「ええと…、あなたが好きですっ!」 まさか人参畑で告白された男も俺が初めてじゃないだろうか。 予想もしなかった事態に意識が現実逃避する。 目の前には顔を真っ赤にした鈴仙。 夕食の人参収穫していてこんな事態になるとは紅い館の主人でもわかるめぇ。 「え〜、えっとだな…。」 なにか答えようとするものの、言葉が上手くでてこない。 「あ…、あの、いきなりで迷惑でしたよねすいません返事はあとでも結構ですのでなるべくならいい返事がいいかなとかずっと待ってますんで!」 息継ぎもせずに言いたいことだけ言って、鈴仙は飛び立ってしまった。 あ、青の縞。 「どうしたもんかな・・・。」 正直な所、鈴仙にそこまでの感情は持っていなかった。 「確かに可愛いと思うし、あの弄って下さいオーラはなんともいえないんだけどな…。」 一人つぶやきつつ、人参を収穫する。なんだか、心に違和感が残った。 数日後。 あれから、鈴仙とは何もなかった。 無論、一緒に永遠亭に住んでいるのだから会うことはある。 だが、以前から鈴仙とは持ち前の狂気の瞳ゆえにお互いに余り目を合わせなかったし、こっちを見かけると鈴仙が逃げてしまうのだ。 これじゃ話もなにもできやしない。 永琳さんからも、 「あなたはいい加減はっきりしなさい、それがあなたにできる善行よ。」 と、どこかで聞いたようなフレーズでからかわれてたりもしていたのだが。 それでも決心がつかなかった。心のどこかに何かひっかかりがあったのだ。 「それじゃちょっと姫の様子見に行って来るわね。」 どうやら今日の殺し合いは結構ハードらしい。替えの服やらを持って永琳さんが慌てて出て行く。 「鈴仙も連れていくから後はお願いね。」 そういって何か液体の入ったビンを渡される。なんだかこれコンソメ臭いんですけど。 「いざとなったら、それを飲むといいわ。」 何があっても飲めないな、この薬。 「あ、師匠〜。ちょっと待ってくださいよ〜。」 後を追って、鈴仙も出て行く。あ、やっぱり目合わせてくれない。 ちょっとしょんぼり。 数時間が経過。今回は随分長引いてるな。 くいくいっ ズボンのすそを引っ張られる。永遠亭にいるウサギ達の一匹だ。 彼女?達はしゃべれないので身振り手振りで伝えてくる。最初は苦労したが、今じゃ二次方程式までいけるぜ。 「えーっと、なになに。鈴仙が、部屋で、待ってる?」 とうとう向こうからお呼びがかかったか。 覚悟決めていかないとな…。 「鈴仙、入るよ?」 襖を開け、中に入る。 「…鈴仙?」 鈴仙はこっちに背を向けて立っていた。 「あの時の返事のことだよな…。えーっとあれはだな…、その…。」 緊張してまともにしゃべれない。ああもう!! 「たぶん俺はお前のことが好き……どわっ!」 急に飛び掛ってきた鈴仙に押し倒される。 俺の上に馬乗りになった鈴仙がこっちを見つめる。 なにか引っかかる違和感。 「……。」 鈴仙の顔がゆっくり近づいてくる。 あー、これキスってやつですか?鈴仙ってばこんなに強引だったのね。 … …… あれ、鈴仙と見詰め合ってるのに何もない?狂気の瞳なのに? そういや、鈴仙の目、……黒い? そこまで考えたとき、頭に浮かんだのはいたずら好きのうさぎ。 「……もしかして、てゐ?」 鈴仙、いやてゐの動きが止まる。 「おい待てよてゐ!いたずらにもほどがあるぞ!」 「……なんで、鈴仙なの」 押しのけようとした手が止まる。 「なんでいっつも鈴仙なのよ!私だって、私だってあなたの事が好きなのに!!」 頬に涙が落ちる。 「最初に会って、永遠亭に連れてきて、ずっとずっとあなたのこと見てたのに!!なんでなんで鈴仙に盗られなきゃだめなのよ!」 ああ、そうか。 俺を永遠亭に連れてきてくれたのもてゐ。怪我をしてた俺を看病してくれたのもてゐ。人参の育て方からなにまで教えてくれたのはてゐだった。 ずっと引っかかってた心のしこり。 自分でも気づかないままに、俺はこの子に惹かれていたのか。 「ごめんな、てゐ。」 頬に手を添えて、引き寄せる。 「罠とかいたずらも構って欲しかったんだよな。ごめんな。」 そのまま顔を引き寄せてキスをする。 「んっ……。」 てゐの能力は会った人間を幸せにすること。なら、初めて会ったあの時からずっと幸せだったんだな俺は。 こんなひねくれてて不器用な幸せを逃がすなんてありえない。 そして、俺はてゐを抱きしめた。 「あらあらまぁまぁ、お熱いわねぇ。」 永琳さん、タイミング計ってましたね。 「てゐ……。私の部屋で何やってるのよ……。」 鈴仙さん目が怖いです。狂気バリバリです。助けて。 「べーっだ!鈴仙ちゃんには渡さないもんねー!」 あああああ!!てゐも煽るなっていうか状況楽しんでるだろ!! 「波符『月面波紋(ルナウェーブ)』!!」 「遺言『エンシェントデューパー』!!」 弾幕の余波に巻き込まれて、ぶっ倒れる俺を師匠が見下ろす。 「で、どっちにするの?」 「勘弁してください……。」