幽霊がはじける。妖精もはじける。
はじけた妖精は青白い炎を宿して蘇り、また撃たれてはじける。
おちつけよ、と珠から河童の声がする。箒を握った手のひらがぬめっている。
右、左、上、下。必死に弾を避け続ける少女に聞こえてくるのは不気味な囁き。
ほら、お姉さん、苦しいだろう?弾を避けるのは苦しいよ?だったらさっさと楽におなりな。一瞬だ。
お姉さん、強い強いお姉さん。ほおら、それそれ。楽しい旅行が待ってるよ。椅子は特等、景色も一等だ!
少女は聞こえないふりをする。囁きの方向を睨みつけ、妖精を振りほどき魔法を放つ。
はは、頑張るねえ頑張るねえ。頑張れば頑張るほどいい死体になれるよ。憎くて苦しくて辛くて怖い気持ちがいっぱい詰まった最高の死体になれるよ!もし競りに掛けたら目ん玉飛び出るくらいのね!あ、でもそんなことしないよ。お姉さんは私のものだもん。
ころころと笑う囁きの主。弾けた怨霊が目の前で炸裂し、恐怖にとらわれた少女を守るために側に浮かんだ珠が霊力を解放する。
彼方へ向けて畜生、と発した言葉は絶叫だった。これで珠は消費しきり、相棒の空中魚雷は無い。
今この身にまとった障壁だけが最後の頼みの綱だった。それももうすぐ消え去る。震える腕を無理やり押さえつけ、箒の舵を必死に調整する。服には無数の被弾跡、無数の裂け目。そのうち肌まで達するものの周囲は、赤黒い血の色に染まっていて。
さあて、そろそろころ合いだ。お姉さん、ちゃっちゃと私のものにおなりな。
目に汗が流れ込む。ぼやけた視界はもう囁きの主を捕らえられない。恐慌状態で目の前に現れる弾を避けるのみ。通信が途絶えて、河童は今頃心配しているだろうか。友人の巫女は、道具屋の主人は。ふと、そんなことが頭に浮かぶ。頭を振ってそれらを振り飛ばし、弾に集中しようとしても、雑念はあとからあとから湧いてくる。畜生。走馬灯なんか見て堪るか。畜生。
悪いようにはしないさぁ。毎日水で拭いてあげるよ。奇麗に飾って、可愛い死化粧もしてあげる。そして話も聞いてあげるよ。
光が迫る。すんでのところで避けた少女の耳に、河童の声が響いてきた。珠が一つ、復活している。
大丈夫か、大丈夫かと繰り返す河童の声に返事を返す余裕は少女にはなかった。それでも、その今にも泣きそうな声の主を安心させようと、口を開いて返事を――――
「やーったぁ。ついにお姉さんつかまえたよ!」
死角からにじり寄ってきていた妖精が、胸元で炸裂した。喉笛を砕かれた少女はもう言葉を喋れない。
大丈夫だ、との返事はただ空気の抜ける音に変わる。衝撃で箒を手放した体は、溶岩に落ちる前にふわりと受け止められた。
「どう、お姉さん。あたいの自慢の猫車の乗り心地は。んっふっふ。いいでしょう。良すぎてもう降りたくなくなっちゃうでしょう♪」
頭の上から声がする。うつろに開かれた目に映る、地獄の炎のような赤い髪。
ふざけるな。おろせ、おろしやがれ。叫んで手足を振り回して暴れたつもりだった。しかし体はもうぴくりとも動かず、抜けるだけの空気も肺には残っていなかった。ただただ悔しげに、赤髪を見上げるだけ。中途半端に伸ばした腕は、赤ん坊のように何かを掴もうとした恰好で体の上で揺れていた。
「ほいほい。ほーいほい。そぉら。旅行の始まりだ。楽しい楽しい死体旅行の始まりだ。おっとその前に切符を拝見。お客さん。ちゃんと切符は持っていますか?」
少女を手に入れて嬉しくてたまらない火車の気持ちそのままに、上下に跳ねる猫車。その上で揺らされ跳ねる少女の体へ、ぬ、と手が伸ばされる。
頭を鷲掴んで、ずるり引き抜かれた手の中に、青白く光る怨霊が一つ。濁り始めた少女の目は、赤い世界に浮かび上がる、青い光を映し出す。悲しそうに。恨めしそうに。
もう、体は動かない。伸ばしていた腕が身体に落ちる。
「うーん。うん。これなら大丈夫。最高だ。溶岩の海越えて針の山まで行けますよ、お客さん」
少女から引きずり出した魂を眺めた火車は、嬉しそうにテロリとそれをひと嘗めすると、また少女に押し込んだ。
「さあ出発だよお姉さん。まずは火焔地獄を一回り。そしたら今度は血の池だ。絶景めぐり火車の旅。ああ、楽しいなぁ。楽しいなぁ!」
猫車が進みだす。赤黒く光る地獄の奥に。三日月の形に歪んだ唇からは歌うような火車の歓声が響く。
糞妖怪が。何が旅行だ。ふざけた言い回ししやがって。返せ。私を地上へ返せ。この車から降ろせ。おろしてくれ…
揺さぶられるまま、右左と揺れる濁った眼の中で青い光がずるりと蠢く。それを見た火車は、また心底楽しそうに笑うのだ。
「いいねいいね。聞かせておくれよ。お姉さんの恨み言。地獄を回る間、ゆっくり聞いてあげるよ。帰ったら飾って、また聞いてあげるよ。
ああ、いい死体だ。最高の死体だ。大事にするからね。絶対に手放さないからね―――――」
生きる者には聞こえない、罵詈雑言を叫びながら少女が運ばれていく。
跳ねる火車のそのずっと下、魔理沙、魔理沙と叫ぶ珠が、とぷりと溶岩に沈んだ。
はじけた妖精は青白い炎を宿して蘇り、また撃たれてはじける。
おちつけよ、と珠から河童の声がする。箒を握った手のひらがぬめっている。
右、左、上、下。必死に弾を避け続ける少女に聞こえてくるのは不気味な囁き。
ほら、お姉さん、苦しいだろう?弾を避けるのは苦しいよ?だったらさっさと楽におなりな。一瞬だ。
お姉さん、強い強いお姉さん。ほおら、それそれ。楽しい旅行が待ってるよ。椅子は特等、景色も一等だ!
少女は聞こえないふりをする。囁きの方向を睨みつけ、妖精を振りほどき魔法を放つ。
はは、頑張るねえ頑張るねえ。頑張れば頑張るほどいい死体になれるよ。憎くて苦しくて辛くて怖い気持ちがいっぱい詰まった最高の死体になれるよ!もし競りに掛けたら目ん玉飛び出るくらいのね!あ、でもそんなことしないよ。お姉さんは私のものだもん。
ころころと笑う囁きの主。弾けた怨霊が目の前で炸裂し、恐怖にとらわれた少女を守るために側に浮かんだ珠が霊力を解放する。
彼方へ向けて畜生、と発した言葉は絶叫だった。これで珠は消費しきり、相棒の空中魚雷は無い。
今この身にまとった障壁だけが最後の頼みの綱だった。それももうすぐ消え去る。震える腕を無理やり押さえつけ、箒の舵を必死に調整する。服には無数の被弾跡、無数の裂け目。そのうち肌まで達するものの周囲は、赤黒い血の色に染まっていて。
さあて、そろそろころ合いだ。お姉さん、ちゃっちゃと私のものにおなりな。
目に汗が流れ込む。ぼやけた視界はもう囁きの主を捕らえられない。恐慌状態で目の前に現れる弾を避けるのみ。通信が途絶えて、河童は今頃心配しているだろうか。友人の巫女は、道具屋の主人は。ふと、そんなことが頭に浮かぶ。頭を振ってそれらを振り飛ばし、弾に集中しようとしても、雑念はあとからあとから湧いてくる。畜生。走馬灯なんか見て堪るか。畜生。
悪いようにはしないさぁ。毎日水で拭いてあげるよ。奇麗に飾って、可愛い死化粧もしてあげる。そして話も聞いてあげるよ。
光が迫る。すんでのところで避けた少女の耳に、河童の声が響いてきた。珠が一つ、復活している。
大丈夫か、大丈夫かと繰り返す河童の声に返事を返す余裕は少女にはなかった。それでも、その今にも泣きそうな声の主を安心させようと、口を開いて返事を――――
「やーったぁ。ついにお姉さんつかまえたよ!」
死角からにじり寄ってきていた妖精が、胸元で炸裂した。喉笛を砕かれた少女はもう言葉を喋れない。
大丈夫だ、との返事はただ空気の抜ける音に変わる。衝撃で箒を手放した体は、溶岩に落ちる前にふわりと受け止められた。
「どう、お姉さん。あたいの自慢の猫車の乗り心地は。んっふっふ。いいでしょう。良すぎてもう降りたくなくなっちゃうでしょう♪」
頭の上から声がする。うつろに開かれた目に映る、地獄の炎のような赤い髪。
ふざけるな。おろせ、おろしやがれ。叫んで手足を振り回して暴れたつもりだった。しかし体はもうぴくりとも動かず、抜けるだけの空気も肺には残っていなかった。ただただ悔しげに、赤髪を見上げるだけ。中途半端に伸ばした腕は、赤ん坊のように何かを掴もうとした恰好で体の上で揺れていた。
「ほいほい。ほーいほい。そぉら。旅行の始まりだ。楽しい楽しい死体旅行の始まりだ。おっとその前に切符を拝見。お客さん。ちゃんと切符は持っていますか?」
少女を手に入れて嬉しくてたまらない火車の気持ちそのままに、上下に跳ねる猫車。その上で揺らされ跳ねる少女の体へ、ぬ、と手が伸ばされる。
頭を鷲掴んで、ずるり引き抜かれた手の中に、青白く光る怨霊が一つ。濁り始めた少女の目は、赤い世界に浮かび上がる、青い光を映し出す。悲しそうに。恨めしそうに。
もう、体は動かない。伸ばしていた腕が身体に落ちる。
「うーん。うん。これなら大丈夫。最高だ。溶岩の海越えて針の山まで行けますよ、お客さん」
少女から引きずり出した魂を眺めた火車は、嬉しそうにテロリとそれをひと嘗めすると、また少女に押し込んだ。
「さあ出発だよお姉さん。まずは火焔地獄を一回り。そしたら今度は血の池だ。絶景めぐり火車の旅。ああ、楽しいなぁ。楽しいなぁ!」
猫車が進みだす。赤黒く光る地獄の奥に。三日月の形に歪んだ唇からは歌うような火車の歓声が響く。
糞妖怪が。何が旅行だ。ふざけた言い回ししやがって。返せ。私を地上へ返せ。この車から降ろせ。おろしてくれ…
揺さぶられるまま、右左と揺れる濁った眼の中で青い光がずるりと蠢く。それを見た火車は、また心底楽しそうに笑うのだ。
「いいねいいね。聞かせておくれよ。お姉さんの恨み言。地獄を回る間、ゆっくり聞いてあげるよ。帰ったら飾って、また聞いてあげるよ。
ああ、いい死体だ。最高の死体だ。大事にするからね。絶対に手放さないからね―――――」
生きる者には聞こえない、罵詈雑言を叫びながら少女が運ばれていく。
跳ねる火車のそのずっと下、魔理沙、魔理沙と叫ぶ珠が、とぷりと溶岩に沈んだ。
それも東方の魅力の一つなのかもしれません。
でも、お燐相手に負けると普通にこういうことになりそう。
お燐のちょっと壊れてる感じの明るさがよく表現できてると思った。
あと、ボムは使うためにあるんだぜ。俺もよく抱え落ちするけどね!
他の作品はそうでもないのに、地霊殿だけは負けると本当に殺されそうなのはなんでだろう。
これを読んで自分も抱え落ちしないようになりたいと思いました。よく抱え落ちするんでorz
初っ端からシリーズ最高峰の閉鎖空間ですしね。
魔理沙、燐魔理も有りだと思うよ。(そんな状況じゃねぇ)
怖いっていうよりしっくりきました。