マヨヒガの上に月が昇る。今日は満月だ。  幻想郷ではやたらと月が綺麗に見える。だから、こんなにも酒が美味いのだろうか?  …いや、きっと美味いのはそれだけが理由じゃないな。 「ふぅ…こうやって静かに酌み交わす酒も、いいものだな」  隣に座っている藍さんが、そういってくいと杯を空にする。  少し酒精が回っているのか、ほんの少しだけ赤い顔が色っぽい。 「あまり俺、酒は強くはないんですけど…でも、いいものだと思いますよ」  俺はちびちびと杯の酒を啜りながら、藍さんの言葉に答える。  辛口の日本酒が若干喉を焼くものの味わいは素晴らしく、もう一口もう一口と飲んでしまう。  ちょっと一杯のつもりで…といった誰かの言葉は、あながち間違いでもないらしい。 「ほれ、もう一杯どうだ?」 「あ、頂きます」  藍さんが徳利で酒を注いでくれる。きちんと袖を押さえて注ぐ所が藍さんらしい。  注いで貰った酒をまたちびちびと飲み始める。若干さっきよりも美味しいと思ってしまうのは…気のせいかな。 「いい飲み方だ。じっくり味わうといいぞ」 「あはは…本当は飲めないから、ちょっとずつ飲んでるだけです」  そういう藍さんは、くっと飲み干す勢いの良い飲み方だ。見ていて気分がいい。  庭先には七輪が置かれ、上ではスルメが丸まっている。焼けるのもそろそろだろう。 「…美味いな、今日の酒は」 「ええ…そう思います」  二人で見上げる月は、優しい光を放っている。月には魔力があるというが、そう言われるのも頷ける。  …二人での酒盛り。気分は二人とも良い。……言うならば、今か?  そう思った矢先だった。 「あら?二人とも楽しそうね…私も混ぜてもらおうかしら?」  来やがりましたよ、幻想郷一の困ったさんが。  一体何がどうなってしまったのか。  スキマから飛び出す銘酒・珍酒の連打に、俺はあっという間に撃沈。すでに呂律もあまり回らない。  見れば藍さんも顔が真っ赤になっていた。平然としているのは紫さんだけだ。 「ほらほら藍〜、もっと飲みなさいな」 「こ、これ以上は無理ですぅ〜」  九尾がその言葉に頷くようにぱたぱたと振られている。あー、もふもふしたら幸せだろうなぁ。 「まったく…だらしがないわねぇ。コッチの子は飲めないのにあなたに付き合ったのに」 「…そ、そうはいっても…」  ああ、気にしないで下さい。一緒に飲みたいって俺も思っただけですから。  酒のせいか、藍さんもちょっと可愛くなってるように見える。役得だー。 「この子の気持ち無駄にしないの。多分藍の事好きなのよ〜」 「なななななななっ!?」  言いやがりましたか紫さま。こんどモズク大量に食わせてやる。  …でも、嘘偽りでもない辺りがなんともいえないなぁ。 「健気じゃないの〜。で、藍はどうなのかしらぁ?」 「わ、私は…その……あの…」  あ、まずい。意識が切れる。限界です。  もったいないなぁ…もしかしたら、藍さんの気持ち…聞けたかもしれない………のに…… 「…えーと」  冷静に状況を見てみる。日差しから多分時刻は朝。俺は布団で寝てる。  …あと一つ要素があるけど。 「すぅ…すぅ……」  なぜ俺の隣で藍さんが寝ていますか?全裸じゃないだけマシだけど。  その所為で身動き一つ取れないんですが。………どうしよう? 「ら、藍さん…あの、藍さん」  いつまでもフリーズしてるわけにはいかないだろう。とりあえず藍さんを揺り起こしてみる。 「むにゃ……………え?え?え?え?え?え?え?え?え!!!!!?????」  一瞬寝ぼけたかと思ったら、藍さんは布団から飛び出し、天井に飛びついてしまう。  うわ、見事に尻尾が逆立ってる。 「ななななななん、ななななっ!?」 「お、落ち着いてください藍さん!俺何もしてませんって!服、服!」  俺も焦りつつ、それでも誤解を解くために藍さんを指差す。 「…あ。そ、そうか…大丈夫か。すまない、慌ててしまって…」  そういってようやく天井から降りてくる藍さん。心なしか顔が赤いのは…やっぱり俺の所為か。 「あの…俺の記憶ないんですけど、何かあったんでしょうか?」  そもそも縁側で転がっていた記憶が最後なので、どうして布団で寝ているのかわからないのだ。  藍さんはどこかもじもじとしながら、俺の質問に答えた。 「あの…な?私も昨日は深酒をして、前後不覚になって…一応そのままでは風邪を引くと思って、部屋まではつれてきたんだ」 「…はぁ」 「それで…寝かせたのはいいんだが……その……あの……」  …おかしい。藍さんがトマトよりも真っ赤になってしまった。  なにかがよほど言いづらいらしい。ずっと『あのその』を言い続けている。  …ようやくその言葉が出たのは、しばらくしてからだった。 「す、好きな人と寝るのは…正しいことだと……紫様に言われて…それで……つい…」  ……なるほど、全ては紫さんの差し金ですか。  強い酒を連打したのも、この為だったんだろうか? 「め、迷惑だったな!私は朝ごはんを作ってくる!」  もう顔もあわせられないのか、そのままそそくさと部屋を出ようとする藍さん。  けれど、この機を逃すわけにはいかなかった。多分紫さんも、こうするように水を向けたのだろうから。 「俺も好きですよ、藍さんのこと。藍さんのこと…愛してますから」 「!!!!!!!!!!!!!!!」  ばたんと音を立てて閉められる障子。ばたばたと廊下をかけていく足音。廊下は走っちゃ駄目ですよ、藍さん。 「やれやれ…」  意外に藍さん、照れ屋だったんだなと再確認した。  外から差し込む日差しは、優しく部屋を照らしている。  今日は何となく、いい日になりそうだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 規制されてるから報告しばらくあとになるのかな… インスピは>>230>>231>>231から。飲んでて紫様に弄られてついでに告白という流れ。 なんでこうも少女チックになるかな。藍さまは大人の女性ってイメージあるのに…