「あんた……、なぁにやってんの?」 「───え?」 静かな怒りを伴い、私は私の向日葵畑に立つ一人の男に問う。 あ〜あ〜、馬鹿なことをやってくれちゃって…。 そいつの足元には、無残に折られ、生命散らせた向日葵の花。 どうせ、ふらりと村から出て此処に迷い込んだのだろう。 私の向日葵は、人に恐怖を与える。 侵入者があると、一斉にそいつの方を向き、じっと睨む。 大抵の人間や妖怪は、それを見ると恐ろしくなって逃げ出すのだけれど。 時々、今目の前にいるような愚かな人間が現れる。 向日葵の威嚇に対し、暴力的手段で自らの恐怖を無くそうとする愚者がね…。 「此処は私の庭。つまり、この向日葵は私のもの」 「あ……え…?」 その私の言葉の意味が分からず、そいつはただただ困惑するのみ。 良いさ良いさ、今の内に心の動きをたっぷりと楽しんだほうが良い。 あんたは明日には生きていないのだから─。 「妖怪、風見幽香が自分の領地を荒らされて、黙ってると思う?」 「あ…う……うああ……っ!」 妖怪という単語と、私の言葉から、私自身から迸る明確な殺意を感じ取り、そいつは後ずさった。 そう、それで良いの。 もっと恐怖に慄く声を、私に聞かせて。向日葵たちに聞かせて。 それが貴方にできる、最大限の償いよ。 「…人間如きが。自分の愚かさを呪いなさい。そして私自らが直接手を下してあげることに感謝しなさい」 「う…、うわああああああああああああああああああっっ!!?」 そして、死刑宣告。 男は逃げ出すが、それをあっさりと私は捕まえる。 逃げられるわけ…、ないじゃない。 「ひいぃっ!?すみません、すみません!もう二度としませんから…っ」 「五月蝿い…」 「がっ!?」 どこまでも無感情な、冷酷な声でそう言い放ち、地面に叩きつける。 こんな奴、私が感情を剥きだしにする価値もない。 ただのゴミにしか見えない。 ゴミは土に還るのが一番だ。自然に優しい。 「ぐあぁっ!?う…ああ…ぁ…」 私はそいつの腹部に膝を落とし、圧し掛かるような感じになる。 顔を覗き込むようにし、にんまりと凶悪な笑みを浮かべた。 そして、それを、死刑内容を告げる。 「──これから、あんたを解体するわ」 「──────!?」 そいつの顔が、驚きとそれ以上の恐怖で塗り固められる。 そうだ…、もっと恐怖しろ……。 「まずは……指」 わざわざ耳元で囁き、私はそいつの手を掴む。 楽に死なせなどしない。思う存分、痛みを味わえ。 もちろん、そいつは力いっぱい抵抗するが、人間の力など私にしてみれば微弱すぎる。 優しく這うように、指と指を絡め合わせると─。 「…………っ…ぁ……っっ!!!」 人差し指の第一間接に爪を立て、千切った。 そいつが声にならない叫びをあげる。 激痛に白目を剥き、口の端からは涎が垂れっ放しだった。 「痛いでしょ…?向日葵もこんな気持ちだったのよ……」 でも、まだ終わりじゃない。 そんな言葉を暗に含めて、私はそいつの指を次から次へと千切っていった。 千切るごとに透明な絶叫が、向日葵畑に広がり、向日葵たちに吸収されていく。 鮮血が大量に土に染み込む。 この向日葵畑の肥料と水は、人間の恐怖の叫びと紅い血液だった…。 すべての指を失い、激痛で気が狂い息も絶え絶えな哀れな人間。 だが、まだ死んではいない。 これこそ、まさに地獄だろう。 まあ、このぐらいで良いだろう。 そう思い、私は右腕を持ち上げると最後の言葉を紡いだ。 「さようなら」 スコップで思い切り土を抉るように。 腕を思い切り勢い良く振り下ろし、そいつの胸を貫く。 爪が、指が肉に食い込み、熱い。 噴水のように噴き出す血が私を染めてゆく。 心の臓を掴み、握りつぶすと、男はもはや声もなく絶命した。 ──これで終わり…。 私は物語らぬ屍となったそれから離れると、ふと気づく。 そうだ、見せしめに人間の里へ捨てておかなければ。 屍の髪を掴むと、乱暴に引き摺りながら私は歩いた。 血に染まり、狂った笑い声をあげながら……。