そこはとある山奥の神社。  真夜中、月明かりに照らされる神社全体ーーー桜の木、3人の姿。  その神社は長い階段の上にあってーーー  2月下旬ーーー  2人の少年と1人の少女。3人は何をする事もなく微笑んでいた。  2人の少年ーーー一人はオレ。もう一人は友人、というか相棒に近い。名は桜子。オレらは昔からの長い付き合いだった。  そしてーーー  少女の名は西行寺 幽々子。桜色の髪、着物‥‥とは違うのだろうか、まるで白装束のような衣服を纏っている。  3人はーーーー  ただそこにいるだけで、幸せだったのかもしれない。  オレは高校生。どこにでもいるようなごく普通の、そして姿形も極めて普通の高校生だ。  オレには昔からの腐れ縁で長い付き合いの友人、、、桜子がいる。あいつはふざけた奴だが根はいいやつだ。スポーツ部に入るわけでも なくスポーツ狩りの髪型。  もう一人、高校で知り合った仲のいい友人、というか情報屋だが、そいつは八雲 藍という女だ。いつも何かを企んでいるような笑顔を しているが基本的にはいいやつでいざという時には頼りになる。  ごく普通の高校生活、ごく普通の毎日が過ぎて言ったーーー  ある日、  「なな、この所勉強づくめだったしよ、たまには山奥にある神社にいってみねぇか?」 と桜子が言った。  何か理由があるわけでもないのだろう。オレは了承して、気分転換に、という事で夜、神社へ行ってみた。  学校から徒歩で1時間弱、結構遠かったがなんとか到着。  桜子が既にいた。  夜の神社ーー長い階段を登った先の神社の周りは桜の木々に囲まれ、辺りは月の光のみに照らされている。  広い神社だった。そこから少しはずれに大きなーー時代劇にでも出てきそうな屋敷がある。  月に照らされるその風景はーーーとても綺麗でーーー  「んーたまには夜の神社参りもいいよな」  と桜子が言ったが、まさにその通りで、まるで幻想の郷にでもいるようなーーー    そして出会う。    オレは神社の屋敷の近くに立つ人影を見つける。  ーーー誰?  −−−−−−  今となっては、ここから先の記憶がとてもあいまいなのだ。  その少女は、オレ達を見て微笑みかけてきてーー  ただ、少女の美しさに目を奪われ、まるで神社そのものがその少女が現れたことによってエリュシオンにでもなったかのような錯覚を覚 えた事。  少女はーーー幽々子はオレと同い年だというのに学校に行っていない、そこのはずれの屋敷に住んでいる者だった。友人がいなく、毎日 夜の月を眺める事が日課になっていたのだという。  ここから先はーーーやはりよく覚えていない。  最初に交わした会話も。遊んだ方法も。何もかもほとんどーーーただ休みの日になっては桜子と一緒に夜、神社へーーあの少女へ会いに 行くようになった。  知らず知らずのうちにオレは彼女の魅力に引き込まれていった‥‥。彼女の方は、どう思っていたのだろうか?わからないがーーオレは だんだんに彼女に恋をしていくーーーそんなオレに、オレの話す言葉に彼女は微笑んでくれる。  彼女は笑っていた。  笑う姿はとても言い表せない魅了の力を含んでいて、  オレはーーーー    この日から毎日、オレらは彼女に会いに行った。    3月下旬、桜の咲き始める頃。  この幸せに近い状態がーーーー      ある夜、土曜日、いつものように由々子に会いに行き、そして会話を交わし帰る頃。  「ああ、悪い、お前先に帰ってくれ。ちょいオレ話があるからさ」  と桜子が言ったのでオレは先に帰ることにした。  何かオレには話せない笑い話でもあるのだろうとでも思った。  次の日  日曜日、夜、神社。  桜子と幽々子はいなかった。  (んー‥どうなってんだ?)  オレは1時間ほど待っても2人が現れなかったため、そのまま帰る事にした‥‥  月曜日。桜が3分咲近くになりはじめた頃。  オレは藍から信じられない話を聞く。  「桜子が行方不明になった。」  「ーーーは?」  オレは最初は信じられなかった。信じたくなかった。信じられるものか。あいつとは長年の付き合いでーーーいやそうじゃない。なんで 幽々子も同時に現れなくなったんだ?なんだこれーーー?  その日から毎日、夜になって神社へ行き始めた。  しかし、誰もいない。  次の日も、  次の日も、  次の日も次の日も次の日も次の日も次の日も次の日も  桜が満開に近くなった時になってもあの2人は来なかった。  不安を感じる。  彼女がいない。  あいつもーー桜子もいない。  あんなに楽しい日々が何故か今はない。  神聖という言葉こそ相応しい彼女と過ごす夜が、オレの今までの人生の中で何よりも大きかった。のに、  彼女に会いたい。  まさかこのまま会えなくーーー    オレはある日学校で、情報屋としての藍に、今までの経緯を全て話し、桜子と幽々子の探索依頼をした。  「おい、‥‥まじなのか。幽々子と言えば‥‥あの西行寺財閥の一人娘の‥‥わたしら一般じゃなかなか会えない存在だ。その西行寺家 を調べるとなるとこいつぁ‥少々骨が折れるな」  「‥やはり、無理なのか?もしそうなら、無理言ってすまなかった‥‥」  「ーーーいいよ、調べてあげる」  「え?」  「あんたのそこまでの真剣な顔は初めてみたよ(ニヤリ)。こっちも本気で、、今回は無料で探そうじゃないか」  藍は、やはりいいやつだった。  わずか3日後、  藍から学校裏の人の少ない場所への呼び出しがかかった。  ああ、彼女に会えるのかもしれない!  こんなにも早く情報を集めるとは思わなかった。  オレは、たぶんこれ以上ない程期待しただろう。  ああ早く彼女の居場所が聞きたーーー  聞きたいけど、ちょっとの不安があって、、、  「いいかい、今から言う事は全て推測だ。細かい事もわからないしだいたいの情報で、事実なのかどうか、実際の所何もはっきりしちゃ いない。それをよく考慮しておいてくれ」  「ああ、わかった」  そして、  藍は言う。    「まず、  お前の言ったその夜、桜子は由々子に手を出したそうだ」    ‥‥‥は?    「単刀直入に言おう、一方的な「やり逃げ」だったそうだ。  桜子がその後どうなったかわからない。ただ幽々子についてはこの後もう一つの情報がある。  ‥‥‥  幽々子は死んだ」    あははは、わけがわからない。  「こいつも変なんだ、死因がわからない。亡骸もぶっちゃけて言うと見た者からの情報はない。  つまりーーー  誰もわからないんだ。真実を知っているのは西行寺家の中枢のごく一部かもしれない。以上だ」  えーと‥‥    「‥‥実はたった一つだけ、ホントに可能性が低い情報があって、‥‥それもあんたに伝えておくことにする。  ーーー    幽々子は桜子に殺されたらしい」  夜、四月上旬の神社は満開の桜に囲まれていた。  月のみが神社を照らす。    オレはーーー  何を信じているのかわからない。  あいつが、やり逃げ?  清らかでーーー汚れの無い幽々子を汚したのか?いなくなった理由はそれ?殺したってナンダ?  幽々子はーーーオレは幽々子に  もう一度会いたい  会いたい  会いたいけど  会いたいけど    真実は何もわからない  桜が舞う  月に照らされて輝く  2年後ーーー  2月下旬、オレは数百度目の夜の神社へ向かった。  ‥‥諦めるとかそういう考えは1度も浮かばなかった。  オレは、必ずーーー  今日も神社へ向かい、長い階段の下あたりに到着し、そしてーーーあれ?  人がいた。  階段を少し登った辺りにいる。その姿は  心臓がーー鼓動が早くなる。  あれはーーー幽々子ーーーじゃない。あれはーーー  嘘だろ?  「桜子‥‥」  ーーー  「‥‥よぉ〜」  頭が真っ白になる。  オレは即座に階段を登り桜子の襟首をつかみかかった。  「‥‥‥‥‥説明、してくれないか?」  ‥‥‥  「何か、言え‥」  オレは手を離して後ろを向く。  「‥‥‥  すまなかった」  ーーー  「本当にすまなかーーー」  「黙れ!‥‥お前は幽々子を汚したんだな‥‥?お前は‥‥‥」  「‥‥‥」  長い沈黙。  オレはどうしたいのかわからない。  桜子は、何故かーーー悟ったような表情をしているのだ。  「彼女は、今は生きている」  「‥‥え?」  そう言うと桜子はゆっくりと階段を登っていった‥‥  オレは、桜子のあとを追うしかない。        そして、ゆっくりと、月に照らされ2人は階段を登って行くーーーー                                   〜FIN〜