Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

星の数ほどの尊さを

2016/01/16 00:27:34
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   ――だから何度も問いかけた
   どうして私なのかって
   誰も教えてくれなかった
   だから何度も考えた


   ――蟲が死んだ


   幻想郷の自然が巡る
   はるなつあきふゆ、幾度も廻る
   全部がいつも、まぶしく見えて
   だから私は、悲しかった


   ――生まれて、死んで


   悲しいことと、誇らしいこと
   どちらもきっと、同じこと
   だからいつでも、私の胸は
   どうしようもなく、泣いていたんだ


   ――死んで、生まれて


   当たり前だ、と誰かが言った
   季節の巡りと、生命の巡り
   それは当然、そうあるもので
   泣かなくたって、いいじゃないかと


   ――……死んだ


   それはそうだと、うなずく私と
   そんなことないと、怒る私
   どっちがどっちかわからなくって、
   たぶん今でも、わからないまま


   ――死んだ


   蟲たちは生きている
   死を糧にして、生きている
   死を乗り越えて、生きている
   ためらいなんて、どこにもない


   ――死んで、生まれて


   一つ生まれて、嬉しくなって
   一つ死んでは、胸を刺す
   だからきっと、私はそれが
   どうしようもなく、惨めだった
   だってそうだろう


   ――生きて


   蟲は、こんなにも誇らしいのに
   私ときたら、ちっぽけなもの
   何ができた?
   何ができる?
   私だって、何かしたいのに!


   ――いつだって、みんな、必死で生きて


   だから何度も問いかけた!
   どうして私なのかって!
   考えても、何度考えても
   わからなくて、それでも私は――





「あれ? リグル、なんで起きてんの?」
 きれいな氷精の声。
 しびれるくらいに寒い森の中で、キンと張りのある声に呼び止められた。
 振り返ると、怪訝そうに見つめてくるチルノと目が合った。
 確か、秋くらいに一度説明したはずなのだが、綺麗に忘れられてしまったらしい。
 それもいつものことなので、改めてリグルは教えることにした。
「私は冬眠しないんだって」
「えー? でも、いつも冬になるといなくなるじゃん」
「いなくならないよ、一緒に遊ぶのが少なくなるだけ」
「なんでよー? 起きてんだったら遊ぼうよー」
 うん、わかってた、とリグルは嘆息。
 全部忘れられてるなら、全部教え直さないといけないってことくらい、わかってたんだ。
「冬眠しなくても寒いのは苦手だから動きにくくなるの。みんなと同じペースで遊ぶのはきついんだって」
 それでも、宴会にはなるべく出るようにしているのだ。忘年会や新年会にも参加した。
 リグル自身、お祭りごとは大好きだし、遊べる時は一緒に遊びたい。
 というか、その時にチルノとも顔を合わせていたはずだが……酒が入って、記憶も飛んだのだろうか。
「そっかー。じゃあしょうがないか。今から一緒に遊ぼう!」
 あっけらかんと、チルノはのたまった。
 こいつすげえ。
「ねえ、聞いてた? 人の話ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたって。思いっきり遊ぶのが苦手なんでしょ?
 つまり、ちょっとなら遊べるってことじゃない。ちょっとずつ遊ぼう!」
「あー……それなら、遊べなくはないけど」
 幸い、今日はリグル自身、調子がいい。チルノが加減してくれるなら、たぶん大丈夫。
 ただ、リグルだって、いつも暇なわけではない。
「そういえばリグル、こんなとこで一人で何してたの?」
 ふと、チルノが尋ねた。
 ここは、冬の森。
 寒々しい森の中には、チルノとリグル以外には、誰もいないようにも見える。
 冬の森にも、探せば妖精の一人や二人は、いるのだろうけど。
 少なくともチルノには、リグルが、誰かと会っているようには見えなかったのだ。
 リグルは。
「独りなんかじゃ、ないよ」
 と、答えた。
 どういう意味かわからず、チルノは首をかしげる。
「え?」
「ここで何をしてるかっていうとね」
「うん」
「蟲たちの様子を、見てたの」
「蟲?」
 チルノは辺りを見回した。蟲の気配が、わからないのだろう。
 当然だ。チルノだけに見えるものがあるように、リグルだけに見えるものもある。
 だから。
「うん、蟲」
「ふうん、ここに蟲がいるんだ」
 チルノは、リグルの言葉に素直にうなずいた。
 それがリグルには、有難かった。
「うん。それで、ちょっと元気が無さそうな子がいたら、声をかけてあげるの」
「そっか。それで、もう終わった?」
「もうちょっと。この森は広いから」
「そんなに広くないよ? この森」
「広いよ。蟲、たくさんいるもの」
「そっかー」
「そうなの」
 もう少しだけ、森の中を歩いて確かめるつもりだ。
 寒空の下、凍り付かんばかりの土の中で。あるいは、冷たく湿った落ち葉の下や、ほんの少しだけ暖かい木々の中で。
 今も蟲たちは生きている。
 だから、その蟲たちの様子を確かめたかった。
 できる範囲で、おせっかいを焼いてあげたかった。
「わかったわ。じゃあ、もうちょっと待ってる」
「え、いいの?」
 チルノの言葉に、少しだけ驚いた。
 いつも忙しなく、元気よく遊びまわっているのがチルノだ。
 待つ、ということ自体が、とても珍しいことだと言える。
「ちょっとなんでしょ?」
「そうだけど、わかんないよ。長くなるかも知れない」
「うーん……でも、いいよ」
 チルノは、微笑んだ。
 自然な、きれいな笑顔で。
「リグルが一緒なら、いい」
「……そっか。わかった」
 リグルも、少し笑って。
 また、蟲たちの気配を確かめるために、視線を落とした。
 それをチルノは、ぼんやりと。少しだけ待ち遠しそうに眺めて。
 リグルも、少しだけ、気持ちが逸るのを感じた。





   今日もまた、蟲たちは死んでいく
   そして、その死を乗り越えて、生きていく
   だから私も、できることをしよう
   それは、ほんのちっぽけなことだけど
   きっとそれは、私だけにできる、
   とても大切なことだから
自分にできることをする、ということの大切さと難しさをしみじみ感じる今日この頃です。
人気投票に投票しようとして、どのキャラに投票しようか迷っていたら、いつの間にかSSを書いていました。
ちょうどいいので、これを支援作品ということにしておこうと思います。
読んでくれた方、ありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

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コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
良いね、とても良かったです
こういうお話は心にグッと来るものがありますね
2.サク_ウマ削除
儚さのある、綺麗な作品でした。