紅魔館の地下に続く階段を降りる。既に決心はしてあるから思い残すことは無いだろう。 ……一応わかるように言っておくか。俺は紅魔館の雑用として働いている人間だ。 ことの始まりは数ヶ月前。式典の際にあの人を見てしまったのが始まりだった。 我らが主、レミリア様の横に並んで座る少女。あの時は彼女のことはぜんぜん知らなかった。 肩まである柔らかそうな金の髪、不思議な形の翼(?)。その姿につい心が奪われてしまった。 …そのあとにめったに無い粗相をしてメイド長に殺されかけたが。 そして、後々に情報を集め、ようやく彼女のことを知る事が出来た。 フランドール=スカーレット。……レミリア様の実妹と言われ、納得と後悔が頭の中で生まれた。 その後の情報が、なぜかあのときの姿とかけ離れていたのがわからなかったが。 曰く、「情緒不安定、…ぶっちゃけキ印?」 曰く、「あまりに危険なのでレミリア様でさえてこずっている。」 曰く、「たまに暴れてはパチュリー様に止められている。」 さすがに姉であるレミリア様に聞くのは身分をわきまえていないと思い、次点のパチュリー様に聞くことに。 すると、望んでいた以上の答えが返ってきた。 俺が見たときの彼女はパチュリー様特製の薬で腑抜けにした状態だったこと、 普段は紅魔館の地下牢にて過ごしてるということ、そして、彼女に食事を渡したメイドは帰ってこないということ。 ついでに、俺が彼女に一目ぼれしたことを言ってみると、突然倒れた。 あわてて介抱し、話を出来る状態まで持ち直させると、ずばり言われた。 「えっと、自分の命を顧みない馬鹿の頭を作り変える方法は…」 本気だよ、本気でページめくってるよこの魔女。 そんなことをやってるパチュリー様を説得し、ようやくここにたどり着けた。 すなわち、地下牢への扉。……ああ、なんてでかいんだろうか。 おまけに扉全体に呪文が、真ん中当たりにでっかく魔方陣が書かれている。ここまでするか普通。 とにかく。パチュリー様に教えてもらったとおりに結界を解除し、牢の中に入った。 大きな扉の奥にはまた扉。……確か、こっちが本来の扉で、さっきのが封印強化のための扉か。 そこをくぐると……まず最初に警告が来たのは嗅覚。明らかな異臭がする。動物の腐った臭いだ。 そして視覚。隅のほうに何かの塊が見える。……あのボロキレは紅魔館のメイド服に似ている。 「あれ?今日はいつもと違う」 声。まだ幼さの残る声が響く。……ああ、これが彼女の声か。 「まだおやつの時間じゃないよ。それとも、あなたは『おもちゃ』?」 上を見上げれば、彼女がいた。あの時とは違い、その顔に無邪気な笑いを浮かべて。 「いいえ、フランドール様。私はあなたに用がありましてこちらに現れたので」 「じゃあねぇ、何して遊ぶ?」 俺の話など聞いてないらしく、勝手におもちゃとして認定されたようだ。 「私が決めるわ。そうねぇ……『弾幕ごっこ』!」 つまりは、『問答無用で殺される』。 「いやあの、私の話を聞いっ!?」 既に『遊び』が始まったらしく、魔力弾の雨が降ってくる。 「あははははは!ほらほらちゃんと避けてねーっ!」 何とか弾幕を避ける俺に向かって笑いながら声援を送る。 ……いっつも弾幕言語で語ってくれたメイド長に今は感謝すべきかな…? ともあれ、しばらくは雨がやむことは無かった。 「すごいすごーい!いつものおもちゃだったらもう壊れてたのに、がんばってるー!」 そりゃ某グルーオン第2形態並みの弾幕やられりゃ壊れます。そう心でつぶやき、体の状態を確認する。 かなりグレイズしていたので服装は所々破れている。体の痛みは……少々。 今のような奴を長時間やられればきついだろう。 「よーし!次行くよ!禁弾…」 「お待ちくださいフランドール様!!」 ひたりと動きが止まる。……そういえば本来の目的を忘れてた。 「なあに?」 「……私はおもちゃではありません。あなたに用があるのですよ、フランドール様。」 ようやく話を聞いてくれそうな(遊びをさえぎられて不機嫌だが)彼女にさっきの続きを喋りだした。 「私はここの下働きの者。どうか私の話をお聞きください。」 とりあえず彼女を好きになったまでの経緯を話す。そして、こう言い放った。 「あまりにも馬鹿馬鹿しいとはお思いでしょうが、私はフランドール様を……愛したいのです。」 彼女は黙って聞いていた。 「それを伝えにこちらに……」 「……嘘。」 鋭い声が俺の頭に刺さる。 「……はい?」 「それは嘘。真っ赤な嘘。ここに来ればみんな恐怖でそういう。そういって、すぐに逃げようとする。」 声からにじみ出る感情が彼女の全身に染み渡っていく。……彼女は、怒っている。 「口だけの忠誠。言葉だけの愛情。でも心の奥底ではみんな私を怖がってる、嫌っている。……そんなのもう見飽きたわ!!」 怒りは魔力に変わり、魔力は弾に変わる。幾千幾万の弾が俺に襲い掛かる。 「私を愛する。そんなの嘘。私が好きだ。そんなの嘘。私の世界は嘘ばっかり!誰からも愛されない!」 俺はあわてて避けるが、もう避ける隙間も無いほどに弾が埋め尽くしていた。 「誰も私を愛さない!誰も私に気づかない!もうそんなのはいや!」 ……ああ、これは……俺の冷静な部分が告げた。 「誰でもいいの!私の全てを見て!!私を愛してよぉ!!」 悲しみの雨。怒りの雨。届かない声。ただ自分の声だけが空ろに響く。これは彼女の『495年間』。 「あなたも私を嫌っているんでしょう!だからあなたなんか壊れちゃえ!」 壊れろ……か。 俺はもうとっくに壊れてる。 壊れてるから何も感じなかった。……それを呼び起こしたのは貴女。 壊れてるから他人を気にしなかった。……それを目覚めさせてくれたのは貴女。 壊れてるから…… 「……っ!!?」 彼女は驚いている。当たり前だ。俺がもう弾を避けることをやめたからだ。 壊れているから、痛みも感じない。 俺はもともと外の世界で育ってきた。そこは…地獄だった。 その世界にいたせいで、俺は壊れた。感情を消した人形が、その世界で求められたから。 それでも何とか残った感情を振り絞り、この幻想郷へとたどり着いたのだ。 紅魔館で拾われ、レミリア様に食われるはずがいつの間にか仕えることに。 その時のことを「まったく感情が無いんじゃあ血がまずくなるわ。」とおっしゃっていた。 それからだんだん感情も回復はしていたが、最後の一つが欠けていた。 それを、彼女…フランドールが呼び起こしてくれたのである。 「……なんで?何で避けないの?」 もう左腕が吹き飛び、無くなっていた。 「あなた壊れてるのよ!?なんで泣き叫ばないの!?」 腹からは内臓も出てるだろう。 それでも、俺は彼女のところへ向かった。 「なんで!なんで!なんで心が壊れないの!?もう体が壊れてるじゃない!!」 彼女の前に立つ頃にはもう原形をとどめていなかった。 指が落ちたり、折れている手のひらを彼女の頬に当てる。 「っひ!?」 ――俺が。 「それは…」 ――お前を。 「貴女が……」 ――愛してやる。 「好きだから……です……」 「……あ……ああ…」 「どうです?壊れない人間もいるんで…す……」 よ。と言い切る前に体が倒れた。……まあ、当たり前だろ。 いやぁ、ひさしぶりに無理をしたな。こりゃ死ぬだろうな。体中ボロボロ。直せそうも無い、か。 と考えてるときに、なぜか彼女の叫び声が聞こえた。そこで意識が消える。 やれやれ。まさかこんな馬鹿をやるとは。真っ黒い意識の中、そんなことを考えていた。 パチュリー様の言ったとおりになったな。「自分の命を顧みない馬鹿」…か。 ………あれ? 今、俺って死んでるのか?生きてるのか? そう考えた瞬間、光が見えた。 映っているのは紅魔館の天井。そして…… 「ああ、そう言えばこれがあったな。…まったく、こんな愚か者に使わなくても…」 五つの結晶体で結ばれた魔法陣。……『賢者の石』だ。 全てを生み出す存在なら、人体練成も可能だろう。 「あなたが愚か者なら、今術をかけている私も、かける様に頼んだ妹様も愚か者ということになるわね。」 術者の愚痴が聞こえたが、首が動かせない。……声からして足元あたりだろう。 「ここは紅魔館の医務室よ。あなたが意識を失ってすぐに妹様が飛んできたのよ。パチュリー助けて、って。」 「って、いたんですねパチュリー様。」 「……どこかの大妖精じゃないんだから。気づきなさいよ。」 …大妖精か。それは失礼と苦笑いする。 「ところで今は何やってるんですか?」 「『自分の命を顧みない馬鹿を直す方法』を探しているのよ。」 「勘弁してください。こんな自分が気に入ってるんですから。」 ドドドドドドドド…… 「パチュリーっ!」 「……やっぱりフランドール様か…」 どかどか足音をさせるから誰かと思えば…… 「……………っ!!よかったぁーっ!」 「え、ちょっとフランドール様抱きつかくぁwせdrftgyふじこlp;@:」 フランドールの抱きつきによって脳天へ直接電撃をぶち込んだかのような激痛が全身を襲う。 「妹様。彼はまだ回復していませんよ。まだついさっきのことですから。」 「あzsxdcfvgbhん……って、ついさっき!?」 だから全身が動かなかったのか。 「あ、ごめん。でもほんとによかったぁ。」 すぐに離れてくれたが、まだ全身が痛む。 「それにしても、あんな妹様を見たのは初めてですよ。初めて『この人間は壊したくない』って言ってましたからね。何がそうさせたんですか?」 「う。」 地味な一撃に悶えるフランドール。……多分わかってるな、パチュリー様。 「………た………から……」 「何でしょうか?もっとはっきりおっしゃってください。」 「初めて…本当に好きだって……言ってくれた…から…」 既に顔は真っ赤っか。こっちまで紅いのが移るくらいだ。……そりゃな。 「あれだけ食らって、それでも立っていて、好きだって言ったんでしょう。あなたも気障な真似をするわね。」 「ぐっ」 あれが気障か?普通の人間は命懸けてもできないって。 「………」 「パチュリーの意地悪…」 俺達が黙ってしまったので、つまらなそうに腰を上げた(気配が移動した)。 「まあ、二人で語りなさいな。それと妹様。彼は絶対安静ですからね。」 何を想像したんですかパチュリー様。 「あー。その……」 「…なに?」 「まだ、返事聞いてませんが……」 「……ぁうっ。」 この後もあー、うー、とうなり続け、しばし考え込む。 ……パチュリー様との会話で半分わかってはいるが……っ!? 唇に感触。目の前にはフランドール。 「……これが、答えっ。」 そう言って、俺の愛する少女は恥ずかしそうに笑っていた………     ***    ***    *** はい、プロポーズスレ初めてのM(仮名)です。 ああどうしても痛い表現になってしまったなぁ…… 場の雰囲気を和ませるため、NG(というか小ネタ)でも読んでください。 NG−1 ……ここまでするか普通。 パチュリー様に教えてもらった解呪の呪文を唱えるべく、大きく息を吸い込んだ。 「マァァァァァァァァルコム、ィエェェェェェェェックス!!!」 当然「ィエェェェックス」の時に腕でクロスするのを忘れずに。……なにやってんだあの魔女は。 って言うか、この呪文恥ずかしすぎるぞ。 NG−2 ……「え、ちょっとフランドール様抱きつかくぁwせdrftgyふじこlp;@:…ぐふっ」 あまりにも強烈なフランブリーカーを食らい、一撃で昇天してしまう。 ざんねん!わたしのぼうけんは ここでおわってしまった!