!月×日 調査を開始して数日、どうやらあの件には、スキマ妖怪が深くかかわっている様子。 まああの怪しいメモから予想はついたことだけど。 とはいえ彼女に聞いたところですっとぼけられるのは確実。 それよりも事件の起こった日から、急にアリスさんと親しくなったメルランさん。 彼女ならなにか知っているはず。 そう思った私は彼女の家を訪ねました。 結果は惨敗、全然口を割りそうにありません。 「今は友達なんだしそれでいいんじゃない」の一点張りです。 どうにも証言から事実を知るのは難しそう。 でも過去の事実そのものを変えることはできません。 つまり私の記憶を掘り起こせば真実は見つかるはず。 幸いつてもありますし、明日は永遠亭を訪ねてみようと思います。 !月▽日 てゐさんに頼み込んで永遠亭から丸薬を手に入れました。 過去の思い出が夢として出てくる丸薬です。 とはいえ夢に見る時刻が指定できるほど、便利なものではありません。 ある程度の期間を絞ることはできるらしいんですけど。 まあこれから毎日飲めば、いつかは目的の場面に遭遇できるはずです。 !月∵日 最近見る夢は悪夢ばかり、過去の事実とはいえスキマ妖怪が憎いです。 !月▲日 最悪です。 知るんじゃなかった。でも知らずにはいられなかった。 この事実を知った上で、アリスさんのそばにいることなんて出来ない。 絶望にくれて朝から晩までずっと泣き通していました。 いい加減泣き疲れそうなものなのに、涙って止まらないものなのね、と思っていたら、 いきなり家の扉が蹴破られました。 眼を上げるとそこにはメルランさんの姿が。 何しにきたのかと問えば、「笑わせにきた」との返事。 何言ってるんでしょうかこの人は、人生で一番つらい真実を知ったのに笑えるわけないじゃないですか。 そういって帰ってもらおうとしても、「私はラフメイカーだから」と帰ってくれません。 悪質な押し売りでしょうか。私はあきらめて一人泣き続けました。 目の前のメルランさんは陽気な音楽を鳴らしたり、 愉快なトークを繰り広げていたような気もしますが、覚えてません。 どれくらいの時がすぎたのでしょうか。 いつの間にかメルランさんの話し声が消え、ひっくひっくという声が聞こえてきました。 顔をあげるとメルランさんが泣いています。 どうして泣くのかと問えば「文が泣いているから」との答え。 「わけが分かりません」私がそう苦笑いして答えると、「文が笑った」と笑うんですよ、 泣きすぎてぐちゃぐちゃになった顔で。 その顔があんまりおかしくって、今度はほんとに笑ってしまいました。 そうすると膨れっ面になって怒るんですが、やっぱりその顔もおかしくて仕方ない。 笑って、笑って、笑い尽くして、最後にはメルランさんの胸でわんわん泣きました。 いままでの泣き方とは訳が違います。号泣という奴でしょうか。 あんな泣き方、一人ですればきっと壊れてしまいます。でも受け止めてくれる人がいれば大丈夫。 泣いて、泣いて、泣きつくして、私はそのままメルランさんの胸で眠ってしまいました。 正直なところメルランさんはうっとおしくて仕方ありませんでした。 私一人にしておいて欲しかった。 馬鹿ですね。あのまま一人で絶望感に浸り続けていたかと思うとぞっとします。 本当に感謝してます。流石はラフメイカーですね。 なんだか手紙みたいになってますが、この日記は実はあなたへの手紙でもあります。 私は幻想郷を出ようと思います。 やはり自分がアリスさんにしたことは許せません。彼女も私を見るたび、あのときの光景を思い出してはつらいでしょう。 別に自暴自棄になったわけではありません。外の世界に興味もありますしね。 本当はなんの記録も残さず出て行くつもりでしたが、誰かに私のことを覚えていて欲しくなりました。 勝手なことですが、この日記を預かっていただけないでしょうか。 追記 コンサートいけなくて残念でした。きっと素晴らしい記事がかけたと思うのに。悔しいです。 !月▲日 神社に入りびったっていたら、遠くから莫大な妖気が接近してきたので主従の境界を元に戻した。 さすがにアレを藍に任せるのはまずいものね。 夜の闇を貫いて、天狗が目の前に降り立ったのは、妖気を感じて数秒後のことかしら。流石は幻想郷最速。 どうやってここにいるのを探り当てたのやらと思っていると、 「幻想郷から出して欲しい」と突然切り出してきた。 事情をきくとアリスにしたことが許せないんだそうだ。 なにも幻想郷を出なくても、アリスの記憶をなくせばいいんじゃないと提案したら、 事実を捻じ曲げるのは、ジャーナリストのプライドが許さないんだそうだ。頭が固いんだから。 天狗の要求に「嫌よ、面倒くさいから」と答えたらいきなり襲い掛かってきた。 ちからづくでも要求を飲ませようという考えみたい。 本気の天狗のスピードは流石に洒落にならなかったけど、天狗最大の武器である冷静さは無くしていたみたい。 境内はぼろぼろになったものの、どうにか気絶させることに成功。 とはいえどうしたものかしら、このままじゃ私が完全に悪役になっちゃうじゃない。 困っていると騒霊姉妹の次女(メルランだったかしら)がやってきた、どうやら天狗を探していたらしい。 さっきのことを説明すると、メルランが面白い提案をしてきた。 早速スキマ経由で目的地に送り届けてやる。 あの頑固者もこういう攻めには弱いはずでしょうし、どうにかなりそうでよかった、よかった。 流石にもう眠いんで床に就くことにしましょう。 ……何か忘れているような気がするのは気のせいか(ここより先は書かれていない) !月■日 日も昇らない早朝、いきなりメルランが体の上に落ちてきた。 スキマ妖怪の仕業らしい。悶絶する私にいきなり頭を下げてお願いをしてくるメルラン。 正直訳がわからない。メルランに事情を聞くと、またスキマが原因で騒動がおこったらしい。 メルランのお願いとは、それを解決するためにある日の歴史を食ってほしいということだった。 私は人間の味方であり妖怪の味方ではない。 みだりに歴史に干渉しもしないし、脅しにも屈しない。 でもなあ……泣き落としは反則だと思う。 友を案じる気持ちに人間も妖怪も無い。 その日の歴史を喰うと、それに深く関わった三人の、それぞれに関する記憶が無くなってしまう。 このことをメルランに伝えても 「友達が笑えるならそれでいい、記憶ならこれから積み上げられるから」と答えてくる。 ここまで言われては仕方が無かった。 あんまり変なの喰いたくなかったんだがなあ。 !月☆日 今日は人里にお出かけした。 いろんなお店を回っていたら、広場で人形劇が開かれてた。 とっても楽しそうな人形劇だったので、バックミュージック代わりにトランペットを吹いたら、人形使いもこちらに合わせてくれた。 初めてするはずなのに、不思議なくらい息がぴったり。盛り上がる観客に、気分も最高! あんまり楽しかったんで、人形劇が終わった後カフェでおしゃべり。アリスっていうんだって、可愛い名前よね。 話は尽きることが無くて、あっというまに時間が過ぎて、帰る時間になっちゃった。 席を立とうとしたら天狗の人がやってきて、今日の人形劇についてインタビューされた。 これからコンビでやっていくんですかって。 それも面白いけど、今度はもっと大勢でやりたいな、きっと楽しいからっていったら、 「プリズムリバー三姉妹とアリス・マーガトロイドの人形劇!これは大スクープですよ」とさけんで、とんでっちゃった。 アリスは困った顔をしてたけど、きっと素晴らしいコンサートになると思うな。 早速姉さんに提案してみようっと。