あら、今更この私に説明させようって云うのかしら?  そんな必要は無くってよ。だって、私ことレミリア・スカーレットはヴァンパイアなんですもの。  ――そうそう、ヴァンパイアだから吸血鬼業で生計を立てて……って、んな職業あるかぁっ!!  よろしくって? 私は優雅で華麗な貴族なのよ、き・ぞ・く! だってホラ、おっきな御屋敷で沢 山の使用人達に傅かれて贅沢三昧に暮らしているんですもの。  なによ、それだけじゃ説得力に乏しいですって? まったく、乏しいのは貴方達の教養だわ。いい こと、何度も言うけど私はヴァンパイアなのよ、ヴ ァ ン パ イ ア(はぁと)。  幾らオツムの足りない貴方達にでも判るでしょう? そう、ヴァンパイアと言えば圧倒的なパワー を有する気高き夜の支配者……つまり、無条件で『貴族』ってワケなのよ。おーっほほほほほほ!  はぃ? 元々はスラブの農村伝承なんだからそんなわけあるかぃ……ですってぇ!?  うっさいだまれ! そんな無駄な教養をひけらかすバカチン共は――咲夜ぁ、さくやぁー!  このウスラトンカチ共をボッコボコのケッチョンケチョンのギッタンギタンにしてやんなさいっ!  〜少女いろいろ実行中〜 コホン。  さて。そう言ったワケで存在そのものが高貴である我等ヴァンパイア。――でもね、その中にあっ ても特にスカーレット家は特別な存在だったりするわけなのよ。だって…… 「だぁって〜、スカーレットはヴァンパイアのロードなんですものぉ〜♪(歌劇調)」  深紅の瞳にキラキラと星を宿し、謁見室の大階段(26段)を華やかに舞い踊りながら参上する。 OK、今日も完璧だわ。圧倒的身体能力による軽やかなステップと背筋も凍るような美貌に、誰もが 畏敬の念を抱くこと間違いなし。 「えーっと、『吸血鬼の道』?」  田舎育ちのリビングデッドが、単身飛び込んだ都会で幾多の困難を乗り越えて、いっぱしのヴァン パイアに成長するまでを画いた、愛と涙と笑いと恐怖の感動サクセスストーリー。  ――違う。 「あのね。RoadじゃなくてLordなの。そこんトコ間違えないよーに」  ミュージカル仕立てにすると面白そうだけど、誤った解釈は嫌なので訂正させる。 「あー。つまりトノサマキュウケツキね?」 「解釈として間違いではないけど、カエルやバッタみたいな感じで頂けないわね。……ところで貴方 は誰かしら? パチェ、説明してちょうだ――いっ!?」  ここで大きな異変に気付く。客人を私の元に案内するのは本来メイド長か麾下の親衛メイドの役目。 門番長が直接来る事もあるけど、今回やって来たのは客分にして無二の親友『動けない大図書館』の パチュリー・ノーレッジ。  表向きは『動かない』とか称しているけど、実際は『動けない』のよ。この貧弱魔女は……。  そんな彼女がわざわざ客人を案内してくるなんて、珍しいどころの騒ぎではない。天変地異の前触 れか、はたまた幻想郷終焉の訪れか。本日の運命にそんな予定は無かったけどなぁ……。 「え? あれ? ちょっと、何でパチェ? 咲夜はどうしたの? 美鈴は?」 「咲夜達ならレミィの勅命で出払ってるじゃない。スカーレット家の沽券に関わる問題だって、ほぼ 総動員」  私も友の為、って事で一緒に行きたかったけどねぇ……と何故か愚痴りながら彼女は答える。 「でも、だからって小悪魔とかは残ってるんでしょ? なにもパチェが直々に案内役を務める必要は 無いんじゃないかしら……」  そう言いながら客人へと視線を移す。  ふわふわとした金髪に大きなリボン、見た目だけなら私と同じくらいの背格好。どことなく雰囲気 がパチェっぽい少女。人間じゃなさそうだけど、それほど強力な気配も感じないし、実に牧歌的(悪 く言えば田舎者)で、パチェが案内を買って出るような奴には見えないけど……。  私の視線に気付いたのか、彼女はスカートをちょこんと摘んで膝を屈める。 「初めまして吸血鬼さん。私はエレン。エレン・ふわふわ頭・オーレウス。魔法屋ですわ」 「(ふわふわ頭?)レミリア・スカーレットよ。我が紅魔館にようこそ」  魔法屋……ああ、魔女か。それでパチェっぽい雰囲気がしたのね。それに何処かの魔法屋と違って、 一通りの礼儀は弁えているみたいだし。世渡り上手な魔女って珍しいわね。 「それで、魔法屋さんが何の用かしら? ご覧の通りウチは魔法関係なら充分間に合ってるわ」  その魔法担当はさっきからソワソワとやけに落ち着きが無いんだけど。そう言えばさっきも咲夜達 と出かけたがってたみたいだし。……はて? 「本日は新装開店のお知らせに寄らせて頂いたのです。そしたらこちらの御屋敷でパチュリーがご厄 介になってると聞いたものですから、御主人さんに御挨拶をと思いまして」 「そりゃまたどーもご丁寧に――」  と、ここでパチェが割って入る。 「エレンおばさまは私の遠縁にあたるのよ」  あ、なーる。パチェの知り合い、ましてや親戚なら居心地も悪くなるわねぇ……って、 「――なんですって!?」  思わず宝塚口調で問い返す。いたんだ、親戚が……。魔女って木の股から湧いて出てくるんじゃな かったんだ。今日は色々とびっくりよ。 「……まぁ、話せば少し長くなるわ」  パチェはいつもより若干暗い表情(長いこと付き合ってる私か小悪魔でないと判らない程度の)を 浮かべ、ボソボソとこれまでの経緯を話し始めた。