二次設定バリバリだが ある日、美鈴が湖上に光る何かを発見した。 どうせガラクタか何かだろうかとも思ったがどうも気になる。 今は白黒も妖精も来ていない、調べるなら今とばかりに手を伸ばす。 湖の水がひやりとして、その物体への感覚を鈍らせる。 持ち上げてみるとそれは小さな壺のようなもので、随分と滑稽な文様が施されていた。 「変な壺・・・だけど、綺麗な色ね」水と金の装飾が太陽光に反射して七色を形成している。 「お褒め頂き有難う」 不思議な重低音が耳に入る。人の気配は無い、 「美しいお嬢さん、感謝しています」 再び、まただ、何の、何処から聞こえる音なのか? 壺が怪しい煙を立てているのに気付いたのはその数秒後の事であった。 いつの間にやら壺はひとりでに空中浮遊しており、 中からは霧で出来た巨人が腕組をしつつ美鈴を見下ろしていた。 美鈴は唖然と口を開いている。唖然とか呆然と言う形容句が似合いそうだ。 「私は霧の巨人、人呼んで霧の魔人とは私のことです」 「は、は?」 「怖がらなくても大丈夫です、私は他人に危害を与えたりはしませんから」 一見は恐ろしい大男であった。しかし、物腰の丁寧さに美鈴も少しずつ冷静さを取り戻していく 「あ、あの、その霧の巨人さんが一体何の御用でしょうか?」 「ははは、巨人が壺から出てきて何の御用とはご冗談を」 美鈴は少々考えた後、このパターンはもしや・・・と巨人を探るような目つきで見つめた。 巨人もその視線を察したらしく、微笑み、胸を張った。 「その通り、私は三つだけ、あなたの願いを叶えることが出来るのです」 「キタ―(゚∀゚)―」 美鈴はガッツポーズを心で何度と無く繰り返させた。 今まで中国だの門番だの言われ黒白に轢かれ何度と無く苦しんだこの生も 全く無意味なものではなかったと確信したのである。 願いを叶えてくれる巨人、それも三つも!有頂天であった。 「私の能力は他人に3つまで願いを叶える程度の能力でして・・・ これまでに何千何百もの人や妖怪、妖精の願いを叶えてきました。」 「凄い実績ですね」 「そうです、ですからあなたのどんな願いも叶えますよ!」 早速願いを叶えてもらおうと美鈴は口を開いた。 しかし、言葉が出てこない、何を言おうか、いざとなると出てこないのである。 人間なら、金、地位、不老不死、と色々願いがあるだろうが 金はこの幻想郷では役立たず、地位は・・・これでも満足しているほうだ 不老不死は・・・元々妖怪なので寿命は長いし、死にたくても死ねないのは苦痛だって けーねがいtt(ry 「お悩みのようですね・・・どうです?大層な事でなくても、 折角三つもあるのですから、身近なことから消化していくというのは」 中々サービス精神の旺盛な巨人だと美鈴は感じた、 いや、これが実績の大きさなのだろうと思い直すと、早速一つの願いが浮かび上がった。 「あの、私は、皆から本名ではなく、中国とよばれているので・・・ 本名で皆から呼ばれるようになりたいんです!」 「ははは、可愛らしいお願いだ、お安い御用」 巨人はなにやら呟き始めると護符のようなものを霧にのせて放り投げた。 護符は空中で四散し、もうすでに欠片すら残っていない。 「これであなたは今日から本名で呼ばれることとなる。 では次の願いだが・・・。」 美鈴は飛び上がるほど喜びを顔面にたたえていた。 そして、巨人の言葉に我に返り、次の願いを模索する。 これも、案外早めに決まったことだった。 「あの・・・私は上司によくいじめられるんですけど、 それもなんとかならないかな・・・って」 「ふむ、そんなのも簡単だ」 巨人は再び護符を放り投げる。護符は紅魔館に向かって飛んで行き、 光が館全体を包んだ。 「さて、もう願いは一つしかないぞ」 「え、あ、そういえばそうか・・・」 美鈴はここで少し後悔した。 考えてみれば随分簡単なことに使ってしまったものだ。 後一つ、頭に浮かぶ候補を消去法で消す度に、新しい願いが浮き彫りになっていく。 「それなら」 巨人は悩む美鈴に顔を近づけ、微笑んだ。 「願いは保留にしましょう、あなたの願い事が決まったら私に教えてください 私はいつまでもこの壺にいますので・・・では」 巨人はすうっと壺へと消えていった。 美鈴は胸をなでおろす。なんというアフターザービスなのだろうか、 思わず感心をしてしまったが、いつまでも待たせておくのも失礼と、 必死で願い事を考えていく。 そのことばかり考えていた所為か、上空の影に気付かない 「よ、また来たぜ」 「わわわ、黒白?」 すかさず臨戦態勢に入るも、あっというまに箒に轢かれてしまった。 こいつを倒せる力でももらおうかと思いたくなったが、それは短絡的だと思い直した。 それよりも、実験したいことがある。 「相変わらず弱いな」 「あの・・・そんなことよりも!」 ガバッと飛び起きて接近し、肩を掴む 魔理沙も何事と後退するが美鈴の執念が勝っていた。 「名前で・・・呼んでください」 「な、何だ、おい、頭打ったのか?」 人の話を聞け、名前で、名前で呼んでくれたらこれから お前も紅白もずっとフリーパスでいいから、とばかりに掴みかかる。 その根気に負けたのか、魔理沙もやれやれとばかりに口を開いた。 「名前って・・・中国は中国だろ?」 「あれぇ?」 「頭打ったんなら悪かったよ、医務室でも行って寝てろって」 魔理沙はそれだけいうと門へと歩いていってしまった。 美鈴が呆然としていて魔理沙を止めなかったからである。 どうして・・・嘘・・・騙された?と病人のように呟く美鈴 しかし、運命の悪戯はこれだけに留まらない、 それかどれだけ呟き続けていたか?美鈴は正気を失って門に寄りかかっていた。 その美鈴の目を覚まさせたのは、先ほど門をくぐっていった魔理沙であった。 「おい、中国!しっかりしろ!大変なんだ!館の奴らが・・・」 「へ・・・」 その報告は美鈴を打ちのめすのに十二分の威力があった。 魔理沙はいつもの通りに図書館に行った。 そこで見たものは、干物のように干からびて死んでいるパチュリーと その隣でわんわん泣き喚く小悪魔 咲夜はどうしたんだと魔理沙は走った。どこかに行っているのか?と考えた。 しかし咲夜は紅魔館内にいた、廊下で、うつ伏せで、血を吐いて、青白くなって その先の廊下には何度と無く見た服と帽子がぽつんと置かれていた。 それが誰の服であって、帽子であり、何故そこに置かれているのかは 魔理沙には理解できた、したくなかったけれども! 「お嬢様と・・・咲夜さんが、それにパチュリー様まで?」 「おい中国、お前門番だろ?怪しい奴とか見てなかったのか!?」 「そんな、怪しい奴なんて・・・」 ここで辻褄があった。魔理沙が 「待て!」 と叫んだ しかし美鈴はその言葉など聞いている余裕も、聞こうとする気も無かった。 先ほどの壺を揺する、たたく、逆さにする。 巨人は律儀にお辞儀をしながらもくもくと空中に浮かび上がった。 「お願い事が決まりましたかお嬢さん?」 「お願い事?どれも一つも叶ってないじゃないですか! 私の名前は呼んでもらえないし、お嬢様達は死んでしまうし!」 「・・・おかしいですね、貴女は確かに本名で呼ばれているし、 一生上司からいじめられることは無いと思うのですが・・・」 「確かに死んでしまったらいじめられることは無いけど、 けど殺せなんて言ってません!」 「私は結果を聞いただけにしか過ぎません、 過程は私の好きなようにやらせて頂くだけです。」 「じゃ、じゃあ、私の名前は?」 「貴女の本名は中国、そういうことにしておきました。 そうすれば、皆さん本名で呼んでくれるでしょう? 紅 美鈴という名前はこの世から無くなったのです」 「あ・・・あ・・・あ・・・」 「さあ、どうしました?後一つ願いが残っていますが・・・」 「貴様の顔なんてもう見たくない!皆を、お嬢様を、咲夜さんを、帰してください!」 「それでは願いが四つ、多すぎますよ、私の願いは残り一つですよ?」 美鈴は悩んだ、皆を生き返らせる。正しい、これこそ一番の願いだ。 しかし、自分の名前も心残りだ、一生中国と呼ばれるのは辛い。 ならば・・・ 「今までの願いを全て取り消してください!」 「それなら簡単なことです。では、これで三回目、さようならお嬢さん」 巨人は消えていった。壺も然り、まるで何も無かったかのように・・・ はっとして紅魔館を振り返る。門を開き、猛スピードで廊下を走り回る。 「何をしているの中国」 ナイフが高速で飛んでくる。しかしそんなものは 今の美鈴にとってはどうでも良いことだった 「咲夜さん、良かった、良かったよ!」 「な、何がよ、ちょっと離れなさい!」 「おい、中国、何が起きてるんだ、パチュリーが突然起きて・・・」 「あ、魔理沙さん!私の名前は何ですか?」 「へ・・・ちゅ・・・分かったよ「紅美鈴」だろ?」 美鈴は両手を高く上げて涙を、鼻水を、汗をばら撒いて その場に伏した。嗚咽とも悲鳴ともつかぬ声が紅き館中に響いた。 これでいい、これでいいのだ、 願いを成就させたければ自分の力を頼ればいい、 姑息な手段に身を任せても、結末にあるのは破滅だけなのである。 美鈴は思った。巨人のやったことは結局+-0だった、 しかし、こうした考えを教えてくれた分、幾分かは+になったんじゃないかと・・・ その頃、幻想郷中で異変が発生していた。 美鈴の三番目の願いが叶えられたからである。 霧の巨人の実績は今日を境に0となった