実に今更な話だけど、私、博麗霊夢は巫女なのよ。  巫女であるから神社業(?)を営み、必然的に食い扶持なんかもそこから得ているのだ。  しかしながらここ数年『参拝客』なる存在をそれこそ拝んだことがなく、素敵な賽銭箱はもちろん、 一応用意してある御神籤,御守り,絵馬などの縁起物も埃をかぶって久しい。  だからといって全く収入が無いわけじゃない。里や街で行われる棟上げ式や感謝祭等での祈祷料や、 妖怪退治の謝礼や略奪……もとい、戦利品など、外回りの営業収入がそれなりにある。  そもそも神社には私が1人で住んでいるだけだから、私1人が慎ましく暮らしていけるだけの蓄え があれば十分なのだ。それをあの連中が勝手にやってきて、勝手に食い散らかすのがいけない。1人 分を大勢で食べれば直ぐに底を尽くのも当然で、それをして『貧窮している』だの言われるのはお門 違いもいいところだ。  ついでに言わせて貰えば、だだっ広い境内の掃除に結界の見廻り点検等々、やってることは実に多 い。ただ、日常生活の一環として定着しちゃってるから『退屈ねえ』と零すが、それは言葉のあやに すぎない。  つまり、何が言いたいかと言うと――  周りの連中から言われるほど貧乏してなけりゃ暇でもないっつーの!!  ――って、なにを虚しい独白かましてんだろ。疲れてるのかな? あーあ、さっさと見廻り終わら せて、お茶でも飲んでリフレッシュしようっと。  さて、この前は北側を廻ったし、今日はなんとなく東側を廻ってみたい気分ね。  神社の東側は開けた草地になっている。陽当たりも風通しも良好なためか『陽』の気がひときわ強 く、いわゆる妖怪が立ち入ることはほとんど無い。その代わりと言っちゃなんだけど、妖精とか人間 とかは結構頻繁に立ち入ったりする。  ただ単に遊びに入るだけなら見廻りをする必要も無いのだけれど、例えば社殿寄りにある――気が つくと勝手に建てられていて勝手に商売されていた――あの建築物。お店自体は3ヶ月位で畳まれて 今は建物だけが残されているが、こういった物あるため見廻りを疎かにはできない。  建物が邪魔だったら撤去すれば良いじゃない? ……と思うかもしれない。ところがどっこい、畳 まれてからすぐに『何か残ってないかしら?』と魔理沙と家捜ししようとしたら、結界だか封印に阻 まれて近付くことすらできなかったの。結界のエキスパートを自負するこの私がよ?  そんで業を煮やした魔理沙がマスタースパークをぶち込んだんだけど、驚いたことになんと無傷。 結局その場は『どーせたいした物なんか残ってないに違いない』と諦めて、持ち主が戻ってくるのを 待ち続けて今日に至るってわけ。  尤も、私が待ち続けるのは建物を撤去させる為なんかじゃない。建物が神社の境内に有るという事 実が重要なのだ。  どうしてかって? そりゃあもちろん――  ――ガコン、ゴトン。ゴルァーーーッ。 「うひゃーっ、すっごい数の毛玉ぁ!!」  むむっ!? 噂をすればなんとやら。例の建物から人の気配を察知すると、私は魔理沙もビックリ の速度で現場へと急行したのだった。 「うーん。ちょっと留守にしただけで、どこからあんなに湧いたのかしらねー?」 「にゃにゃーん」  建物にはふわふわの金髪少女(私より少し若いくらい……か?)が、猫相手に愚痴をこぼしながら 溜まった埃や煤や毛玉なんかを払い落としていた。  嗚呼、此奴だコイツ。以前、ウチの境内に現れた『謎の遺跡入場権利争奪戦』で、巫女である私を 踏み台にしやがった魔女に相違ない。あの時はメルトダウンしかけたり、ICBMの襲来を受けたり、 逮捕拉致監禁されたり、騒霊が引っ越して来たり、永遠に満月だったりと散々な目にあったっけ。  件の魔女からは弾幕ごっこ以外の直接的被害は受けていないけど、後に続いた不幸は総てコイツの 所為に違いないのだ。 「みぃ〜つぅ〜けぇ〜たぁ〜わ〜よぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 「ひぃっ!? って、あらまあ、お客さん? 残念だけどまだオープンしてないのー」  歓喜と怨嗟の入り交じった雄叫びに相手は一瞬怯んだものの、すぐ営業用の笑顔を浮かべて切り返 してくる。流石は魔女。やっぱり一筋縄ではいかない。扉越しの蒟蒻問答の末、手痛い敗退を喫した 前回の記憶が蘇る。あの時は始終相手のペースに呑まれ、お客と間違え続けられたのが敗因だ。  しかーし、今回は直接顔を会わせた状態で、イニシアチブもこちらが握っている。    今日は勝てる。絶対に!!  勝機を得た私は一瞬で間合いを詰めると、左手で魔女の右腕をガッチリと掴んだ。相手の利き腕を 封じ、最悪でも逃走を図れないよう固定するためだ。次に何が起こったのかを理解される前に、掌を 上にした右手(いわゆる抜き手)を魔女の鼻っ面に叩き込む様に突きつける。いつでも急所を狙える 様に、そして何よりも要求をより判りやすくアピールするために……。  魔女の笑みが引きつったものへと変わった瞬間、勝敗は決した。私は勝利の女神に負けない位のと びっきりの微笑み浮かべると、一切の反論を許さないドスを利かせた声で宣言する。 「所 場 代 を 払 い な さ い っ ! !」  私と魔女の間に沈黙と緊張が走る。やがて魔女は自分が置かれた立場を理解したのか、若干戸惑い ながらも口を開いた。 「えーっと、地主……さん?」  ――私が粘り強く待ち続けた理由。それはもちろん、貴重な収入源に他ならないからである。