鬼のある一日。 博麗神社はもう秋に染め上げられていた。 神社の周りの木はほとんど紅葉しているし石畳の上に落ちている枯葉も少なくない。 伊吹萃香は葉が散る様子を社殿の畳の上に寝転がりながら眺めていた。 昼間なら大抵いる魔理沙は 「キノコが豊作だ!」 とかいって最近あまりこない。 おかげで宴会の回数が減って退屈だ、と萃香は思った。 「ねー霊夢ー。」 「んー?」 呼ばれた博麗の巫女は鬼と同じように畳に寝ていた。 「なんで境内掃除しないの?」 さも当然と言うように答えた。 「あんたがいるからしなくていいのよ。あんたみたいな便利なのがいるのに動くのバカらしいじゃない。」 仕事しろよ。 とりあえず期待されているらしいので能力を使ってやることにする。 疎と密を操る程度の能力を使い、境内の落ち葉を石畳の横の地面に萃める。 あっという間に落ち葉の山が出来た。 「終わったよー」 「んー」 脱力する博麗の住人ズ。 博麗の結界には脱力効果もあるのかもしれない。 腋効果も。 「暇だなー・・・。」 萃香は何となく視線を巡らせてみれば霊夢は完全に夢の中にいた。 仰向けでこれ以上ないほど無防備だ。 かの博麗の巫女のこんな無防備な姿を見ると私はこんなのに負けたのか、と萃香は情けなくなる。 今襲ったら簡単に勝てそうな気がした萃香は髪の毛を一本抜いた。 「いつっ」 抜けた髪の毛は小さな萃香になり、霊夢に向かってとことこと歩いていった。 まだ霊夢は起きない。 霊夢の右脇に到着した小萃香は巫女服の袖をつかみ、よじ登っていく。 まぁ襲って、といってもちょっとしたいたずらをするつもりだけだったが。 本気で襲ってまた夢想封印されたくないし、と萃香は思う。 「んっ・・」 霊夢が突然声を発した。 萃香(本体)と小萃香はびたりと動きを止める。 もし起きるのなら今すぐにでも霧化して逃げなくてはならない。 だが霊夢の勘から逃げ切れるとも限らない。 よって様子見である。 いつでも逃げられる心構えを作りながら。 「んぅ〜・・・」 霊夢は寝返りをうった。 右にごろんと転がる。 起きなかったことに安心する萃香。 一旦分身を引き上げようとする。 が、分身の姿が見えない。 「あれ?」 周りを見渡すが霊夢と萃香(本体)のみ。 外にも何の声も聞こえないし、気配も無い。 さて、分身は何処に消えたのか。 (霊夢が寝返り打ったときに潰れたかな・・・?) 分身は右脇にいたはずで、霊夢は右に寝返りを打った。 分身の姿は見えない。 霊夢の背中しかみえないが潰れている可能性が高い。 まぁダメージもないから別にかまわないのだが・・・。 「んっ」 霊夢が声をあげる。 萃香は霊夢の方を見る。 分身は潰れているから起きるんだろうなーと予想していたが霊夢の様子がおかしい。 「あっ・・・ふあっ・・・ゃっ・・」 小刻みに震えている。 はて、体でも冷やしたのか。 声が若干上擦っている気がしたが気になった萃香は音を立てないように忍び寄り、霊夢の正面を覗き込む。 そこには、 巫女服(胴体)のなかでもぞもぞ動く分身の姿があった。 「・・・・えっと?」 萃香は状況を頭の中で整理する。 霊夢の服の中で分身がもぞもぞ動いてる。 霊夢は起きてないがなんか様子がおかしい(Not風邪) それどころかだんだん顔が赤くなってきている、と。 「これはOKのサインなのか・・・?!」 整理は出来てもネジがいろいろと吹っ飛んだらしい。 さっきまで胸の辺りにいた分身はへそ付近に移動している。 「ひぁっ・・・」 霊夢も身をよじる。 その様子に唾を飲む萃香。 いまだ動き続ける分身。 「し、辛抱たまらんっ!!!」 霊夢へのルパンダイヴを試みるため、身を屈める。 そしてテンションやその他もろもろもチャージ。 スペル宣言 飛符『スイカダイヴ』、コマンドは↓タメ↑+D 「んぅぅぅ〜・・れーいむちゃーん!!!!」 うっとりとした瞳と輝くオーラを放ちながらきれいな弧を描きながら飛翔する萃香。 徐々に霊夢が近づいてくる。 (ああ、めくるめく楽園がもうすぐそこに・・・!) と。 「やぁらめぇ。」 突然萃香の目の前にスキマが開き、中から墓が出てきた。 アドレナリンの過剰分泌で接近してくる墓の底がゆっくりと迫ってくるように見える。 墓には伊吹家の墓、と丁寧に書いてあった。 親父もお袋も死んでねぇよ。 墓の奥のスキマにあいつが見えた。 やっぱり笑っている。 満面の笑顔だ。 ゆっくりになった世界の中、萃香は念を贈った。 うっとりとした瞳のままで。 ちくしょうめ。 陽は随分と傾いて、紅葉と同じ色に幻想郷を焼いている。 この季節は幻想郷が燃えているようだ。 悪魔の妹が暴れまわればこんな風になるのかもしれない。 同じく紅く焼ける博麗神社の社殿の畳の上で萃香は目を覚ました。 「んぁ・・・?」 むくりと体を起こす。 周りを見渡すと霊夢もスキマの小憎いあんちくしょうもいなかった。 社殿のもっと奥からトントンという音が聞こえてくる。 夕餉の準備をしているらしい。 「いたい・・・。」 額にじんじんとした痛みを感じる。 墓があたった部分だろう。 痣になってないことを祈る。 なってても鬼の回復力で一日二日すれば直るだろうが。 それにしても中途半端な気分だ。 台所にいって割烹着の霊夢でも視るか。 そしてその後・・・・・・・・・うふふ。 「やぁらめぇ〜れいむ〜そこはぁ〜」 妄想はその声によって強制終了をくらった。 その声の主はスキマから上半身だけだして漂ってきた。 紫は満面の笑顔でこっちを視ている。 こいつのせいで・・・こいつのせいで・・・! 「霊夢はわたさないわよ〜私の物だもの。」 いけしゃあしゃあと言い放ちやがった。 本気で散らしてやろうか、と思う。 「やめておきなさい、あなたじゃ私には勝てないわ。」 寝転がるようにぐるぐる回転しながら心を読んだような発言をする。 ああ、やっぱりこいつには勝てそうに無い。 まだ、私ではこいつの境界を壊す術も、力も、経験も年輪も足りない。 霊夢ならこいつすらも飛び越えて倒してしまえそうだけど。 「霊夢が紫のものってどういうことよ。まだ事実も無いくせに。」 「あら、あの時は激しかったわよ?」 「?!」 な、なんだと。 私が宴会の騒動を起こすのと霊夢が長い冬の異変のあとに紫と初めて逢ったのはそんなに間が無い。 まさかそんなに早く関係が進展するなんて! 霊夢と紫・・・恐ろしい子・・・! 「あの針は痛かったわねぇ。」 「弾幕ごっこかよ!」 またしてもやられた。 「あんたはいつまで経っても私を子供あつかいだな。」 「あたりまえじゃない。幻想郷の人妖は私の子供みたいなものだもの。」 紫はいつもの調子で言う。 あれ?でもそれは。 「じゃあいつかはあんたを越えられるかもね。弟子は師を、子は親を超える。いずれね。」 「超えられるものなら超えてみなさい。そしたら霊夢を譲ってあげようかしらね〜。」 「それは別だ!霊夢を狙うやつは私が全部疎にしてやる!」 「私には通用しないわよー」 「きぃぃぃぃいい!」 地団駄を踏み鳴らす。 ああ言えばこう言う。 こういう言い合いでも勝ったことはない。 いつかは超えられるのだろうか。 なんか愚直な努力を繰り返す黒い暴走機関車を思い出した。 なんでだ。 「あんたらうるさい!これからご飯なのにホコリ立つでしょうが!」 割烹着じゃなくて普通より露出が高い、いつもの巫女服の霊夢だった。 ・・・ちょっと期待はずれだ。 「私は暴れてないわよ。萃香だけよ。」 「あ、ひどい!」 宴会を霧の形で見ていたときはこんな騒動の中心に自分がいることは無かった。 ただ眺めているだけでも楽しかったから。 でも、こんなのもいいのかもしれない。 「晩御飯は白米、お新香、椎茸とその他の煮付け。相変わらず質素ねー」 「うるさい。文句あるならうちに食材とか賽銭いれなさい。」 「霊夢ー今日は一緒にねましょーよー」 「だまれ、会話をしろ。あんた寝ると軽く十日起きないじゃん。」 たまに一人でいると、なんとなく空しいというかなんというか、よくわからない気分になる。 これが寂しいっていうのかもしれない。 鬼にはありえないのに。 霊夢は鬼と人間の差すら飛び越えやがった、あの巫女は。 「腹減ったよ霊夢ー酒もくれよー」 「あんたもだこの飲んだくれ。食べたかったら手伝いなさい。」 「ぇー」 「じゃああんたは酒抜きね。私と紫だけ飲むから。瓢箪も没収。」 「ちょっええっ?!」 「あら残念ねぇ。」 満月が昇る秋の夜長。 実りの季節が過ぎれば全てが眠る冬が訪れる。 だから、眠りの前に植物は紅く染まり、祭りを始める。 今宵の博麗神社もたった三人とはいえ、それに負けない喧騒だった。 「ところでうち布団一枚しかないんだけど。」 「しょうがないわね。三人で川の字しかないわ。」 「じゃあ私が真ん中ー」 「なんでよ。」 「私ちっこいから全員布団に収まるじゃん。」 「それもそうね。」 「じゃ、おやすみー」 (むふふー) 萃香は境界の二人の温もりを感じながら、意識を眠りに明け渡した。 了。 -------------------たにおり---------------------- ねちょくないです。 どーやってもギャグほのぼのが似合うトリオになってしまう・・・ 魔力、幻想の力! 結構喘ぎ声とか頑張ったんすけどね。 中(ピー)とか無理ッすわ。mjd。 ほのぼのして楽しんでいただければ恐悦至極。 そしてこんなのを要求した某エロイ人には呪いの電波を。 10/05 コヨイ