自分が信じた人間が人間で無い 。 それは最悪の形の 『裏切り』 「暑いなぁ・・・まだ春だっていうのに」 季節は春、なのにこんなに暑っくっちゃやる気が失せる。 ここは幻想郷唯一の人里、なんで妖怪が犇く幻想郷に人里があるかっていうと。 「そんなこと言ってもやらなければ終わらないぞ?」 この上白沢慧音様のおかげであったりする。青い服に銀と青の髪、それにちょっと風変わりな帽子。 いつも俺達を妖怪から守ってくれる凄く強くてさらに良い人だ。 「それもそうなんですがこう暑いとだるくてだるくて・・・」 なんでこんなに暑い日に畑を耕さなければいけなのか。そりゃ生きるためだろうとは思うけどさ。 「だるくてもやるものだこういうものは」 厳しいなぁ・・・まぁそれも俺達を思ってのことだとは、思うけどさ。 「わりましたよ、っと」 俺が適当に答えると慧音様は苦笑しながら。 「本当にわかってるのか?」 わかってるさ、とりあえずはだけど。 @ 「ふぃ〜やっと終わった」 疲れた。しかも朝方からやったせいでやっと日が昇ったくらいだ。 「お、終わったか。ほれ、差し入れだ」 そう言って投げてきたものを受け取ってみてみると、煎餅。 ・・・水をくれ水を。 でも嫌な表情を出すのも悪いか 「ん、どーも」 とりあえず食べておこう、煎餅を食べると醤油の味が広がる。うんやっぱり煎餅は醤油だな。 「けーね先生!あーそーぼ!」 子供が数名慧音様を呼んだ、やっぱり子供は元気に限るな。昔の俺もあんなんだったな、今思うと少し恥ずかしいが。 「すまない、子供達が呼んでいるみたいだし、私は行くよ」 「気にする事ありませんって」 いちいち気にしなくても良いのになぁ。まぁそこが良いのだけど。 さて、やる事やったし練習しますかな。最近は慧音様だけに守らせるのも、ってことで里の人々も武術を学び始めたんだ。 俺は弓を使っているが最初は全然当たらなかったし届きもしなかったが五ヶ月もやっていると流石に当たるようになってきた。 「今回は・・・50mからにするか」 まだ一度もあたったことの無い距離だ、これぐらいは当てておかないと妖怪退治は到底無理だ。 慧音様は素質はあるとは言ってたけど・・・。 50mほど離れた後弓を引き絞る、狙いを定めた後、放つ。 矢が放物線を描いて50m先の的を狙って飛んでいく。が、あと数ミリのところで外れた。 この数ミリの差が凄いんだよなぁ、当たると思っても当たらないし。 もう一度弓を引き絞り狙いを定める、前より少し修正して放つ。 今度は当たるか・・・? カッ!! 木に当たる良い音がした、どうやら当たったみたいだ。 パチパチパチパチェ 後方から拍手が聞こえたので振り返ってみると、遊んでいたはずの慧音様が居た。 「結構うまくなったじゃないか、けどもう少し姿勢を直した方が良いぞ」 姿勢か、あんまり気にしてなかったから悪くなったかもしれない。 「それよりも、子供達と遊んでいたんじゃなかったんですか?」 「ん?ああ、お昼ごはんとか言って帰って行ったよ。やはり子供は元気が一番だ」 そういえばもう昼か、そんな事を考えたら腹が減ってきた。 「んじゃ、飯にしますかな」 そう言って懐を漁っておにぎりを三個とお茶を取り出す。中身は全部梅だ。 「まったく、家に帰ってちゃんとしたのを作ったらどうだ?」 慧音様が呆れ顔で言ってくる、良いじゃん別に死にはしないさ。逆に作ったら死ぬかもしれないし。 「とりあえずは代用ですよ、料理作れないし」 そう言いながらお茶を啜る。 「なんなら私が作るか?」 「ブフゥッ!!」 思わず飲んでいた茶を吹いてしまった。この程度の水じゃ虹は出ないけど。 「ゴホッ、ゴホッ!作るって別にゴホッ!いいですゴホッ」 ついでに咽たため何言ってるかわからない状況だ、それでもちゃんと翻訳してくれるけど。 「まぁ気にするなって」 気にする、もしそんな事が知人にばれたら殺されるって、絶対。 「いえ、いいですから本当に」 「そうか?ならばいいんだが・・・」 慧音様の料理は確かに一度は食べてみたいものだが、今は自分の命の方が大切である。 とりあえず練習再開しないと。 「それじゃああんまり無理するなよ?」 そう言って慧音様は去っていった。 あと十発は打ち込もう、そう考えていた。 @@ すっかり遅くなってしまった。っていうかもう夜だよ、真っ暗じゃん。それに今日は満月だし・・・早くしよう。 十発とは考えていたけどあんまり当たらなかったせいで何百発打ち込んだ事か・・・。 家へ向かって走っていると、訳のわからないところに着いた。どうやら迷ってしまったようだ、二十年近く暮らしてきた里なのに。 どうやって帰ろうか、そんな事を考えていると暗くてよく見えないが目の前に後ろ向きの慧音様が見えた。丁度良いから道でも聞こう。 「おーい、慧音・・・さ、ま?」 そこに見えたのは姿形は慧音様だが服の色は緑になり、普段被っている帽子が無く、代わりにツノらしきものと尻尾が見えた 人間、つまりは・・・獣。 「なっ!お、お前!どうしてここに!?」 振り向いた慧音様が驚いてこっちに言ってきた。慧音様はこんな姿ではない・・・偽者か! 「誰だ貴様は・・・!」 俺は声を低くして聞いた。 「私だ!上白沢慧音だ!」 「嘘をつくなバケモノ!!」 慧音様はこんな姿ではない!こいつは偽者だ!絶対に! 「そうだな、今の私はバケモノだろう。でもお前の事は覚えている、子供の頃に井戸に落ちた事があってそれ以来井戸に近づかなくなった  とか、いろんなことをな」 「どう、して。どうしてそんな事を知っているんだ!お前は、お前は慧音様の偽者なのに!」 たしかに、昔井戸に落ちた事があってそれ以来トラウマになっていた事は事実だ。なのになんでこのバケモノは知っている!? 「私は偽者ではない!!慧音だ!!本当だ、わかってくれ!」 解っている、心のどこかでは本人だと解っているのだが、今まで尊敬していた人物が妖怪だったなんて認められない、信じられない。 だから、だからこいつは偽者なんだ! 「うるさい!貴様のような偽者が、バケモノが、慧音様の姿を真似ることなんて俺は、許さない!!」 「くっ・・・!」 俺は即座に後ろに持っていた弓と矢を構えた。こんな奴、俺が退治してやる。 「覚悟しろよ・・・!慧音様に化けた代償は大きいぞ・・・」 「・・・その弓か、お前もだいぶ上手くなった。子供の頃に妖怪を退治するんだって言ってた頃が懐かしいな。  まさか、こんな形で使われようとは思わなかったよ。○○」 その瞬間頭の中にあった記憶が走馬燈のように甦ってきた。 子供の頃に一緒に遊んだ慧音様、大きくなったと言ってくれた事がうれしかった。 それから弓を習って上手くなったと言ってくれた慧音様、あの時は家で喜んだ。 妖怪が来た時に助けてくれた慧音様。たまに家に来て様子を見に来る慧音様。仕事の時に手伝ってくれた慧音様。 笑っていた慧音様。慧音様、慧音様、慧音様慧音様慧音様慧音サマ慧ネサマケイネサマケイネサマケイネサマケ イネサマケイネサマケイネサマケイネサマケイネサマケイネサマ。 様々な出来事にはほとんど慧音様が居た、それが今敵として目の前に居る。 いや違う。こいつは偽者だ!偽者なんだ!!化け物が化けた偽者なんだ!!! 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 懇親の力を込めて弓を引き絞る、もう何も考えられない。勝手に涙が出てくるがお構いなしに狙いを定める。 「!」 いきなり何者かに強く押された気がした、いや押された慧音様に。 吹き飛ばされて尻餅をつく、そのあと俺が居たところに大量の弾が降り注いだ。 「あーあ、なんで助けるのよ。もう少しで食べられると思ったのに」 「そんな事はさせない、あの人間には指一本触れさせるものか!」 空中で妖怪二人が生死を賭けた勝負が始まった。それなのに俺は腰が抜けてまともに動けない。 「残念だけど一人じゃないのよ、早く逃げれば助かったのかも知れなけど」 後ろから声がかけられてとっさに振り向くと、女が立っていた。しかしコレも妖怪か。 「そう、私は妖怪。妖怪は人間を食べるの、だから死んでもらうわ。家に帰ってから食べるし」 そう言って腕を振り上げた。逃げたいが足がすくんで動けない、俺は・・・死ぬのか。 ザシュッ! あれ?痛くない。目を開けてみると目の前には緑の服を着た・・・妖怪。どうやら俺をかばったみたいだ。 「あら、また邪魔されちゃった」 「どうしてかば、ったんだ・・・?」 「それ、はな。私は人、間が好きだ、からさ」 「人間が好き・・・?」 慧音様なのか、やっぱりそうなのか。解っていたのだけど信じられなかった。それでも、これは慧音様なんだな。 「まったく!人間を守る妖怪なんて酔狂な奴も居たものね!前から知ってたけど!」 「くっ!」 そう言ってもう一度腕を振り上げた、狙いは慧音様。拙い!俺はとっさに弓を構え、矢を放った。 「っ!この人間が!狙うなら目の前の妖怪を狙いなさいよ!緑の服の方!」 腕に当てられた妖怪が叫んだ。そう言うと思った、もうすでに答えは用意してあるさ。 「妖怪だろうと人間だろうと!慧音様は慧音様だ!だから貴様を倒す!」 「はっ!この妖怪と同様にお前も変わった人間だね!さっさと死になさい!」 「死ぬのは・・・お前だよ」 @@@ 結局最後の最後で慧音様が妖怪を退治してくれたわけ。にしても、なんで妖怪になったんだ? 「ああ、私は半獣だ。満月になるとハクタクという歴史食いになる」 一通り落ち着いた後に慧音様はこう言った。ああ半獣かぁ、なんとなく解った。 「このことで、私を嫌いにならないか?」 「嫌いになんかなる訳無いじゃないですか。それよりも、あなたに伝えたい事があります」 子供の頃から思い描いていた思い。今こそ言うべきだ。 「俺は、貴女が好きです。幻想郷のどの人間の中でも」 「私は半獣だっt」 何かを言おうとした慧音様の口を俺の口で塞いだ。 「お答えは?」 「ん、そうだなどちらでもないでは、駄目か?」 「駄目ですね、可か否でお願いします」 「じゃあ、今度からお前の昼ご飯でも作ってやる事にするか」 「それは可・・ですか?」 「いや、それは保留だ」 そう言って慧音様は少し笑った。 @@@@ 「貴様!昨夜慧音様と口付けしたってのは本当か!?」 「してないしてない!絶対してないってば!」 まったく何処から漏れたんだが・・・。 「嘘付くなぁ!貴様なんぞまた井戸に落としてくれるわ!」 それは勘弁して欲しい、井戸はトラウマだってのに。 「おーい!持ってきたぞー!」 一通りの鬼ごっこした後に慧音様が弁当を持ってきてくれた。 「あ、どうも」 「何っ!?貴様よこせー!」 「嫌だ、もし欲しかったらお前も頼めばいい」 俺は頼んではないがな。 今のところは可か否かは決まってはいないらしいがそのうち決まる事になるだろう、俺が死ぬ前には。 慧音様と目線が合うと慧音様は軽く微笑んだ。つられて俺も笑ってしまった。 里は今日も平穏だ。