伸ばす。 「辛そうね、大丈夫?」 諏訪子の声は友人を気遣う物ではない。 明らかな侮蔑を含んでいた。 それを感じた神奈子は、歯を食いしばり、体を起こす。 「私のターン、ドロー!」 力強く、気高く、神々しく宣言する。 「そう、それでいいのよ……」 諏訪子は微笑を漏らして小さく呟いた。 さらに諏訪子は言う。 「サイバー・エスパーの効果よ、ドローしたカードを見せて」 神奈子は無言でカードを翻す。 その手には融合のカードがあった。 「いいカードじゃない」 「ええ……魔法カード、融合を発動!手札のサイバー・スネーク二体を融合!  サイバー・ツイン・スネークを融合召喚!」【サイバー・ツイン・スネーク ☆8 攻守 2800/2100】 二本の首を持つ機械の大蛇、二本の首は一つの胴体を共有している。 顔が微妙に違う二対の蛇は諏訪子を睨み付ける。 「サイバー・ツイン・スネークは一度のバトルフェイズに二回攻撃が可能!これで形勢逆転させてもらうわ!」 「できるかしら?」 諏訪子の場には伏せカードが存在している。 警戒して攻撃しない選択肢もあった。 神奈子は一瞬だけ躊躇う。 だが同時に結論も出した。 「サイバー・ツイン・スネークの攻撃!エヴォリューション・ツイン・バースト!」 神奈子は指を指して宣言する。 攻撃対象はサイバー・フロッグ。 「トラップ発動、アタック・リフレクター・ユニット!」 二頭を持つ大蛇の両の口には青い光が留まっている。 「サイバー・フロッグを墓地へ送り、デッキからサイバー・バリア・フロッグを守備表示で特殊召喚!」【サイバー・バリア・フロッグ ☆8 1900/3000】 巨大な銀色の金属で覆われた蛙が再度、鳴き声を鳴らす。 だが、先ほどの機械蛙とは違い、首の周りに機械の首輪がされており、眼前を緑色の光で覆っている。 「サイバー・バリア・スネークのサイバー・フロッグ版ね」 神奈子は推測をそのまま口に出す。 相手の場のモンスターが変わったため、神奈子の攻撃宣言は無効となっていた。 「何を言うの、これらのカードは元々サイバー・フロッグ専用よ」 そう言われれば、神奈子はこのモンスターを見たのは初めてであった。 「だがそんなことは関係ない!サイバー・エスパーを攻撃、エヴォリューション・ツイン・バースト!」 二つの口から青い光線が放たれ、機械人形を襲う。 「サイバー・バリア・フロッグの効果発動、味方モンスターが攻撃されたとき、攻撃対象をこのカードに移す!」 「何っ!」 機械蛙は、その巨体からは想像できない程の速さで高く飛び上がる。 そして、機械人形の眼前に立ち、青い光線を緑の光の壁で受け止める。 「さらに効果を発動!このカードは1ターンに1度だけ、このカードへの攻撃を無効にする!」 青い光線は球状になり、小さくなっていき消えていった。 「そして無効にした攻撃と同じ数値の戦闘ダメージを、相手モンスターに与える!」 「そんなっ!」 光の壁が消えると、機械蛙の口が開く。 中には青い光の球があった。 「リフレクト・ミラーショット!」 機械蛙の口から放たれた青い光線が大蛇へと向かう。 「残念だったわね神奈子、サイバー・スネークではサイバー・フロッグには勝てない!」 「そうはいかない!速攻魔法、融合解除」 その瞬間、二つの首を持つ大蛇は、二匹の大蛇と分離する。 二匹はそれぞれ反発するように飛び出し、その間を光線が通り抜けていった。 「……何とか凌いだ。でもねぇ、手札四枚で雑魚が二体じゃ割りに合わないわね」 「諏訪子……専用カードだか何だか知らないけどね……」 そこで一呼吸置く。 神奈子の目は鋭い。 「私を舐めるな!速攻魔法、フォトン・ジェネレーター・ユニット発動!!  サイバー・スネーク二体を生贄に捧げ、サイバー・レーザー・スネークをデッキから特殊召喚!」【サイバー・レーザー・スネーク ☆7 攻守 2400/1800】 先ほどまでの大蛇と違い、流線型の体を持つ大蛇が現れる。 大蛇は神奈子の怒りを感じたかのように、咆哮を上げる。 「この瞬間、モンスター効果発動!サイバー・レーザー・スネークは1ターンに1度、  このカードの攻撃力以上の攻撃力か守備力を持つモンスター一体を破壊することができる!」 諏訪子は舌打ちを打つ。 「サイバー・バリア・フロッグを破壊しろ!フォトン・エクスターミネーション!!」 大蛇の末端、尻尾が上下左右に開く。 中のレーザー砲からレーザーが照射される。 細い光の線は、機械蛙を真っ二つに容易く焼き切る。 数瞬遅れて、機械蛙は爆発した。 「ぐぅぅ……」 諏訪子は爆風に思わず苦悶の声を漏らす。 「まだ私のバトルフェイズは終了してないわよ、サイバー・エスパーを攻撃!エヴォリューション・レーザーショット!!」 今度は口から青い光線を吐き出し、機械人形を破壊する。 【諏訪子LP4000→2800】 「カードを二枚伏せてターンエンド」 諏訪子は多少ふらつきながらも顔を上げる。 「流石は神奈子、一筋縄にはいかないわね」 「伊達に注連縄をしてないわ」 諏訪子は軽く微笑をする。 「ドロー!強欲な壺、さらに二枚ドロー、そして黄泉ガエルを特殊召喚」 小さな蛙は三度目の鳴き声をあげる。 「そして融合を発動!手札のサイバー・フロッグ二体を墓地へ送り!サイバー・フロッグ2(セカンド)を融合召喚!」【サイバー・フロッグ2(セカンド) ☆8 攻守 3000/2600】 一際大きな機械の蛙が現れる。 ただ大きいだけでなく、手足が太く全体的に赤みを帯びた攻撃的な体躯をしている。 「サイバー・フロッグ2は相手モンスターを破壊するごとに一回、追加攻撃することができる!」 つまり、この攻撃が通れば即座にデュエルが終わることを意味する。 そうはさせない、そう内心で神奈子意気込む。 「トラップ発動、ホーリーバースト!相手モンスターの召喚時に発動!自分と相手のモンスターを一体ずつ破壊し、  破壊されたモンスターの攻撃力の合計値だけライフを回復する!」 【神奈子LP2300→8100】 機械の蛇と蛙は、その身を同時に爆発させた。 爆風の中で神奈子は思わず笑みをこぼしていた。 「残念だったわね、諏訪子。次のターンであなたは終わりよ」 神奈子は諏訪子に言い放つ。 だが彼女は自分が期待した表情をしていなかった。 彼女は敗北を目前にしているはずである。 それでも……笑っていた。 「どうしたの?負けるのが怖い?」 若干。 本当に若干焦りを感じつつも神奈子は問いかける。 「怖い……確かに怖いわね」 諏訪子の顔に浮かぶのは会心の笑み。 「ここまで思い通りにいくとね!マジックカード、強制融合‐フォース・フュージョンを発動!!」 「強制融合!?」 「強制融合は、自分のメインフェイズ中に自分フィールドのモンスターが破壊された時、さらにモンスター一体を生贄に捧げて発動」 黄泉ガエルが一度鳴き声をあげると墓地へ還っていく。 「私は相手と自分の融合デッキから融合モンスター一体を指定、  指定した融合モンスターの融合素材を場か墓地からデッキに戻すことでお互いの場に特殊召喚する!」  この召喚は融合召喚扱いだけど、自分と相手のどちらかが条件を満たせない場合はカード効果は無効となり破壊される」 諏訪子は一呼吸置く。 神奈子の背に冷や汗が流れた。 「私はサイバー・エンド・スネークを指定!サイバー・エンド・スネークを特殊召喚!!」【サイバー・エンド・スネーク ☆12 攻守 4000/2800】 神奈子の墓地から三枚のサイバー・スネークがデッキへと戻る。 そして神奈子の場に巨大な三本の首を持つ機械の蛇が現れた。 「そして私は、サイバー・フロッグ3(サード)を召喚!!」【サイバー・フロッグ3(サード) ☆12 攻守 3600/3000】 諏訪子も同じようにデッキに三枚のサイバー・フロッグを戻すと、巨大な機械蛙が出現する。 赤く染まった金属は流線型のフォルムを形成している。 「だけど、攻撃力ならサイバー・エンド・スネークのが上よ」 気休めにもならない言葉だと、神奈子は自分で言いながら感じた。 「さらにマジックカード、巨大化を発動!サイバー・フロッグ3の攻撃力は7200になる!」 機械蛙が二回り大きく膨れ上がる。 その目は機械の大蛇を見据えている。 「サイバー・エンド・スネークに攻撃!エターナル・エヴォリューション・ブラスト!!」 赤き機械蛙の口から、より赤い弾を核とした光線が放たれる。 三本の首を持つ大蛇の胴体を直撃し、爆裂した。 一際大きな爆発に神奈子が苦痛に呻く 【神奈子LP8100→4900】 「サイバー・フロッグ3の効果を発動!」 機械蛙の口から長い舌が飛び出す。 破壊された機械蛇の残骸を巻き取り、そのまま口へ運ぶ。 「破壊したモンスターの攻撃力を自身の元々の攻撃力に加える!」 残骸を飲み込むと赤いオーラに包まれる。 「よってサイバー・フロッグ3の元々の攻撃力は7600、巨大化により攻撃力は15200となる」 諏訪子は、そこまで言って息を整える。 眼前では神奈子が顔を上げようとしていた。 「トラップ発動!フュージョン・レスキュー。融合モンスターが破壊された時に発動可能、  融合モンスター一体を融合デッキに戻し、バトルフェイズを終了させてデッキからカードを一枚ドローする!」 苦悶の表情を浮かべながら神奈子は宣言する。 「ターンエンドよ」 対する諏訪子は淡々と宣言した。 「神奈子、よく頑張ったわ。でもここまでよ」 事実、神奈子の場はがら空きで手札はわずか一枚。 そして諏訪子の場には、攻撃力15200のサイバー・フロッグ3。 絶望的と言わざるを得ない状況である。 「諏訪子」 神奈子の言葉は静かだが威圧感を感じる。 「私には聞こえる。あなたに弄ばれたサイバー・エンドの嘆きが……」 神奈子の双眸は諏訪子を鋭く貫く。 「(昔の顔に戻ってきたわね……)」 それを見た諏訪子は、内心でそう考えた。 「サイバー・エンドの怒りは頂点に達したわ。あなたには報いを受けてもらう!」 「例えサイバー・エンド・スネークを召喚できても、攻撃力15200のサイバーフロッグ3には勝てないわよ」 「攻撃力の差など無意味!」 神奈子は強い意志と共に言い放った。 「私のターン!ドロー!」 一瞬だけ、引いたカードに目をやる。 「モンスターをセット、そして魔法カード、太陽の書を発動!」 場に壺が一つ現れる。 中の闇から二つの目と白い歯が光る。 「メタモルポットの効果を発動、お互いのプレイヤーは手札をすべて捨て、五枚ドローする」 「私たちの手札はゼロ、五枚ドローする」 二人は同時にカードを引く。 「マジックカード!パワー・ボンドを発動!!」 「パワー・ボンド……」 神奈子は会心の笑みを浮かべる。 「手札のサイバー・スネーク三体を墓地へ送り!  サイバー・エンド・スネーク、融合召喚!!」 三つの首を持つ大蛇が再臨する。 巨大な体は白銀に輝き、すべての首は諏訪子に対し怒りの咆哮を上げる。 さっきと同じ姿にも関わらず、迫力はまったく違っていた。 「パワー・ボンドにより融合召喚されたモンスターの攻撃力は倍となる  さらに速攻魔法、リミッター解除を発動!攻撃力はさらに二倍!」 「攻撃力16000……!」 白いオーラに包まれた大蛇がさらなる咆哮を上げる。 「バトル!サイバー・エンド・スネークで、サイバー・フロッグ3を攻撃!」 三つの口に青い光が収束する。 狙いは赤い機械蛙へと定められていた。 「エターナル・エヴォリューション・バースト!!」 青い光の波は赤蛙を飲み込み、諏訪子を貫く。 【諏訪子LP2800→2000】 諏訪子は激しい苦痛に顔を歪めるが、声を殺し踏みとどまった。 「パワー・ボンドとリミッター解除のリスクによって、  サイバー・エンドは破壊され4000ポイントのダメージを受ける」 【神奈子LP4900→900】 「手札も無い……ターンエンド」 目を閉じ、一瞬だけ安堵を浮かべる。 だがすぐに鋭い眼差しを取り戻した。 「流石ね、神奈子。あそこでサイバー・フロッグ3を倒すとは」 「これでも腑抜けかしら?」 「想定内ね」 「私のターン。黄泉ガエルの蘇生は行わない」 諏訪子はドローしたカードを見て即座に宣言する。 「(黄泉ガエルの蘇生を行わない……何を狙っている?)」 「マジックカード!パワー・ボンドを発動!!」  手札のサイバー・ダーク・ホーン、サイバー・ダーク・エッジ、  サイバー・ダーク・キールを墓地へ送る!」 墓地へ送られたカード郡に神奈子は戦慄する。 「神奈子、見せてあげるわ。あなたが邪道と称した悪魔を!」 黒い鋭角な金属を持つ三体の悪魔が融合していく。 「いでよ!鎧黒魔神‐サイバー・ダーク・デビル!」【鎧黒魔神‐サイバー・ダーク・デビル ☆8 攻守 1000/1000】 黒く光る金属の鋭利な刃を束ねたような翼を持ち、黒い骨格のような体を持つ悪魔が咆哮をあげる。 「パワーボンドによって召喚されたモンスターは攻撃力が倍となる。  そしてこのカードは召喚時、墓地にある一番攻撃力の高いモンスターを装備し、  その攻撃力分だけこのカードの攻撃力は上昇する!」 黒き悪魔は地中に体を埋めたかと思えば、すぐさま赤い機械蛙を引きずり舞い戻る。 「墓地のサイバー・フロッグ3を装備!攻撃力は5600」 骨格のような空洞に赤蛙が納められたような格好だ。 そのエネルギーが満ちるかのように、悪魔の体が多少赤みを帯びている。 「さらに墓地のモンスター一体につき攻撃力が100ポイント上昇する。  墓地にはモンスターが7体、よって攻撃力は6300!」 「黄泉ガエルを蘇生しなかったのは、このため……」 「メタモルポットに攻撃!フル・ダークネス・ブラスト」 咆哮とも衝撃波とも思える禍々しい波動が壺を破砕する。 「カードを一枚伏せて、パワー・ボンドのリスク、1000ポイントを支払う」 【諏訪子LP2000→1000】 諏訪子はライフコストを涼しい顔で支払う。 「ターンエンド」 「……流石ね、切り札を失ってすぐに攻撃力6300のモンスターを呼び出すなんて」 「対するあなたはすっからかんじゃない。降参する?」 「まさか」 神奈子は不敵な笑みを見せた。 「私のターン」 文字通り、運命を引き当てなければ負けが決まる。 「ドロー!」 思わず笑みがこぼれた。 「天よりの宝札を発動!お互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにドローする!私は六枚ドロー!」 「私は五枚ドローね」 二人はドローしたカードを見る。 「よしっ」 神奈子は思わず口に出した。 まだ戦えることが確信できて嬉しかった。 「そして魔法石の採掘を発動!手札のサイバー・バリア・スネークと  サイバー・ベビーズを墓地へ送り、天よりの宝札を再度手札に加える」 「天よりの宝札は同じターンに二回使えれば、かなりのアドバンテージを得られるわね」 諏訪子は冷静な推察を口にする。 「まだよ!早すぎた埋葬を発動!ライフを800ポイント支払い、墓地よりサイバー・ベビーズを特殊召喚!」【神奈子LP900→100】 小さな機械の蛇が二匹現れる。 その周囲には金属の卵らしきものがいくつかあった。 「サイバー・ベビーズは機械族モンスターを生贄召喚、融合召喚するときに二体分として扱うことができる」【サイバー・ベビーズ ☆1 攻守 100/200】 「ダブルコストモンスター、便利そうね」 見たことが無いカードに諏訪子は率直な感想を言う。 「サイバー・ベビーズを生贄に、東風谷早苗を召喚!」【東風谷早苗 ☆8 攻守 2800/2100】 緑の髪を横に束ね、蛙と蛇の髪飾りをした青い服の少女が現れる。 光の中、少女はゆっくりと目を開ける。 「……お二人は、まだ喧嘩なさっていたのですか?もうすぐ夕食の時間ですよ」 目の前の悪魔を一瞥すると、二柱に対し横を向いて言う。 「早苗は機械族としても扱い、特殊召喚はできない。」 「なんで機械族としても扱われるのですか?」 神奈子の言葉に早苗は思わず問いかける。 返答は無い。 「サイバー流のデッキにも無理なく組み込めるようにするためよ」 諏訪子は見かねて口を挟む。 早苗は納得した顔で口を閉ざし、神奈子は苦い顔で口を閉ざした。 「東風谷早苗の効果を発動!」 気を取り直した神奈子は宣言する。 早苗は、自分のことだとわかったが、おろおろしている。 「効果発動よ」 苦笑いをしながら早苗は振り向いて言う。 「えっと……効果って何でしたっけ?」 神奈子は目をそらし、諏訪子を見据えてから言う。 「東風谷早苗は自身の攻撃力を1000ポイント下げることで、  戦闘を行う相手モンスターの効果を無効にし、そのモンスターの攻撃力を元々の攻撃力に固定することができる!」 「(そんな効果だったかなぁ……)」 「八坂の神風!」 早苗が手にするお払い棒を大きく振ると、強風が赤黒い悪魔を包む。 苦しみに悲鳴のような咆哮を上げながら赤蛙を落とす。 赤蛙は砂となり、墓地へ還っていく。 「パワーボンドも無効よ!」 神風を受けた悪魔は無残にも灰色の力ない存在へと堕ちる。 「これで攻撃力は1000に戻った、バトル!グインソーマタージ!」 早苗は天に向けてお払い棒を掲げる。 すると、早苗の目の前に大きな逆五芒星と中心に小さな五芒星の陣が浮かぶ。 早苗が掛け声と共にお払い棒を振り下ろすと、陣は悪魔へと駆け、悪魔を貫いた。 【諏訪子LP1000→200】 「フュージョン・レスキューを発動、サイバーフロッグ3(サード)を融合デッキに戻し、  バトルフェイズを終了させる。そして一枚ドロー!」 神奈子は、諏訪子の手札が最終的に8枚になることに懸念を抱く。 「カードを一枚伏せて、天よりの宝札を発動!」 「私は七枚だから、カードは引けない」 神奈子は再度、六枚カードを引く。 そして手札を見る。 パワー・ボンド。 サイバー流における究極の融合カード。 それを数瞬見つめ、物思いにふける。 「ターンエンド」 「私のターン!ドロー!!」 諏訪子はドローしたカードを見て会心の笑みを浮かべた。 今にも高笑いでもしてしまいそうな気分であった。 「来たわ!神奈子」 「何がかしら?」 「あなたを恐怖のどん底へ落とすカードよ!」 諏訪子は笑みを漏らしながら言う。 「……八坂様!洩矢様!」 突如、早苗は二人へ向けて言う。 「もうやめてください!お二人はボロボロじゃないですか!」 現に二柱の体は見るも無残、息も荒かった。 「こんな……こんな風に傷つけあう二人なんて、私は見たくありません!」 悲壮な顔で早苗は訴えた。 二人は顔を落として黙る。 「……早苗」 諏訪子が口を開いた。 「少し黙ってて……」 今までに見たことも聞いたことも感じたこともない。 まったく知らない諏訪子への恐怖に早苗は絶句する。 「黄泉ガエル!」 何度目の蘇生にも、小さな蛙は答える。 「速攻魔法、エネミーコントローラー発動!」 諏訪子の目の前に、青く大きなコントローラーが出現する。 「コマンドは、セレクトを押しながら上、上、左、下、右!」 コントローラーは諏訪子の言葉通りにコマンドをこなす。 「このコマンドによって、黄泉ガエルを生贄に捧げる!  そしてエンドフェイズまで相手モンスター一体のコントロールを得る!」 コントローラーの末端、コネクト部が飛び出す。 「対象は東風谷早苗!」 コネクタ部が早苗の背後に周り、声を出す間もなく装着される。 早苗の目は虚ろになり、ゆっくりと諏訪子の場へと移動する。 神奈子は一度だけ、名を叫ぶが反応があるはずがなかった。 「さらに黄泉ガエルを蘇生させる!」 「何ですって!?」 「スタンバイフェイズ中なら何度でも蘇生は可能よ」 小さな蛙が再度舞い戻る。 「そして装備魔法、偽装融合‐フェイク・フュージョンを発動!黄泉ガエルに装備する」  融合デッキの融合モンスター一体を指定する。私はサイバー・フロッグ3を指定!」 諏訪子は神奈子にサイバー・フロッグ3のカードを見せる。 「そして指定したモンスターと同じ種族のカードを墓地から除外する。サイバー・エスパーを除外!  さらに融合デッキから指定した融合モンスターを、デッキから融合素材となるモンスターを  墓地へ送ることで、装備モンスターは指定した融合モンスターとして扱われる」 小さな蛙の背に赤い蛙の影が浮かぶ。 「ただし、スタンバイフェイズ毎に墓地の同種族モンスターを除外しなければ、装備モンスターは除外される」 諏訪子はさらに笑みを深める。 「これで準備はすべて終わった。いくわよ、神奈子」 神奈子は無言を持って答える。 その顔からは強い意志が感じ取れた。 「マジックカード、オーバーロード・フュージョンを発動!  場か墓地から融合素材に決められたモンスターを除外することで、闇属性、機械族の融合モンスター一体を融合召喚する!!」 諏訪子の墓地から、蛙と悪魔が集う。 「東風谷早苗を含む、10体の機械族モンスターを除外!」 集った機械たちが消えていく。 最後に消えゆく早苗の体の内側から光が登った。 光は諏訪子の背後の地面へと吸い込まれる。 すると、辺りは地響きを奏で、荒野に亀裂が奔る。 地響きは地震となり、地は隆起していく。 その様子に笑みを深めながら、諏訪子は高らかと宣言する。 「ミシャグジさまを融合召喚!!」 地震が収まると諏訪子の背後の地が大きく裂け、中から機械の大蛇の形をした祟り神が現れる。 黒い体は滑らかで一見では本物と何ら変わらない姿をしている。 しかし、それまでの機械の蛇や蛙とは圧倒的に大きさが違った。 大蛇や赤蛙をも容易く飲み込める巨体の先は、未だに地面に埋まり先が見えない。 祟り神は神奈子に向けて咆哮を上げた。 巨大な咆哮に体どころか、それまで持っていた意志まで吹き飛ばされそうな錯覚に陥った。 「ミシャグジさまは融合素材一体につき、1600ポイントの攻守を得る!よって攻撃力は16000!!」 祟り神は依然、神奈子を睨む。 「それだけじゃないわ、ミシャグジさまは相手ターンで数えて二ターンの間、  相手の魔法、罠、モンスター効果を受けない、但し特殊召喚したとき手札を一枚捨てなければ破壊される」 諏訪子は手札を一枚取り、翻す。 「私はパワー・ボンドを捨てる。もう私には必要ないわ」 わずかながら恐怖を浮かべる神奈子。 諏訪子はそれを見つつ、一息ついてから言う。 「さらに、ミシャグジさまの効果発動、サイバー・フロッグ3及び  鎧黒魔神‐サイバー・ダーク・デビルを融合素材としていた場合、その効果を得る!  墓地のサイバー・フロッグ3を装備!攻撃力は19600!!」 祟り神の顔が一度、地面を抉る。 そして掘り出され、空中に投げ出された赤蛙をそのまま飲み込む。 「サイバー・フロッグ3は除外されていなかったの!?」 「忘れたかしら?融合素材の黄泉ガエルはサイバー・フロッグ3として扱われているのよ」 神奈子の顔が歪んだ。 「これで終わりよ、神奈子!バトル、ミシャグジさまのダイレクトアタック!」 祟り神の口が大きく開き、紅蓮の光が収束していく 「トラップ発動、ホーリージャベリン!相手モンスター一体の攻撃力分、私はライフを回復する!」 【神奈子LP100→19700】 「よかったわね、もしドレインシールドだったらミシャグジさまの効果で無効化されてるところよ」 しかし、神奈子の場にカードは無い。 手の打ちようがなかった。 「回復したところで悪いけど、攻撃は受けてもらうわ、エヴォリューション・カース・ブラスト!!」 紅蓮の光線と衝撃波が神奈子を襲う。 大地が焼け、隆起した地面は吹き飛び、爆音は神奈子の悲鳴さえ吹き飛ばした。 【神奈子LP19700→100】 諏訪子はそれを黙って見ていた。 攻撃が終わり、地面に突っ伏した神奈子を目にすると自分のターンを続ける。 「残った手札のすべて、四枚を伏せてターンエンド」 リミッター解除 スピリット・バリア  オーバーウェポン 聞こえてたかも怪しいか。 そう思考する諏訪子は、神奈子のほうへと顔を向ける。 そして驚愕する。 「……異世界なら死んでたわね」 神奈子は既に立ち上がっていた。 一層、傷つきながらもその意志は衰えていなかった。 諏訪子は微笑を浮かべて言う。 「そろそろ終わりにしましょう、神奈子」 「ええ、次でラストターンよ、諏訪子」 諏訪子は思う。 この状況で神奈子が逆転するためのカード。 それを最後のドローで引けるかどうか。 いや、引ける。 それは確信であった。 だが、もしあのモンスターを召喚してきたら。 そのときは……。 「私のターン!」 神奈子は自分を奮い立たせるように宣言する。 「ドロー!!」 きた! そう、二柱は同時に思考した。 「オーバーロード・フュージョンを発動!」 諏訪子は口を閉ざしている。 「墓地のサイバー・スネーク三体とサイバー・ベビーズ、サイバー・エンド・スネークを除外!」 五体の機械蛇が消えゆく。 「キメラテック・フォートレス・スネーク!融合召喚!!」 体がベアリングを連結したかのような機械の大蛇が現れる。 しかし祟り神と比べれば遥かに小さく機械的であった。 「キメラテック・フォートレスは、相手モンスターを攻撃したときダメージ計算を行わない。  そして攻撃に成功したとき、相手に400ポイントのダメージを与える。  このモンスターは融合素材の数だけ攻撃することができる!」 諏訪子は依然、口を閉ざす。 「サイバー・ベビーズの効果で素材は六体、あなたのライフは残り200ポイント、これで終わりよ!」 大蛇は低い声で咆哮を上げた。 だが諏訪子はたじろぐことなく、口を開く。 「神奈子、あなたはそれでいいの?」 「何がかしら?フォートレスの攻撃であなたが負けることかしら?」 諏訪子の顔が険しくなっていく。 数泊置いて諏訪子は続ける。 「あなたはミシャグジさまから逃げ出そうとしている!」 「違うわ、勝利するために最も確実な手段を用いたまでよ」 諏訪子が考えていた中で最悪のシナリオであった。 かつて御することができなかった祟り神。 それを目の前にして、倒そうとしない行為。 神としてのプライドを踏みにじるに等しい行動である。 「もしかして、私を唆すつもりかしら?」 諏訪子の中で何かが弾けた。 「ふざけるな!力の前に逃げ出したあなたに勝利などない!速攻魔法、洩矢の鉄の輪!!」 大蛇の体に幾多の鉄輪が巻かれ、締め付けられる。 苦痛にのたうつも、身動きが取れず呻くに終わる。 「このカードは対象の攻撃、表示形式の変更、生贄、効果を封じる。  対象モンスターが破壊された時、このカードは破壊され、このカードが破壊された時も対象モンスターを破壊する  そして、このカードの対象となっていたモンスターが破壊された時も効果を無効化される。  もう終わりよ……偽りの勝利の幻影と共に消し飛ばしてあげるわ!」 「諏訪子」 神奈子は静かに言う。 呼ばれた諏訪子は、我に返る。 「そう言えば、言い忘れてたね……」 神奈子の顔に意志が帯びる。 「私は……ミシャグジさまを超える!速攻魔法、次元誘爆!!」 さらに力強く、さらに気高く、さらに神々しく。 「融合モンスター一体を融合デッキに戻す!」 残された鉄の輪が爆発し、消える。 「そしてお互いの除外されたモンスターを可能な限り特殊召喚する!」 神奈子の場にはサイバー・スネークが三体とサイバー・ベビーズ、サイバー・エンド・スネークが現れる。 諏訪子の場にはサイバー・フロッグが三体と黄泉ガエルが現れた。 「さらにマジックカード、サイバネティック・ネクスト・ジェネレーションを発動!  墓地のサイバーと名のつくカードを除外し、その数だけデッキからサイバーと名のつくカードを手札に加える。  ただし、次の相手のエンドフェイズに私は手札をすべて除外する。  私はサイバー・ツイン、サイバー・レーザー、サイバー・バリア・スネークを除外し、  サイバー・フェニックスとサイバー・ベビーズ二体をデッキから手札に加える」 神奈子は手札のカードを一枚、手にとる。 そして諏訪子に向けて宣言する。 「マジックカード!パワー・ボンド発動!!」 諏訪子が捨てた究極の力の源を。 「手札と場には五体ずつ機械族モンスターがいる。さらにサイバー・ベビーズ三体の効果を使用!  よって、サイバー・スネークを含む合計13体のモンスターを墓地へ送る!!」 機械の蛇が集い、融合していく。 「キメラテック・オーバー・スネークを融合召喚!!」 神奈子の背後の地面から、首のない太い胴体と尾の蛇が現れる。 見ていると胴体の穴から機械の首が生えてくる。 首の数は13本。 禍々しい姿の大蛇は、遥かに巨大な祟り神にも臆することなく咆哮を上げる。 神奈子の強い意志を感じ取ったかのように。 「キメラテック・オーバー・スネークの攻守は融合素材一体につき800ポイント上昇、  さらにパワー・ボンドの効果により攻撃力は二倍となる!よって攻撃力は20800!!」 「ミシャグジさまの攻撃力19600を上回った……」 諏訪子は複雑な心境であった。 だが敗北への恐怖よりも神奈子が立ち向かってきた喜びのほうが勝っているのは事実であった。 「バトル!ミシャグジさまに攻撃!!」 「迎撃よ!キメラテック・オーバー・スネークを破壊しなさい!!」 13個の口には青い光が、大きな口には紅蓮の光が収束する。 「エヴォリューション・リザルト・バースト!!」 「エヴォリューション・カース・ブラスト!!」 青い光線が束となり、太く赤い光線と衝突する。 諏訪子の伏せカードが発動した。 「速攻魔法、オーバーウェポンを発動!装備カードを選択し、その装備カードによる攻撃力、守備力の上昇を二倍にする!  但し、このカードを発動したエンドフェイズに装備カードは破壊される。  サイバー・フロッグ3を装備することによる攻撃力上昇値を倍にする!よって攻撃力は23200となる!」 祟り神の赤い光線が大蛇を飲み込まんと躍進する。 「速攻魔法、パスト・マジックを発動!このカードは墓地の通常マジックを五種類除外することで、  墓地から速攻魔法を一枚、発動することができる!  私は、魔法石の採掘、天よりの宝札、強欲な壺、融合、パワーボンドを除外する!」 狙いは同じ。 互いにそれを感じた二柱は同時に宣言する。 「速攻魔法!リミッター解除!!」 「速攻魔法!リミッター解除!!」 同時に発動した魔法。 機械族の攻撃力を倍にする切り札。 「これでミシャグジさまの攻撃力は46400、対するキメラテック・オーバー・スネークは41600。  神奈子、あなたはよく頑張った。だけどここまでよ」 「そうはいかない。言ったはずよ!私はミシャグジさまを超える!!」 神奈子は最後の手札を裏側で顔の高さまで掲げる。 「ミシャグジさまには魔法も罠もモンスター効果を通用しない」 「わかってる、だからこのカードを発動する!速攻魔法、サイクロン!!」 「サイクロン……」 「そう、二つのリミッター解除にチェーンすることで、攻撃力が二倍になる前に処理を行う」 神奈子は祟り神を指差し、宣言する。 「破壊するのはミシャグジさま!……その中に装備されたサイバー・フロッグ3!!」 竜巻が祟り神の喉元を貫く。 中では赤蛙の鳴き声だけが響いた。 「そう……」 諏訪子は呟く。 サイバー・ダーク・デビルの効果を得たミシャグジさまは装備カードを破壊することで戦闘破壊を免れる。 真の意味でミシャグジさまを倒すには、装備カードを破壊する必要があった。 手を打ってくるのは容易に想像できたはずであった。 諏訪子は己の失策を呪った。 「リミッター解除の効果を処理、キメラテック・オーバー・スネークの攻撃力は41600」 「サイバー・フロッグ3の装備とオーバーウェポンが無効だから、ミシャグジさまの攻撃力は39200。  そう、それでこそ八坂神奈子。ミシャグジさまを超えるに相応しい力……」 青い光が祟り神を貫く。 黒き体は次々に連爆し、周囲の蛙を巻き込み、爆発していく。 そして収まったかと思うと、強い光を発しながら、粉々に爆砕していった。 光と粉塵にしばらく視界が奪われる。 すべての力を使い果たしたかのように、神奈子は背を曲げながら立っている。 「これで諏訪子のライフはゼロ……」 呟いて驚愕する。 諏訪子の場にカードが一枚残っていた。 攻撃が終了する前に発動されたトラップカード 「スピリットバリア……モンスターがいる限り戦闘ダメージをゼロにするトラップ」 思わず膝をつく。 「ふ、ふふふ……流石諏訪子、まさかミシャグジさまが破壊されることまで想定内とは思わなかった。  私はパワー・ボンドをリスクを負って敗北。結局勝てなかった、情けない……」 粉塵の中から諏訪子が姿を現す。 神奈子に負けず劣らず、ぼろぼろの体をなんとか立たせていた。 空ろな目で小さな声を発する。 「いいえ、神奈子。あなたは負けてなんかいないわ。  あなたは見事にミシャグジさまを倒して見せたじゃない。」 諏訪子も膝をつく。 「……ミシャグジさまは強大な力、そしてリスクもまた強大なのよ  このカードがフィールドを離れたエンドフェイズ時、私はこのカードが相手に与えた戦闘ダメージだけダメージを受ける……」 「諏訪子、それって」 諏訪子は力ない笑みを浮かべて続ける。 「スピリットバリアは保険でしかなかった。サイバー・エンドで他のモンスターを攻撃されたりした場合のね。  私はあなたに逃げるなと言いながら、あなたが逃げないと確信できなかった。……信じられなかった。  結局、私の引いた布陣はあなたがミシャグジさまから逃げても確実に勝てるものだった。  きっと、どこかで期待していたのかもしれない。あなたが逃げることを。私と同じように……」 神奈子は諏訪子に向き直って言う。 「……私は逃げない。それはプライドが許さない。私は、八坂神奈子……それは神の名よ」 その言葉からは力強さ、気高さ、神々しさ、すべてが感じられた。 それでいい。 その気概があれば、あなたは大丈夫。 あなたは力を持って信仰を得る。 本物の神様よ。 諏訪子は敢えて言葉にしなかった。 恐らく出す必要は無かっただろう。 13本の首を持つ大蛇が消えゆく。 諏訪子と神奈子の意識が途切れる。 二人はゆっくりと眠るように。 その身を大地へ預けた。 【神奈子LP100→0】 【諏訪子LP200→0】 その後、二柱は早苗によって神社へと戻された。 デュエルが終わったことで、除外された早苗の意識は神社の本体へと戻っていた。 そして大体の場所を覚えていた早苗は、記憶を頼りに二柱を見つけることができた。 二柱は一晩で多少体を痛めた程度で済んだが、早苗には丸一日、口を聞いてもらえなかった。 そうして数日が過ぎ去った。 「そう言えば」 早苗の言葉にテレビを見ていた二柱は首だけ向ける。 「お二人がいた荒野は三百年ほど草木が生えてないそうですけど、  最近、急に草木が生え出して、湖もできたそうですよ。  地元の人妖は驚喜してるそうですけど……何かされたのですか?」 心当たりは大いに合った。 原因としては、地震と隆起による地殻変動、ミシャグジさまの爆発によるエネルギーの散布辺りか。 神奈子は諏訪子に目を向ける。 早苗も釣られて諏訪子を見る。 「……まぁ、喜んでるなら問題ないわよ」 諏訪子は二人から目を逸らし、テレビに向けて言う。 「あ、三沢君」 「え、どこどこ?」 神奈子がテレビを覗く。 「一瞬だったわね」 「それにしても二十代ってかなりウザいわね」 「超融合とか言うけど、きっと中身が違うのよ」 その後も他愛の無い会話が続いた。 少ししたら夕食を取って一日が終わるのだろう。 しばらくはそれでいい、早苗も立ち直ったし、またショックを与える必要もない。 何より疲れた。 あんなにも興奮するのは、向こう数年は懲り懲りであった。 次からはのんびり弾幕ごっこでもしようと二柱は考えていた。 今日の最強カード! 東風谷早苗 光属性のレベル8、魔法使い族。 攻撃力は2800、守備力は2100。 このカードは特殊召喚できない。 このカードは機械族としても扱う。 攻撃力を1000ポイント下げることで、 相手の効果を無効にして相手の攻撃力を元々の攻撃力に戻すことができる。