眼鏡の話。 ことの始まりはいつも日用品を仕入れている香霖堂だ。 いつもと同じ物を買って、いつもと同じように代金を払い、いつもと同じように店を出ようと思った矢先。 「いつもご愛顧にされてる礼だよ。」 と言ってこの眼鏡を渡された。 私は別に視力が悪いわけではないので要らないといったのだが。 ならば伊達で、と強く押されてもらってしまった。 店主がなんでGJ!とかいいながら笑顔になっていたのかいまいちわからんが。 その眼鏡は銀メッキの細い枠組みで出来ている。 レンズの周りは小さい楕円になっていてレンズそのものも薄い。 特におかしい仕掛けがあるわけでもなさそうなので持ったまま家に帰った。 その晩、満月だったので妹紅の家に行く。 しっかりとハクタク状態だ。 しかし暴れるとまた巫女とか魔砲使いとかが来るので暴れない。 妹紅の家に行く目的は実際のところ雑談が主になる。 だってあまりやることないし。 ふと、妹紅が何かに気付いてこっちに尋ねてくる。 「慧音、それ何?」 と、眼鏡の入れ物を指しながら言ってきた。 妹紅は生まれた時代に眼鏡が無かったから知らないんだろう。 一応細かく説明はした。 そしたら「掛けてみて。」と言う。 しかも、凄く楽しそうに・・・。 ああやめろもこーそんなかおでせまられたらハァハァ。 という脳裏は微塵も表情に出さず眼鏡を掛ける。 「ぬ?」 なんか視界がぼやけるというか、一段と近づいてるというか。 店主がくれたのは伊達眼鏡のはず。 だから別に影響は無いはず・・・。 「ど、どうしたの慧音?ぐらぐらしてるよ?」 ああもこーきみのかおがちゃんとみえないよ。 ぼやけてしまってどうしたんだいもこー。 頭がぐらぐらする。 気持ち悪い。 妹紅には悪いけど今日は家に帰って寝ることにしよう。 「も、もこー。今日は悪いけど帰るねー。」 さっと立ち上がり、玄関に向かう。 ゆがむ視界の中、靴を見つけて履く。 さぁ玄関をくぐろうとしたとき。 目の前には玄関の戸があって。 ゴッ 進もうとした力そのままに玄関に突撃したわけだな。 「慧音!」 最後に見えたのは、心配して駆け寄ってくる妹紅の顔だった。 あぁ、心配されて逝けるなんて私は幸せだー・・・。 「うわっ慧音血まみれの笑顔きもいよ!いつもの三割増しくらい!」 最後に妹紅の言ったことは聞こえなかった。 「ねぇ霖之介さん、掘り出し物っていってた眼鏡は?」 「ああ、上白沢さんにあげたよ。」 「このガラスは?」 「眼鏡のレンズだよ。」 「霖之介さんのみたいに度入ってないわよ?」 「え。」 そんな話。