Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

これ、肝要なり

2005/07/08 07:13:16
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 ――未熟なる事、これ肝要なり。
 熟すれば、後は落ちて腐るのみ。
 未だ熟さぬと思えばこそ、その身朽ちることなく陽に向かいて輝けり――。



「面白い教えね。でも、未熟のままもがれた実はどうなるか知ってる?」
 あらかた買い物を済ませたバスケットを足元に置く。軽く手を振れば、掌中に現れる銀の棘。

「哀れ吊るされる運命にあるのよ――――軒下にね」
「試してみるか? 吊るせるか、どうか」
 少女はゆるりと黒鞘を払う。そのまま鞘を鳥居に、刀を脇に。半身に構えた腰が沈む。

「気をつけろ。未熟の実に当たって死んだ話もある」
「私はそれほど正直者じゃないわ」
 瞬の後、銀と銀が交錯した。



「――で、当たったの?」
「当たってたら今ここにはいませんわ」
「嘘吐きだものね。それでこそメイド長」
「光栄です」
「褒めたつもりはないんだけど」
「あら」

「で、何時ごろ食べられるのかしら」
「あいにく吊るしてはありませんよ。逃げられましたから」
「甘いのね」
「甘くないですよ」

 ――代わりに甘いお茶を淹れますわ、いいジャムが手に入りましたので。
 そう云って彼女は去った。
 私は再び本に目を落とす。
 
 ――魔女以外にも、真理を目指す者はいるものだ。
 少し感心する。
 そう、未だしと覚えるは重要なこと。
 真理とは、容易く辿りつけぬものだから。
 それでも、いつか辿りつけると信じればこそ。
 剣士が、日々剣を振り続けるように。
 私は、今日も頁を繰る。

 
 
「お茶をどうぞ」
「ありがとう」
 お茶からは、陽に当たった果実の香りがした。
 私は陽に向かうつもりはないが。紙が焼ける。

「でも、たまには虫干しした方がいい気もしますけど」
「かもね――本を食べる黒い虫もいるようだし」
「人を虫呼ばわりするな」

「ほら、また侵入《はい》ってきた」
「干します?」
「面倒ね。吊るしておいて」
「甘くなりそうにはありませんわね」
「魔除けにはなるわ」
「魔女が魔除けしてどうするんだ――って、おいこら待てもしかして本気かっ!」

 部屋は少しして静かになった。紅茶を啜る。
 ――未熟の甘さと真理の渋さ、ね。
 そんな戯言も、一行読み進める頃には忘れ。
 ――その剣士に会ってみるのも一興。
 そんな思いも、頁をめくる音と共に消えた。
 ただひたすらに文字を追い、頁を繰る。

 
   
 これこそ、肝要なり。
 
 
発端は、買出し先での特選ジャムの奪い合い。
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コメント



1.名無し妖怪削除
いかなる場所にも主婦の戦場は存在せり
2.七死削除
しかしそこで刃傷沙汰まで発展するあたり流石の幻想郷。
3.名無し妖怪削除
うむ、作者からのメッセージできれいに落ちて、すばらしいですな
4.ムク削除
するめの様な味わいがございました。