ここは妖怪の山の奥深く。 普段なら天狗共がそのへんをびゅんびゅん飛び回っているはずのところである。 ところが今は天狗が一匹たりといない。 いないというか意図的にこの付近へくるのを避けているようだった。 哨戒任務にあたる下っ端の白狼天狗ですらもだ。 なぜか。何かあったのだろうか。 いや何か「あった」のではなく何か「居た」のだ。 では何が?天狗が恐れるほどの「何か」とは一体どんなモノだろう。 ガサリ。 「いつきても陰気なところね・・・。陰気な上にみんな私を避けてるもんだから余計に陰気だわ。」 ヴィヴィッドな緑髪にこれまたヴィヴィッドなオレンジ色の服を身につけ、さらに「陰気だ」と言っておきながら日傘を差している「何か」が木の陰から現れた。 「私が何かしたかしら?散歩してるだけなのにな・・・」 とつまらなそうに言いながら彼女―幻想郷最凶の妖怪、四季のフラワーマスター、風見幽香―は朽ち果てかけている倒木に腰掛けた。 するとどうだろう、彼女の腰掛けた周りが華やかな花々に彩られたではないか。 「若いころに調子にのって人間や他の妖怪をいじめすぎたのかしらね・・・」 と彼女は自身の能力で咲かせた花に寂しげに語りかけた。 ガサッ!ガサガサ! 「!」 唐突に何かが幽香の前に飛び出してきた。 「これは・・・なに・・・?やけにたくましいけど・・・」              ,. -- 、                 ,' , '⌒,ノ               __ i/  ´              (__)r'      !!!!!           ( ヽノ                ノ>ノ                  レレ      本当に一体なんなのだろう。 しかしそのコミカルな動きは見るものの心を和ませる程度の力をもっていた。 「うふふふふ・・・可愛らしいわね。こっちへいらっしゃい。って言ってもわからないか・・・。」 幽香がそう言うとそのたくましい生き物は幽香のもとにやってきた。 「あらあなた、言葉がわかるの?たくましくて、可愛くて、それに頭もいいなんて・・・」 幽香は子供に接するようにたくましい生き物を褒めた。 そして小さくよし!と言うと 「わたくしと友達になっていただけませんか?」 と問うた。 たくましい生き物は上半身(仮にそう呼称する)を大きく前後に振った。 どうやらYES!YES!YES!“Oh my god”ということらしい。 「じゃああなたと私はこれから友達ね。私は風見幽香。あなたはなんと呼べばいいのかしら?」 幽香に楽しげに問われ、たくましい生き物は戸惑っているようだった。 いくら頭がよかろうと発声器官がなければコミュニケーションは取れない。 なんで声は聞こえるのかとか言うのは野暮だ。 急にたくましい生き物はどこかへと駆けていった。 「あらあらどこへ行ってしまうの?」 と幽香が呼び止めても止まらずにどこかへ消えてしまった。 「なぜどこかへ行ってしまったのかしら・・・」 と残念そうに土いじりを始めた幽香であった。 5分ぐらい経った。 またガサガサガサと草を掻き分ける音が聞こえた。 幽香がそちらへ視線をやると先ほどのたくましい生物が居た。 文々。新聞を背負っている。 その新聞をばさりと幽香の足元に広げると、土でしるしをつけ始めた。 しるしの付いた場所の文字を読むと 「た」 「く」 「ま」 「し」 「い」 「な」 「w」 とあった。 どうやらそのたくましい生き物の名前らしい。 「うふふ。名前どおりなのね。たくましいなw・・・把握したわ。」 戻ってきた嬉しさと名前のわかった嬉しさからか、いつしか幽香は「強者特有の笑顔」ではない本物の笑顔を取り戻していた。 彼女と「たくましいなw」との友情は、その出来事から数十年経った今でも損なわれていない。