「また、霧の湖まで流されてきたの?あなたも懲りないわね」

「たはぁぁ〜〜、面目ない」

まったく、この河童は何を考えているのだろうか。
諺に「河童の川流れ」という言葉はあるが、それは河童もたまには溺れるという意味である。
決してしょっちゅう溺れるなんて意味ではない。弘法が筆を誤まるのは希なのだ。

「この辺りは、ちょくちょく釣り好きの人間が来るから気をつけなさい。河童は戦いが得意な種じゃないんだから」

「いやいや、幽香さん。人間は我ら河童の盟友ですよ。危ないことなんでありませんから」

……見かけたら逃げるくせに………ん?

「そうよね、にとりと人間は盟友だもんね。じゃあ遊びに行きましょうか(笑顔)」

「あぁ、いいですねー。ちょっと発明品が爆発して帰りづらかったんですよ。で、どこにいきますか?」

「人里(はぁと)」

「ははっいいですねー人里ですか……人里?!」

驚くのも無理はない。にとりは人間好きだが、その実ほとんど人間と会話した事もないのだ。
怪しい発明品で身を隠しつつ観察しているので、生活様式は把握しているようだが。

「そう、人里。盟友なら正面から堂々と入れるわよね〜(はぁと)」

にとりは引きつった笑顔で首を縦に振る。 むしろ振らせた。
そう!そのぎこちない笑みと涙目!!弄り甲斐があって最高!


「ゆ、幽香さぁ〜ん。昼間から堂々と大通りなんて…」

「いいじゃない、大通り。人間ウォッチングには最適でしょう?」
勿論、にとりが戦々恐々としていることは解っているし、人間が逆にこちらをウォッチングしている事も解っている。
私に対しては畏怖を覚えているのだろう(稗田家の本にも載ったし)。にとりに対しては……

「ねぇ、にとり。貴女モテるみたいね」

「な、何をいうだぁーー!!」

人里では見慣れない服装であることを除けば、にとりは人間と見分けるのが難しい部類だろう。
そして、人間の視点から見れば「求聞史紀に劇ヤバと記された妖怪」が「恐怖に慄いた涙目の美少女」を強引に引っ張っているのだ。
これが注目を集めないわけがない。 にとりがビクついてるのは私じゃなくって、注目してくる人間だけどね(確信犯)

外の世界では幻想になった「自称:美少女を助けようと颯爽と現われる戦士」を軽くブチのめしたら、ワーハクタクがあわてて仲裁に入ったり、霧雨店でにとりが思わず商品をバラバラにしてしまったりしたものの、概ね平和に里を散歩したのだ。

そして、最後の仕上げはカフェテラス。新聞を斜め読みながら、一息つく。

「どう?こういう堂々とした観察も悪くないでしょ?」

「は、はい! 凄くドキドキしましたけど…」

――いけないいけない。
そんな上目遣いで顔を赤らめながらモジモジしないでよ。加減を忘れて弄り倒しちゃうでしょう?

そうやって談笑していると「あ、幽香じゃないですか!」と声をかけられた。

「あら、文じゃない。どうしたのこんな所で」

「て、天狗様っ?!」

「あ、こんなところに河童発見。 っと、私がここに来る用事はコレだけですよ。この喫茶店は新聞置いてくれるんで」

「あら、ここの紅茶は美味しいのに。勿体ないわ。求聞史紀に文の新聞の切抜きを載せてくれた、あの阿礼乙女もここの紅茶は絶品だって言ってたわよ」

「私はお茶よりお酒の方がいいです」

「あぁ、駆け付け三升だっけ?」

「酷い言われようです …ところで」

文がにとりに向き直り、スッと目を細める。

「…この河童、どうしたんです?」

「あ、いや、その天狗様、これは――」

「――あぁ、別に記事になる内容じゃないわ。私が面白半分に人里の中を連れまわしたのよ」

「え、幽香が………? えっと…それはつまりデートですかっ!!」

ブーーーーーーーーーーーーーーーっ!! ×2

「わっ!!ふ、二人揃って噴かないで下さい!!」

「わわっ!! 私ったら天狗様にトンでもないことをっ!!すいませんすいませんっ!!」
「げほっ… と、突拍子もないことを言わないでよ」

「……違うんですか?  よかったぁ(ぼそっ)」

「まったく、文は早とちりね。こいつは……」

友達、というのには何となく抵抗がある。どちらかというと…

「……すっげぇ弄りがいのある妹分、かしらね?」

「い、妹だなんてそんな(モジモジ)」「妹…肉親…(ブツブツ)」

ん?何か二人とも様子がおかしい?

「何か変だった?」

「い、いえとっても嬉しいですよ?!」「な、何でもありませんよっ!!」

ふぅむ? 何か引っかかるけどまぁいいか。

「それにしても、幽香の妹分ですか〜 可愛いですね〜(抱きっ)」
「ひゃあ!て、天狗様?!」

ま、文もにとりも仲良くやっているみたいだし。今度はみんなで暇潰しでもしようか

「(オイコラてめぇ、この河童。私のゆうかりんに手ぇ出してんじゃねぇ。ブチ殺すぞ)」
「(??!!て、天狗様ァ?!お、お助けぇ〜〜)」

「ん?文、にとりを弄っちゃダメよ。何を言ったか知らないけど、怯えてるじゃない」

「いやー、ちょっと萃香との飲み会に誘ってみただけ。そうですよねーにとり!!」
「も、もちろんそうですよのみかいです。てんぐさまとおにののみかいだなんてこうえいです」

「そんな酒豪に囲まれたら私だって潰れちゃうわ。にとりがビビり過ぎて棒読みになってるじゃないの。にとりを弄っていいのは私だけなんだから」

「ちょっとした冗談ですよー、そんな事しないですって(この河童……ブチ殺す)」
「あ、私発明品直さないといけないからそろそろ帰らないとっ!!(やばい…物凄く…やばいぜ…逃げろっ!!)」

「残念ね。 まぁ引っ張りまわしたのは私だし、山まで送るわ」

「いいいいいいえいえいえいえ!!ひ、一人で帰れますからっ(申し出を受けたら間違いなく天狗様に殺されるっ!)」

「私も残念です。また今度機会があれば、遊びましょう?(いい判断よ河童!とっとと帰れっ!)」

妙に慌しくにとりが帰ると、文に強引に酒場へと連れ込まれてしまった。

「文?……駆け付け三樽は飲みすぎよ」

「これが飲まずにいられるか〜〜〜〜〜っ!!」