インスマウスでいあいあでまぬけなカリスマ悪魔たちのお人形直し

作品集: 最新 投稿日時: 2012/04/01 23:57:59 更新日時: 2012/04/02 00:00:21 評価: 0/5 POINT: 6706990 Rate: 223567.17
 私は激怒した。必ず、かのルイージ色の腋巫女を除かなければならぬと決意した。私には先日何があったかは分からぬ。ただ、はっきりしているのはにとりが工房で襲われたことと、彼女の日記帳に守屋神社の秘密を知ってしまったがために狙われていることが書かれていたこと。何かの粘液のようなもので汚れてしまったにとりの日記帳から、辛うじてあの風祝に襲われたということが読み取れたのだ。

『――何とか逃げ延びることが出来た。しかし、まさか守屋神社にあんな秘密があったなんて。怒り狂う早苗を撒いて、離れにあるこの第二工房に落ち延びることが出来たけど、ここも明日の朝までは無事であるとは言い難い。道具を、いや武器をかき集めて山に逃げて天狗に匿ってもらおう。文や椛、はたてにこのことを知らせれば、きっと霊夢にも伝えてくれるだろうし。しかし、流石に疲れた、ちょっとばかり休んで 何だ!?今の音は!!あいつが、早苗がもうここを嗅ぎ付けて来たというの!?有り得ない、有り得るはずが無い!!いや、そんなことよりもはやく逃げないと、私の命が――ああ、窓に!窓に!』

 こんな日記を書いている間にどうして逃げなかったのか、という疑問はさておき、にとりが守屋神社の秘密を知ってしまったことで早苗に襲われたということはどんな幼子だって理解できる。
 私にはどうしても早苗を許せない。勿論、知られたくない秘密を覗き見したにとりにも非はあるけど、だからといって精神的に再起不能になるまで追い込む必要がどこにある?ここは幻想郷、盛大に弾幕ごっこを仕掛けて、ぶちのめした後に酒を酌み交わせばそれで万事が丸く収まるはずだ。なのに、にとりをあんなになるまで痛めつけやがって。
 おっと、守屋神社の鳥居が見えてきたか。八卦炉にありったけの魔力を込めて、開幕早々マスタースパークでその綺麗な顔をフッ飛ばしてやる。私は最初からクライマックスだぜ!
 守屋神社の境内に早苗がいる事を確認するとそこに降り立った。時刻はもう丑三つ時、あたりは真っ暗だが篝火が焚いてあって、何故か諏訪子の帽子が中心におかれ、早苗が得体の知れない棒を持ってその周りをぐるぐる廻っているのが確認できた。また、「いあいあ くとぅるふふたぐん ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」と、不気味な言葉を難度も繰り返している。
 ……何だあれは?守屋にあんな儀式があったのか?一瞬、恐怖に駆られるも、すぐに気を取り直す。ここで怖気づいたらにとりの仇なんてとれないじゃないか。
「早苗!にとりの仇討ちにきたぜ!私との弾幕ごっこに付き合ってもらうぞ!!」
 右手に八卦炉を握り締め、高らかに宣戦布告をする。
「さあ、来いよ早苗!武器なんか捨ててかかって来い!!」
 だが、篝火に照らされた早苗の顔を見たとき、私は恐怖に慄いた。早苗の顔が


 人間のそれじゃなかった。


 顔色は灰緑色で、眼が極端に離れ盛り上がり、まるで魚や蛙を思わせるものになっていた。いや、顔だけじゃない。肌には鱗にびっしりと覆われ、指の間には水かきのようなものが見て取れた。
「いあ!いあ!くとぅるふふたぐん!」
 先程の不気味な呪文を唱えながら早苗が近づいてくる。しかし、その近づき方も妙におかしい。歩くでも走るでもない、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら近づいてくるのだ。普段の早苗から想像も出来ない容姿、動作に私は声を出すことが出来なかった。
 いや、私が慄いたのは早苗に対してだけじゃない。早苗の背後には諏訪子の帽子が浮かんでいた。下からは吸盤のようなものが沢山ついた触手や蟹のような殻に追われた足のようなものが何本も生えており、また、帽子本体からは、ズッズッ、という冒涜的としか言いようが無い不気味な音が漏れており、私は名状しがたき恐怖を覚えるのだった。
 私は180度方向転換すると八卦炉に込めた魔力を一気に放出し、その場から去った。間違いない、私一人であんなのとやりあったら間違いなく死ぬ!いや、死ぬ方が天国に思えるような、ひどいことをされるに決まってるって!!



◇  ◇  ◇



 まりさに みられた
 かみさま よぶとこ みられた
 まりさ つかまえる
 でも かみさま もうすぐくる
 まりさ つかまえる より だいじ
 だから かみさま よぶ
 おいのり つづける

 いあいあ くとぅるふふたぐん ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん
 いあいあ……



◇  ◇  ◇



 ……早苗の奴、追ってきてはいないか……。しかし、諦めたわけでもないだろうな。早かれ遅かれ、私は早苗だったバケモノと戦うことになるだろう。だけど、正直一人じゃ勝てる気がしない。まず仲間を集めるんだ。一人じゃ勝てなくとも、二人、三人と力を合わせればきっと勝てるに違いない。
 まずは、あいつだ!霊夢だ!
 今回はどう考えても異変、その異変解決のスペシャリストといえば、私以外には霊夢ぐらいだ。それにあいつほど頼りになる奴なんてまずいない、あいつの強さはライバルたるこの私が誰よりも一番よく知っている。
 よし、一刻も早く博麗神社に向かわなければ!!

 ん?あの黒いリボンに緑の服は……妖夢、妖夢じゃないか。何故こんなところにいるんだ?幽々子の警護をしなくていいのか?
 いや、そんな些細なことはどうでもよい。妖夢の強さは霊夢には劣るものの、折り紙つきだし、最近は異変解決にも精を出している。仲間として誘うのにうってつけじゃないか。
 それに、あいつは真面目で心優しいところもある。事情を説明すれば二つ返事で協力を仰げるだろう。そうと決まれば!
 ……て、何か様子がおかしいぞ?一心不乱に地面に這い蹲って探し物をしていると思ったら、何かを数えているようだな。あれは、ステーキ肉?何でそんな高級品を?
「――、99まぁい。……嗚呼、何度数えても足りない、何度探しても見つからない。最高級松坂牛特上サーロイン、百人前なのに一枚だけ足りないよぉ。ぐすっ、幽々子様に何と申し上げればいいんだろ?」
 今の妖夢に声をかけるのは止めておこう……。
 さ、早く霊夢のところに行かないと。



◇  ◇  ◇



 無い。
 無い、無い。
 無い、無い、無い!
 どんなに数えても、どんなに探しても、数が合わない。嗚呼、無欲な主人の細かな願いもかなえることが出来ないなんで、私は従者失格だ。一体、どんな顔で白玉楼に帰ればよいのか。きっと、心優しい幽々子様のこと、私のことを咎めもせず、労ってくれるだろう。
 しかし、それではいけないのだ!私は魂魄家の者としての責務がある、意地がある。主人の優しさに甘えるなど、そんな醜態を見せるくらいならば腹を斬って死んだほうがましだ!
 だからといって、ここで自刃するのも魂魄家の恥晒しもいいところ。どんなに生き恥を晒そうとも必ずや生きて主の許へ舞戻って、主人のために粉骨砕身、己の全てを捧げ奉公すること、これが魂魄家の家訓であり、矜持であり、義務である。自刃など、いつでも出来る。しかし、それは自分の役目を途中放棄することと同じこと。
 今私が出来ること、やらねばならぬことは足りないサーロインステーキ肉を探し出し、我が主幽々子様へ献上すること。
 まだこのあたりに落ちているかもしれないし、ただの数え間違いのだけかもしれない。さあ、妖夢!ここから踏ん張りどころ、なんとしても探し出して一枚残らず幽々子様へ献上するのだ!
 もう一度、先刻程の枚数が正しいか、もう一度数えなおすんだ!
「いちま〜い、にぃま〜い、――」



◇  ◇  ◇



 やっと、着いたぜ博麗神社。こんな夜分に申し訳ないが霊夢を叩き起こして協力を仰がないと。っと、境内にいるのは霊夢じゃないか。それにもう一人、あの姿は……この前の異変の時にいた狸BBAか。何やってんだ?
「やはりそうか、随分探したよ、霊夢。いや、小夜」
「言わないで!私はもうその名を捨てたのよ、名乗る資格なんて無いのよ!!」
 どうしたんだ、霊夢の奴?あんなにヒステリックに叫ぶなんて、普段の霊夢からは考えられないぜ。
「だが儂には、いや儂等にはお前は小夜じゃよ」
「お願いだから止めて!私はあそこから逃げ出したのよ!」
「少しは落ち着け。なにもお前を連れ戻そうとはせぬよ」
「じゃあ、貴女は何しに来たのよ!マミゾウ、いえ、魔奴化!!」
 間抜け?マミゾウの奴、本名はあんな名前だったのか?
「儂はな、七福神よりお前への伝言、いや謝罪の言葉を預かってきたんじゃよ」
「謝罪?」
「ああ、『年頃の娘の身に全て押し付けてしまい申し訳ない』とな」
「う、うそ……」
「本当じゃよ、年端の行かぬ頃から命に関わるような荒事を任せたことを、七福神全員が反省しておったよ。勿論、儂もな」
「でも、私は皆を捨ててきたんだよ?」
「誰一人怒っておらんさ、むしろ、お前を守るように儂以外の『使い』まで派遣してるおるしの」
「それって」
「そう、あの寺の寅と鼠のことじゃよ」
「毘沙門天様……」
「それにな、心配なのは七福神だけじゃないぞ?儂とて同じじゃ。だからこそ、この地に骨を埋める覚悟でやってきたのじゃからな」
「ああ、魔奴化!!」
 ――うん、こんな場面に水を差すのは良くないな。さ、気付かれないよう立ち去るとするか。



◇  ◇  ◇



「ごめん、ごめんね!魔奴化!!」
「ははは、何を謝っておる。その言葉は儂が言うべきことぞ?」
 私は魔奴化の胸に飛び込んだ。
 一体、昔の私は何に怯えていたんだろう?何から逃げ出そうとしていたのだろう?私の抱えていた悩みや恐れを受け止めてくる広い胸はこんな近くにあったのに。
 私は巫女。それは生まれる前から定められた私の運命、生まれた事により課せられた私の義務。なのに、私はそれらを一切放棄して逃げてきた。巫女に耐えられなくなった、という取るに足らない我侭によって。
 逃げ出した先でも、私は結局、巫女としてこの地で暮らしている。巫女を捨てたくせに、未だに巫女として生きているとは、なんて滑稽、なんて罪深いのだろう。
 だけど、七福神様たちはそれを受け入れてくださった。
 嗚呼、私は何と愚かであったことか。
 だから、次はもう逃げ出さない。今度こそ、巫女として役目を果たしてみせる。
「小夜、これは儂の願いなのじゃが、困ったら儂に助けを求めてくれ。もう二度と、お前さんを失いたくないのじゃよ?」
 大丈夫、次は出来る。今度はやり通せる。なぜなら、大事な人がこんなに近くにいるのだから。
「うん、もう二度と逃げ出さないし消えたりしない。――だから、辛いときは甘えさせて。私の側にいてね、魔奴化」



◇  ◇  ◇



 さて、一体誰に助けを求めるべきか。妖夢は当てにならんし、霊夢は邪魔をしてはならないし。せめて、一緒に戦って貰えずとも、知恵を貸してくれる奴がいれば……て、それにもっとも該当するのがいるじゃないか!そうと決まれば善は急げだぜ!

「よぉ、邪魔するぜ」
 ……おかしいな、誰もいないじゃないか。こんな夜更けだから、人里とは違って賑やかだと思ったんだがな。そういや、門番もいなかったし、どうしたんもんだろ?
「えぇ!?ま、魔理沙!?」
 おわ!だ、誰だ!?
 八卦炉を構えながら叫び声のした方へ振り向くと、そこには咲夜がいた。だが、様子が、というよりも服装がおかしい。いつもの瀟洒なメイド服ではなく、フリルやリボンのたくさん付いた薄桃色のドレスで、頭もいつものとは違う、可愛く飾り付けられたキャノティエを着けている。どちらかと言えば咲夜よりもレミリアが好みそうなもんだが。
 しかし、咲夜に似合わないかといえば、そんなことは無く、むしろギャップ萌えだ。
「ふえぇ、見られちゃった、魔理沙に見られちゃったよぉ」
 咲夜は私の姿を確認すると。情けない言葉を漏らしながらへなへなとその場に座り込んでしまった。なんだ、これは?仕草も何もかも「瀟洒なメイド」とは程遠い。まるで、人見知りをする幼女じゃないか。咲夜のこんな萌えるような姿が見れるなんて……。
「あらあら、誰かと言えば魔理沙じゃない?」
 不意に聞き慣れぬ声が響き渡る。声のした方に眼を凝らすと、そこには驚くほど妖艶な美女がいる。胸元の大きく開いた深紅のドレスにスリットの入ったスカート、そこから見える胸の谷間や太腿は女の私ですら惚れてしまいそうなほどの色気が漂っている。唇は濡れたように艶かしく、薄紫色のウェーブのかかった髪はそれ自体がアメジストを溶かして作られたような美しさで、紅い瞳は見つめられたらこちらの動悸が激しくなってしまいそう。
 やばい、これは普通の美しさじゃない、まるで見たものを魂を抜き取ってしまいそうな、しかし、それすらも抗いがたくなる危険なものを感じる。
「だ、だれ?」
 私は、精一杯の力を振り絞って、今にも達してしまいそうなのをこらえて尋ねた。
「私よ、私。おっと、お前はこの姿を初めて見るのだったね、ちょっと待ちなさい」
 声の主はそう言うとパチンと指を鳴らす。
 すると、どうしてだろうか、先程の苦しさは嘘のように消えてしまった。
「すまないね、私の真の姿を見たものには『魅了』の魔術がかかってしまうのよ。今、あなたに掛かっていた術を解いたからもう大丈夫よ」
 そんなことを言いながら、なぞの美女は笑顔で私に近づいてくる。
「え、一体どういうことだ?それに、お前は誰なんだよ」
「あら、まだ気付かないの?なら、『これならどうかしら。私のこと、誰だか分かるでしょ?』」
 美女の声から、聞きなれた少女の声が出てくる。そうだ、この声は間違いない、普段昼間の紅魔館や神社で良く聞いている。
「レ、レミリアか!?」
「ご名答」
 その美女、レミリアは妖艶な笑みを浮かべる。
「これは驚いた、その姿はどういうことなんだよ」
「先程も言ったでしょう、これが真の姿よ。この姿のままだと性別関係なく魅了の魔術が発動してしまうから、普段は少女の姿に変化しているのよ」
「成る程。しかし、それはそれとして咲夜はどういうことなんだ?普段とは違って、凄くかわいらしいけど」
「ほ、ほんとう?あたしってかわいい?」
 咲夜がまるで褒められた幼女のような反応をする。こ、これは卑怯だ!あまりの可愛さに鼻から愛情が溢れてしまいそうだぞ。
「良かったわね咲夜。魔理沙も貴女の可愛さに驚いてしまったみたいよ」
「うん!」
 レミリアの言葉に満面の笑みを浮かべる咲夜。文がいたらもの凄い勢いで写真に写真に収めていくんだろうな……。
「うふふ。……これは秘密なんだけど、見られてしまったからには貴女には教えるわ。ここ、紅魔館では二ヶ月に一度、ありのままの姿で過ごすという決まりごとがあるのよ。この日だけは妖精メイドたちは全員、紅魔館から離れさせて、私たちだけで普段の『仮の姿』を脱ぎ去って過ごすことにしているのよ」
「ということは、それが本当の咲夜の姿、てわけか?」
「そう、この娘は普段は完璧であろうと無理をしているのよ。だから、この娘のためにこの特別な日を設けたのよ」
「へぇ、じゃ、パチュリーも真の姿に戻っているわけかい?」
「そうじゃよ。レミィや咲夜たちがありのままの姿でいるのに、わしが仮初めの姿じゃおかしいじゃろうて」
 新たに、老婆の声が増えた。ロッキングチェアに腰掛けたまま、一人の白髪の老婆がゆっくりと浮かんでやってくる。
「ま、まさか、パチュリー?」
「ひっひっひ、そのまさかじゃよ」
 嘘だろ?どう見ても齢100歳は超えていそうな婆さんが、あの紫もやしだと?
「ふふ、パチェが捨虫の秘術を会得したのはいくつの頃だったかしら?」
「たしか、128じゃったかのう。レミィに初めて会ったのもそのぐらいじゃったのう」
「ええ、懐かしいわね」
 だめだ、私の理解をはるかに超えている。ちょっとばかり気が遠くなってきたぜ。
「あら、こんな特別な日にお客様なんて」
 今度は今のレミリアに良く似た声が響く。若干、レミリアよりも高めのきれいな声だ。多分、あいつだろう。
「フランドールか?」
「当たり」
 奥から深紅のボンテージ衣装に身を包んだ金髪の美女が現れる。姉とは違うベクトルで煽情的な格好だな。
 ん、フランドールの足元に何かがいるぞ?犬か?紐でつながれているみたいだけど。
「なあ、フランドール。その足元にいるのは何だ?」
「ああ、この仔たち?かわいいでしょ。」
 そう言いながらフランドールが連れて来た。が――
「なんじゃこりゃあ!?」
 フランドールが連れて来た犬というのは、なんとルーミア、チルノ、大妖精じゃないか!
 首輪で繋がれて、服装もパンツのみ半裸状態、完璧に児童ポ○ノだぞ!管理人に思いっきり迷惑かけてしまうじゃないか!ああ、なんかメタな発言になっちまったじゃないか
「おい!こりゃ犯罪だぞ!ア○○スがやってくるじゃねーか!」
「ア○○ス?ここは幻想郷よ?関係ないでしょ」
「だからと言ってよ…」
「これはお・仕・置・き。紅魔館に忍び込んで悪戯しようとしたから捕まえて、私の「能力」で、自尊心とかを一時的に破壊したの」
「破壊!?」
「そ、明日の朝には元に戻るから大丈夫よ。じゃ、ルーミア、チルノ、大ちゃん、魔理沙にご挨拶しなさい♪」
 フランに命令されると3人とも涙目になりながら笑顔で両手ピースしやがった。うん、やっぱりこいつは悪魔の妹だ。
「こんな時に客人とは珍しいね」
 ん、男の声?紅魔館に男っていたか?
 そんなことを考えていると、奥から金髪の美青年が現れた。なんだありゃ、滅茶苦茶いい男じゃないか。香霖なんて眼じゃない!あんなハンサムがこんなところにいるなんて!?
「おや、魔理沙君だったか。成る程、君なら迎え入れても問題ないかもしれないね。ようこそ、紅魔館へ」
 え、私の名前を知ってる!?なんで?もしかして、以前会ってるとか?
 近づいてきたそいつのことを確認しようと眼を凝らしてみる。
 だけど、分かったのはそいつがやっぱり人間じゃないということ。なぜわかったって?だって、そいつの体の至る所に顔があったからだ。
「お、お前……、誰なんだ?」
「あれ、僕が分からない?」
「会うのは今日が初めてだぞ?」
 甘いマスクでそんな言葉を吐かないでくれ。惚れれば良いのか、怖がればよいのか、頭が混乱してくる。
「これこれ、今の姿で会うのは初めてだぞ。魔理沙嬢を困らせるんじゃない」
 今度は低い中年男性の声がする。しかし、その発生元は先程のイケメンの右肩にある顔から。
「そうだよ?魔理沙お姉ちゃんがこまってるよ?」
 今度は小さい男の子の声、イケメンの左わき腹からだ。
「うふふ、ごめんなさいね魔理沙さん。私の主人格は根が悪戯好きですから」
 あれは、この女の声は聞いたことがあるぞ。急いで発生源に、イケメンの左胸に目を凝らす。そこには、いつも見慣れた顔があった。
「ま、まさか、小悪魔!?」
「はい、そうですよー。パチュリー様の図書館の司書を勤めさせていただいてます、小悪魔ですよー。」
 ああ、この声、悪戯っぽい笑顔、間違いない。
「ということは、このイケメンは」
「そういうことさ。普段、君が『小悪魔』と言っている少女の真の姿が僕ってわけさ」
ああ、そういうことか。やっぱり、こいつもそういうわけか。
「驚いたかえ?彼が小悪魔じゃよ。ソロモン七十二霊柱の一柱、ダンタリオンとは彼のことじゃよ」
 パチュリーが笑いながら私に教えてきた。ソロモン七十二霊柱って、大悪魔じゃねぇか。
「もっとも、真の名前は別に有るけどね。パチュリー、お願いだから真名だけは秘密にしておいてくれよ?もし、漏らしたら召喚主と言えども、容赦はしないよ?」
「ひっひっひ、大丈夫じゃよ。幾らなんでも魔理沙にはお前さんを渡すつもりは無いよ」
 もう駄目、限界が近いわ。ここに来た理由ももう忘れてるし。
 お、そうだ。あいつはどうなんだろ?
「そうだ、レミリア。中国も真の姿に戻っているのか?」
「あら、まだ会ってなかったの?彼女も今宵は真の姿に戻ってるわ。性格も咲夜以上に変わっているから、一番驚くと思うわよ」
「へぇ、そりゃ面白そうだな」
 いえ、面白くありません。もう私の理解を超えています。お願いだから助けてください。
「あ、めーりんだ!めーりん♪めーりん♪」
 ん、咲夜が笑顔で手を振っている。はあ、ここまで来たんだ、中国の真の姿も拝んでやるよ。用件はその後で良いや。
 奥から現れた人影に眼を凝らす。って、あれは人じゃない。いいのかあれは?
「めーりん♪」
 ま、咲夜は喜ぶのも分かる。可愛い物好きなら当然の反応だわ。だって現れたのは他でもない、大熊猫、つまりパンダだったからだ。
「……」
 無言でワゴンを押してくる『中国』を見て私は言葉を失う。
 そんな私を中国は確認すると、そのまま私向かってきた。よく見るとワゴンの上にはオードブルと思われる、チーズを盛った小皿が沢山置かれている。
「……」
 私のことをじっと見つめるパンダ。どうやら、喰え、ということらしい。だが、私には食欲が一向に沸いて来ない。
「ごめん、今腹減ってないんだわ」
 私はパンダのサービスを断った。
 その刹那、パンダから恐ろしいほどの殺気を感じた。な、なんなんだ?私が断ったのが気に食わないのか?
「本当にごめん。今はまだ」
「それ以上いけない」
 私が更に断ろうとするのと、レミリアがそんな私をとめようとするのと、パンダが殺気を爆発させたのはほぼ同時だった。



◇  ◇  ◇



 まりさはなんでめーりんのチーズをたべなかったのか、わかりませんでした。わたしはめーりんのチーズはげんそうきょうで一ばん、おいしいとおもいます。レミリアおじょうさまもフランおじょうさまもパチュリーおばあちゃんもダンタリオンおにいちゃんもめーりんのチーズがだいすきです。みんな、めーりんがチーズをもってくるとつぎつぎとたべます。めーりんのチーズはあまくてちょっとすっぱくてだいすきです。
 めーりんのこともだいすきです。あったかくてふさふさで、きもちいいからです。めーりんのおなかのうえはほんとうにきもちよくて、ずっといられたらいいのになあとおもいます。
 こんどはまりさにもめーりんのチーズをたべてほしいです。そのあとで、めーりんのおなかのうえでいっしょにおしゃべりしたいです。
 つぎのとくべつな日がはやくきたらいいなとおもいました。



◇  ◇  ◇



 ああ、死ぬかと思った。中国があんな凶暴だったとは知らなかったぜ……。レミリアたちが執成してくれたおかげで助かったが、次からはあいつの差し出すもの、特にチーズだけは断らないでおこう。
 結局、本当の目的も達成できぬまま紅魔館を飛び出してきてしまったな。一体、誰に助けを求めたらいいんだ?私と一緒に戦ってくれるような御人好しなんてい……るじゃないか!!
 そうだよ、なんで忘れてたんだ!私には文句を言いながらもいつも助けてくれるあのマイスイートハニーがいたじゃないか!!
 さあ、早く彼女のもとへ向かわないと!!

「アリス、いるか!」
 アリスの家に着くや否や、勝手に中に入る。勝手知ったる何とやら、遠慮なんかいらないぜ。しかし、本当きれいに片付いているな、上海たちは綺麗な棚に並べられ、食器類は全て収納され、埃も一つも落ちていない。流石、出来る女だぜ。
 まあ、それは置いといて、アリスの部屋に向かう。
「おい、アリス!いるんだろ!?」
 一応、礼儀としてドアをノックする。
「ま、魔理沙!?ちょっと待って!中に入らないで!!」
 おや、どうしたんだ?アリスの奴、普段は霊夢と同じく何事にも動じないのに。
 そうか!きっと風呂上りで裸なんだ。でも、同じ女同士、恥じることも無いだろ。それに、アリスの裸なら私だって見たいぞ?なあ、そうだろ?画面の前の青少年たち。
「何恥ずかしがってんだよ、裸でも構わないだろ?どちらかと言えば私は見たいぞ?いいな、入るぞ」
「ああ、止めて止めて!!」
 アリスが叫ぶのも気にせず、私はアリスの部屋に押し入る。
 そこには、アリスの生首がぶら下がっていた。首からは脊髄だろうか、それが真直ぐ伸びて胴体の首元と繋がっているのがわかる。その胴体は胸から下腹部にかけて真直ぐ縦に割れていて、中にある胸骨や肋骨が見て取れる。が、内臓の類は取り除かれているのか見当たらない。どちらにせよ、この状況で言えることは唯一つ、「アリスの屠殺」が行われていたということだ。
 何故だ?何故、アリスが殺されなければならないんだ?じゃあ、先刻程のアリスの声は誰のものだ?でも、あれはどう聞いてもアリスの声だ。
 わからない、判らない、解からない、分からない!!
 もう駄目だ、意識が遠くなってきた。
 ごめん、にとり。
 私、

失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した

あたしは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗したあたしは失敗した失敗……



◇  ◇  ◇



「魔理沙!魔理沙!」
「大丈夫よ、アリスちゃん。驚き過ぎて気を失っただけだから。粗相してしまったのもそれが原因」
「本当?」
「ええ、お母さんがアリスちゃんに嘘ついたことがある?」
 ベッドに寝かしつけた魔理沙に少女、アリス様が縋り付き、それを神綺様がやさしく宥めている。
 本当、私のメンテナンス中に魔理沙が押し入ってきたときは本当気が気でなかった。『人形』の私が言うのはおかしいけど、死ぬかと思ったわ。
 でも、とりあえずは事なきを得た。
「申し訳ございません、アリス様、神綺様。私が鍵をかけて戸締りをしっかりとしておけばこんなことにはならなかったはずだったのに」
「いえ、そんなことは無い。これは私のミスよ。『こっちの』魔理沙が貴女、ここの幻想郷の『アリス』に会いに来るのはおかしくないこと」
 アリス様があろうことか、私に対し頭を下げる
「アリスちゃんも、『こっちの』アリスちゃんも悪くないわ。これは単なる事故よ」
 神綺様も私に対し優しい言葉をかけて下さった。なんと、恐れ多い!!
 私、人形アリス・マーガトロイドの創造主と魔界神にこのような言葉を頂けるなんて、私はなんて幸せな人形なのだろう。
「部屋の掃除と魔理沙さんの服の洗濯、ただいま終わりましたわ。ひとまずお茶にしませんか」
 夢子様がトレイにカップとポットを載せて入ってきた。この方もアリス様と同じ神綺様の御息女の一人なのに、メイドのするべきことをやらせてしまうなんて。
 ああ、私はなんと不甲斐ないのだろうか。
「どうしたの、アリス・マーガトロイド?」
 私の心情に気付いたのか、夢子様が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「いえ、何でもことありません!」
 突然のことに取り乱してしまう。
「『こっちの』アリスちゃん、貴女、また夢子ちゃんにお掃除とかさせてしまって申し訳ない、と思ってるでしょ」
 神綺様は私の心を見抜かれていた。
「まったく、貴女は。そんな気遣いは無用、と前に教えたでしょ?確かに貴女は私が為しえなかったが想いを叶えるために作った作品だけど、『もの』じゃない。私の娘なのよ」
 アリス様は厳しい表情で私の目を見据えながらありがたい言葉をかけてくださった。
「そう、私は神綺様の娘であるけれど、神綺様のメイドでもあるの。なら、主人の家族に対して仕事をするのは当然じゃなくて?」
「うふふ、そうよ。貴女は私の孫同然。孫ならおばあちゃんに遠慮は無用よ」
「皆様方……」
 わたしは感極まって泣きそうになる。
「ハーイ、良い場面だけどちょっといいかしら」
 不意にドアが開き、そこから幽香様が姿を現す。
「幽香様、ご機嫌そうで何よりです」
「少しは気を使いなさいよ、幽香」
 そんな幽香様に対し、アリス様は憎まれ口を、夢子様は挨拶の言葉を口にする。
「幽香、もう終わったの?」
「ええ。外の邪神とはいえ、結局は依代に力の宿った紛い物。フルパワーの魔弾数発で沈んでしまったわ」
「じゃあ、全然物足りなかったわけね」
「ええ、そのとおりよ、神綺。歯応えが無いのもいいところだわ。骨折り損のくたびれもうけよ」
 幽香様が仰る邪神は、おそらく妖怪の山に現れた邪神のことだろう。多分、魔理沙もそのことを聞きに私のところにやって来たに違いない。
「魔理沙、まだ起きないのかしら」
「かなり疲れていたようですし、恐らく朝までは」
 幽香様の質問に夢子様が答える。
「そう、残念ね。貴方たちはもうすぐ帰るのでしょ」
「うん、流石にこっちに長時間滞在するわけには行かないしね」
「だけど、アリスちゃんたちには好都合じゃないかしら」
 神綺様の言うとおり、魔理沙に私たちの秘密を知られるわけにはいかない。
「そう。次はいつこれるのかしら」
「分からないわ。私は『アリス』のメンテナンスがあるから定期的に来れるけど、夢子やお母様は今回は特別だから」
「相変わらず、娘と孫娘には甘いことで」
 幽香様の言葉に皆、苦笑を浮かべる。
「このまま帰らせるのも面白くは無いわね。……そうだ、貴女達、ちょっと知恵を貸しなさいな」
「何でしょうか、幽香様」
「魔理沙を嵌めるのよ。事の顛末は次回アリスに伝えておけばよいし、私としては魔理沙を弄くれればそれでいいしね」
 全く、意地の悪いことを。でも、それはとても楽しそう。
 うん、こういうことが出来るなんて、私は本当に幸せものだ。



◇  ◇  ◇


チュンチュン

「……お、朝か?」
 雀の鳴き声に私は眼を覚ます。なんか、とても良い匂いがする
 気付くと私はアリスのベッドに寝ていた。この匂いはアリスの匂いか。
 あれ、どうしてだろう?今までのことは夢のだったのかな?
 疑問に思いながら私は起き上がる。
「え?」
 裸?何で、裸で寝てるんだ?
「あら、起きたのね。」
 アリスが部屋に入ってきた。そのアリスの姿を見て私は驚く
「裸エプロン!?」
 アリスが、あのアリスが裸エプロンでいるだと!?
 とすると、私が裸でいたのはもしかして!?
「ええぇぇぇぇ!!?」
 アリスと一夜をともにしたってか!?でもそんなふしだらな事をアリスにしてしまうなんて!!
 でも記憶に無いぞ?いや、したの私ではなく、アリスのほうか!?
 どうしよう、お嫁に行けなくなっちゃう!?
「……ぷ」
 あれ、アリス、何で笑うんだよ?コレは笑い事じゃないんだぜ!?
「駄目!耐えらんない!幽香の言った通りになるなんて」
 どういうことだってばよ?


「――つまり、私が粗相しながら気絶したから、嵌めたってわけか」
「そ、そのとおり。本当、ここまで巧くいくなんて思いもよらなかったわ」
「うぅ、違う意味でお嫁に行けなくなっちまったぜ…」
 事の顛末を聞いて私は酷く赤面した。
 昨夜、アリスの部屋に入るや否や、お漏らししながら倒れてしまったらしい。で、たまたまやって来てた幽香に手伝ってもらいながらベッドに寝かしつけたそうだ。
 ただ、寝かしつけるのは面白くないから、幽香と共謀して私を嵌めたらしい。
「穴があったら入りたいぜ……」
「でも、魔理沙の寝顔は可愛かったわよ。」
「慰めにならねえよ……」
 ああ、最悪だ。
 しかし、昨晩のことは本当に夢だったのかな?妖怪の山には緘口令が敷かれたごとく変な噂は一つもなく、結局騒ぎは無かったみたいだし。紅魔館のことも私の夢の話だったみたいだし。
「しっかし、不思議な夢だったよなぁ」
「あら、普通の内容だったじゃない」
「そうか?」
 私の夢の話を聞いてアリスはそんなことを口にする。いや、あんなことは幻想郷にも起きないだろ?
「まだ、信じられないの?」
「当然だろ?そんなこと、起きる方がおかしいって」
「そんなことないわよ、昔から言うじゃない」
 アリスが悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべながら言った。
「不思議が当然、幻想郷ってね」
まにあったかな?

とりあえず、自分の中では、ゆうかりんの所持スキルは気合・貫通・至高の魔弾・地母の晩餐・勝利の雄叫びだと信じてます。
桜田晶
作品情報
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投稿日時:
2012/04/01 23:57:59
更新日時:
2012/04/02 00:00:21
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