本テキストは穂積名堂様発の東方SS合同誌『彩雨草子』の 全12作品のレビューです。 拙いレビューですが参考になれば幸いです……。 ・『キノコ向きの天気』 うにかた氏 無駄で馬鹿らしくてつまらないことは、忘れてしまうに限る。 様々な人妖が魔法図書館に天気に関する注文をつけに来るコメディー。 より多くの知識を蓄えるための努力をしているパチュリーと、 そのせいでいらぬ心配を抱えるメイドたちと、 天候の変化に一喜一憂する外部の人妖たちが織り成す あちらを立てればこちらが立たないノンストップギャグコメディー。 ある意味きれいに事態が収束するオチも含めて面白いです。笑いの意味で。 あと、苦労人な小悪魔が好きな人にもオススメ。 ・『Silver Clock, Rainbow Bridge』 世界爺氏 咲夜の休日、紅魔館にちょっとした異変が……。 咲夜と○○との出会いの話。 可愛い一面あり、カッコいい立ち回りあり、 主従の絆を垣間見れる暖かい一幕あり、とまさに 咲夜さんの咲夜さんによる咲夜さんのための話、と言ったところ。 咲夜好きならたまらないかと。挿絵も含めて。 ・『あした天気にしておくれ』 豆蔵氏 てるてるぼうずって、哀れだと思いますか? どこまでもシリアスな霊夢×レミリアもの。 博麗霊夢という存在と、レミリアの想いが 切なく綴られていて心を打つ。 このカップリングあんまり好きじゃない俺も素直に感動した。 あと、この話のキーワードはてるてるぼうず。 てるてるぼうず一つからここまで思考を連ねるセンスには ただただ感服するのみである。 読む際には紅魔郷ラスボス曲の再生準備をしておくことをオススメ。 ・『Le monde de Voiles.』 低速回線氏 果たして私の答えは変わった? 魔理沙とパチュリーの平凡……ではないが概ね平和な一日の話。 抽象的な文体で綴られていて、読解力のない俺には 何を表現しようとしているのかがよくわからなかった……。 少なくともカップリングものではない、はず。 魔理沙とパチュリー、あるいは人間と妖怪。 両者の生き様の違い、そしてパチュリーが魔理沙に……人間に抱く想い、 とかそういうことを伝えようとしているのだとは感じる。 悪い意味ではなく“難しい”文章を読み慣れている人なら楽しめるかと。 ・『流星多けりゃ日照りが続く』 新角氏 日照りに参った輝夜が雨を降らせろと無理難題。永琳の反応は……。 永遠亭メンバー+@が雨を降らせるために一致団結? 珍しいようなそうでもないようなメンツが 賑やかに喧しく協力する様が楽しくも心踊る。 基本的にはコメディーだが戦闘分もあり、各キャラにちゃんと見せ場があり、 笑いもあれば感心もする、手に汗も握る。 1粒で何度もおいしい良作と言えるのではないか。 お約束とも言えるオチと霊夢の行動には盛大に吹いた。 ・『Catch me if you can』 おやつ氏 氷精と化猫と宵闇妖怪が、命を懸けた鬼ごっこに挑む! 一言で言えばジェットコースタームービー。いや映画じゃないけど。 チルノとルーミアと橙が力をあわせて敵から逃げるアクションもの。 珍しくチルノがツッコミ担当のトリオ漫才を挟みつつ、 力技で、頭脳プレーで、連携で、あの手この手で ピンチの連続を乗り切っていく3人(?)に興奮と爽快感を覚えた。 終わり方もかなり格好いいと思う。 狩りスマと余裕に満ち溢れた“自称・最強の妖怪”を見たい方も是非。 ・『雨の日に傘はいらない』 藤村流氏 雨の帰り道、秘封倶楽部は路地裏で人の形をした境界を見つけた……。 活動的な安楽椅子探偵と連番確定悲劇のヒロインの2名が 不思議な境界をめぐる謎を解き明かすミステリーサスペンス。 憂鬱で愉快な日常の中に現れた非日常、という 秘封モノでは割とよく見かけるパターンではあるが、 序盤からガンガン出てくる伏線を投げっぱなさずに しっかり回収する展開は見事であり読み進めるのが楽しい。 終わった、と思ったところに追い討ちをかけてくるラスト1ページも面白い。 ギャグ分もふんだんに含まれてます。この世に蓮子さんはそんなにいません。 ・『Red Girl Adventure』 近藤氏 禁じられた本。あなたは読まずにいられますか? 咲夜の“戦い”を描いたサスペンスホラー。 予告された死と、次々に襲い掛かる恐怖。 次第に失われる余裕、広がる絶望。 来たるべくして現れる最後の相手、そして意外な結末。 この話は怖いです。精神にジワジワきます。 これ以上語ることは興醒めだと思います。 ホラー好きなら是非とも読んでみて下さい。 ――次は、ありませんよ? ・『オーバー・ザ・レイン暮雨』 セノオ氏 雨の中のプリズムリバー邸。メルランがソロ曲での勝負を提案し……。 夢見のせいか憂鬱なリリカをフューチャーしつつ、 プリズムリバー三姉妹のとある一日を描いた作品。 情景描写を持って心理描写とする、みたいな印象を受ける文体で 読解力も表現力も乏しい俺には上手く表現できないのだが、 “四人”の絆を感じさせるには充分だったと思う。 いつの間にか心が温かくなった、そんなお話。 “騒霊の本分”をいかんなく暴発させるルナサ可愛いよ。 ・『甘雨』 Hodumi氏 あんたも雨を浴びてみたいんでしょ? 慧音と萃香が雨を浴びる話。 ……と、端的に言ってしまえばそれまでなのだが、 雨、ひいては自然に対するノスタルジーというのか 雨を楽しむ、自然を楽しむ、自然に対する妖怪のあり方、 そういった諸々が込められた味わい深い文章になってます。 ほのぼの系では(そうでなくても?)珍しいこの2人の絡みも見所。 そういえば霖之助も出てきます。むしろ霖之助と慧音の絡みの方が珍しいのか? ・『Flowering flowering flowering』 河瀬圭氏 雨の草原。敗北を喫して佇む咲夜は何を思うのか……。 前半は鬱、後半は激。あとほんの一瞬だけど天然ボケ。 普段の完全で瀟洒な姿とは違った咲夜が見られる作品。 色々な要素が含まれていながらも読みやすい文体で、 特に心理描写と戦闘描写が見事。引き込まれる文章でした。 己という存在について悩む咲夜、その答えとは? ほんの少しだけど咲夜の過去にも触れてます。 ・『花鳥風月 〜rainy days〜』 床間たろひ氏 幻想郷に、雨が降る。 雨が降り続く幻想郷の日常をオムニバス形式で書いた作品。 吸血鬼が運命について語る。 氷精が踊る。 幽霊が語らう。 騒霊が騒ぐ。 蓬莱人が死合う。 人里が冬支度をする。 魔法使いが物思いに耽る。 花の妖怪が裁きを振るう。 そのとき、博麗の巫女は――。 この作品について俺は語る術を持たない。 全ては穏やかで哀しくて温かい、日常の出来事。 魔理沙の当て字と、三国無双の姦しさ。この2つには盛大に吹いた。 ・総評 東方SS読む人なら読んでみて損はないのではないかと。 シリアスもギャグもほのぼのもカップリングもあるので、 少なくとも「当たりが1つもない」ってことはないと思われます。 “雨”がテーマということもあってか、 哀しい雰囲気に包まれた作品や郷愁を感じる作品が多かったと思います。 そういう雰囲気作りも含めて、どの作品もテーマを活かしていると感じました。 まぁ雨あんまり関係ない作品やそもそも雨降ってない作品もありますが(笑)。 登場キャラは結構片寄ってる感じがありますね。 全体を通して一番目立ってるのは咲夜です(断言)。 何しろ12作品中3作品が主人公=咲夜ですから。 咲夜さん好きにはたまらない一冊かもしれません。 反対にレティ、リリー、リグル、ミスティア、メディスン、小町、 以上の面々のファンの皆様、ご愁傷様です(何)。 大妖精と藍も直接の出番はないですね、そういえば。 あと旧作勢(怪綺談主人公組を除く)も出てきませんし、阿求もいません。 特定キャラ目当ての方は参考までに。 書いた人:『門板』東方二次創作作品を語るスレ9/9 >>270(多分) 雑文乱文失礼しましたorz スレの>>257のURL辿ったほうがよっぽど参考になると思います……