人気投票、と呼ばれるイベントがある。  誰が投票しているのか分からない。誰が集計しているのかも分からない。もう長い間記者をやっている私でさえ、結果以外の全てが闇の中。  今度こそその闇を暴いてやろうと、ここ幻想郷中を飛び回った。結局ほとんど何も分からなかったが、取材の最中に興味深いコメントを頂戴した。  その匿名希望の彼女曰く、 『あれは……そうね、全てを見通している八百万の神様が暇潰しに行っている戯れよ。別に私たちには何の影響も無いんだから、真剣に考える必要は無いんじゃないかしら』  その情報がどこまで本当なのかは分からない。裏付けが全く無い上に、情報元の彼女自体が妖しさの塊である。  本当に全てを見通す神などという存在がいるのだろうか。そして、これは本当に私たちに何の影響も無いのだろうか。  まだまだ取材を続ける必要がある。何か重要な事実を掴めた時は、すぐに臨時新聞を発行する予定である。(射命丸 文) 「ってこれじゃ事実が一つも無いじゃない。没」  頭の中に描いていたメモを廃棄。ペンを走らせるために閉じていた目蓋を開き、集中するために遮断していた聴覚を繋げる。 「それにしても、本当に多種多様ね」  途端に、大勢の人間、妖怪、それ以外の集団が姿を現す。私でさえ初めて見る存在――つまり幻想郷とは別の世界の住人だ――も多数、集団に加わっている。  別の世界の住人が幻想郷に訪れることはほとんど無い。さっき少し話を聞いてみたら、誰も彼も、口を揃えてこう言っていた。 『何故だか分からないけど、ここに来なきゃいけない気がした』  これも神とやらの為せる業なのだろうか。事実を伝える身としては非常に興味深く、また頭を悩ませる話である。  たくさんいるというのなら、そのうちの一人くらい私の前にひょっこり現れてくれても良さそうではあるが―― 「……いよいよ発表、か」  たくさんの毛玉たちが大きな大きな紙を運んでくるのが見える。あれには、ここに集った七十名弱の名が全て記されている。  息を呑んで発表を待つ私たちのすぐ側まで飛んできたところで、丸められていた紙が音を立てて開かれた。 「宴会が好きなのは全ての世界で共通、と」  結果発表の後は、すぐに大宴会と相成った。誰が準備したとも知れない酒と料理が毛玉たちの手によって次々と運ばれてきては、各々の胃の中に収められてゆく。  幻想郷の外を知らない私には馴染みの薄いものも多いが、どれもとても美味しい。酒に手を付けられないのが残念である。  そう、私はこっそり取材中。こんな機会を逃す手は無い。人気投票発表直後の彼女らの声を、こんな面白そうなネタを、記者である私がみすみす捨てるはずがない。  こっそりと耳を澄ませる。手には紙と鉛筆を。心には九割九部の客観性と、ほんの少しの遊び心を。  予め断っておくが、私が直接取材に行かないのは他者が入り込むことに起因する仮面の装着を避けるためである。  ケース1:紅い館の悪魔と従者 「これも結構美味しいわね、何で出来ているのかしら」 「兎ね。紅魔館の近くにはあまりいないけど――」 「お嬢様がお望みとあらば、永遠亭に行って適当にさらってきますが」 「そうね、気が向いたらね」  どうやら、兎料理に舌鼓を打っているらしい。綺麗な焼き上がりと立ち上がる湯気はいかにも美味しそうである。 「あー、咲夜どころかパチュリーにも負けちゃったお姉様だー! ねえねえ何かっこつけてるの、お姉様?」 「……誰かと思えば、そんなお姉様にも勝てない我が妹じゃないの。どうでもいいけど、もう少し落ち着きなさい。はしたないわよ」 「どうでもいいなら別にいいじゃない」  たまに取材する度に思う。あの二人、実は相当に仲が悪いのではないだろうか。 「ま、それはともかく」 「お姉様はいつもそうやって失言を無かったことにしようとするよね」 「…………」 「…………」  にっこりと笑う妹と、顔だけは澄ました姉。感情の出し方が正反対なのは、やはり立場の違いというものか。 「まぁ負け犬お姉さまはほっといて、ちょっとあちこちからかいに行ってくるわ。それじゃあねお姉様」 「ええ、行ってらっしゃい。……明日が楽しみね」 「くすくす。ちょっとは強くなったかしら? 一ヶ月前はもうちょっとで死んじゃいそうだったもんね」 「心配には及ばないわ。それより、相手が本気を出してるかどうかくらい分かるようになりなさいよ」 「それって負け犬の常套文句よね」 「……本当に明日が楽しみね」 「本当にね」  厄介なことになったと言わんばかりに額を押さえるメイド長と、付き合ってられないと言わんばかりにため息をつく魔女の姿が妙に印象に残った。  異なる反応をする二人の姿が面白かったのであって、眩暈がするほどの妖気をぶつけ合いながら嗤う二人を避けたわけではない。多分。 「お嬢様、その――」 「あら咲夜。言いたいことははっきり言いなさい」 「う……それは」 「……やれやれ。レミィも無駄なことしないの。咲夜の口からは言えるわけないでしょう?」 「いいのよ、これもお仕置きなんだから」 「これ、も?」 「咲夜。あなた、また魔理沙に負けたのね。おまけに、勝っていたはずの霊夢にも」 「ッ……!」  顔色が蒼白になる。少し離れてみている私から見てもその変化は劇的。すぐ側から見れば、塗料を被ったかのようにさえ見えるのではないだろうか。 「一年前、私は何と言ったかしら? ねえ咲夜。あなたは誰にも負けてはいけないのだと、そう言わなかったかしら?」 「は、はい……」  幼い風貌とは対照的な、恐ろしいまでの艶を醸し出す微笑。怯えきった彼女の顎を持ち上げる、細く白い二本の指。  背筋を薄ら寒いものが走り抜けた。今すぐ逃げ出してしまいたい、でもずっと見ていたい。そんな相反する衝動で体が凍る。  そこらの魅了の呪いとは次元が違う。そもそも、これは呪いなどではない。ただの純粋な誘惑。それが、高すぎる格のせいで呪いじみた効力を持っているだけ。  正しく悪魔。自らが持ち合わせるものを最大限に活用し欲しいものを強引にでも手に入れる、悪い魔法使いだ。 「咲夜。今すぐ戻って休みなさい。夜になったら私の部屋に来ること」  そんな悪魔に間近で見つめられ、触れられている咲夜は、泣いているような笑っているような、そんなどっちつかずの表情で、 「今夜はお仕置きよ。骨の髄まで躾けてあげる」 「はい」  恐らくは分かっていたであろう命令を、躊躇無く受諾した。 「本当に好きね」  フラフラとメイド長が飛び立った後。分厚い本に目を落としたまま、傍らの魔女は呟く。 「何がかしら? 私はただ至らない部下を叱ろうとしているだけよ」 「そう」  さも可笑しそうに笑う悪魔に対して、魔女は能面のような表情を崩さない。 「パチェもやってみたら? ほら、よくパチェの本を持って来てるあの悪魔なんていいんじゃない?」 「考えとくわ」  そう答えたものの、表情は相変わらず。興味を示さない魔女に飽きたのか、悪魔は手元のワインを口に運んだ。ほんの少しの間だけ、悪魔の視界から魔女の姿が消える。  その瞬間だった。  ほんの僅か。見間違いだと言われても頷けるほどに微小。けれど確かに、魔女の唇が吊り上った。  それが何を意味するのか、考えるまでもなかった。  私は思う。あの館は悪魔でいっぱいだ。さぞかし、仕える者は苦労していることだろう。  ケース2:半人前に集う者 「ううう……七つも落ちた……所詮私は半人前か」 「妖夢、もう呑みすぎよ? 少しはペースを落としなさい」 「四位の幽々子様には私の気持ちなんて分かりませんよっ!」  珍しい光景に、私は少々面食らった。振り回されるか斬って回る以外の姿を見るのはとても珍しい。 「また次があるでしょう? それに向けて研鑽を積めばいいじゃないの」 「そう思ってずっと頑張ってきました! 今度は魔理沙にも勝ちたい、って。なのに、なのに……!」  目に涙が滲む。酒がどんどん減っていく。食べ物を最後に口に運んだのは、一体何時のことだったか。 「うーん、困ったわね。もう全然私の話も聞いてないみたいだし、このまましばらく放っておこうかしら」 「さすがにそれはよくないですよ」 「そうそう。ちゃんと助けてあげないとねー」 「あら、あなたたち」  無責任な発言をした亡霊姫の側に、空からふわふわと降りてきたのは騒霊音楽隊の三人……ではなく二人。 「やっほー妖夢。元気してる?」 「あ、リリカ……。元気、かな。体の方は」  ヤケ酒を煽る剣士に声をかけたのは、赤い服に身を包んだキーボーディスト。そういえば、彼女の順位もあまり振るわなかった筈では? 「何よその暗さは。暗いのはルナサ姉さんだけで十分だってのよ」 「いや、それはルナサに失礼なんじゃ」 「そんなことはいいのいいの。それより、元気出しなさいって」 「そう言われても、あんなに頑張ったのに順位が下がって、元気なんてどうやって――」 「私は四十一位だったけど、大して気にしてないわよ」 「……!?」 「私は愛嬌を振りまくアイドルじゃない。たくさんの人に色んな気持ちを伝える演奏家だもの。何処に居るかも分からない何かに好かれてないからって、全然落ち込むことなんてないわ」  さすがに長いこと生きている――死んでいる?――だけあって、彼女は一番大切なことをよく分かっている。よく分かっているのだ。  だから、『あれってルナサ姉さんがさっき言ったことそのままよね』だとか『荒れ狂って散々な騒音を撒き散らしてたのは誰だったのかしら』などというヒソヒソは空耳に違いない。 「さて、あなたはどうするの? このまま酒を呑みたいと言うのなら、別に私は止めはしないけど」 「ううん、もう十分。それよりも幽々子様に謝らないと。何が一番大切か、やっと分かったよ」  ありがとう、と。散々酒を煽った割にはしっかりとした口調で言った。まだ幼いものの、存外に酒には強いようだ。いずれ呑み比べをしてみたいものである。  同じくしっかりとした足で立ち上がり、敬愛する主の下へと歩み寄ろうとした彼女は、 「うわぁぁぁ!」 「ふぎゃっ!?」  突如として現れた八雲藍に潰された。……何故? 「ごめんなさいね妖夢。うちの藍がはしゃぎすぎちゃって」  笑いながら、その主である紫も姿を現す。気味の悪い空間の裂け目に腰掛けているのは相変わらずであるが、浮かべている笑顔にはいつもの得体の知れなさが感じられない。あれが自然体の彼女、ということなのだろうか。 「ちょっ、紫様! いい加減私を隙間に放り投げて遊ぶのは止めてください!」  よく見ると、彼女の服はあちこち破れてボロボロ。彼女自身の言うとおり、相当に酷い仕打ちを受けているようである。やっぱりあの時(※文花帖40ページ)の言葉は嘘で、ただの動物虐待なのでは―― 「何を言っているの藍。これは訓練だって言ったでしょう? あなたが八つも順位を落としたりするから、八雲の面目は丸つぶれじゃないの」 「うっ……」  その声にならない声を出したのは、上に乗ったままの彼女だけではない。 「わ、私も西行寺の――」  同じく主に仕える身で、同じく順位を落とした者。つまりは藍に潰されたままの妖夢その人である。  藍を跳ね飛ばすほどの勢いで起き上がり、そのまま無言で走っていってしまう。 「ゆ、紫様! 何も妖夢の前で仰らなくても!」 「あの子は一頻り泣いた後にちゃんと前を向ける子よ。私たちがするべきことは手を引くことじゃなくて道を示してやること。もうしばらくしたら、私たちの助けなんていらなくなるでしょうね」 「紫様?」 「魂魄の性は伊達じゃないわ」  そう言う彼女の表情は、何故か少しだけ愁いを帯びている。その姿はとても一人一種族の大妖怪には見えなかった。 「そんなことより、あなたも無駄に年食ってるんだからもう少し上位に入って来れないものかしら」  一瞬の後には、元通りの楽しげな意地悪顔。同時に、儚げな美しさも霧と散っていた。 「わ、私はその、媚びるようなことは苦手で……」 「へぇ、私や幽々子が媚びるのが得意だとでも言いたげね」 「そ、そんなことは――ちょっ、痛たた、紫様!?」  つかつかと歩み寄った彼女は、事もあろうか大きな尻尾を掴んでグルグルと振り回し始めた。動物虐待以外の何物でもない。今度突撃取材を敢行しよう。 「というわけよ幽々子」  コマのように猛スピードで回転するものだから、声が聞き取りづらくて仕方が無い。というか、それは虐待なんだと何度言えば――! 「程々にしてあげなさいね」 「大丈夫よ、藍は丈夫だから。それじゃあ――」  ね、という単語と同時に手を離す。私の全速を凌駕する程の速度で、哀れな彼女は隙間へと消えていった。またどこかに墜落するんだろうか。よく無事でいられるものだと、変なところで感心してしまう。 「本当に何考えてるか分からない人ねー」  乾いた笑みを浮かべて呟く三女。頷く長女と次女、並びに私。  その何を考えているのか分からない人は、既に隙間を通って姿を消している。 「そう?」  ただ一人の例外は、腰を落ち着けて箸を手に取っていた。行き先も告げずに走っていってしまった従者のことは気にならないのだろうか? 「今日の紫は何時になく楽しそうだったじゃない。きっとかなり酔ってるのね」  そんなことを口走りつつ、干瓢巻きを口に運ぶ。急に花が満開になったような、そんな笑顔を見せた。 「あなたたちもこんな所で油売ってないで思い切り演奏したらどう? 大勢の知らない誰かが居るんだから、ひょっとしたら誰かがうちより良い待遇で雇ってくれるかも」 「そうですね。折角ですし、演奏してきます」  音も無く現れたヴァイオリンを手に取り、長女。 「でもね、私たちはずっと西行寺のお抱え演奏隊」  トランペットを脇に浮かべ、楽しそうに次女。 「私たちは報酬に雇われてるわけじゃないってこと……言わなくても分かるか」  あなたも同じくらい何考えてるか分からないからね、と三女。 「頑張ってねー」  リスのようにたくさんの食べ物を頬張りながら手を振る彼女。  どうして西行寺幽々子が四位で、どうして八雲紫が六位なのか、分かったような気がした。  ケース3:血の繋がらない親子 「ねぇスーさん、何となく来てみたのはいいけれど……」  不安げに体を縮こまらせ、しきりにきょろきょろと辺りを見回している人形を見つけた。彼女の名は確か―― 「誰かと思えばメディじゃない。あなたも呼ばれたのね?」 「あっ、永琳! ねぇねぇスーさん、やっぱり居たよ! ほら、あそこには鈴仙も!」 「師匠、急に走らないでくださいよ――ってメディスン? 珍しいね、あそこを離れるなんて」  知り合いと思しき二人――永遠亭の薬師と弟子――を見つけた途端、人形の表情に生気が戻ってきた。元々生のある存在ではないが、そう言えるほどに元気になっていた。 「ねえ永琳、私どうしてこんな所に来たのか全然分からないの。私、何か変になっちゃったのかな?」 「大丈夫、ここにいる全員があなたと同じだから。別に病気になったわけじゃないし、どこかに異常があるわけでもないわ」 「そうなの? 永琳が言うなら安心ね!」  諸手を上げて喜ぶ様は、見た目相応の幼さを感じさせる。見た目と実年齢が一致しない妖怪等ばかりを相手にしている身としては、非常に珍しい存在である。 「メディは三十四位ね。確かまだ目覚めて数年なのよね? 大したものじゃない」 「よく分からないけど。でもでも、私が有名って事は、人形解放運動が活発になるってことかな?」 「んー、それはどうかしら。単にメディが知られているだけで、解放運動の方はあまり知られていないってこともあり得るわね」 「えー、どうしてよ!」  人形解放運動、という単語。過去に一度、彼女を取材している時に盛んに口走っていたのを思い出す。ただ、その時はあまりに内容があやふやで、結局記事には入れなかった。  その新聞を見せた時は、えらい剣幕で怒っていたのをよく覚えている。だが、こちらとて引けない部分はあるのだ。分かって欲しい。 「ねえメディスン、私たち以外に知り合いっている?」 「えっと……輝夜と、てゐと、鈴仙の家にいる兎さんたちと、それから妹紅と慧音と、えっと――」 「やっぱり。そうじゃないかなって思ってた」 「どういうこと?」 「メディスンは私たち以外とはあまり会ったことが無いんじゃないの?」  月の兎のその言葉に、彼女はビクリと体を震わせた。どうやら図星らしい。 「それじゃあ駄目よ。もっとたくさんの人と会って、メディスンの意思を伝えていかないと。人形解放運動は私たちに伝えても意味が無いことだしね。うちには人形はいないから」 「でも、知らない人と話すのは苦手で……」  両手を弄りながら俯いてしまう。その姿はいかにも可哀想で、別に何も悪いことを言ってはいない兎が慌ててオロオロしている。根っからの善人なのだろう。 「そんなに怖がらなくても大丈夫よメディ。……そうね、私たちが手伝ってあげるわ。知り合いに、メディのこと紹介してあげる。折角の宴会だもの、メディも大勢で騒ぎたいでしょ?」 「本当!?」 「ええ。じゃあ行きましょうか。最初は、捻くれてないアクの無い人がいい…………けど……」 「あはは、居ませんねそんな人は」 「居ないわね。さて、どうしようかしら」  兎の言葉通り。名の知れた者たちは、人間だろうと妖怪だろうとどこかしら曲がっている。もしくは思考がずれている。もちろん全員が全員というわけでもないが。  基本的に捻くれ者が揃っている所だから、自らを適応させようと思ったら普通ではいられないのだろう。  どんな環境でも変わらずに自分を貫くというのは、真っ当な意思で出来るものではない。もしそんなことが出来るとすれば、それはそれで普通ではない。 「ねえ、永琳と鈴仙も捻くれてるの?」  きょとん、と。そんな音が聞こえてきそうな表情で、二人を交互に見遣りながら言う。 「ぷっ……あはははは、あははははははははははははは!」 「えっ、えっ?」 「ちょっ、そんな、笑っちゃ駄目よウドンゲ……くくくっ」 「私何か変なこと言った? ねぇ、どうしてそんなに笑ってるのよ」 「だって、この捻くれを形にしたような師匠がまともに見えるなんて、あはは、あははははは!」 「あなたにだけは言われたくないわよウドンゲ。あなたみたいに変な考えする生き物なんて、他に見たことないんだから……!」 「ちょっと二人とも? 笑わないでよ、ねえ」  戸惑う人形を他所に、二人は笑い続ける。お互いを指差し、情けも容赦も無く、対等に。 「あははははは……最高だったわメディ。さて、ウドンゲ」 「はぁ、はぁ……はい、何でしょう」  ごつんっ!!!!!!!  物凄い拳骨が、弟子を直撃する。どれだけの速度を持っていたかは、何が起きたのか分からずにぽかんとしている人形を見れば分かるだろう。 「あうぅ……悪かったと思ってますってば」 「師を指差して笑うとは何事よこの馬鹿弟子」 「え、永琳? 鈴仙を苛めちゃ駄目だってば」 「苛め、か。そういえば随分と久しぶりね、この拳骨。どれくらいぶりかしら?」 「あー、本当に久しぶりです。もう二度とごめんですが」 「久しぶり、って。見えないほど凄いのを前にもやったことあるの?」 「やってたわ。それはもう毎日のように」 「昔は殺伐としてましたからね」 「えー、全然想像できないんだけど」  右に同じ。何度か取材に行った時も、そんな雰囲気は微塵も感じられなかった。  そういえば、視界の隅の方でどつきあいながら酒を酌み交わしている蓬莱人二人も、何時ぞやに見た時はもっと全力で殺しあっていたはず。いつからあんなハリセンで軽い音を響かせあう仲になったのだろう。  あ、姫様が柄で殴った。拳骨より性質の悪い鈍い音が響く辺りに、ハリセンの製作者の心遣いが伺われる。  あ、人間の反撃。半獣さん半獣さん、早く止めないと目の前が血の池地獄になっちゃいますよ? って遅いか。もう頭割れてるし。 「生き物っていうのはね、ちょっとしたきっかけで変わるものなのよ。それこそ、人気投票の順位が変わるくらいに簡単にね。メディにもきっと分かる時がくる。今からたくさんの人と出会って、たくさんの生き方に触れて。少し前の自分を懐かしくと感じる、そんな時がきっと来る」 「でも永琳の順位も得点も、前と全く同じだよね」 「……っ」  しまった気付いてたか、という師の気まずそうな顔。うわぁカッコ悪い、という弟子のしたり顔。単純に自分の発見を喜ぶ、人形の無垢な顔。  三人を見ていると、何だか仲の良い親子のように見えてくるから不思議だ。  すぐに娘は成長するだろう。笑って昔を振り返るようになるのだろう。それこそ八百万の神が人気投票の結果を振り返るかのように、気楽に、楽しく。  私はどうなのだろうかと思案を巡らそうとして、止めた。  仕事中に別のことを考えるサボタージュの泰斗は、どこぞの死神だけで十分だ。  続く……かどうかは不明。何とか今日中に上げたかった。反省はしていない。