恐るべき執筆速度とクオリティで、一作品集に九つの三千点越え作品を投稿したVENI氏。  後書きコメントが嘘でない限り、全て書き溜めではなく逐一書き上げた物である。  この記録は当然創想話唯一のものであり、この先破られることも恐らく無いだろう。  だが、私にとってVENI氏の作品は、それほど評価出来る物ではない。  私の中の評価は『ドクダミファンタジア』が最高峰であり、以後下降の一途を辿る。 『彼女自身の歴史』と『キノコパニック』は割りと面白かったが、後は語るまい。  週に二本以上投稿されてきた氏の新作を読み続け、単に飽きてしまったということもあるだろう。 とは言え、点数はドクダミ以降全て五千点以上という超高水準が保たれ、評価数も百以上をキープしている。 彼の作風に飽きてしまった人間は、さほどいないということだろうか?  慣れることと飽きることは同じではない。  VENI氏の驚異的な投稿ペースと文章量に“慣れた”から“飽きた”とは、私は思っていない。  むしろ、慣れることでおぼろげだった問題点がはっきり目に付くようになったのだと考えている。  今作品集のレビューで一番苦労したのは、VENI氏の作品群、特にシリアス系だ。 ちょっと注意してレビューを読めば、VENI氏の作品は上っ面しか拾ってないのが判るだろう。 ネタバレ無しだから当然と言えば当然だ。だから、この場では本気のVENI氏レビューをしようと思う。    ◆  以下、VENI氏作品を語る上での前提としてのデータと、まず客観的であろう特徴を並べる。 ・壊れ系のネタは斬新。 ・パロネタ・エロネタ使用頻度はやや少なめ〜普通(尿ネタを含まない場合)。 ・一文が短く、地の文より会話文で話を進めるタイプ。 ・細かい改行が多い。  各作品の文章の視点は、 ・一人称視点作品  ・月見酒  ・スキマとしっぽのミステリー  ・彼女自身の歴史 ・三人称視点作品  ・今日の紅茶は泥の味  ・ありがとうの為に失った??  ・ドクダミファンタジア  ・妖夢がんばる  ・キノコパニック  ・永遠亭の甘い罠  ・妖夢奪還大作戦  ・永遠亭最終決戦  ・我ら紅魔の盾 となる。    ◆  解説がレビューしながらで長いので、創想話スレにも書いた要旨と結論を先に示す。 ・要旨  ・執筆期間の短さが、文章・構成の雑さにダイレクトに繋がっている。  ・三人称視点での地の文があっさりしすぎで、戦闘などの盛り上がるべき箇所で盛り上がらない。   文章の成長が無いので、シリアス系や、ギャグでもネタが弱いと、読んでいて退屈する。  ・ただネタを詰め込んでいるだけで、構成の整理というのがほとんど行われていないように見える。   そのため、作者の「これが語りたい」という話の要点がさっぱり見えない。  ・シリアスとギャグの書き分けが適当・曖昧すぎて、作品を読む最中は混乱し、読み終わった後には残るものが無い。 ・結論  ・一人称作品はどれもわりと高水準。  ・三人称作品はネタ頼り。ネタが面白ければまだ良いが、全般的に構成が悪く推敲も足りない。  何故こういう捉え方をするのか、以下で氏の作品のネタバレレビューをしながら解説する。    ◆  一人称視点の三作品は、全て読んでいて語り手に感情移入出来る作品だった。  『月見酒』は、文章・構成の稚拙さが相当に目立つが、それでもVENI氏の妹紅像・慧音像が 強烈に伝わってくる作品だった。  『スキマとしっぽのミステリー』では、舞台をマヨヒガに固定することで構成的な読みにくさを無くし、 藍と紫のやりとりに集中して読むことが出来た。  作品の間は空くが、『彼女自身の歴史』も良い。レビューにも書いた不満点はあるものの、 慧音の感情が自然にこちらに伝わってくる良作だ。  では、三人称視点の各作品はどうだろうか。  『今日の紅茶は泥の味』は、作者も一度は駄作と自認した作品だ。 私は修正前も一応読んだが、修正後も全体的な印象は全く変わらなかった。  作中、咲夜とレミリアの関係はVENI氏の中で構築された関係であり、 それが読者に判り易く伝わる文章かと言えば、修正後の今もNOだ。 そもそもレミリアが「血液型がB型じゃない」と一言言うだけで済む話である。 咲夜とレミリアの関係を崩すための導入として、あまりに不自然すぎる。 血液型のラベルがすり替わっていたというオチも、いかにもご都合主義的だ。  好みのシチュエーションを作るために無理がある導入を書くというのは、 創想話に限らず二次創作では多々見掛けられる欠点だ。  この作品で浮き彫りになったVENI氏の欠点が以後改善されたかというと、 正直、私は首を捻ってしまう。  『ありがとうの為に失った??』では、また別の問題が見えてきた。  藍、橙、チルノの心温まる特訓風景や、コメディ調の魔理沙と紫のエピソード、 ラストの酷いオチも合わせて、シリアスには分類されないような話である。  が、冬眠明けの紫が藍を見つけるシーンだけが、妙にシリアス調で物語から浮いている。 >「弾幕だなんてヌルいことはしないわ、貴女の罪は、万死を以っても償いきれないの」  とまで書いて雰囲気を変えたのに、オチが『ノーノノレノ』だ。  その落差が良い、という人もいるかもしれない。 しかし、拍子抜けというか、どこかシリアスとコメディのバランスが悪いような気が私にはした。  この違和感は、作品集が後半に進むにつれ、はっきりしたものになってくる。  『ドクダミファンタジア』は、点数でも内容でも、氏の作品群で最高の物だろう。  ドクダミの臭さに焦点を当てつつ、壊れていく霊夢をテンポ良くさらりと描いている。  ただ、「さらりと描いている」というのは、書き込み量が薄いという意味でもある。 テンポの良さは、場面々々が短いことの裏返しだ。 てゐや幽香、メディスンの場面は、ちょっと描写を執拗にするだけで二、三倍の文章量になりそうなのに、正直勿体無い。  ただ、この作品(ともう一作)に関しては、良い方向に描写の薄さ、文章量の少なさが働いていると思えないでもない。  『妖夢がんばる』も、ドクダミに負けず劣らず狂気の一作だ。  が、尿ネタと「がんばり入道ホトトギス」ばかり印象が強く、その他に何も残らない。 純粋にギャグなんだから、それで構わないというのは確かにあるけれども。  一つ気になるのは、この作品からVENI氏の欠点が顕著に表れてきた気がするのだ。  作品のラストを引用するが、 >その後どうなったかというと…… >紅魔館は平和であった。レミリアがとても優しくなった、パチュリーの体調も回復した。 >幽々子が白玉楼に帰るとそこには妖夢の姿は無く、トイレが滅茶苦茶に破壊されていた。 >紫が家に帰ると、八雲邸には、頭がタンコブだらけで倒れている藍と橙、 >そして白玉楼と同じように、破壊されたトイレがあった。 >もちろん、霧雨邸のトイレも徹底的に破壊されていた。  『妖夢がんばる』以降の作品の全てが、こういう終わり方をしている。 (ドクダミ〜の時点で兆候はあったが)  はっきり言って、投げっ放しに他ならない。尻すぼみもいいところだ。  それぞれの場面をキャラの台詞と地の文付きで書けば、締めの笑うべき場面としてしっかり成立するのに、 その努力を放棄しているとしか捉えようがない。 (これだけでも笑う人間が充分存在する、というのは置いといて)  『キノコパニック』は、ドクダミファンタジアと同じく 描写の薄さと文章量の少なさが良い方向に作用したギャグ作品である。  VENI氏の三人称視点は、ギャグ系はシリアス系と比較して受け入れやすい。 テンポ良く、そしてシュールっぽいと文章を捉えられるからだろう。  『永遠亭の甘い罠』に関しては、あまり語ることがない。レビューを書く時に一番苦労した作品ではある。 VENI氏の作品の中で、最も“毒にも薬にもならない作品”だったからだ。  だらだらと輝夜、鈴仙、てゐの会話が続き、妹紅の乱入後も文章のテンポが同じでインパクトが無い。 統一された描写の薄さのせいでメリハリをつけることに失敗している、ということだろう。  『妖夢奪還大作戦』は、構成の適当さが特に目に付く。  霧雨邸の魔理沙と幽々子でおおよそ三分の一。マヨヒガの場面でおおよそ三分の一。 クライマックスの紅魔館も、おおよそ三分の一。そしてラストは前述の手抜き手法。  地の文章でメリハリがつかないとしても、一場面に費やす文章量で起伏をつけることは出来よう。 しかし、全般的に「思うまま書いたらこうなりました」という感じで、文章・構成について工夫を見出すことが出来ない。 今までのギャグ作品ではネタの面白さが欠点を上回っていたが、続編ゆえにネタの目新しさが消失している。 二編に渡る消化試合の前半だ。  『永遠亭最終決戦』は、消化試合の後半であり、『今日の紅茶は泥の味』とは別の意味で最低の作品だ。  ネタの目新しさが消失し、地の文は妙に少なく単調で、退屈極まりない。  戦闘シーンは思うまま綴られた“だけ”で、言い方を変えれば適当に書いたのと同義だ。 文章に工夫は全く見られず、地の文は“描写”ではなく、単なる状況説明に終始している。 出てくるキャラは、ドクダ巫女とトイレキラー妖夢を引き立てるための噛ませ犬に過ぎず、 「消化試合のために、今まで関係したキャラ全部出しました」ということなのではと感じてしまう。 半分以上を占める永遠亭での戦闘シーンがこれでは、楽しめるはずなど無い。  前作からの投稿間隔はおおよそ二日。そのわずかな間隔で約47kbの文章を書いたのは驚嘆に値するが、 構成の練り直しや文章の推敲が行われていないとしたら、作品として下の下も良い所だ。 早けりゃ良いってもんじゃない。本当に、この一語に尽きる。  心機一転かと思われた『我ら紅魔の盾』も、少なくとも私にとっては汚名返上の作品に成り得なかった。  終盤の、おそらく一番盛り上がるであろう場面から引用を行う。 >「美鈴、私ようやくこのところの不調の理由がわかったわ」 >「……なんですか?」 >「何もかも1人で背負い込みすぎてた、周りを信頼できてなかった。貴女のこともね」 >「そんな……私が情けないせいですよ」 >「貴女は期待されたかったはずよ、だから、私は貴女に期待をかけるべきだった」 >「……咲夜さん……」 >「さぁ行くわよ相棒。私達は紅魔の盾」 >「はい!」  良い話だ。ここまでの流れがシリアスだったのなら。  レビュー前の要旨に書いた、 ・シリアスとギャグの書き分けが適当・曖昧すぎて、作品を読む最中は混乱し、読み終わった後には残るものが無い。  は、この作品が一番当てはまる。『永遠亭の〜』以降全ての作品に、多かれ少なかれ当てはまっているが。  美鈴はありがちな勘違いエロ場面が続き、咲夜はギャグ系の壊れやドジっ子描写が多くを占める。 シリアスらしい会話は、一日目の二人の食事場面くらいだ。 意識をシリアスに向けようにも、ギャグが多すぎシリアスの割合は少ない。 ギャグで統一されているのかといえば、中途半端なシリアス描写が邪魔をしてくる。 この作品をどう読めば良いのか、私には判らなかった。    ◆  私は創想話作品を読むとき、頭を空っぽにすることが非常に少ない。3000点レビュアーであるがゆえだ。 レビュアーとして読んだ時、私のVENI氏評価は大多数の読者と正反対になった。 それが二、三作品であったなら、未読者向けの大人しいレビューを書いて、終わりにしていたと思う。 だが、VENI氏の作品は多すぎて、そして私には長所以上の短所が見えた。  3000点レビュアーとして少しは実績を積んだ今なら、大絶賛されている作者・作品をこき下ろしても、 多少は説得力を持たせられるかな、と思って以上の文章を書いた。  最後に、最初に書いた要旨と結論を書いて終わりとする。 ・要旨  ・執筆期間の短さが、文章・構成の雑さにダイレクトに繋がっている。  ・三人称視点での地の文があっさりしすぎで、戦闘などの盛り上がるべき箇所で盛り上がらない。   文章の成長が無いので、シリアス系や、ギャグでもネタが弱いと、読んでいて退屈する。  ・ただネタを詰め込んでいるだけで、構成の整理というのがほとんど行われていないように見える。   そのため、作者の「これが語りたい」という話の要点がさっぱり見えない。  ・シリアスとギャグの書き分けが適当・曖昧すぎて、作品を読む最中は混乱し、読み終わった後には残るものが無い。 ・結論  ・一人称作品はどれもわりと高水準。  ・三人称作品はネタ頼り。ネタが面白ければまだ良いが、全般的に構成が悪く推敲も足りない。    ◆  この長い批評文を読んで下さった全ての人に感謝します。  感想・反論は、創想話スレか、使われていない問題点スレへお願いします。   創想話3000点レビュアー 563